傾国の相、建国の相。
「女か」
父親は落胆の表情で吐き捨てると、産褥の妻と生まれたばかりの赤子に背を向けて部屋を辞した。
「せいぜい良い所に嫁に出すしかないな」
残された母親は赤子を抱き締める。
「可愛い子、可愛い子」
声に涙が滲んだ。
「お前は何にだってなれるのよ」
腕の中の赤子は返事するように一際大きな声で泣いた。
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「これは何たる美しさであろうか」
老いた皇帝は召し出された娘を前に喜びよりもむしろ恐れを滲ませて告げた。
「あれは傾国の相だ」
居並ぶ臣下たちは囁き合う。
「禍をもたらすに違いない」
娘はただ宮殿の庭一面を彩る花霞を背に微笑んでいた。
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「いよいよ手に入れたぞ」
新たに帝位に就いた男は先帝の寵姫を目にして高笑いする。
「そなたはこの新たな国のために余の子を産むのだ」
寵姫は舞い落ちていく桐の葉を背にした新たな夫に静かに微笑んで頷いた。
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「二夫に見えた皇后は夫の死後、自ら帝位に就きました」
ツアーガイドは引率している観光客たちに今日も語る。
「この寺の玉仏は彼女の死後に跡を継いだ娘が母親の面影を偲んで作らせたと言われています」
傾国の美女か、建国の賢女か。
その姿を模したとされる玉仏は幾多の戦火を生き抜いて今年も蓮の香りを含む風を受けている。(了)
monogatary.comのお題「建国顔」からの創作です。




