1、大きく背伸びの運動をした悪役令嬢は婚約者(予定)と出会う
前世の記憶を思い出して一ヶ月目のある日。
朝日を浴びながら庭でラジオ体操をしていると、金髪美女メイドのエルザさんが近づいて来た。
今日も青ざめた顔をしていて具合いが悪そうだ。
「エルザさんも踊る?」
私がそう訊くと彼女は頭がもげそうな勢いで首を横に振った。
「いいえっ、私は遠慮致します(呪いの踊りなんか)」
若干、副音声が聞こえたような。
「そお? 気持ちいいよ?」
「結構です!!」
おうふ、エルザさんに全力で拒否られて、ちょっこっと凹んだよぅ。
腕を空に突き出して伸びをしながら、傷ついている私にエルザさんは爆弾を投下した。
「本日、ダンドリュー侯とご子息様がいらっしゃいますので、早めのご準備……ヒィ!!」
腕を上げたままガチっとフリーズした変人(私)を見て悲鳴を上げるエルザさん。
私の頭の片隅に何かが引っかかった。
「……今、なんて言った?」
「ヒィィィ!!! お嬢様、申し訳ありません!!」
質問されたエルザさんは変質者から逃げるようにいなくなった。
私に三千のダメージ。
一人になった私は腕を組んで考える。
エルザさんダンドリューって言ったよね?
ダンンドリュー、何か引っかかる。
ダンドリュー、ダンドリュー……
ジョワロフ・ダンドリュー……って
「あぁ! 攻略対象者のジョワロフか!」
何か聞いた事あるはずだわ、なっとく!
確かヴィクトリーヌと婚約してるんだよね!
思い出せてスッキリし晴れやかな顔で空を見上げている私の方に、セバスチャンが駆け寄って来た。
「お嬢様っ、何故こんな所に!」
「ん?」
「さっさと着替えますよ!」
セバスチャンはそう言って私を俵担ぎにして走り始めた。
「のぐぇっ!!」
乙女らしくない悲鳴を上げ、私は部屋へ連行される。
ちくしょー、セバスチャンの奴。初期と比べると態度180度違うじゃねーか!
もうちょっと、乙女扱いしてくれよ!
そして部屋に突っ込まれ、メイド達と格闘中です。
「お嬢様、今からでも間に合いますよ?」
「わがまま言わないでさっさと着て下さいよ〜」
私に向かってコルセットを構えるメイド達。
「他はどうしてもいいけどそれは嫌!!」
どう考えても体に悪いじゃん、コルセット。
腸とか内蔵、締め上げるんだぜ?
ぐえってなって、ご飯入んないよ?
壁際に追いつめらた私に舌打ちをするメイドさん。
「お嬢様、コルセットを着けるのは義務です」
セバスチャンといい、このメイド達といい、従者のイメージがガラガラ崩れて行くんですけど。
エルザさんを見習え!
「あ、エルザさんは怯えられ過ぎてて逆に疲れるからやっぱいいや……のごぐえぇぇぇえええ!!!!!_
考えている間にコルセットを締め上げられました。
「はい! お嬢様はぼーっとしてるからチョロいんですよ。」
「下でお待ちですからさっさと行って下さい。ちゃんと令嬢らしくしてるんですよ!」
着替えが終わったのでメイド達に部屋を追い出さた。
ねぇ君達、令嬢扱い酷くね?
しかも一人で行けと?
私はお腹の苦しみを耐えながら、客間の扉を開けた。
「おお、ヴィー。起きたのか」
父が駆け寄り、右手で私の頭を撫でた。
そしてお客とおぼしきダンディなおっさんに話しかける。
「娘のヴィクトリーヌだ。ヴィー、挨拶は?」
ふむお客さんは二人、おっさんと髪が金髪のちっこい子ども。
うぉ、まつげなげぇ〜、しかも可愛い! 頭をわふわふしたい!!
さすが攻略対象者前世の私よりかわゆい。 ん? 攻略対象者……って!!
「ヴィー?」
父が心配そうに私を覗き込む。
はっ、しまった思考が飛んでた。
「初めまして、ヴィクトリーヌです」
私は慌ててスカートをつまみ令嬢のお辞儀をした。
顔が引きつっているのは仕方ないだろう。
だって私は、目の前にいるジョワロフ・ダンドリューに将来殺されるかもしれないから。
乙女ゲーム「君の瞳になんちゃら」の悪役令嬢はヒロインがどんなルートに入っても殺される鬼畜使用なのだ。
しかも攻略対象者に殺される。
もちろん婚約者のジョワロフにも。
いや、まてまて。
私が覚えてないだけでどこかに抜け道があるかも知れない。
思い出せ、思い出せ、なんで殺される?
ジョワロフにヴィクトリーヌが初めてあったのはいつだ?
そこでヴィクトリーヌは何をした?
そもそも婚約者であってるのか?
ストーリーを思い出せ。
ぐるぐると考えている私に父が言った。
「それじゃあ、子ども同士二人で遊んでおいで」
あるぇ? それってかなりまずくないかい?