出会い2(エスト視点)
「兄ちゃん!!」
シエロが息を切らせて俺の元に走ってきた。
「どうしたシエロ。」
「人が・・・人間だと思うけど傷と頭を打ってて、息はしてるけど意識がないんだ!
早く助けてあげて!」
シエロは必死な形相で俺の服を引っ張る。
人間?まさか、だって結界がある筈。魔人ではないのか?
「シエロとりあえずおじさんを呼んでくる、治療できるものを家から取ってきてくれ。
後、薬草も。」
シエロの後をついて行くと、男が倒れていた。確かに外見が魔人とは異なる、
そして見た事もない角の生えた白い馬。
俺は駆け寄り、男を見た。
「人間・・・」
シエロの言った通り、間違いなく人間だ。助けに呼んだおじさんも
「まさか・・長老様に報告しないと。」
と驚いていた。
「早くこの人を診てよ!」
シエロの声にハッとして脈を確認して、傷を簡単に処置し
「心配はない、お前の言う通り意識がないだけだ、俺たちの馬の方にこいつを乗せて、
おじさんは角の方を連れてきて。」
シエロは安心したのか笑顔が戻っていた。
俺とシエロは兄弟二人きり、親は二人とも小さい頃に病死している。俺とシエロが不自由なく今までやってこれたのは、周りの人達が俺達を協力して大事に育てくれたからだ。おじさんが薬草を使って、病気や怪我を治していたのでそれを俺は教わっている。今では俺が主で患者を診れる様になった。親が住んでいた家と離れにある俺達兄弟の家とあったが、親が死んだ後は生活する家と仕事をする家とになっている。
今その仕事をする家の治療部屋は魔人の大人達でいっぱいになっていた。
「お前も怪我してるな。」
俺は外で角のある馬の傷に薬草を塗っていた。
「もうこれで大丈夫だろう。」
もう日が暮れて始めている。角を撫でてそろそろ家に戻ろうとした時、
―ガサッ―
森の方から音が聞こえた。
ふと見ると、長身の銀髪の男が俺を驚いた様子で凝視していた。
俺を上から下に見た後、すっと目を細めて
「・・・魔人。」
と呟き、馬を見るなり駆け寄ってきた。
「これは王子の馬!お前は王子がどこにいるのか知っているのか?」
「『王子』?ああ、金色の髪の男だろ。倒れていたのを弟が見つけて今はあそこで
寝ている。意識がまだ戻ってないけどな。」
「そうか・・・。案内してくれないか?」
男は安堵している感じだった。そうだよな「王子」ってくらいだもんな。
それにしても「人間」ってーのは顔が整った奴ばかりだな。まあ二人目だけど。
こいつにいたってはかなり男前だな。フロールが喜びそうだ。
明りのついた家の前に着くと中からざわめいた声が聞こえてきた。
どうやら王子が目を覚ましたようだ。
俺の後ろを歩いていた銀髪男を振り返り
「ちょっと待ってろ。」
と声を掛けて、家のドアを開けた。
王子と再会した銀髪男を寝床に連れて行く為にすっかり暗くなった
外を横に並んで歩いていた。会話がないのもなんだからとりあえず、話しかけた。
「俺の名前はエスト。お前はなんて名前だ。」
「ルフテだ。」
さっき王子がそういえば呼んでたなあと思っていたら、ルフテは足を止めていた。
「どうした?」
「お前、本当に男なんだな。」
「どっからどう見ても男だろ?」
いきなりルフテは俺に顔を近づけてまじまじと見てきた。
俺の長い横髪を手で持ち上げて、するりと撫でおろした。
「何すんだ!」
-ゾクッ―
一瞬の出来事でビックリして、後ずさりをした。
突然何をこいつはするんだ。横髪だけ長いからあの時女に見えたと言うのか?
「それにしても女顔だな。最初見た時は一瞬女に見えたが、残念だ。」
俺は絶句した。なんで勝手に女に思われて残念って言われてるのか、それに
女顔とか言われた事ないし。
「はっ、悪かったな。」
あの時俺を上から下まで見たのはそういう事か。
「きれいな顔して口悪いな、エスト。弟君は素直そうだが。」
「うるせえよ。お前裏表ありすぎじゃないか?王子の前ではへいこらしてたくせに。」
「人を見て態度変えてるんだよ俺は。王子は国の宝だ。これでも俺は護衛隊長だからな。」
どうやらこいつとは合わなさそうだ俺。
「エスト!」
後ろから女の声が聞こえてきた。
フロールだ。いつもながら胸の開いた服、短いスカートを履いている。
今まさにルフテに会わせたく相手だ。
「この人が人間!お父さんから聞いて見に来たのよ。すごいカッコイイじゃない。」
「やあ君はずいぶんかわいくて奇抜な服装だね。私はルフテ、よろしく。」
「うふ、ありがとう。あたしはフロール。」
俺は二人の間に割り込んで
「こいつを今から寝床に連れて行く所だ、もう夜も遅いからフロールは帰れ。」
「いいじゃない。人間の事よく知りたいしよければあたしの所においでよ、ルフテ。」
フロールは男癖がすごく悪い。色々な男と寝ている。おじさんとおばさんはかなりそれで
苦労しているみたいだが彼女自身はあっけからんとしている。
「じゃ、ベッドの上でゆっくり話そうか?」
ルフテがシャレにならない返事をした。
「おい!フロールいいから帰れ!」
「何だ、エストはフロールが好きなのか?」
「違う!こいつは幼馴染なだけだ。」
「そーよ。エストは真面目すぎてつまらないもの。男としてみれないわ。来てよルフテ。」
「へえ、こんないい女の子なのに。もったいない。」
俺はもうこいつらにはついて行けない。
「ならもう勝手にしろ!」
「なんなら三人で仲良くベッドで寝るっていうのはどうだ?」
ルフテの言葉を後にして、俺はさっさと家まで歩き始めた。
-あいつは本当にフロールの所に行ったんだな。―
どうでもいいが、フロールの節操のなさにはいつもながらあきれる。
そしてなによりもルフテだ。俺を女顔っていいやがったし、あの行動。
髪を撫でられた時のゾクリとした感覚あれがなんだったのか分からない。
王子もなんであんなの護衛隊長にしたんだか。とりあえず怒りはおさまらないが
シエロも頑張っている事だし、明日早く起きて様子を見に行かないといけない。
俺はベッドに横になり目を閉じ眠った。