旅立ち2(エスト視点)
森の隙間から光が射し、小鳥がさえずり始める。
早朝ともなると昨日の騒がしさとは裏腹に静かさが漂う。
「早いな。」
俺は馬の角を撫でている王子に声を掛けた。
「おはよう。君も早いね。えーっとシエロのお兄様だね。確かエスト。」
「そうだ。体はもう大丈夫か?部屋見に行ったら、弟がベッドで寝ているだけで、
あんたがいなかったからビックリしたよ。」
「ありがとう君の薬草のおかげですっかり傷は良くなったよ。私も馬・・グラシアも。
シエロはよく寝ていただろ。昨夜は遅くまで話していたからね。」
俺は王子に懐いている馬を見て、
「お前、グラシアって名前なのか。いい名前だな。
それよりシエロは迷惑をかけなかっただろうか?」
「いや迷惑なんて、とても楽しかったよ。シエロは興味深い話を色々教えてくれた。」
シエロの事だ王子に逆にいっぱい人間の国の事を聞いたに違いない。好奇心旺盛な年頃だしな。
王子は昨日のあいつ・・ルフテとは大違いだ。そういえば、フロールの所でまだ寝てるんだろうか?
・・・どうでもいいけどな。
「俺は今から朝飯作ってくるから、部屋に戻っていてくれ王子、後で持って行くから。」
「色々ありがとうエスト。」
後ろ手に手を振りながら俺は歩き始めた。
そろそろ魔人達も起き始める。また今日も騒がしくなりそうだ。
「!」
―ガサッ―
森から急に俺の前に人が飛び出てきた。
昨日もこんな出来事があったな・・まさか。
「よおエストか。昨日もこんな感じだったな。」
目の前にいるルフテを見て唖然としていた。
それにしても服装が乱れて、汚れている。
息もあらいし、どうしたんだ。
「お前も早起きなんだな、王子と一緒で。フロールの所に居たんだろ。」
「さすがに初めて会った女の子だし、ましてやご両親もいる家には行けないだろ。
彼女は来いと言ってくれたけど、それにお前からかうのもおもしろかったしな。」
やっぱりこいつムカつくな。
「だったらどこ行ってたんだ。」
「心配してくれるの?」
俺は怒りに震えて拳を握りしめていた。
「してねーよ。聞いただけだ。」
「城に戻って報告してたんだよ。森には王子と俺だけで捜索しようとなっていてた。
あまり多く人が行くと魔人達が驚くだろうと王子が思われてな。
まあ王子が俺より先に行ってしまった結果こうなってしまったが。
夜までに戻って来なかったら、森に護衛隊達が入って来る予定だったから、
それをなんとか阻止できて良かった。今日の昼ぐらいにはあいつら来るから
よろしくな。」
なんかすごい事さらっと言ったけどこいつ。
夜暗い中よく往復してこれたな。
まあ護衛隊長として頑張ってんだなあと感心してやる。
ふと見ると手の甲に木の枝で引っ掛けたのか血がでていた。
「それはご苦労だったな。おい、手怪我してるぞ。手当してやるからついて来いよ。」
「優しいな、それに面倒見もいいしな。」
「怪我人だからしょうがないだろ。それに服も汚れてる王子に会う前に綺麗にしないとな。」
俺は照れくささを隠すかのようにさっさと歩き始めた。
「これでいいだろ。」
塗り薬を血をふき取った後に塗って、
向き合って椅子に座っているルフテに告げた。
「どうも迷惑かけたなありがとう。」
改めてこいつにお礼なんて言われると変な感じだな。
「お前も朝飯食ってけよ。どうせ王子とシエロにも作るんだし。」
「いただくよ。どんなもの魔人が食べてるのか興味あるしな。」
「じゃあここで待ってろ。」
そう言って俺が椅子から立ち上がり歩き出そうとした時、ぐいっと手を掴まれた。
俺はビックリして振り返った。
「なんだよ!」
「男でもいいか・・・。」
「????」
「ごめんごめん。なんでもない。」
そう言って、俺の手を放した。
なんなんだあいつは。何がしたいんだ。
まったく分からない男だ。
昼間にはルフテが言った様に人間達が集まっていた。
もちろん魔人達もいる。
「きゃ!人間の男がいっぱいいる。近くで見て選ばなきゃ。
昨日はルフテに逃げられたからね。ふふふ。」
フロールはいつにもましてめをぎらつかせて集まりに走って行った。
本当に男好きだな・・・。
王子の傍にはシエロが居た。
あいつはあいつなりに頑張ってるんだな。
俺は少し寂しい気持ちになった。俺の後ろについてきていたシエロ。
きっと人間の国に行ったら俺との時間より王子といる時間の方が
長くなるのだろう。それはきっと喜ばしい事なのだ。
「エスト。」
振り返るとルフテが立っていた。
「お前は俺達の国に来るのか?」
真剣な眼差しだった。こいつこんな顔も出来るんだな。
答えなんて決まっているのに。シエロが行くなら俺も行く。
「行くよ。シエロの喜ぶ顔が見たい。」
「なんだ、弟君のためか・・。俺のためじゃなくて。」
「なんでお前の為に行かなきゃいけないんだ。」
「まあ長期戦だな。」
・・・こいつはさっきから良く分からない事を言ってくるな。
「兄ちゃん!」
シエロだ。話が終わったのか俺を見つけて走ってきた。
「ルフテさんもこんにちは。いつの間にか兄ちゃんと仲良くなったんですね。」
「こんにちは、シエロ。エストには色々お世話になってます。おかげで仲良くなりました。」
と言うがまに俺を引き寄せて腰を掴んだ。
「兄ちゃんあんまり同い年の友達いなくて・・人間の友達が出来て良かった!
本当にこれからも お兄ちゃんと仲良くして下さい。」
「親密に仲良くさせてもらいますよ。」
そういいながら俺の腰を撫でてきた。
―ビクッ―
何か変な手の動きだから体がゾクゾクしてくるのが分かる。
こいつシエロがいるから何にも俺が出来ないのをいい事に!
「じゃあ俺はこれで。また後でね兄ちゃん。」
「ああ。」
シエロが忙しく俺達の元から走り去った。
それを見計らって勢いよくルフテの手を振るい落として
体を突き飛ばした。
「何変な事するんだよ!」
「いてて・・。腰意外と細いな。うっかり撫でてしまった。」
「うっかりじゃねぇ!男の腰なんて撫でて楽しいか!!」
「お前だから楽しいよ。」
・・・・・・、意味が分からない。これから俺はどうなるんだ。
こいつと上手くやっていけるのか?それでもシエロには友達と
思われてるしどうにかやっていくしかないのか。
「国に来る時に馬に乗るだろ、お前俺の前に乗れよ。撫で回してやるから。」
「男二人で乗れるか!!それに撫で回すってなんだそれは!!」
「王子は前に弟君乗せるのにな。」
「それとこれとは違うだろ!」
本気でぶん殴ってやろうか?
俺をからかうにも限度ってものがある。
「本当にお前っておもしろいな。」
呑気に笑うな。
俺がイライラしてるの分かってんだろうか??
「お前たちの村の生活も人も素晴らしいと思う。けど俺達の国も素晴らしい。
きっとエストも好きになると思う。これは本当だ。」
「・・・いきなり真面目な事ゆーなよ。お前以外は好きになると思う。」
「何!それひどいなあ。」
うなだれた感じになるルフテ。
俺はまだこいつに会ったばかりだ、これから分かればいい。
そんな事を思いながら、まだ見ぬ人間達の住む美しい国を思い描いていた。