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第3話 -デキちゃった、シちゃった-

第3話 -デキちゃった、シちゃった-


 奴隷にされそうになった日から数日経った。ここはいつもの酒場、昼下がりで客が全然来ない時間帯である。

 俺は特にやることもなくバーカウンターの椅子に座り、長いテーブルに上半身を放り出している。エルフは華奢な種族なのだが、俺はなぜか胸がそこそこ大きい。つまり胸が邪魔なのでテーブルに乗らない様にする必要があった。


 マスターはカウンターの奥の棚のストックを整えたり、グラスを布巾で磨いたりしている。有り体に言って暇そうだ。数少ない客は、昼飯時から居座っているむさそうなおっさん冒険者パーティーと、雑誌と新聞を読んでいる一人客の老紳士、どことなく影のある着飾った美人が一人酒、そのような客層である。


「なぁマスター、この酒場は給仕を募集してたりするのか?」


「今まで一人で回せてたからねぇ~。それにユーキちゃん、接客苦手でしょ?」


「…苦手だな」


「なにか新しい事やってみたいけど、どうしていいかわからない。ユーキちゃんはそんな感じだね。そうだねぇ、体はウエイトレス、心は冒険者が似合ってそう」


『コト』、マスターは俺と話しながらグラスを一個棚に戻し、新しいグラスをまた磨き始める。


「冒険者、出来れば良かったんだけどな。はぁ~」


「ユーキちゃんは支援魔法と回復魔法が得意なんだっけ。せめて剣が扱えるか、攻撃魔法が一つでも使えればねぇ…」


 今まで日本人だった人間が剣を扱えるわけもなく、攻撃魔法は初級が使えなくて冒険者ギルドの教官に呆れられてしまった。エルフは幼少期から言葉を覚えるように魔法が扱えるようになるのが一般的であり、訓練して魔法を習得するなんて前例がそもそも無いとのこと。

 人族が魔法を習得するには訓練するのだが、それには魔法学校に通うらしい。俺が攻撃魔法を習得するには書物を読んで独学で学ぶか、師匠を探すか、学校に行くかである。いずれにしてもお金が掛かる上に、そこまでやっても習得できないかもしれない。一応適正はあるらしいのだが…。

 ちなみに支援と回復の魔法は効果をイメージして念じて、魔力を流すと発動する。冒険者ギルドで簡単な説明を受けただけであっさりと発動した。


「あ、ユーキちゃんが攻撃魔法使えない理由、分かったかもしれない」


「マスター、本当か!?」


「ユーキちゃん、生き物を本気で殺そうと思った事、なかったりしない?誰かを殴った事もなかったり。昔のエルフの姫様が攻撃魔法を使えなかったのがそんな理由だったと噂で聞いたから、もしかしたらそういう理由かもしれない」


「確かにそうかも…」


 俺を奴隷にしようとしたあの豚商人コロス、俺を奴隷にしようとしたあの豚商人コロス、俺を奴隷にしようとしたあの豚商人コロス…


「っは」『ボ―』


 俺の手の平の上には火の玉が出現していた。


「おおー、流石ユーキちゃん!…でも店内は攻撃魔法厳禁だよ」


「っひ」


 マスターが一瞬超怖い顔をした。ちょっとちびった。あ、これ、一度出ちゃうと…


「…」


「…」


「あー、流石に床に零しちゃうとね…脅かしてごめん」


「ごめんなさい…すぐ、拭きます」


「まった!椅子に溜まった分は儂に譲ってもらえんかね。100ギルズ出す!」


 穴があったら入って死にたい気分になって、出し切ってしまってデニムの短パンが、靴下が、革の靴が大変なことになって、もう自棄になって、頭が真っ白になってる所に、活字を追っていた老紳士が割り込んできた。


「あ、え…」


「なら俺らは120ギルズ出す!」


 おっさん冒険者が更に割り込んできた。


「じゃんけんで勝った人が100ギルズ、それで恨みっこなし」


 マスターが音頭を取った。やめてよ。後でタダで上げるからさ。やめてよそんなの。マジで。


「「ジャン、ケン、ポンっ」」


「チキショーーーーー」


「ふぉっふぉっふぉ、若者よ、ここは老い先短い儂に譲るということでな」


「そ、そうだ、俺は床でも」


「流石にそれは汚いからダメ。お腹壊したらうちの問題になるから」


 いやね、金貰ってるから突っ込まないけど普通に十分汚いからね。いや、採りたては無菌なのは知ってるけどね。老成した紳士がこっち見てそんなに美味しそうに飲まないでくれよ。


「ユーキちゃん、顔をそらしちゃダメ!自分がお漏らししたのを人に始末させて、しかも目を逸らすなんて、そんなの無作法だよ」


 …攻撃魔法が使えるようになったみたいだし、本格的に転職を検討しなくては。何か大事な物が無くなってしまう。心が、心が死ぬぅ。

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