城(シエロ視点)
結界の先の森を抜けると、その素晴らしい風景に魔人達は感嘆の声をあげた。
一本道を俺達は登っている。
城は丘の上にありどうやらたくさんの人間が住む所とは違う城の裏手に森があったようだ。
城の大きな門の前まで行くとたくさんの人間が並んで待っていた。
その中でひときわ目立つ女性がこちらへ歩いてきた。
「おかえりなさい。」
きれいな金色のふわりとした長い髪の女性が俺達を出迎えてくれた。
大半の男魔人は彼女の微笑みにポッーとなって顔を赤らめていた。
俺がビックリしたのは長老様もそうなっていた事だった。
まあ、子供の俺でも確かに見とれてしまったけど。
「ただいま、ルナ。彼らが魔人だよ。」
「はじめまして。私はルースの妹のルナです。お会いできて嬉しいです。」
妹さんか、きれいな緑の目をしている。兄妹だからルースにも似てる。
が、長老様は違う人を思い描いていたようだ。
「そっくりじゃな、アレグリアに。」
「よく言われます。あなたが祖父と祖母の幼馴染であったパズ様ですね。
二人はあなたの話をする時とても楽しそうだったから、お会いしたかったです。」
長老様は昔を思い出すかのようにルナさんを見つめている。
ルナさんはそんな長老様を見て微笑んでいる。
「さあ、城に入って下さい。」
大きな門の扉が開くと広い庭があった。青い空に似合う色鮮やかな花々、緑の草木、小鳥が飛び回り、蝶が舞う、
川のような所もあるし水が噴き出ている所もある。その光景はまさに魔人達にとって夢のような場所だった。
「すごいね。なんかおとぎの国だ。」
「シエロが気に入ってくれれば幸いだよ。」
嬉しそうにルースが俺に微笑みかける。
やっぱりなんか微笑まれると照れるなあ・・。
ルナさんとまた違った微笑みだから・・・・。
城の中は庭よりも驚いた。
天井が高く白い壁に床はつるつるでなんか鏡みたいに姿が映る。
絵もあるし、でかい花瓶、なんか銅像までもある。
なによりも螺旋状の階段。まだ玄関みたいな所なのに。
すごすぎて頭がパニックになってきた。
「長老様と数名の代表者の方はこちらに。他の方々は案内役に着いて行って下さい。」
「俺は?」
「シエロはエストと一緒に案内を受けるといい。色々知りたいだろ。それにこれから
長老様達と話す事は難しい事だから。」
「分かった。兄ちゃんと一緒に行くよ。またね、ルース。」
「後で必ず。」
そういうとルフテさん達を伴って長老様達を大きな扉の向こうへ連れて行った。
「ここからは王子の親衛隊・私モラドとアスルがこの城を案内させて頂きます。」
後ろから声を掛けられ振り向くとルフテさんと同じ白い服を着た二人の男性が立っていた。
モラドさんは眼鏡の真ん中をクイッと押した。背筋をまっすぐにして立っている。
それとは真逆にアスルさんの方は両手を頭の後ろに組んで足を交差さして立っている。
「なんか顔がまあまあいいけど、好みではないわね。」
フロールが兄ちゃんの隣で呟く。
「何かいいましたか?魔人のお嬢さん。」
「気にしないでくれ。さあ案内して。」
兄ちゃんが慌ててモラドさんに声をかけた。
「おや、あなたは綺麗な顔をしていますね。そちらのお嬢さんより
あなたの方が私は好みです。」
「オレもオレも!」
アスルさんも何故か突然話に入ってきた。
「なんなのよ!あんた達!あたしだって全然好みじゃないわよ!!!」
「俺も男だから好みと言われても嬉しくない。いいから早く案内を。」
他の魔人達は唖然としてやりとりを見ていた。
「まあいいでしょう。では着いてきて下さい。」
フロールは怒りがおさまらないのか後ろから二人をにらみつけている。
兄ちゃんはそれをみてやれやれとした顔をしていた。
俺は案内される場所を見ては目を輝かせていた。
城の中ですれ違う人たちは俺達を見てあいさつをしてくれた。
誰一人怪訝な顔をしない。それが嬉しかった。
後はこの国の人々を見てみたかった。ルースの大切な民。
気づけば最初の玄関みたいな所に戻っていた。
「疲れた・・・、ここでさすがに終わりだよな。」
「迷子になるぞ間違いなく。」
と魔人達はそれぞれ呟いていた。
兄ちゃんとフロールも結構疲れてる顔してる。
俺は結構平気だし、まだ見たい気がするけど。
「お疲れ様でした。まだ他にもありますが、今回は代表的な所を案内させて頂きました。
皆様との親睦を兼ねた夕食会をいたします。ですがまだ用意が整っておりませんので、
庭かここでくつろいでいて下さい。準備が出来次第お呼びいたします。」
言い終えるとモラドさんが丁寧にお辞儀をした。
その横ではアスルさんがあくびをしていた。
案内もモラドさん一人説明していただけでアスルさんは怠そうにしていただけだった。
親衛隊ってどんな基準で選んでいるのだろうか??
ルフテさんが隊長ならそれなりにきちんと選んでると思うけど。
「あなたの名前を教えて下さい。」
「エストだけど、隣は俺の弟のシエロ、そしてこいつがフロール。」
「素敵な名前ですね。弟様もかわいらしい。」
モラドさんは俺と兄ちゃんを見て、フロールには見向きもしなかった。
「なに無視してくれてるのよ!」
「胸だけはほめてやるよ。」
「確かに胸は大きいですね。」
「なによあんた達!女性には優しくするもんでしょ!人間の男でも!」
モラドさんとアスルさんはフロールをからかっている様だった。
怒っているフロールをさらに無視して、モラドさんは兄ちゃんの
近くに来た。
「エストさん、恋人はおられるのですか?」
「いないけど。」
どうもモラドさんは兄ちゃんを気に入ったようだ。
友達がいっぱい出来そうで俺は嬉しい。おじさんと仕事してて
ほとんど遊んでいなかったから。フロールはへらへら笑っているアスルさんに
何か言っている。フロールと兄ちゃんは友達というか兄と妹みたいなもんだったし。
だからと言って俺にとってフロールは姉の様ではなかった。同い年みたいな感覚だった。
「おい、モラド離れろ。」
グイッと兄ちゃんの腕を引っ張る人物が言った。
「なっ!痛い!」
『た・・隊長!』
モラドさんとアスルさんは同時に隊長・・ルフテさんを見てピッシと立って敬礼していた。
「さっさと自分の持ち場に戻れ!」
『はっ!!』
二人は慌てて走って行った。
すごいなルフテさんって。あの二人を一喝してしまうなんて。
「離せよ。」
「お前はやっぱり目を離せないな。」
「だから手を離せよ。」
なんかよく分からないけどおもしろい。
ルフテさんが一番兄ちゃんを分かってくれそうだ。
「シエロ」
ルースが後ろで立っていた。
どうやら話が終わった様だ。俺は駆け寄った。
「ルース、城の中はとても魅力的な所がいっぱいあったよ。
もっともっと知りたい、早く国の人達に会いたい。」
「そうだね。すぐにとは言えないけどもう少し時間をおいてから
紹介しようシエロ達を。」
「うん!ねえ、ルース庭に行こう。」
「いいよ。夕食会がはじまるまで案内するよ。」
ここでの暮らしに俺は胸を弾ませながらルースと手をつないで
青い空の見える庭に歩いて行った。