28/49
焼肉の伴(とも)
――よく子供の頃、夕飯がすきやきだとご馳走で嬉しかったとか言うじゃない?
――ああ。
彼女の笑顔に頷きつつ、こちらの頬も釣り込まれて弛む。
――でも、私は焼肉の方が嬉しかった。生卵より焼肉のタレに浸けて食べる方が香ばしくて好きだったんだよね。
本当は少しでも長く向かい合って話したいから夕食には焼肉の店を選んだのだが、思わぬ収穫だ。
さりげなく、カルビの程好く焼き上がった一枚を取り箸で彼女の皿に移す。
――ありがとう。
こちらに向ける笑顔に何だか済まなそうな色が着いた。
やはり、自分で思うほどさりげなくは出来なかったようだ。
――じゃ、いただきます。
湯気たつ肉片が彼女の滑らかな桃色の唇に運ばれ、静かに吸い込まれる。
ただそれだけの光景に、ワッと胸の奥が熱く騒ぐのを感じた。
――うちの家族も焼肉好きだから、家でも外でも良く食べるよ。
――そうなんだ。
彼女は唇を静かに拭うと烏龍茶に口を着ける。
酒は飲めないと前に聞いた。
君と家族になって、二人の家で焼き肉を食べたい。
それを伝えるのはまだ早いだろうか。
舌を焦がさんばかりに熱い肉をビールで喉の奥に流し込む。
(了)




