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「まずはスポーツ万能イケメンをゲットよ」

※全五話(二万字以内)を想定しています。

 グラウンドでは男子達がサッカーをしていた。砂煙とともに、あちこちから掛け声やら声援やらが上がっている。

 さて、私のお目当ての彼は何処かしら。

 ……ところで、明尾の奴は結局私について来た。酷い目に遭いたく無いから付き合いたくないとかほざいていた癖に……言動に矛盾が生じているわね。これだから凡人は。


「おい、お前一体何する気だよ」

「ハーレム要員にこれを食べさせるに決まっているでしょう?」

「はぁ? やめろよ! 腹でも壊したらどうするんだよ!」

「何をやっても今ひとつな貴方と違って、私は何だって上手くできるのよ。料理だって上手いのだからお腹を壊すようなものなんか作るわけないじゃない」

「料理が上手いとか下手とかの問題じゃねぇだろ! 俺はそんな何入ってるかわからないもんを人に食わせるなって言ってるんだよ!……ってもういねーし。たまには俺の話も聞けよ!」


 明尾の事は無視してさっそくハーレム要員であるターゲットを探す。いたいた、湾浩二わんこうじ君!

 彼はサッカー部のキャプテンでポジションはFW。エースストライカーとして活躍しているらしいの。サッカーは勿論、彼はどんなスポーツもそつなくこなすスーパースポーツマンらしいわ。

 顔だってイケメンよ。彼の優しくて暖かみのある笑顔にやられた女の子は少なくないそう。性格も優しくて世話焼きと評判で、同性からの人気も高いんだって。

 全くもってエクセレントね。是非とも我が手中に収めたいわ。


 湾君のチームは休憩中みたいで、彼は友人と喋りながら飲み物を飲んでいた。


「チャンスね。さっそくこれを渡しに行きましょうっと」

「だからやめろって! だいたい、そんな怪しい食い物普通に渡したところで誰もうけとらねーよ!」


 何を言っているのかしら。こんなに美味しそうな団子を受け取らない人がいるとは思えないわ。

 明尾の言う事なんか気にしないで湾君の所に行きましょっと。


「なぁ浩二ー、最近部活どうよー」

「ああ、実は先輩達が引退したせいで上手い選手が少なくなって困ってるんだ」

「三年は夏の大会で引退だっけ」

「そうなんだよ。……参ったなぁ。このままじゃ今年の冬の大会は一回戦敗退確実だ。このままじゃせっかく入ってくれた後輩達にも申し訳が立たないぞ。どこかに良い選手がいないものか」

「今探せばいーじゃん。ちょうどサッカーしてるし」

「探してるよ。けど、この中でサッカーが上手いなって思う奴はみんな別の部活やってるんだよな。そっちの大会もあるから助っ人は頼めないし。……なぁ、お前の知り合いにサッカー上手い奴はいないか?」

「俺漫研だし、そもそも運動できる知り合いがほぼいねーよ。しかもサッカーって足から炎とか出さないと駄目なんだよな? 足からそんなの出せる知り合いなんかもっといねーわ」

「え? そんなわけ無いだろ」

「でもこの前やったサッカーゲームだとそんな感じだったぞ。そういやテニスも分身したりゾーン作ったりとかしなくちゃいけないみたいだし大変そうだな。あとバスケもなんかそんな感じじゃん」

「漫画の読みすぎだ。実際はどのスポーツももっと現実的だからな」

「えー、何だよそれー、現実的とかつまんねーよ。そもそも現実がつまんねーよ。二次元に行きたい」

「お前って口を開けばそればっかりだよなぁ」

「こんにちは、湾君」

「え?」


 友達と喋っていた湾君は、私に気づいて不思議そうな顔をした。体育は男女分かれてしているから、この場所に女の私が登場したらそりゃ不思議でしょうね。でも、全ては貴方をハーレムに入れるためなのよ。


「うわっ、すげー美人じゃん。お前こんな知り合いいたの?」

「いや、今日初めて会った。えっと、何さんかな?」

「私の名前は百田呂子。いずれ世界を手中に収める女よ」

「えっ……世界?」

「そう、世界よ」


 あら、湾君ったら黙っちゃったわ。私のスケールの大きさに驚いてしまったからね、きっと。


「おい呂子。いきなりそんなに電波全開だと一般人はひくからな、普通」

「うおー!! この子好みのタイプだわ! ちょっと詳しく話しとか聞かせて?」

「……湾の隣の奴はお前のこと気に入ったみたいだけどな」


 イケメンや美少女以外の人から気に入られても仕方ないわ。こんなの無視よ、無視。


「湾君、運動をしてお腹が空いたでしょ。差し入れを持って来たの、食べて。いえ、食べなさい。強制よ」

「これは……団子? え? 強制?」

「おい呂子! 湾の奴困ってるじゃねぇか!」

「強制的に団子食わされるシチュとか新しいな。でも俺は嫌いじゃ無いぜ!」

「……隣の奴は何故か嬉しそうだけどな」


 隣の奴はどうでも良いのよ。


「……せっかく俺のためにくれたのに申し訳無いんだけど、これは受け取れない」

「ど、どうして? 団子はお嫌い?」

「い、いや……嫌いってわけじゃ無いけど。知らない人から貰った食い物はさすがに食べれないからなぁ」

「さっき名乗ったでしょ。貴方は私の名前を知っている。そして私も貴方の名前を知っている。これで知らない人同士じゃないわ。私と貴方は他人ではないの」

「え、い、いや……そうかな?」

「そうよ」

「ちげーよ! 全然ちげーよ!!」

「明尾は黙っていなさい」

「参ったなぁ」

「浩二ー、良いじゃねぇか。団子くらい貰ってやろうぜ。美少女の頼みなんだからさ」

「この場合美少女だとかそうじゃないとか関係無いだろ!」

「関係あるっつーの。可愛いは正義って言うだろ。だから可愛い子のやる事はいつも正しいんだよ」

「何だその暴論は!……あの、百田さんだっけ。本当に悪いんだけど、やっぱりこれは受け取れな……」

「ねぇ彼女、浩二には俺から渡しとくからそれちょーだい」

「ちょっ、勝手に何を……!」


 あら、隣の奴ったら気が利くじゃない。さっき無視したりどうでも良いなんて思って悪かったわ。


「じゃあ、お願いね」

「おっけー」


 湾君の隣の奴に喜媚団子を渡した。


「おっけーじゃなぁぁい! ああ、もう、お前って奴はいつもそうなんだから……」

「……何だろう。俺、湾の奴にちょっと親近感を覚えるぜ」


 明尾はまじまじと湾君を見やりながらぽつりと呟いた。新たな友情が芽生える予感がした。


「でさー、浩二に渡す代わりに俺の頼みを聞いて欲しいって言うかちょっと踏んで欲しいんだけど、ちょっとで良いからさ! 端っこだけで良いからさ!!」

「うわぁぁぁ! 不快にさせたら申し訳ない。こいつ変な事ばっかり言うけど悪い奴じゃないから!」

「本当に親近感覚えるぜ……」


 湾君の隣の奴に団子を渡したはものの、やっぱり湾君が食べたと確証を得るまではここから動けないわね。食べて貰わなくちゃ意味が無いもの。


「こら、お前ら何しに来た!」


 その時、えらくどすの利いた男の叫び声が響いた。


「げっ! 鬼ヶ島先生……!」


 明尾は青ざめた顔で近づいて来た男を見た。ジャージにTシャツに首からホイッスルと言ういでたちはまるで体育教師のそれだけど、私の体育は違う先生が担当している。


「お前は女子だからしらねーだろうけど、鬼ヶ島先生は男子の体育教師なんだ。男子の間じゃ鬼教師って評判なんだよ。普段から威圧的だし、怒らすとネチっこいから言う事聞いといた方が良い。一回目をつけられるとすげぇいびられるからな」


 そんな教師がうちの学校にいたなんて知りもしなかったわ。 


「お前、明尾じゃねぇか。授業中に女連れて遊びに来たのか? 良い身分だなぁ」


 話し方と良い、視線と良い、確かにネチっこそうな感じね。


「え、えっとこれには深いわけがありましてですね」

「お前にわけなんかあるわけねぇだろぉぉ! 明尾ぉ、明日の授業でお前だけは吐くまで走らせてやるぞ。喜べ」


 その場にいた男子たちがざわついた。

 この教師、見ていると凄く嫌な気分になるわ。私、偉そうな男って嫌いなのよ。


「すぐに去りますんでそれだけは勘弁してください!」


 すぐに去るなんて冗談じゃ無いわ。私のハーレム計画はどうなるの!


「すぐに去るのは明尾だけよ。私はこの場を動かないわ」

「お、おい呂子! だから鬼ヶ島先生の言う事は素直に聞いといた方が……」

「おいそこの女子生徒。ずいぶん舐めた態度じゃねぇか。俺はお前みたいな偉そうな女は嫌いなんだよ。俺の言う事を聞けないならただじゃおかねーぞ!」


 教師だからって私に楯突くだなんてどう言う了見かしら。


「ただじゃおかないと言うのなら、どうするのか見せていただきたいものね」

「よし、見せてやろう。……おい、ボールを貸せ」


 鬼ヶ島とか言う教師は、休憩中の生徒の人垣に向かって叫んだ。


「え、このボール、どうするんですか?」

「良いから貸せよ! 殴られてーのかぁ?!」


 鬼ヶ島が叫ぶと、生徒はびびりながらボールを差し出した。……まさかそれを私にぶつけようって言うんじゃ無いでしょうね。


「これでも食らいやがれ!」


 予想が当たった。鬼ヶ島は私に向かってシュートを放って来た。

 女の子にそんな固いボールを、それもそんなに本気でぶつけて来るなんて酷い教師だわ。まぁそんな事しなくても十分にクズな教師だけど。

 あら、シュート自体もクズじゃない。まるで止まっているかの如く見えるわ。


「お、おい呂子! 避けろ!!!」


 明尾が叫んだ。

 こんなもの避ける必要は無いわ。


「な、何ぃぃ!!!」


 驚きの声を上げたのは明尾だった。


「鬼ヶ島のボールをトラップしたぞ! あの女の子すげぇ!」


 周りから歓声が上がった。ふふん、良い気分だわ。


「おい浩二、あの子やばいな」

「あ、ああ。鬼ヶ島先生のボールをあんなに簡単にトラップするなんて何者なんだあの子」

「いや、そんな事はどうでも良いんだよ。今ちょっとパンツ見えそうだった。やーばーいー」

「やばいってそっちかよ!」


 ギャラリーがざわめく。

 湾君、そしてその他凡人たち。見るが良いわ、これが天才の力というものよ。……ついでだからゴールでも決めてやろうかしら。


「うわっ、ドリブルも上手いぞ!」

「おい呂子! そっちは試合中だ! あぶねーから行くのはやめろ!! おい! 呂子!!!」


 明尾の言う事なんか当然無視する。

 サッカーの試合中だった男子達がざわめくけれど気にしない、私はドリブルを決めながらゴールを目指した。


「いけーー! そのままシュートだ!!」


 ほとんど直線を描きながらボールはゴールネットに突き刺さった。キーパーは突然の事で驚いたのか、全く動けなかったみたい。まったく、ザルなんだから。

 周りからまた歓声が上がった。あんな教師より私が先生をした方がこの学校の生徒の運動スキルは上がりそうだわ。


「ふ、ふ、ふざけるなよぉぉ!!!!」


 遠くの方で鬼ヶ島が叫んでいる。ここからじゃわからないけど、多分真っ赤な顔をしているんでしょうね。いい気味だわ。

 だけどこれだけじゃ私の気はおさまらないの。さっきのお返しをしてあげないとね。

 先ほどゴールしたボールを拾い上げ、今度は休憩をしている生徒たちに向かってドリブルした。


「呂子の奴、何するつもりだよ。……まさか!」


 再びシュートを決めてやるわ。今度のゴールはあのクソ教師よ。


「食らいなさい!!」

「ごふぉぉぉぉ!!!」


 ボールは吸い込まれるように鬼ヶ島の腹に刺さった。これでそのビール腹が少しはへっこむと良いわね。

 鬼ヶ島の腹にシュートを決めた時に起きた歓声がこれまでで一番大きかった気がする。……この教師って男子達からどれだけ恨まれていたのかしら。


「ふん、一昨日来なさい」


 白目を剥くクソ教師に向かって吐き捨ててやった。


「凄いなあの子……」

「ああ、本当に凄かったなあの子のパンツ」

「お前は何処を見ていたんだ! あとパンツが凄いって何だよ!」

「聞きたいか? どんな風に凄かったのか聞いたいかぁ?!」

「いや、いい。……それにしても、少し変わった子だけど、あの子がいればうちの部も……」


 ふぅ、良い汗かいちゃった。

 邪魔者もいなくなった事だし、それじゃあ改めて湾君に喜媚団子を食べて貰おうかしらね。


「あの、湾く……」


 湾君に近づこうとしたのに、逆に彼が遠くなって行く。よく見たら私の体は明尾によって引きづられていた。


「何をするのよ!」

「こっちの方が何するのだわ!……お前、こんな事して後でどうなるかわかってるのか? さっきので完璧にあの先生に目をつけられたぞ」

「あんな大した事ない教師が私に目をつけたからって痛くも痒くも無いわ」

「……はぁ、こいつのせいで俺も目をつけられたかも。あーもー、最悪だー」

「そんなにあの教師が怖いのなら、喜媚団子を使えば良いのよ。これさえあれば誰でも下僕にできるんだから」

「それって本当なのか?」

「当たり前でしょ。私が発明したのよ?」

「……お前が作ったのだから疑ってるんだよ」


 失礼しちゃうわ。まぁ、こいつの頭は鶏よりもあわれだから私の素晴らしさがわからなくても仕方ないわね。


「良いわ、次の場所でこそ素晴らしき発明の成果を見せてあげる」

「まだやるのかよ!」

「何を言っているの? 私のハーレム計画はまだ始まったばかりなのよ」


 さて、それじゃあ次のハーレム要員がいる場所に向かうとしようかしら。

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