4.誕生日プレゼントへの道のり1
アインダート・カテイアは一通りの視察を終え待っていた。
そう…主を待っているのである。
彼の主とはカルスタールのことである。アインダートはカルスタールの侍従をしている。侍従ならば主の側に控えているものであるが…彼の場合はこれに値しない。悲しいことに値しないのである。
そんな彼は常々、『普通の侍従やっていたいのだがなぁ…』とか思っていたりする。
何故ならあの主なのである。普通であるわけが無い。いつもアインダートの主は何処かに消える。侍従を置いて消えるのだ。だが、あの主はどんな暴漢に襲われようと、どんな状況に陥ろうと対処するだろうことが手に取るようにわかるのだ。悲しいかな、アインダートの主は超人だった。
そんなわけで、今は主の帰還待ちである。
ここはシェスカにある領主館である。前領主であるタザス伯爵の趣味のためか、豪華な装飾があらゆる所に施されている。
アインダートはその領主館の中の小さめな部屋にいた。エントランスホールから続きになっている待合室である部屋だ。その部屋の中央に魔方陣が描かれた絨毯が敷かれている。この魔法陣は移動用の物でまだ改良が要るものだが、実用にはまだかかるが、カルスタールには使用になんら問題ないということで使用している。この魔法陣が繋がっている先は王都にあるファガー侯爵の館である。
アインダートが待っているのは主が未だに戻らない為もあるが、この魔法陣を発動出来ないということもある。
この魔法陣には大きな欠点がひとつある。この魔法陣を発動するための魔力が半端ないのだ。普通程度の魔力では反応をせず、莫大な魔力量を消費するため一般向けではない。開発者がこのネックを何とかして一般的に普及させたいと目論んでいるのは余談である。
カルスタールはこの欠点を物ともしない魔力量を有している。簡単に言うとこの移動用の魔法陣を使える人のひとりに挙げられる。なので、アインダートは必然、主の帰りを待つことになるのだ。行きに移動魔法陣で来たなら、帰りもまた然り、である。
正午から二刻過ぎた頃、風の様に部屋に長身の青年が姿を現した。アインダートが待ちに待った、主の姿だ。
だが、主の小脇に見慣れないものが抱えられていた。
アインダートは見ないことにしたくなった。見慣れないものは少年だったのだ。少々、薄汚れているので孤児か何かなのだろうが――その主の姿は誘拐犯のそれであった。正しく、拉致加害者と拉致被害者の図であろう。
「カルスタール様、この状況が些か理解できないのですが、ご説明願えますでしょうか?」
「アインダート…怖い、その米神にある青筋をどうにかしてくれ」
「誰がそうさせているんでしょうかね?!」
「いや、うん、まぁ、私、かな?」
「えぇ、えぇ、そうでしょうとも!分かってらっしゃるんなら早く!迅速に釈明ください!!」
「えぇ~??誕生日プレゼント?」
「釈明に成っていませんが?」
「すみません、釈明はないです」
「拉致してきたんですね?」
「あ~、拉致って来た…ね」
「では、返してあげてください」
「無理!!」
「って、あ!?」
足元の魔法陣が輝きだす。
「ちょっと、カルスタール様?!」
慌てるアインダートを尻目に魔法陣の輝きがだんだん増していく。
陣を囲んで風精霊が出現する。そして――愉しげに魔法陣を回りながら踊りだした。軽やかに朗らかに時には跳んで跳ねて、くるり、くるりと踊っている。
アインダートは実は『祝眼』持ちである。『祝眼』とは精霊を見ることが出来る目を持っているということである。とは言っても、見ることのみしか出来ず、『精霊の祝福』を持っている加護持ちとは異なる。
アインダートはそれを見て和むな…と思いシェスカの地を後にした。これ位の役得がないとやってられない、『祝眼』持ちで良かった、とは彼の言である。
こうして、カルスタールによって拉致られたシェスカの孤児の少年はファガー侯爵の館にお持ち帰りされたのだ。
だが、これは孤児の少年にとっては序章に過ぎなかったのだ。
これはプレゼントへの道のりの第一歩。
ファガー侯爵家にて第二歩目が待ち受けている。
あと瞬数後のことである。
視点が変わる変わる…