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ざくろの石
――うちの庭から取ってきたざくろだ。
不意に現れた彼は、まだ小さかった頃のようにさりげない仕草で半ば割れた実を差し出した。
--ありがとう。
受け取ってから、思わず息を呑む。
緋桃色の厚い皮に包まれた、透き通った赤紫の粒の連なり。
その中央に真紅の丸い石の指輪が煌いていた。
――その指輪、貸すから。
これもまだ小さかった頃、悪戯がうまく行った時に浮かべた笑顔だ。
――くれるんじゃないの?
仮に嵌めてみたはずの指輪は思いのほか、私の薬指の根にすっと収まった。
――俺が帰ってくるまでは貸しだ。
笑いの消えた目で鮮血のように赤い石の輝く私の手を見詰める。
――絶対に失くすなよ。
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あれからもうすぐ一年。
また割れたざくろが地面に落ちて転がる季節になった。
戦争はまだ終わってないし、彼もまだ帰ってこない。
借りたままの指輪の石は今日も鮮やかに赤く輝いて私の胸を突き刺してくる。
これはガーネットか、ルビーか。
宝石に疎い私には分からない。
彼が戻ってきたら、きっと聞こう。
ふと人の気配を感じて振り向くと、郵便配達のおじさんが物言わず歩み寄ってくるところだった。(了)




