背信の顛末
ブーン、ブーン、ブーン……。
シャワーを浴びて寝室に戻ったところで、ベッドサイドに置いた、色違いでどちらもメタリックなブルーとピンクのスマホが競り合うように二機とも振動を始めた。
「あたしたち両方にだね」
ベッドに横たわった正行は何も言わない。
あたしは自分のピンクのスマホを手に取った。
Eメールが一通来ていた。
閉じられた封筒のアイコンをタップすると、案の定、“Lucky Girl”のフォルダにその一通は小分けされていた。
さてさて、どんな文面でしょうか。
苦笑いしつつ、震える指で新着メールを開いてみる。
「From 河合美幸
To 黒木利恵、代田正行
とうとう尻尾をつかまえたわ。
前々から変だと思って、このマンションを見張っていたの。
結婚式の前日も二人で過ごすなんてやってくれるわね。
もしかして、駆け落ちするつもりででもいた?
あんたたちの前でウエディングドレスを試着して舞い上がっていた自分が馬鹿みたいだわ。
綺麗だ、よく似合うと褒めそやしながら、二人とも腹の中では嗤っていたんでしょうね。
恋人ヅラした男と親友ヅラしていた女から裏でずっとコケにされていたなんて、反吐が出るわ。
他の女に触れたその手で、私のことも抱いたのかと思うと、こちらまで汚された気分になる。
もうこんな屈辱の中で生きていなくていい。
死ぬついでにあんたたちも一緒にガソリンで焼き殺してやることにしたわ。
そっちの部屋の合鍵を作ったから、締め出そうとしても無駄だから。
今、エレベーターに乗って向かっているところよ」
体全体がガクガク震えるのを感じながら、スマホを握り締めた。
何の操作も加えないせいで、呪いの文面を示す画面がそのまま省エネモードに薄暗くなる。
「美幸がここに来るんだって」
ベッドを見やると、正行は相変わらず横たわったまま目を大きく見開き、蒼白な顔をこちらに向けていた。
「あたしたち、どうなっちゃうのかな」
画面が真っ暗に切り替わったスマホを放ると、ベッドの彼に近づく。
微動だにしなくなった左胸からナイフを抜き取ると、明日花婿になるはずだった男は、恐怖に凝固した面持ちのまま、ガクリと顔を仰け反らせた。
ナイフの刃がまだ生ぬるい血を滴らせながら、蛍光灯の蒼白い光を反射してギラリと輝く。
玄関から、ガチャガチャと鍵を開ける音が響いてきた。(了)




