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失恋、出会い

「ごめん」

好きだった人がいた。

もちろん過去形だ。

なぜかというと今さっき失恋したからだ。

好きだった人はツンデレで〜…なんて展開はないだろう。

夕陽が眩しく照らす海辺は幻想的で失恋したばかりの私の心にしみる。

痛くて痛くて泣きそうだ。

昔は失恋なんて忘れて終わりなんて考えていたけど、失恋は辛いものなんだななんて思う。

海の音が私の声を掻き消してくれるなら大きな声で彼を罵倒したい。

多分、海の音じゃ声は掻き消せないだろう。

深いため息をつきながら美しい夕陽を眺める。


好きだった人である正人は同級生であった。

それと同時に幼馴染でもあった。

昔から一緒にいれば恋愛感情なんて湧かないなんて昔の私はクラスの女の子に言っていた。

実際、中学生の頃までは幼馴染としてとしか思っていなかった。

それが変わったのは2年前の高校一年生の秋の日だった。

友人と不仲になり、クラスに居場所がない私を慰めてくれたのだ。

こんなので恋に落ちるなんて笑えるが、恋愛経験ゼロの私にはそれがとても嬉しかったのだ。

こうして私は最も簡単に正人に落ちてしまったのだ。

幼馴染としての立場を利用しながら仲を深めて行ったのだが、それは正人にとってはただの幼馴染と仲良くしただけだったのだ。

そんなことも知らない私は視野が狭く、正人と仲を深めてるということに喜んでいるだけであった。

そして、正人も私が好きなんじゃないかと自惚れていたのだ。

そうして今日、正人をこの海に連れてき、告白し、失恋したのだ。

振り返ってみると自分の不器用さが分かる。

恋をすると周りが見えなくなるというがまさに私はそうだったのだろう。

正人に面倒くさい女だと思われている率120%………

これなら過去に戻って恋なんてしなければよかったのかもしれない。

1人で思いあがって1人で泣くなんてなんて恥ずかしいだろうか。

自分勝手を正人に押し付けていた私は恥ずかしい。

今ならば、深海に沈められても文句は言えない。

綺麗な夕陽を見ながら今日、2回目のため息をする。

美しい夕陽は私には眩しすぎて目がくらむ。

私には夜の方が似合うのかもしれない。

暗いままで私は………


〈**〉


『明日から一緒に行けない』

砂浜から家に帰ってすぐに正人からメールが届いた。

やはり、告白された幼馴染など重たいのだろう。

『うん。ごめんね』

告白して失恋してなんで相手に謝らなければいけないかはわからないがとりあえずごめんと書いておこう。

「送信っと」

携帯を閉じ、前を向く。

机の上にある鏡には暗そうな女が写っている。

重そうな長い黒髪。前髪に隠された目。いかにも暗そうな女だ。

こんな女に告白されて誰が喜ぶのだろうか?

変な性癖を持っていても御断りされるだろう。

深いため息をついてベットに潜る。

明日はどうしようか?

学校に行きたくないな。

このまま閉じこもって出てきたくない。

暗い思いが頭の中を漂う。

こういうくらい考えが内面を暗くするのだ。

それなら今日のこと忘れて楽しいことを考えよう。

例えば、週末髪を切りに行くとか。

例えば、好きなものを買いに行くとか。

例えば、例えば、例えば………

楽しいことを考えているうちに眠くなってきた。

目を閉じるとすぐに眠ってしまった。


〈**〉


ピピピッピピピッピピピッ


私が嫌いな電子音が聞こえる。

目覚ましを止め目を擦る。

欠伸をしてリビングへと行く。

リビングには鼻歌を歌っている母がいた。

「おはよう」

母に挨拶をすると母はこっちを振り返りふんわりと笑っておはようと言う。

机には美味しそうな朝ご飯が並んである。

箸を取り、朝ご飯を食べ始める。

やはり母のご飯は美味しいと思いながら箸を進める。

この前ならば、もう少し早く起き、もう少し早く食べて、正人のことを待っていたのだが今日はのんびりしている。

正人が来るときと違って高揚感はないが満足感はある。

誰かのペースに合わせることよりも自分のペースで進んで行った方が楽だななんて考える。

ノロノロと朝ご飯を食べ終わり食器を母に渡す。

母の笑顔を尻目に自分の部屋に戻り学校の準備をした。

正人に会うのも憂鬱だし、学校に行くのも面倒くさいが、高3にして学校を休むなんてできない。

とりあえず、気にしないようにしよう。

制服に着替え、鞄を持って外に出る。

いないと思っていたが、やはり、正人はいない。

期待してることすら嫌だった。

自分の甘い考えと想いを砕くように目を閉じる。

数秒たった後、目を開け道を歩き出す。

一歩一歩想いを踏んでいく気持ちで。


〈**〉



「おはよー」

「おはよう」

「おっはー」

いろんな挨拶が混ざる教室に足を踏み入れる。

途端教室は静かにはならなかった。

いつもと変わらない。

まるで、告白したあの日がなかったように日々は進み出す。

自分の席に座る。

いつもならば正人の方に歩いて行って正人と話すのだが、今日は本を鞄から取り出し表紙をめくる。

誰にも話しかけられても気にならないように。

自分の世界に入っていられるように。

ペラリペラリと音が鳴るたび過去の日々を塗り替えられるような気がした。

じっと本の世界に入る私には分からなかったのだが、正人は本を読む私の方をずっと見ていたそうだ。


〈**〉


「あのさ…昨日はごめ「謝らないでください」」

昼休みに正人が謝りに来た。

どうして謝るのだろうか。

自分が私を好きになれないから?

それなら私は謝ってほしくはない。

私を好きにならないって現実をもっと見させようとしているのだろうか?

悔しくて悔しくて涙が出そうだ。

正人の前を颯爽と通り過ぎて階段まで早足で行った。

階段を一気に上まで上がり屋上へと続く階段の所で腰を下ろす。

悔しくて今にも涙が溢れそうだ。

でも、泣いたらもっと悔しい。

正人に流す涙なんてなくていい。

ぐっと目を閉じて手で目を擦る。

「えっと?大丈夫?」

綺麗なテノールボイスが聞こえた。

目元をぐっと拭って目を開ける。

目の前にはしゃがみこんだ男子生徒がいた。

3年生では見たことがない人だ。

ということは1、2年生なのだろう。

「ん〜?大丈夫?これいる?」

男子生徒がポケットから飴を取り出す。

コクっと頭を縦に振ると男子生徒はニコッと可愛い笑みで飴を私の手のひらに落とした。

飴を口に入れるとイチゴの甘い感じが口に広がる。

多分、イチゴミルク。

美味しい。

よく男子生徒を見てみる。

ふわふわそうな焦げ茶色の髪に真っ黒でキラキラしている大きな目。

顔は小さくとても可愛い。

多分、私より可愛い。

可愛いでは言い表せないほどの可愛さだ。

「あの、男子生徒さんの名前は?」

「んー秘密」

ニコッと笑うととても可愛くなる。私が健全な男子高校生ならば今すぐにでも襲いそうな可愛さだ。

「そうですか。では、学年は」

「2年だよ」

顔の隣で二つ指を立てる男子生徒。

カメラがあれば連写したいほどの可愛さである。

「ふむふむ、2年ですね。にねっ…ん………」

「ん?」

こ、この男子生徒は私の年下だと………

「で?君は?」

「ええっと、篠坂です。3年です」

男子生徒はクリクリとした大きな目をびっくりしたように大きくし「ええっ‼︎」と驚いている。

確かに私の身長は148cm。年下に見られても無理がない。

「じゃあ、篠坂先輩?」

「そうなんでしょうか?」

「そっか、先輩か………」

男子生徒は考えるようなポーズをとり、真顔になっている。

多分これは近寄ってはいけない雰囲気。

昼休みも後少しで終わるし、離れるか。

「では」

ぺこりとお辞儀をした後、駆け足で教室に戻る。

男子生徒が「え、ちょっと待っ………」と言っているのも聞こえなかった。

教室に駆け足で入り、机に座る。

息を整えた後、次の授業の用意をする。

そして、本を取り出し読む。

新しく買った本は片想いを煩わせる女の子の話だ。

甘酸っぱい青春を感じる。

最後はハッピーエンドで片想いからの両想いになるのだ。

私にとっては嫌な作品なのだが別に面白いからいい。

いつの間にかみんな教室に戻ってきた。

多分、もうすぐ予鈴がなるのだろう。


〈**〉


そういえば、そんなこともあったな。

なんて、数ヶ月前のことを思い出す。

正人に告白した日。男子生徒に慰めらた日。

腰まであった髪は胸の上らへんで切られている。

卒業式には泣いてる子がいっぱいだ。

私は泣けない。

何に泣けばいいかわからない。

泣き声の中、私は泣きもせずスタスタと家に帰った。

そういえば、男子生徒の名前、わかんないな。

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