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2.風の噂

 数日前、王都にある某貴族の館にて館の主である父とその息子との間にある会話がなされた。

 それは日光が程よく昇った朝の光が差し込む館のエントランスで行われた。

 主の見送りのためだろう家令と数人の使用人と主の息子が控えていた。

 館の主である金にも似た薄茶の髪とダークブルーの瞳を持つ闊達で朗らかな長身の美丈夫(25歳)、カルスタール・ファガーが自分に良く似た少年に振り向き口を開いた。

 その会話とは・・・

「エアリード」

「はい、何でしょう?父上」父親の顔を見上げて不思議そうに返す。

「3日後はお前の誕生日だな」

「そうですね」こっくりとうなずく。

「3日後に5歳になるな。うん、異様にしっかりしすぎている息子で父上は寂しいよ」

「そうですか・・・?」首を傾げる。

「まぁ、いい。本題はそこじゃない」

「本題?」

「そうだ、本題だ――」

少し間を空けて切り出した。

「で、だ。何か欲しい物はあるか?」

「欲しい物ですか?」

「そうだ」

「では、兄上が欲しいです!父上!!」

周りの使用人たちは瞬間、唖然とし思った。

(坊ちゃんはしっかりしているけど、やはりまだ子供なんですね)と。

が、ここで斜め45度の方向にはっちゃけた人がいた。まぁ、いつもそうなのだが。その人は間髪入れずに言った。

「そうか。分かった!では、入って来る。後は皆に頼んだぞ。」と。

使用人たちは、「いってらっしゃいませ」と頭を下げる。反射である。

そして、使用人たちは思う。

(分かってしまうんですか!?旦那様!!)

こうして誕生日プレゼントは何がいいかと聞いて、颯爽と王城に向かっていったのである。



 王城に登城したカルスタールは王の執務室に呼ばれていた。

「御呼びにより参上仕りました、」

「堅苦しい挨拶は良いよ?ファガー侯」

 カルスタールの言葉を遮り、首を傾げてカルスタールを見遣るのは美しい顔を微笑ませた王である。王は長い青銀の髪にサファイアブルーの瞳、スッと通った鼻梁に細面の優しげなおっとりした美丈夫である。

 その王の執務机の上には大量の紙の束が塔を作っている。王はその紙の束に埋もれているようにも見える。いつも通りの光景である。

「王は相変わらず紙の海に沈んでいますね」

「そうなんだよね~」

「王、世間話のためにファガー侯爵を御呼びしたのではないでしょう」

 横から呆れた様に声をかけるのは万年苦労性の宰相殿である。

襟足までで整えられたアッシュブロンドの髪にアッシュグレーの瞳の30代のこれまた美形な男性である。

 宰相殿の言葉に王は佇まいを整え、こほん、と咳をひとつした。

「ファガー侯にある領を受け取ってほしい」

「ある領…とは?」

「タザス領、だよ」

「タザス伯爵領…ですか?」

「そう」

「なぜでしょう?」

「うん、まずだね。タザス伯爵は爵位を男爵として北のウィステに封じた」

「事実上の追放ですね」

「あぁ、“風の噂”で気になることがあって、調べてみたんだよ」

「“風の噂”ですか、風霊たちの…ならば確証は高かったのですね」

「そう。で、ドンピシャ。タザス領は酷い事になってた。3年前に前当主が今の当主に爵位を譲ったでしょ?3年、たったの3年であんなに荒れた。酷い有様だったよ。

役人たちの横領は当たり前、非常識な税率に取り立て、兵士はまるで盗賊崩れのような者たち。農地は税を支払えずに農民が追われて荒れ果ててた。難民のような人たちで溢れていたよ。孤児たちも増えていた。心ある小貴族たちは罪を着せられて断罪さえされていた。」

「で、私ですか」

「そう、ファガー侯にお願いしたい。あそこは輸送路であるシェスカがある。あそこは主要路だ。タザスはこれからますます荒れる。粛清され甘い汁を吸っていた者たちが無法者となるだろう――ファガー侯爵、汝に申し渡す、汝が守護せしその武の力用いて事をなせ。タザス領を汝が治めよ。カルスタール・アエ・ル・ファガー」

「御意」

「では、行って良いよファガー侯、3日後に祝いの品を送るよ」

「有難う存じます。陛下。失礼致します」


 王の執務室から出て廊下を歩いていく。胸中ではこれから先の政務予定を組み立てていた。忙しくなる。タザス領は流石に伯爵が所有していた土地で広大であり、また、鉱山資源が豊富な土地柄でもある。

 また、やることが増える…。陛下のことは言えない、とカルスタールは思う。

 重いため息をひとつ吐く。とりあえず、3日後にシェスカに視察に行こうと一人ごちる。

 また、ひとつ重いため息を吐く。


 息子の誕生日に間に合うだろうか…と。


カルスタール・アエ(武門の家に付く)・ル(第一位)・ファガー

意味としては武を守護せし第一位のファガー家カルスタールとなる。


間に合うというのは何がでしょうね?

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