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着せ替えボーイフレンド

――これは?


まるでビジネスホテルの部屋みたいに整然と片付いてはいるが、どこか殺風景な彼女の寝室。

そのナイトスタンドにちょこんと腰掛けた、男の着せ替え人形。


――それはイサムくん。


まるで恋人か片想いの相手を紹介するみたいな声と面持ちだ。


――子供の頃に買ってもらった人形なの。


真新しく洗練された服に比して微かに黒ずんだ顔に気付く。

人形の風貌としても今時の感覚からするとちょっと垢抜けない。


――デザインを始めるきっかけを作ってくれたの。


彼女の手が愛しげに人形の栗色の髪を撫でる。

胸の奥が一瞬、パチリと燃え立つのを感じた。


――リカちゃんはドレスがたくさんあるのに、イサムくんは最初に買った時のままの着た切り雀じゃかわいそうでしょ? それで、イサムくんの服を自分で作るようになった。今でも、新しいデザインは必ずイサムくんの分を作って着せてるの。


――そうなんだ。


今じゃ彼女専属のモデルになったのだから、この人形も大出世だ。


――でも、今は俺だけ見てよ。


自分は若い内だけのモデルじゃない。

ただの着せ替え人形では終わらない。

そう念じつつ、彼女に口付ける。(了)

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