第五話 ケレスター商会(上)
通商都市コーネスライトの北方に存在するレッス砦。
その崩壊はコーネスライトへも衝撃を与えた。だがそもそも、利に聡い商人達が多い都市だ。事態は比較的冷静に受け止められていたと言っても良い。
だが組織された討伐隊が壊滅したという報が伝わるにつれ、コーネスライトの住民も事態の深刻さに漸く気付き始めていた。
そんな中、コーネスライト一帯を支配する領主アキム・バラネフは大胆な策を打ち出した。
一言で云ってしまえば、都市内の商人に対して軍事力の拠出を求めたのだ。
商売の規模、私兵の規模に応じた兵力の拠出。
そして各々の商会が持っている私兵のスキル構成やレベル、更には彼らの現在位置、そういった情報の提供を要求した。
これは個人や被雇用者などはそこまで気にしなかった。寧ろ比較的好意的に受け止めた。だが逆に商会の人間にとっては、到底受け入れられるものでは無かった。
代わりに財貨などを提供しようとした商会もいたし、適当にでっち上げた情報を提出した商会もいた。だがその罰則はかなり厳しく、安易な誤魔化しで済ませられるものでは到底無かった。
この政策の意図は明らかだ。
つまり政府による商会の管理。商会から私兵という牙を抜き、軍事力を都市政府によって一元的に管理する。結果、都市政府の権限は強くなり、その枠内でのみ商会は商売を許される事になる。
無論これが上手くいっても、今までフリーで受けてきた人間などが残るだろうが、それらはそれらで別の管理方法を用意すればよい。
アキムの出したこの政策は理にかなったものだった。
主に都市内の治安と調査を請け負う都市警察隊。
そしてレッス砦の屍鬼の群れのように都市外の脅威に対応する騎士団。
それらを軸とし、商会から兵力を奪い、違法な商取引を禁止する。
簡単に言ってしまえば、それがアキム・バラネフが打ち出した新たな通商都市コーネスライトのビジョンだった。
だがそれと同時に、水面下でアキムは一つの調査を開始していた。
自らの都市に存在する、ロイスと繋がった勢力の調査だ。
この二つの行動は、それまでどちらかと云えば堅実で慎重だったアキムの治世と異なり、かなり強硬で急激に押し進められた。
それ故反発を抱く者も多く、結果コーネスライトが不気味な緊張感に包まれるのにそれほど時間は掛からなかった。
そんな中、タリス・マンチェスは妻であるレイラと仲間であるエルフの女戦士ソフィア・クリフォードと共に、コーネスライト内のロイスと繋がった勢力の調査に協力する事になった。
「――で、どうするのよ?」
レイラがソファーに座りながら、タリスの方へ向かって言葉を投げた。その肘はソファーの肘掛けに乗せられており、白く薄い生地の手袋に包まれた手を拳の形にして頬杖をついている。
胡散臭いものを見るようなジト目をその瞳に浮かべていたが、そのような崩れた態度をとっていても彼女はどこか怪しげな気品があった。
場所はタリス達が暮らしている自宅だ。
一応は貴族とは云え、タリスはそもそもそれほど格の高い貴族ではない。少なくとも外見上はごく普通の館だった。
居間のようになっている部屋には、中央の机を囲むようにソファーが幾つか置かれ、それとはある意味対照的な分厚く無骨な本が戸棚には何冊も収められていた。
部屋にはタリスとレイラの他にもう一人、ソフィア・クリフォードの姿がある。襲撃時とは異なり、柔らかでゆったりとした服装に身を包んでいる。そうしていると外見上は深窓の令嬢のようだが、それとは似付かわしくないどこか鋭い雰囲気を微かに漂わせていた。
「どう、とは?」
「今のところ、貴方の思うとおりに進んでいるわ。でも、そろそろ不確定要因が多くなる。後は適当に臨機応変とか言ってたじゃない」
「まあ、そうなんですよね。そもそも動いてみないと判らない事なんて幾らでもある訳で、どんなに準備をして情報を探っても、その情報を探るには動かないといけないというジレンマ。ほんと無欠の策なんて存在しませんよ」
タリスは軽く息を吐いた。
「結局の所、僕らの目的を果たすのには混乱が必要です。火事場泥棒みたいなものですね、火事が起こらなくてはどうしようもない訳です」
「……情けないわね」
「仕方ありません。向こうの方が圧倒的に強いんですから。アルネシア王政府は甘くありません。寧ろ笑えるくらいに恐ろしい存在ですよ? もしそんなものに喧嘩を売るならあらゆるものが必要で、その為に隠れて順繰りに組織を作るなんて真似をしていたら、まず間違いなく途中であっさり狩られます。ちょきん、と庭の草花を剪定するみたいにね」
タリスの口元には笑みが浮かんでいた。
言葉とは裏腹にどこか愉しそうな笑み。
「鬼ごっこみたいなものです。恐ろしい鬼から逃げる童子は多い方がいい。その為には、盤面がある程度混乱している事は必須です。そうでなくては鬼ごっこが始まりもしない」
ソフィアはそんなタリスの横顔を見詰めた。
恐ろしい男だと、ソフィアはタリスの事を思っていた。
整った顔立ちに穏やかな笑み。洗練された身のこなしに細身ながら鍛えられた体付き。
だがそんな事は問題ではない。
卓越した剣の腕。死霊術士としての技能。治癒者としての手腕。
そんなものも本質ではない。
この男の恐ろしさは、その知謀と精神性にある。
付き合いが短いとはいえないソフィアとて、タリスの事をまともに理解できている訳ではなかった。だがそれだけは確かだろう。タリス・マンチェスという男の最大のスキルである死霊術とて、その精神性が無くては扱えない。寧ろ、身に付ける事すら出来なかった筈だ。
少なくともソフィアには、どんなに追い詰められても、そして自分がこれからどんな経験をしたとしても、この男の真似が出来るとは思えなかった。
だがそれ故に、惹かれるものがあるのも確かだ。
自分には出来ない事を易々とやってのける男。迷い躊躇ってばかりの自分とは違う。他者をあっさりと蹂躙してのける男。
そんなタリスに従い動く事は、ソフィアにどこか快楽にも似た安心感と充実感を与えた。頭の奥底でこんな事では駄目だと言う自分がいるが、心地よくて抗えない。
きっとソフィアは堕落した。
以前のソフィアなら、必死に目的に向かっていたソフィアなら、全力でナニカと戦っていたソフィアなら――恐怖にも似た感情を覚え、タリスから逃げただろう。自分というものが無くなってしまう危険を本能的に察して。
元々ソフィアは、アルネシア王立騎士団に籍を置いていた。
エルフという種族としては、かなり珍しい事だった。そもそもアルネシアにおいて亜人の社会的立場は概して低い。その中でエルフは例外的に高いといえるが、それはあくまで奴隷や愛玩用として価値が高いというだけで、ヒューマン種と同等の権利が認められている訳ではなかった。
そんな中ソフィアは王立騎士団に志願し、見事入団を認められた。社会の役に立ちたい。正義のために戦いたい。そして亜人の立場を少しでも良くしたい。
入団時のソフィアはそんな事を真面目に思っていた。
だがやがて判らなくなっていった。
家畜のように強制的に交配させられ、子供を作り、売られていく。そんなエルフ達を見た。
術式を強制的に刻み込まれ、殺される事前提の練習相手とされるゴブリン達を見た。
それらは別に違法ではなかった。詳しい事はソフィアには判らない。だがそれを見付けてもソフィアは何も出来なかったし、騎士団も王立警察も動かなかった。それだけは確かだ。
酷くむなしくなったのを覚えている。
――守るべき正義と秩序とはいったい何だ?
そんな疑問が脳裏にこびり付いて離れなかった。
結局、ソフィアは王立騎士団を脱退した。
その後暫くしてタリスと出会い、付いて行く事に決めた。亜人がヒューマンと同等の権利を持って暮らしていける国という約束を信じて。
無論この男が、亜人の為の国家設立、なんていう目的で動いていない事は理解している。
この男は、もっと下らない、余人にはよく判らない理由で動いている。
なのに、それでも矢張り、ソフィアはどこかでタリスの事を信じていた。きっと自分の目的を果たしてくれると、少なくとも自分が動くよりもこの男に協力した方が上手くいくのだと。
……我ながら、度し難い愚かさだ。
責任転嫁も甚だしい。
ソフィアは口元に自嘲の笑みを浮かべた。
「どうしました?」
「いや、何でもない」
それに目敏く気付いたタリスに言葉を返す。タリスもさして気にする風もなく、話を続けた。
「まあそういう訳で、今のところ僕たちに出来る事、やるべき事は一言で云ってしまえば情報収集です。各商会のデータ、特に抱えている私兵のデータが出来るだけ詳しく欲しいですね」
「……だから、アキム・バラネフを焚き付けたの?」
「まさか。彼が動いてくれるのなら、此方も好機を無駄にせずに動こうとしているだけですよ」
タリスは胡散臭い笑みを浮かべてレイラの言葉を否定した。
「まあそれはいいが、どこに重点を絞るんだ? こっちは数が圧倒的に少ない。出来る事は限られているぞ」
「ふむ」
ソフィアの言葉にタリスは暫し考え込む。
「そうですね。ソフィアさんの言うとおり、僕たちは数が少ない。特に亜人たちが街中でまともに使えない状態では尚更です。なので当初の予定通り商会のデータはバラネフ子爵が集めてくれるのを有り難く頂きましょう。出来ればそのデータを解析する人間とかがいればいいんですが、そこまでの用意は出来ていませんし、まだ余り大っぴらに動き出す訳にもいきませんからね」
「……なら暫くは様子見か?」
つまりはアキムが情報を集めるのを高みの見物という事になるのか。
そんな風に考えたソフィアに、タリスは軽く冗談めかした笑みを見せた。
「コーネスライトの商会は商工会という組織を作っており、これが事実上商会を支配していると言っても過言ではありません。まあバラネフ子爵がやろうとしているように、私兵の拠出なんて真似は出来ませんがね。そしてこの商工会はコーネスライトの主要な産業七つから代表の商会を一つずつ集めて、多数決で議決するという手法を採用しています」
「……それが?」
その事についてはソフィアも知っている。
だが話が見えない。見ればレイラも不思議そうな顔をしている。
「この七つの分野は、適当に名付けてしまえば、魔具、奴隷、食糧、騎獣、迷宮、盗賊、歓楽の七つです。本当はもっと正式な名称があるんでしょうが、判りやすく名付けてしまえばこんな感じになります。――さて、この中で真っ先に都市政府と対立するのはどこだと思いますか?」
タリスが突然そんな問いを投げてくる。
「どこ……って」
口にしながら、ソフィアは素直に思考を進める。
ソフィアも商工会に対してある程度の知識はある。だからこそ判るのだが、都市政府の進める政策が施行されていけば、大なり小なりどの産業分野も影響を受ける。
だからこそ都市政府は今まで商工会に対し二の足を踏んでいたのだから。
だがどれか一つという事になれば……。
まず食糧と迷宮は除かれる。食糧は食糧生産に奴隷を利用したり、違法な薬物を生産したりしているが、基本的に都市に必要であり違法性も薄い。私兵の拠出も問題になるが、土地を守るという点だけ考えれば只で使える援軍が増えるという事でもある。他の分野と違い、都市政府と条件面で折り合える可能性は高い。
迷宮も都市政府と対立する要素は少ない。
迷宮関連の商売は、道場などでスキルを教えたり、学院を運営したり、武器防具の販売、そして迷宮から入場料を取ったりと様々だが、それ故に裾野は広く、ある程度の綱紀粛正で何とかなる筈だ。
無論他の産業分野と協調して都市政府と対立する事は充分に考えられるが、真っ先にという事になれば除外できるだろう。
では騎獣、歓楽についてはどうだろう?
騎獣の産業はその名の通り、人が乗る為の騎獣を調教し販売したり、それを使って物流を担ったりといった商売が基本となる。だが現在これには奴隷が多く使われている。また亜人や田舎の村から奴隷を掻き集める一助になっている。
歓楽も似たようなものだ。売春や剣闘。そして狩り。これらに奴隷などの人材が流入しているのは紛れもない事実だ。
都市政府と対立する可能性は低くない。
だが同時に、商売としての方針転換が比較的上手くいきそうな産業分野でもある。
結局、残るのは魔具、奴隷、盗賊の三つだ。
魔具はその名の通り魔具の販売などをする産業だ。本来なら問題がないとも言えるのだが、現在のコーネスライトではこの魔具の分野はロイスの影響が根強い分野でもあり、それがどの程度根が深いのかソフィアには判断がつかなかった。
奴隷についてはその名の通り、奴隷の調達、調教、販売などを行う産業だ。現在の奴隷はヒューマン種とゴブリンが中心で、様々なスキルをロイスで教え込まれた商品が特に好まれている。
そして最後の盗賊は、ロートなどで言う冒険者のようなものだ。様々なスキルを持った、ある特定の組織に所属していない人間達。コーネスライトでは彼らは諜報や盗難、果ては暗殺など。冒険者というよりは対人、対組織の仕事が多い。それ故にその元締めも冒険者ギルドなどでなく盗賊ギルドなどと呼称されている。
これらはどれも今度の政策で大きな影響を受けるであろう分野だ。だがその中で一つ選ぶとすれば……。
「……奴隷、か」
ソフィアが自信なさげに呟く。
そんなソフィアに対し、タリスは一つ頷いて見せた。
「そうです。枝葉はありますが、今回のバラネフ子爵の政策のポイントは結局のところ一つだけです。都市政府の管理下にないロイスとの繋がりを無くす。これを中心として考えると妥協のラインも見えてきます。そしてこの妥協が非現実的なレベルまでいってしまっているのが、奴隷売買です。ですが同時に、コーネスライトの全ての産業の中で最も規模が大きく利益が大きいのも奴隷売買でしょうね。スキルを強制的に植え付けるという事は、安く、使い捨てにできる人材が安定的に手に入るという事でもあります。他の様々な産業でも利用価値は高い筈です」
スキルを身に付けた人材というのは貴重だ。
確かにそれが安く安定的に手に入るのだったら、その利点は計り知れないだろう。
だがその利点がロイスに頼っているのだったら、ロイスとの繋がりは切れる訳がない。
「……成る程ね。では商工会の議決権を持ち、奴隷売買を生業にしている商会、ケレスター商会だったかしら、これが都市政府と真っ先に対立すると?」
レイラの問いにタリスは頷く。
「ええ、まず間違いありません。都市政府にとってもケレスター商会をそのままにしていては政策は骨抜きで何の意味もない。少なくともある程度は衝突するでしょう。それくらいには尻を蹴り飛ばしましたから」
あっけらかんとタリスが答える。何でもない事のようにタリスは言っているが、その内容はかなり悪辣だ。都市政府とケレスター商会との対立を煽ったと暗に認めている。
だが今更その程度の事は気にならなかった。寧ろもっと別な部分がソフィアは気になった。
「どういう事だ? 決定的には対立しないと言うのか?」
タリスの口振りからは、都市政府とケレスター商会の対立はある程度の所で収まると言っているように聞こえた。だが、この二つに妥協の余地など無いというのは先程タリスも認めていたはず。
「確かに都市政府が断固とした姿勢をとり続ければ妥協の余地は無いんですけどね……。ケレスター商会は事実上、この都市最大のプレイヤーと云っても過言ではありません。そしてその伝手や人脈、目には見えない様々な繋がりは都市政府を遥かに上回るでしょう。時間を掛ければ当然他の商会もケレスター商会に同調するでしょう。都市政府が彼らを相手にしてどこまで対立した状態を保てるのか。はっきり言ってかなり怪しいと思いますよ」
そんなタリスの言葉を聞いて、レイラは愉しそうに笑った。
「当然、策はあるのね?」
「さあ」
レイラの問いにタスクは軽く肩を竦めるだけだった。
それを見て、レイラの瞳に険が籠もる。
「タリス?」
甘い声。内に、じゃれるような勘気が込められていた。
タリスは苦笑にも似た表情を浮かべる。
「策と言えるような策じゃありません。それにどうせ、衝突までそれほどの時間は掛からないでしょう。楽しみに待っておくのも一興かと思いますよ?」
そして、そんなタリスの言葉は二日後に現実のものとなった。
ケレスター商会本部。
通商都市コーネスライトの中でも最大規模の商会の本部である。
その広さは一介の商会のものとしては思えない程に広く、常時詰めている人員だけでもかなりの数に及ぶ。
そこは現在厳戒態勢になっていた。数日前から物資と私兵を集め、各所に配置。一般の人間の立ち入りを完全に遮断。事実上の籠城体勢だ。
そんなケレスター商会本部を、都市警察と騎士団が完全に包囲している。
それが現在の状態だ。
このように事態に陥った明確な切っ掛けがあった訳ではない。
だが今回の事態が始まって以来、アキム・バラネフは奴隷売買については特に厳しい対応を取ってきた。
それには幾つか理由がある。
まず第一に今回の事態を引き起こしたそもそもの切っ掛けがエルフの奴隷の密輸であると考えられている事。
そして第二に、都市政府が支配権を確立するのには奴隷売買を管理する事が絶対に必要である事。
そして第三に、ロイスにコーネスライトを売り渡すという画策をしていた可能性が最も高いという事。
特に第三の理由は大きかった。なにせ他の二つの理由に比べ、急を要する。自然、捜査なども手荒になった。
その判断自体はそれほど的を外したものではない。
なぜなら、もしもこの都市がロイスとの関係を強めた場合、最も利益を得るのが奴隷売買を生業にしている存在だからだ。現在、奴隷をロイスへ輸入し、スキルなどを覚えさせ、アルネシアへ再び持ってくる。
当然密輸になる。必然的に輸送コストはかなり高い。だがこれが無くなれば、奴隷売買の旨みはますます増える事になる。
逆に都市政府が奴隷売買を牛耳れば、それまでの商売の大半が禁じられる訳だ。奴隷売買を生業としている商会にとっては死活問題だろう。
そんな奴隷売買を生業としている商会の中で最も大きく影響力を持っているのが、商工会の議決権を持っているケレスター商会だ。
アキムが目を付けたのも、ある意味当然といえる。
そしてケレスター商会がそれに反発したのも、同じく自然な事だった。
ケレスター商会は、総帥であるエヴァン・バーグソンを中心に徹底抗戦を主張し、私兵を集めた。そして遂には商会本部において籠城体勢へと移行した。
それに応じる形で都市警察と騎士団は商会本部を包囲。現在に至っている。
だが現在の所、本格的な武力衝突には至っていない。
それはそもそも都市政府側に武力衝突を避けたいという思惑があったからだが、それ以上に商会本部を攻めあぐねているというのも事実だった。
たかが商会本部、されど商会本部。
元々コーネスライトには政府などは無かった。それ故に、そこで商売をする人間は自らの身は自らで守らなくてはならなかった。
ケレスター商会は、そんな地で営々と何代にも渡って商売を続けてきた。
籠城体勢になった商会本部は、殆ど要塞にも等しい。
そしてそれと並行し、コーネスライトの様々な場所に散らばった手駒が各所に政治的、経済的圧力を掛けていく。
流石の手腕と言える。このままいけば、アキムの虎の子の都市警察と騎士団が骨抜きになるのもそれほど遠い事ではあるまい。
「ま、させませんけど」
タリスは報告を受けると軽く呟いた。
傍らにレイラが控えている。
「行くの?」
「ええ」
「私も?」
「そうです」
「――へえ」
その言葉を聞いて、レイラは愉しそうな笑みを浮かべた。
「随分と思い切るじゃない」
「仕方ありません。手札を惜しんでられる状況でもありませんからね」
タリスはそう言うと、ステッキ型の仕込み杖を引き抜いた。細く鋭い片刃の刀身が現れる。細いからだろうか、武器としては少し頼りなく映る。モンスターなど相手に斬りつければ、あっさりと折れてしまいそうだ。とても実用に耐えるとは思えない。寧ろ、その洗練された美しさは美術品か何かのように見えた。
尤も、実際は武器としての品質も一級品だ。並の武器は愚か、大抵の業物すらあっさりと両断する。
だがその本質は、武器ではない。
タリスが持つステッキ型の仕込み杖――カドゥケウス。
それは本来、タリスが持つ術具であり魔導の補助に使う、文字通り『杖』なのだ。
そしてそれは当然、タリスの最高傑作である屍鬼であり術具――レイラ・マンチェスという存在に対する権能を有している。
「…………」
タリスは無言のまま、刃をレイラの方へと突き付けた。顔にではない。レイラの下腹部辺りにだった。触れるか触れないかと云った場所に鋭利な刃を差し出すように動かす。
それに応じるようにして、レイラは跪いた。その刃へと顔を近づけ、唇を触れさせる。紅い舌が艶めかしく硬質の刃の上を這った。その顔には妖艶な笑みが浮かんでいる。恍惚としているようにすら見える。
「狼は王を喰らい――」
タリスが言葉を紡いだ。それはまるで聖句を口にする神官のように厳かな口調だった。だがどこか陰惨な響きを伴っていた。
その口元に何時も浮かんでいる穏やかな笑みは無い。それどころかその表情には何の感情の色も浮かんでいなかった。
「――火葬され王を蘇らす」
続きの文句をレイラが口にする。
レイラの表情は何の感情も浮かんでいないタリスとは対照的だ。淫靡で、どこか退廃的な笑みが浮かび、その頬も微かに紅潮している。吐息はどこか熱を帯び、目は微かに潤んでいた。
――狼は王を喰らい、火葬され王を蘇らす。
それは死者を蘇らすのには生者を殺すことが必要だ。そんな事を教える秘蹟を象徴しているのだと云う。
随分と笑える話だとタリスは思う。
死者は蘇らない。蘇る者など死者ではない。
「――――っ」
レイラの口から声のない悲鳴が漏れた。
タリスが刃を押し込んでいた。いや、レイラが自らの身体をその凶刃に捧げていた。
レイラは胸元の開いた黒いドレスを着ている。その頤を上げ、白い喉元を晒している。そこへ刃が突き刺さっていた。細く白い首筋。その中心を白銀の刃が真っ直ぐと進んでいく。レイラが自ら動き、その刃を自らの喉元へ押し込んでいく。
血は出ない。だが痛みを感じていない訳ではないのだろう。レイラの身体が耐えきれず、一瞬ピクリと跳ねた。
だがレイラは自らの身体を止めようとはしなかった。
刃はレイラの身体の内を進んでいく。喉元から胸元を通り、腹部へ、そして下腹部へ。
タリスはその間中、何の感情もその顔に浮かべる事はなかった。ただ平坦な瞳で、刃に身を捧げるレイラを見詰めていた。
やがてレイラの身体が力尽き止まった。
「…………ぁ」
か細い声がレイラの口から漏れた。
その瞳は真っ直ぐとタリスの顔へ向いていた。何の感情も表れていないタリスの顔。それをレイラは凝と見詰める。
やがてレイラは両手を差し出した。タリスへ向けて、捧げるように。
そこには縋るような色があった。同時に、誇るような色があった。そして、微かにナニカを期待するような色も。
「――コード・オブ・カドゥケウス」
それに応えるように、タリスが呟く。
その言葉と共にレイラの身体が溶けていく。消えていくのではない。黒い不定形な粘体へと溶け出していく。
やがてそれは刃を通じて這い上がっていった。まるで樹を這い上がる蛇のように、ゆっくりと。だが着実に進んでいく。
その様はタリスを求めるようにも、タリスを喰らい尽くそうとしているようにも見えた。
「…………」
タリスが黒いナニカに覆い尽くされるまで、それほど時間は掛からなかった。
まるで人間大の黒いスライムのような姿。底無し沼のような黒い虚。それが不気味に蠢いている。
だがそれも長くは続かなかった。
不気味な蠢動が大きくなると、それはある一定の形を取り始める。不定形な粘体から、確固とした実体を持った人型へと。
やがて現れたのは異形の黒い甲冑だった。
手足がやたらと細くて長い。胴体も、通常の板金鎧のような頑丈さは感じられない。スムーズな曲線を描きつつも、華奢に見える程に細かった。ただ手の指だけが違った。異様と思えるほどに長いが、華奢な感じはしない。それどころか禍々しく凶悪なフォルムを描いている。
その背面には黒いマントが取り付けられ、足の爪先から、指先、果ては頭部すら全て黒い甲冑で覆われている。その材質は黒く硬質だが、金属の無機質さはしない。寧ろ生体めいた艶めかしさを感じさせた。
骨か、甲殻か。
そんな物を束ねているのか、所々奇妙な突起がある。だが色は全て漆黒。濃淡すら無い。まるで最初からそうだったか、塗り潰されでもしたかのように、全てが黒一色に染め抜かれていた。
そんな黒一色の甲冑だからか、それとも鎧の形質によるものか。その姿は単純に存在感があると云うよりは、どこか不安定で儚いものを感じさせる。
それはさながら、亡霊のようだった。
コーネスライト騎士団。その数、約5000。
出来たばかりと云ってもいい騎士団だ。訓練は積んできたし、士気もそれなり。カタログスペックだけなら中々といえるだろう。
数だって決して多くないものの、問題外に少ないと云う訳ではない。
「……だがなぁ」
そんな騎士団に所属する人間の一人、ゴーチエ・ボドワンは呻くように言葉を漏らした。
目の前にはまるで要塞のようになったケレスター商会本部の姿がある。
四方を高い壁で囲まれ、その奥に広い庭があり、更にその奥に屋敷がある。入り口はいまゴーチエの視界に映っている正門だけ。
屋敷内の詳しい地理は、極一部を除いて不明。敵戦力は推定で1000は優に超えていると思われる。
現状、騎士団を全て動員したとしたら2000程度は動かせる。残りの3000はレッス砦崩壊に端を発した屍鬼の警戒に当たっているので動かせない。
なお悪い事に、上の態度が煮え切らない。
殲滅しろという訳でもなく、包囲を解けというでもない。
現状この場にいる騎士団の数は1500程度。攻めるとなったら、かなりの犠牲を覚悟しても難しいだろう。
……だからなのか?
騎士団で包囲して圧力を掛ける。実際の武力衝突は最低限に抑える。それが当初のプランだったのかも知れない。
だが不確定の事態はいつでも起こり得るし、第一この態勢を何時までも続けられるとは思えない。
――アキム・バラネフは失敗したのではないか?
そんな疑いがゴーチエの脳裏に浮かぶ。
ケレスター商会との対立はある意味既定路線だった。遅いか速いかの違いでしかなかった筈だ。ならば、もっと野蛮で乱暴な奇襲を選ぶか、決着を先延ばしするべきだったのでないか。
このままではケレスター商会に妥協するか、虎の子の騎士団を磨り潰すかの二択しかなくなってしまう。前者は論外だし、後者に至っては後が続かない上に成功するかすら怪しい。
いや、ゴーチエの勘が間違っていなければ、ほぼ成算はないと言って良いだろう。
実戦経験もない。大義もそれ程しっかりしていない。相手は要塞に籠もっている。数の利もそれほどない。敵の戦力は不明。此方は今後の事を考えれば余り犠牲を出す訳にもいかない。
周りを見回しても、これが初陣だという人間も多い。浮き足立っていると言っても過言ではない。
これで勝てると思う方がおかしい。
……何を焦っているんだか。
今回のアキムの政策は如何にも急だった。本来ならもっと時間を掛けてやる予定だった筈だ。それが一体なぜ?
疑問は頭に浮かぶが、命令が下ればやるしかないのも事実だ。
せめて傭兵を大量に雇用すればどうかとも思うが、そもそも傭兵の元締めは商会の味方だ。
「……ちっ」
思わず舌打ちが漏れる。
上の方で何らかの妥協が成立するのを願った方が良いのかも知れない。
コーネスライトのそこそこの名家に生まれ、若い頃は傭兵稼業も経験したゴーチエも愛郷心くらいはある。領主であるアキム・バラネフがやろうとしている事の意義くらいは判っているつもりだ。
だが幾ら何でもやり方がまずい。そしてそれ以上に、ゴーチエにとって自らの命以上に重要なものなどない。
「……ん?」
いざとなったらばっくれようか。そんな事までゴーチエが考え始めた時だ。
兵達がざわめいているのが聞こえた。
「おいっ、何があった?」
傍らの副官に尋ねる。
ゴーチエの立場は小隊長。配下は30人ほどだ。貧乏くじを引けば、あっさり全滅させられる寡兵でしかない。
せめて耳聡くなければやっていけない。
「さあ」
副官の男が軽く肩を竦めて簡単に答える。とぼけた答えだが、がちがちに緊張しているよりはずっとましだ。そういった部分をゴーチエは買っていた。
だが口をついて出てくるのは憎まれ口だ。
「ちっ、役に立たねぇな」
「無茶言わんで下さい」
「……ちょっと見てくる」
「うーっす」
ゴーチエの言葉に副官の男は簡単に答える。こんな付き合いをゴーチエはそれなりに気に入っていた。
兵の群れを掻き分け、強引に騒ぎの場へと向かう。
どうやら騒ぎは正門前で起こっているようだ。
……なんだ、使者でも来たか?
ゴーチエは脳裏でそんな予想を立てる。
「……は?」
だがそんな予想は完璧に裏切られた。
見ればゴーチエの上司や、同格の小隊長が何人か集まっている。そして一人の男を囲んでいる。
いや、実際は男かどうかすら定かではなかった。
足先から頭の先まで黒一色に染め上げられた甲冑を着ている。更には背中のマントまで黒色だ。その所為で年齢も性別もまるで判別できない。
だが周りの様子と合わせて、何やらただ事でない雰囲気だ。
ゴーチエは急いでそこへ駆け寄っていった。
「……おい、何があった?」
知り合いの小隊長――ロイド・アバネシーに声を潜めて、尋ねる。
「……バラネフ様からの援軍だそうだ」
ロイドもゴーチエの方へ視線を一瞬だけ向けると、すぐに視線を戻し、同じく声を潜めて答えた。
「へぇ?」
ロイドの視線を追うようにゴーチエも視線を動かす。そこには黒一色に染め上げられた甲冑がある。
あれでは顔も何もあったものではないが、少なくともあんな格好をした兵は騎士団にはいなかった筈。ならば、領主であるアキム・バラネフが秘蔵でもしていた子飼いの部下か?
「で、何を揉めているんだ?」
だがそれならそれで、騒ぎになる理由が分からない。
「理由は二つ」
「おう」
「一つ目はあの黒尽くめ、自分の身分を証明するものを何も持っていない」
「……おい」
それでは信じられないのも無理はない。
だがそうとは言っても、それをどう理解すればよいのかはゴーチエにもよく判らなかった。敵対はしていない。それにもし本物だった場合、斬ったりでもしたら大問題だ。だが素直に受け入れるには怪しすぎる。
そんな事を考え、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたゴーチエに、ロイドは言葉を続ける。
「そして二つ目――自分が先頭に立つから、お前らもそれに続いて商会本部を攻め立てろと主張している」
「……はぁっ!?」
「しっ! 声が大きいっ!」
思わず声が大きくなったゴーチエを、ロイドが慌てて抑える。焦りと共に辺りを見回せば、何人かが此方の方を険のある目付きで睨んでいた。いずれも自分よりも階級が上の人間ばかりだ。それにへこへこと頭を下げて、誤魔化す。
「……おいっ、包囲だけって話じゃなかったのか? この兵力であそこを攻めるなんて正気の沙汰じゃないぞ」
「ああ、俺もそう思っていたんだが……」
それに怪しげな甲冑の何の根拠もない指示で、攻撃を開始するのはそれ以前の問題だ。
「……領主様に確認はしたのか?」
「まだだ」
「なぜだ? ……まさか確認も無しに、本気で攻め込むつもりじゃないだろうな」
ゴーチエの声は自然と低く重くなっていた。
だがそんなゴーチエにロイドは軽く笑って見せた。
「まさか、俺たちの上司もそこまで馬鹿じゃない。つまりはこういう事だ。俺たちは攻撃を受けた時に反撃する事は許されているが、そうでなければ包囲しろという正式な命令を受けている。ここまではいいな?」
「ああ」
「なら、何処の誰とも知らない人間が突然やって来て、その命令が変わったと口頭だけで告げてきた時、それに従う道理なんてものが存在するのか? 今現在、領主様は商会などの折衝などで忙しく飛び回っていらっしゃる。そこにその程度の事を一々緊急に確認する意味はあるのか? 万が一命令が変更になっていたとしても、そもそも商会攻めに関しては一刻も争うなんていう事態じゃない筈だ。定例の報告時に確認すればそれで済むんじゃないかと、そんな事を考えているみたいだぜ」
成る程。
思ったよりもまともで、ゴーチエは安堵の吐息を零す。
だがそれならそれで腑に落ちないことがあった。
「って事は一体なんで揉めてるんだ?」
「穏便に待ってて貰おうとしているんだが、聞こうとしないらしい。それで力尽くで拘束するべきかどうかで、迷っているみたいだな」
「……なんだ、どっちにしろ大した問題じゃなさそうだな」
あの黒甲冑に関してよく判らない所はあるが、そこまで大きな問題には発展しそうになかった。アキム・バラネフは馬鹿ではない。寧ろ堅実な打ち手だ。被害が大きすぎると見れば別の方策を考えるだろう。
「ちなみにあの黒甲冑、位階はどうなんだ? 調べたんだろ?」
「全て未知」
「へぇ、やっぱり鎧で防いでるのかね」
「さあな」
ゴーチエも半ば観戦気分になってきた。成る程、ここら辺にいる連中も似たようなものなのだろう。つまりは野次馬だ。事態を見守るとか情報収集とか、色々な理由付けは出来るだろうが、きっとそんなものは後付けだ。
ならば自分がそれに同調しても構うまい。ゴーチエが事態を暫く観戦していこうと決めた時の事だった。
「……そうですか」
声が聞こえた。
性別すら定かではない、くぐもった声だった。だがやけに耳に残る。それほど大きな声ではないのによく通り、穏やかな声なのに何か陰惨なものを感じさせる。
ゴーチエは思わず顔を動かした。視界の端には自分と同じようにしているロイドの姿があった。
視線の先には黒い甲冑の姿がある。
それは先程と変わらない。
足指の先から頭の天辺まで黒い甲冑に覆われた姿。金属の無機質な硬質さではない、どこか生々しさを感じる材質。それはまるで吸い込まれるような、濃く深い漆黒に染め抜かれている。
指先、口元、頭頂、あらゆる部分が黒い甲冑に覆われている所為だろうか、生きた人間がそれを纏っているという印象がしない。それはどこか亡霊にも似ていた。
「……なら、仕方ないですね」
それ故に、その声がどこから発声されているのか、ゴーチエには一瞬判らなかった。本能では判っている。あの黒い甲冑を纏った人間から発声されている。だが理性がそれを中々受け入れない。
混乱した頭は自然と黒い甲冑を注視する。それを纏っている人間の姿が、そうすれば浮き上がってくるとでもいうかのように。
だが当然そんな事はなかった。
寧ろ、逆だ。
凝と見詰めれば見詰めるほど、見透かそうとすれば見透かそうとするほど、ゴーチエは自らが引き摺り込まれていくような印象を受けた。
どこまでも続く底無し沼のような黒く虚ろな穴。
そこへ身体を引き摺り込まれていく。そんな中、ゴーチエは黒い兜の奥に確かに見た気がした。
――禍々しい真紅の双眸が覗いたのを。
「……おいっ! 大丈夫か!」
「…………はっ、はぁっ、はぁっ!」
気が付けば、呼吸すら忘れていた。
隣にはこちらの肩を揺するロイドの姿がある。その表情には多分に怪訝さが窺えた。だがゴーチエはそれに対し答える余裕もない。
……アレは、なんだ?
なにかまずい事態が進行している気がする。一刻も早く止めた方がよいのでは……。
そんな事を殆ど本能的に察したゴーチエが口を開きかけた、まさにその時――。
「なっ!?」
黒い甲冑が音もなく動いた。
向かう先はケレスター商会本部、その正門。
要塞状態となったそこへ向かって、真っ直ぐと黒い甲冑は駆けていく。
騎士団の人間が制止の声を上げ止めようとするが、完璧に虚を突かれていた。そもそも止めようとするのなら、せめて自らの身体で進路を塞ぐなり何なりしなくては意味がない。言葉で止めようとするなど、騎士団として論外に手ぬるいと言っても過言ではない。
当然、黒い甲冑もそんなものでは止まらない。
衆人環視の中、たった一人、真っ直ぐに正門へ駆けていく。
物見台から矢や魔導や銃弾が降り注ぐ。突如始まった攻撃に、騎士団の人間が狼狽の声を上げる。
だが黒い甲冑は止まらない。既に正門は直前となっていた。攻撃が一層激しくなる。だがそれでも止まらない。自らに降り注ぐ攻撃を気にした風もなく、黒い甲冑はその右手を振り上げる。
紅い輝線がまるで血管のように鎧の上を走った。それらはやがて右手に集まり、紅く明滅する光球となっていく。
誰も反応できない。だがその暴力的な雰囲気は誰もが察する事が出来た。本能に訴えかけるような禍々しい紅。それは暗く澱んだ底無し沼のような甲冑の黒とコントラストを描き、だがどこか調和していた。
気が付けば、甲冑の兜の奥にも右手と同じような紅が煌めいている。どこか不吉で陰惨な真紅の双眸。
「――――ッ!!」
そして爆音が轟いた。