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異世界ガイア  作者: まっちゃ
第一章~異世界の迷い人~
6/13

第六話 休息

「――いたぞ」


 僕達よりも前を歩いていたアランさんの掛け声で僕とイルゼはその場に立ち止まる。

 五十メートル程先に、白いダルマ体型の鳥を4匹発見――ナキトリだ。

 アランさんが僕達に向けて、左手の人差し指をちょいちょいと動かす。

 それを合図にイルゼと僕はアランさんの下へ静かに駆け寄った。


「アイツらでいくぞ、いいな」

「おう」

「どうやって仕留めます?」


 僕が質問すると、アランさんは「そうだな」と言って考え始めた。


「俺が弓だから後衛でお前達のカバーをする、前衛は二人に任せようと思うが、アキは大丈夫か?」

「は、はい。頑張ります」

「まあ特に難しい作戦なんてたてなくていいだろう。やりたいようにやってくれ、逃げた獲物は俺が仕留める」

「了解です」


 じゃあ、と言ってアランさんは弓を担ぎ、草むらの中を駆けていった。

 残るは僕とイルゼ。


「うし、じゃあ俺らも位置につくぞ」

「うん、どう攻める?」

「同時に飛び込んで一人一匹、確実に仕留めようぜ、合図は俺が出すからよ」

「わかった」


 方針が決まったので、僕たちはアランさんとは逆の方からまわり込む。

 そして、ナキトリたちから十メートル程の距離まで近づいたところで、イルゼと別れた。

 僕の意識はナキトリへ…4匹のうち、どれをまず仕留めるか見定める。


(獲物がイルゼと被るとまずい、手前のやつから狩るか)


 考えながら、腰に差してある小太刀を握る。

 群狼の時はいきなりの戦闘で面食らったが、今回は違う。

 キチンと戦い方を覚えていこう、と心の中で意気込んだ。

 そして、ナキトリとの距離は五メートルにまで縮む。


(ん…)


 そこで視界の隅の草むらから腕が伸びているのを確認する。

 あれはイルゼの腕――配置に付いたようだ。

 

 イルゼは指で”5”をつくり、4、3と一本ずつ指を折り曲げていく。

 あれが0になったら戦闘開始だ。


 ――2、1、0!


「っふ!」


 ダン! とこれでもかってぐらい踏み込み、僕は茂みから飛び出した。

 数メートルの距離を一瞬で走りぬく――敏捷性ステータスのお陰だ。


 ナキトリたちはすぐに僕の存在を察知し、丸っこい翼をバサバサと動かして慌てだす。

 すかさず鞘から刀を抜き取り、眼前の獲物を薙ぎ払う。


「――らぁ!」


 刃が肉に沈み込んでいく感覚を手で感じながら、僕は最後まで振り切った。

 一刀両断!――とまではいかなかったが、ナキトリに対し、致命傷ともいえるダメージを与えることに成功。


「やる、じゃねえか!」


 その横ではイルゼがナキトリの脳天目掛け、銅剣を振り下ろしている場面を視界に捉えた。

 あちらは見事に一撃でナキトリを仕留めている、流石だ。

 僕は急いで追撃するために、一歩踏み込むとともに上段から斜めに斬り下ろした。

 先ほどの薙ぎ払いと今の袈裟斬りによって、ナキトリの動きは完全に止まる。

 僕は確認する間もなく次の獲物を狙うために、刀を水平に構えながら突き進む。


 キイイイイイ!


「ッ――!?」


 二匹目にかかろうとしたところで鳴かれてしまった。

 視界が一瞬大きくブレる。

 超音波にも似たその鳴き声を受けて、振りかざした刀の軌道が大きく逸れてしまう。


「あっ――!」


 刀はナキトリの胴を掠めただけで、決定打を与えることができなかった。

 キイィ!と仕留め損ねたナキトリが、鳴き散らしながら一目散に逃げていく。

 

 僕は慌てて追おうとするが、立ち眩みのような感覚に見舞われ、転げてしまう。

 この鳴き声に慣れるのは大変だな、と他人事のように考えながら、逃げていくナキトリを見る。

 そこへイルゼが心配そうな顔をしながら近づいてきた。

 僕は頭を押さえながら起き上がる。


「おい、大丈夫か?アキ」

「う、うん…ゴメン、逃がした」

「気にすんな――あと逃げられてないから安心しろ」


 「えっ」と、思わず口から漏れた。

 何を言っているんだと、逃げていった方を見たその時、ドスッと鈍い音が耳に入った。


「あれは?」

「流石だぜ」


 視線の先には、ナキトリがぐったりと横に倒れている。

 胴体には羽の付いた細い木の棒が突き刺さったままで。


 しばらくするとその体は音もなく消え去っていった。

 残るは矢じりと羽のついた棒のみ。

 事の顛末を眺めていると、横の草むらからガサガサとアランさんが姿を現した。


「終わったな」

「――あれはアランさんの矢ですか?」


 僕が訊くと、アランさんは首を軽く縦に動かし、頷いた。


「…残念だ。肉は落とさなかったか」

「すみません、ありがとうございます」


 アランさんは「気にするな」と言って、矢を拾うと僕の肩に手を置いた。

 そこにイルゼか歩み寄る。


「収穫はあったようだぜ」

「本当か?イルゼ」


 収穫があったということは、イルゼが仕留めたヤツが落としたのだろうか。

 案の定彼の手元には肉が――。


「流石だね、イルゼ」

「いや?残念ながら俺じゃない――ほら、お前のだアキ」

「え?僕…わわ!」


 ひょいと僕目掛けて肉を投げてきた。

 慌ててそれを受け取る。


「…ナキトリの肉?」

「そう、お前が仕留めたやつが落としたもんだ」

「――これが」


 そう言って、僕はコネクトと念じて確認してみた。


 アイテム欄


 疾風の小太刀:1

 レザーコート:1

 群狼の牙:1

 ナキトリ肉:1


 手に入れた肉の名称はそのままだ。

 大きさは両手から少し溢れるほど。

 確認していると、奥のほうからギルさんとヒノさんが現れた。


「おう、終わったようだな」

「あ、ギルさん。これです」


 現れたギルさんに僕はナキトリ肉を手渡す。

 隣にいたヒノさんも覗き込んできた。


「さっそく手に入れたか」

「みたいだな。やるじゃねえか坊主」


 わしゃわしゃと僕の髪を乱暴に撫でられる。

 僕は照れくさくて反射的に払いのけてしまった。


「や、やめてくださいよギルさん」

「なんだぁ?遠慮すんなって坊主」

「だ、だからぁ~」


 もう既にされるがままだった。

 周りにいた3人も微笑ましく僕達の光景を眺めていた。


「まあその辺にしておけ。アキ、その肉もらっていいかな?」

「え?はい、どうぞ」


 そこへヒノさんが僕の元へ来ると肉を渡すように言われる。

 僕は持ってても仕方ないので、迷わず渡した。

 ヒノさんは「ありがとう」と一言お礼をいってから、先ほどの袋の中に肉を放り込んだ。

 僕はその袋を眺めながらヒノさんに訊いてみる。


「一日に大体いくつ手に入るんですか?」

「そうだな、よくて5,6個かな」

「少ないですね」

「だが、二回の狩りで二個とは…今日は調子がいい方だ」


 そう言って袋を担いで次なる狩場を探し始める。

 僕たちも後をついていく。




 木々の隙間から眩い日差しが差し込む。

 見上げてみると、日は完全に昇りきっていた。

 視線を元に戻すと、ギルさんが葉で包まれた何かを手渡してきた。


「これは?」

「蒸かしたモロだ、食べとけ」

「いいんですか?」

「ああ、少し冷えてるかもしれねえが」

「いえ、大丈夫ですよ」

「あとこれもな」


 続いて、竹筒のようなものを渡される。

 ちゃぷ、と水音がしたので、飲み水だろうか。


 他の人たちも同じような包みを取り出し、食べ始めていた。

 僕も受け取った包みを開いて中身を取り出す。

 ギルさんの言う通りモロが少し冷めてしまっていたが、気にせず一口かじる。

 昨日食べた時と変わらないさつま芋に似た甘味のある味。


 うまい。

 冷めたことによって感じる甘味と食感が強くなっていて、食べ応えがある。

 温かい状態も美味しかったけど、これはこれでいける。

 次に竹筒の上部に付いている栓を抜き、中身を口の中に流し込んだ。

 うん、水だ。


 その後も二、三口と食べる手は止まらず、あっという間に完食。


「…ごちそうさまでした」

「はやいな坊主、そんなに腹減ってたのかよ」

「ええっと、そんなところです」

「ならまだあるから食べな」

「ど、どうも」


 追加で2,3個ほど受け取っていると、横にいたイルゼがからかうように話しかけてきた。


「食いしん坊だな、アキ」

「べ、別にいいでしょ。イルゼだって僕より沢山あるじゃないか」

「俺は普段からこんぐらい食べるんだよ、育ち盛りってやつ?」

「何で疑問系…それだと僕とたいして変わらないじゃん」

「変わるさ、違いが分からないのかねぇ~」


 と、言いつつ一口頬張った。

 僕には違いが分からないんだけど…あっ、むせた。


「ごほ…っ!」

「何やってるんだお前は」

「だっ…う、うるへ」


 むせながら何か言っているが、言葉になっていないので分からない。

 アランさんが呆れた表情で飲み水を渡した。

 イルゼは奪い取るようにそれを受け取り、思いっきり喉奥に流し込んでいた。


「ぷはぁ!助かった」

「…人のこと言えないんじゃないのイルゼ?」

「う、うるせぇ」


 イルゼは顔を赤くしてそっぽ向いた。

 別に強がらなくてもいいんじゃないのかなと思ったけれど、言わないでおこう。


「あはは…ん?」


 そこでふと、少し離れた場所に座っているヒノさんに気が付く。

 僕はヒノさんの元へ行き、声をかける

 

「ヒノさんは食べないんですか?」

「ああ、お前たちが騒いでいる間に食べ終わったよ」

「えっいつの間に…」


 そういえば会話に参加していなかったなーなんて思っていると、アランさんは僕の手元に指を指した。


「お前こそ、ソレを食べなくていいのか?」

「あ、えと」

「声をかけてくれたのは嬉しいが、俺に構わず食べてこい。俺は此処で周りを見張っているから」

「わ、わかりました」


 

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