千夜一夜の果てに
「こうして、千夜一夜、物語を語る一方で王の三人の子を産み落とした姉のシャハラザードは正しく妃として迎えられ、姉に付き添ってきた妹のドニアザードは王の弟に嫁いだのじゃ」
砂漠の国に聳え立つ豪奢な宮殿の一室。
紗の帷の外側には星が煌めき、内側には豪奢な彫物のランプから漏れ出る灯りが床や壁に模様を描き、焚きしめたダマスカスの薔薇の馨しい香が流れる中、年老いた王は膝に乗せた幼い二人の孫娘に語る。
「そなたたちと同じ、美しく賢かった娘たちの話だ」
深い皺の刻まれた面影に太く濃い眉と堅固な鼻、引き締まった小さな口にかつての精悍さの名残りを留めた老王は幼い二人の姉妹に懐かしげな眼差しを注いだ。
「二人とも幸せになれて良かったわ」
二人の内、より幼い孫娘は大きな目を細めるといとけない声で語った。
「そう思うかい」
祖父は安堵した風に微笑むと、妹娘の豊かな黒髪の頭を撫でる。
「シャハラザードが可哀想だわ」
姉娘は打ち沈んだ声を出した。
「数多の罪なき乙女たちを手にかけた恐ろしい王の妃にされるなんて」
黒くつぶらな瞳にどこか潤んだ光を宿して祖父を見上げる。
「私ならそのような惨い心根の方と連れ添って幸せになれるとはとても思えません」
「そうだな」
年老いた王は今度は寂しく笑って自分を真っ直ぐ見上げている姉娘の瑞々しい丸みを帯びた頬を撫ぜた。
「その愚かな王は死後はきっと、地獄に堕ちるだろう」
(了)




