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双子の彼岸
――わあ、きれーい!
一面に彼岸花が咲き誇る中、真っ赤なワンピースの背がたちまち遠ざかる。
――明恵、遠く行っちゃ駄目!
三歳の明恵はますます活発になった。
双子の光恵はノロくさいままなのに。
振り向くと、白ワンピースの光恵は夫と手を繋いだまま立ち止まっていた。
――これ、一本だけ白いね。
素早く戻ってきた明恵は光恵の手前の白い彼岸花を指して笑う。
――みんな赤いのに変なの。
物言わぬ光恵の瞳に光る粒が盛り上がった。
――白い彼岸花もあるんだよ。
父親の太い腕が白いワンピースを抱き上げる。
――ほら、あっちの方には白いのもたくさん咲いているよ。
指し示す先には紅白織り交ざる花絨毯が広がっていた。
――うふふ。
光恵は蒼白い頬に涙を伝わらせながら初めて笑い声を上げる。
母親の自分には滅多に見せない、聴かせない笑いだ。
――ママ。
隣で寂しい声がして、小さな手に自分の手を引かれるのを感じた。
振り向くと、今度は真っ赤なワンピースの娘が心細げに見上げている。
――どっちの花も綺麗だよ。
赤いワンピースを抱き上げると、小さな背中は温かに重かった。(了)




