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金の林檎

 昔、ある国に若い王様がいました。


 その国では国中で選ばれた美しい娘たちの中から最後に王様が金の林檎を渡した娘がお妃になる決まりになっていました。


 そして、クリスマス近いある日、三人の美しい娘が宮殿の広間に呼ばれました。


 広間には家来たちも集められ、王様は金で作られた林檎を手に玉座に座って見下ろしています。


 三人の娘の内、マリアという娘が最初に進み出ました。


「私はただ姿が美しいだけの無才な女ではございません」


 赤みの勝った焦げ茶色の髪に吊り気味の大きな目をした、あでやかな娘です。


「歌に秀でておりますので、王様にこの歌を捧げます」


 “恋は気ままな野原の小鳥


 飼って馴らすは無理な相談


 たとえ嫌われても好きは好き


 法も理屈もなしよ


 おお恋 おお恋


 すげない人にあたしは恋い焦がれるの”


 有名な恋の歌を朗々たる美声で歌い上げます。


 広間の家来たちはあでやかなマリアの姿と歌声に引き込まれました。


 マリアが一礼すると、家来たちは拍手を送りました。


 家来たちの拍手が収まったところで、クララという娘が進み出ました。


「私はいくら巧くても他人の作った曲を繰り返すような芸にはさほど惹かれません」


 こちらは真っ直ぐな黒髪にどこか重たげな円らな黒い瞳をした落ち着いた娘です。


「私の作ったピアノ協奏曲を陛下に捧げます」


 広間に置かれたグランドピアノの椅子に腰掛けると、一息深呼吸して弾き始めます。


 軽やかな音色で始まった曲は誰もが初めて耳にするものでしたが、広間の家来たちは一心に鍵盤に向かうクララの横顔と流れるような旋律に魅せられました。


 演奏が終わると、マリアの時に勝るとも劣らぬ拍手が広間に響き渡りました。


 クララは誇りやかな表情で一礼すると、幾分曇った顔つきのマリアの隣に再び立ちました。


 さて、広間の人々の目は自ずと最後に残った娘に注がれました。


 灯りを照り返す淡い金色の巻き毛に夢見るような水色の目をした、他の二人より幾分幼く体も小さいこの娘はグレースといいました。


 グレースは楽しげに微笑んだ顔で前に進み出ると、いとけない声で語りました。


「私にはお二人のような芸や才能はありません。でも、今日はこうして素晴らしい思い出が出来ました。陛下と皆様に感謝します」


 一礼すると、グレースの金色の髪はフワフワと踊るようになびいて煌めきました。


 広間の家来たちと年上の二人の娘はどこか憐れむような、しかし、穏やかな笑いを浮かべて拍手を送ります。


 玉座の王様は皆の様子をしばらく眺めていましたが、やおら立ち上がりました。


 カツン、カツン……。


 シンと静まり返った広間に王様の革靴の足音だけが冷ややかに響きます。


 王様が近づくにつれ、並んだ三人の娘の内、マリアとクララはどこか恐れを示した固い顔つきになり、グレースだけは遊び友達でも見つけたように微笑んでいました。


「今日は皆、よくやってくれた」


 若い王様は三人の美しい娘に穏やかに語り掛けると、一人の娘の前に立って金の林檎を差し出しました。


「そなたを我が妃としたい」


 幼いグレースは小さな白い両の手で金の林檎を受け取ると、改めてその重さに驚いたように水色の目を丸くしました。


 こうしてグレースは小さな国のお妃となり、また、マリアとクララは国の外に出てそれぞれ世紀の歌姫、稀代の作曲家として末永く幸せに暮らしたということです。(了)

*monogatary.comのお題「女同士がマウントしあう物語」からの創作です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女同士のマウント、怖いですね。歳を取るにつれて「女は怖い、男はつらいよ」という、古典的価値観が身に染みるようになりました。または「男はずるい、女は偉いよ」とも読み返られるでしょうか? 
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