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君に届け

「ソフィ、お腹大きいのに、雨の中、あんな人ごみに行って大丈夫だった? あ、ジョルジュが付き添ってくれたから問題ないか」


マリーは絵の具に汚れた作業着のまま、ソファに寝そべって携帯電話に話しながら、テーブルに投げ出した新聞に横目を走らせた。


「あたしは行ってないけど、新聞見ると、随分人が来たみたいだから」


《パブロ・カザレス氏、葬儀》

見出しの下には、色とりどりの雨傘を差して並ぶ人々の写真が刷られている。


「いいのよ、画塾の時からずっと、向こうはバカにしてたんだから。顔を合わせれば、下手だ、平凡だって。あなたたちも覚えてるでしょ?」 


マリーは苦笑した。


「友達だなんて思ったこと、一回もない」


言い切ると、笑いが寂しくなる。


「天才画家様だって、あたしみたいな落ちこぼれ、覚えてもいなかったんじゃないかしら」


マリーは切った携帯電話をテーブルに置くと、新聞を丸めてゴミ箱に差し込む。


「ま、事故で若死にしようが、絵は売れたんだから勝ち組よね」


一人ごちると、アトリエにした隣室の扉を閉めた。


*****

「ベルさん、小包です」


優しい文字で「エレナ・カザレス」と綴られた差出人の記入欄から、一瞬置いて、パブロのお母さんの名は確かエレナだったとマリーは思い出す。

綺麗だったあのお母さんももう老けただろうなと思いつつ包みを解くと、一枚のメモと切手まで貼った十数通の手紙が出てきた。


《あの子の引き出しから見つけました。送るべきか迷いましたが、貴女宛に書かれたものですから、どうか受け取って下さい》


十数通のうち、一番古びてやや黄ばんだ封筒は、子供の頃住んでいた家に宛てられていた。

《マリーへ

今日は僕の正直な気持を書くよ。君が大好きだ。パブロ》

便箋の上の方に綴られた幼い文字とは裏腹に、下に黒鉛筆で描かれた、キャンバスを覗き込む少女の姿は、まるで白黒写真を刷り上げたように正確かつ精緻だった。


次に一通だけ「マリー・ベル」と呼び捨てた宛名の封を開くと、便箋いっぱいに大きく殴り書きした文面が飛び出す。

《どうして俺の気持ちに気付かない? いいよ、これを最後にお前の事は忘れてやる!》

日付は記されていないが、封筒は、画塾を出たての頃、半年だけ付き合った男と一緒に住んだアパートに宛てられている。


今の部屋宛の一通が、最後に書かれたものだと知れた。

《マリーへ

ジョルジュとソフィからこちらの住所を聞きました。画塾の頃からあの二人はいつも一緒だったけど、もう三人目の子供が生まれるそうで羨ましい。君はまだ一人って本当?

今度個展をやるので、チケットを同封します。必ず来て欲しい》


末尾の日付からは、まだ一月経っていない。(了)

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