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異世界ガイア  作者: まっちゃ
第一章~異世界の迷い人~
2/13

第二話 異世界へ

 気がついたら、僕は地面の上で引っくり返っていた。

 背中に軽い痛みが残っていたので、目の前に見えるあそこの木から落ちたのかな。

 あれ?…木?


「…ここどこ?」


 突然の出来事で頭が混乱する。

 すぐに起き上がり、周囲を見渡す…周囲は草木が生い茂っていて、どこか森の中のようだった。


(さっきまで家に居たはずなのに…それに日が昇っている)


 上を見てみると木々の隙間から日差しが射し込む。思わず目を細めた。

 夢なのかと一瞬思ったが、草木の匂い、日の光、風を感じていると、どうにもここが夢の中だとは思えなかった。

 ふと、この見知らぬ土地に来る前、最後に僕が触っていた端末を思い出す。


「そういえば…あのゲーム機は何処に?」


 どこかに落としちゃったのか?

 周囲を探そうと歩き出すと、後ろの草むらがガサガサと音がした。

 振り返り、動く草むらを見る。

 そして影のような物が見えたと思ったら、次の瞬間、真っ直ぐこちらに向かって突っ込んできた。


「え?……うわっ!?」


 反射的に横に跳んだ。突然だったけれど、運よくかわすことが出来た。

 黒い影はその場で立ち止まらず、真っ直ぐ違う草むらに身を隠した。


(な、なんなんだ!?…獣?)


 一瞬しか分からなかったけど、鋭い牙が見えた。

 やばい、もしかして野良犬だったりして…。


(と、取りあえず…走って逃げよう!)


 立ち止まっていると危険と判断した僕は、獣とは反対側に走り出す。

 が、そこで僕は驚く光景を目にする。


「え?ちょっと……ちょっと待って!!何でこんなに僕の足が速いの!?」


 走り出したはいいけど、そこで僕は驚かされる。

 まわりの景色が流れるように前から後ろへ、物凄い速さで森を走り抜ける自分がいた。

 自分の身体なのにどう止めていいのか分からず、困っていると、自然にできたであろう広場に出た。

 そして眼前には大木が一本あり、迫っていた。


「うわ!…うわわ…ぶつかる!?」


 次の瞬間には、僕は大木に激突してしまった。

 文字通り大の字でぶつかった僕は、その場で倒れ、のた打ち回る。


(いたた…凄い勢いでぶつかった!すごい痛……くない?)


 あれ?と僕は倒れたまま自分の身体を触る。

 足、胴、腕、頭と触れてみたが痛みが感じられなかった。

 何でだろう、立ち上がってみる。

 うん、やっぱり痛みが感じられない。

 不思議に思いながら僕は、走ってきた場所を眺める。


(体感だけど…結構走った気がする)


 獣の姿は何処にも見当たらなかった。

 逃げ切れたのかな?

 走り出してからこの大木にぶつかるまでの体感時間は五秒ほど。

 距離は百か二百メートル走ったような気がした。

 とても普通の人間が数秒間で走れる距離じゃないのに、疲れは一切感じられない不思議。

  

「とりあえず…よ、よかったぁ」


 へなへなと大木を背に座り込む。

 これからどうしよう?手がかりが何も無い。

 さっきの場所は真っ直ぐ来たから戻れるとおもうけど、今戻ったらさっきの獣がいるかもしれないし。

 幾ら速く走れたとしても怖い…。


(それにゲーム機はどこかに落としたし…誰も人はいない。はぁ~…)


 思えばどうしてこうなってしまったんだろうか…。

 何か手がかりが無いかと、記憶を探る。


 昨夜はバイトが遅くなってバスが間に合わない時間になった。

 それで急いで帰る途中で、近道をしようといつもとは違う道から行ったんだ。

 そこでローブの人と出会ってそれで――。

 

 ――ゲーム。これが一番記憶の中で引っかかった。

 ローブの人から貰ったゲーム、名前は確か…。


「確か…”コネクト”?――うわ!?」


 すると突然、目の前に何かの画面が現れた。

 こ、今度は何だ?

 恐る恐る画面を見てみると、そこには…。


 木下 秋 17


 装備:なし

 

 アイテム  ステータス表示


「僕の名前だ…それにこれって」


 例のゲームの設定画面に似ていた。

 表示されている画面には、自分の名前とアイテム、ステータス表示が映し出されているだけ。

 思わずアイテムの欄に触れてみる。すると画面が切り変わった。


 アイテム欄


 疾風の小太刀:1


 アイテム欄と書かれた所に一つだけ表示されている武器があった。

 そしてこの武器には見覚えがある。


「これ…僕が設定したものと同じ?」


 今度は表示されている武器名に触れてみた。

 すると、目の前に突然何かが現れた。


「え…わわ!」


 空中に現れたそれは、落ちる。

 僕は反射的にそれをキャッチし、改めて驚愕する。


(ほ、本物の刀だ!)


 ズシリと金属の重みのある感触は模造刀とは圧倒的に異なっていた。

 恐る恐る鞘から抜いてみる。


 シャリンと金属が擦れる音と共に刀身が露わになる。

 刃渡りは六十センチほどで、装飾品は一切無い、一本の小刀。

 軽く斜めに振ってみた。


 うん、とても軽い。

 というか、軽すぎるよ。


 いくら小さめの刀とはいえ、それなりに重さはあるはずなのに…。

 画面に目を戻すと、ある変化があった。


 木下 秋 17


 装備:疾風の小太刀

 

 アイテム  ステータス表示


「…装備、されてる?」


 驚いた。これではまるでゲームの世界だ。

 今度はステータス表示の所に触れてみる。


 画面は切り替わり、そこで確信する。


 筋力:10 耐久力:3 敏捷性:25

 命中率:3 知能:4 運:15


 そう、この画面を見て僕は…ゲームの世界――――異世界に来てしまったことが判った。

 元の世界に帰る方法は…僕は知らない。


(そんな…母さん)


 元の世界に取り残された母親が頭に浮かぶ。もし帰れなかったら…母さんはどうなる?

 衝撃の事実に立ち尽くしていると森の奥から獣の声が複数聴こえてきた。


(あっ…う、そだろ?)


 振り返ると、そこには野良犬…ではなく、黒い毛並みの狼が群れを成してこちらに歩み寄っていた。

 僕はその場で固まってしまう。

 さっきの獣だ、しかも群れで…ニオイで追ってきたのか?


(ど、どうしよ…戦うしか――)


 しかし、僕は戦い方が分からない。

 形として刀を構えてはいるけど、そこから先をどうしたらいいのか…。


 僕が考えている内に、後ろからも気配があることに気がつく。

 しまった!? いつの間に…。


 グルルルルル……


「ハア…ハア…」


 無意識のうちに息が荒くなる。

 このまま何もしなければ、僕は――死ぬ。

 震えながらも自然と刀を握る力が増す。


(い、嫌だ…死にたくない!)


 狼との距離は二メートルも無い。


(そうだ、に、逃げることだけを考えよう…)


 全部倒さなくてもいい、隙が出来ればそれで…。

 あとは思いっきり走れば逃げ切れるはず。

 よし!いくぞ…木下 秋。


「……フゥ」


 ゆっくりと、刀を抜いた。

 すると狼達はその場で立ち止まった。警戒しているのだろうか?


 僕は意識を集中して、周囲を気にかけながら刀の切っ先を前方の狼に向けた。

 自分のステータスを思い出す。


(スピード型に設定したはずだ。ならその速さで)


 この場を切り抜ける。

 最後に確認した敏捷性:25…これがどこまで反映されているか判らない。

 そういえば設定時と数値が違ったような…。


「…っ」


 だ、ダメだ。余計なことは考えないで目の前に集中するんだ。

 やるしかない。でないと、僕が死ぬ――


 左手で持った刀の切っ先を狼に向けたまま、脇の下まで腕を引き、構える。

 右手は前へ……突きの構えをする。


 そこまでやると、頭の中にある単語が浮かび上がる。


 牙突。


 これは何を意味しているんだろう。

 ゲームでいうと技名かな…。

 

 ガアアアアアアア!


「っ!?」


 何時までも動かなかったので横に居た狼がこちらに牙をむけ跳びかかってきた。

 もう待ってはくれない、とにかく叫ぶように浮かんできた単語を口にした。


「牙突!!」


 叫んだ直後、僕の身体がブレた。

 横から来た狼の牙は僕を捕らえることはなく、空振り。

 周りの狼達も僕の姿を見失ったようだ。

 なら僕は何処にいるのか?


「…凄い」


 僕は刀を前に突き出したまま驚いていた。

 唱えた瞬間、身体が勝手に動き出した。訓練も何もしていないのに自動的に…。

 刀は直線上にあった細木で止まっている。

 刃の先には狼が一匹、心臓部分に深く突き刺さっていた。


 即死だった。

 狼は抵抗する間もなく無く死んだ。

 同時に生き物を殺したという罪悪感に襲われる。

 こうしなかったら僕が死んでいたのに…おかしな話だよ。


 すると後方から狼の声が聞こえてきた。

 まずい、こちらに気がついたみたいだ。

 この場から離れようとするが、刀がうまく抜けない。


「く、くそ!…抜けろ…っ!」


 そのとき、ガサッと草むら動いた。

 振り返ると既に狼の一匹がこちらに飛び出し接近してきた。

 そして鋭い牙を僕目掛けて突き立てる。

 僕は首元に嫌な気配を感じて、木に刺さった刀を離してすぐにしゃがんだ。


 バキィ!


「ひっ!?」


 頭上から木を噛み砕く音が聞こえた。

 あんなのに噛まれたら…。

 僕は逃げるように前方に転がりその場から離れる。


 周囲の草むらが至る所で揺れ始めた。

 他の奴らも来てしまった。…とてもまずい状況。


(どうすれば…刀は木に刺さったままなのに…うわ!?)


 横から狼が飛び出してくる。咄嗟に鞘を手に取り狼の顔目掛けて振りまわした。


 グルル…

「はあ、はあ…」


 なんとか命中して軌道を変えることに成功。

 だが、まだまだ危機は去っていない。木に噛み付いていた狼がこちらに接近していた。


(鞘だけど……お願い!)


 もう一度突きの構えをとり、牙突と念じた。

 すると先ほどと同じく身体が自動的に動き始める。

 狙いはきちんと目の前の狼を捉え、僕の放った一撃を受けた狼は後ろに吹き飛んだ。


「鞘だと打撃扱いなのか…わっ!?」


 後ろからきた狼に反応できずに倒れてしまった。

 狼はこの機を逃さず、僕の上に乗りかかってきた。

 いよいよ命の危険が迫る。


グルルルル…

「ぐぅぅ…ど、ど…け」


 僕の喉元を噛み切ろうとその大きな口を開いて噛み付いてくる。

 僕は鞘を噛み付かせ防ぐが、このままだと何時までももたない…。


「うう…どけ!」


 しかし目の前の狼は退くはずも無く、徐々に鋭い牙が近づいてくる。

 残りの狼も茂みから出てきて、僕の元へ。

 も、もう…無理か…な。


「う、うわああああああああ!!」


 僕の叫びが合図となり、一斉に狼が襲い掛かってきた。

 もう死ぬ。とこれから来るであろう痛みに備え、目を閉じた――。


「おぉ…らぁぁぁ!!」

「!?」


 しかし、痛みはこない。

 変わりに爆風が辺りを吹き飛ばしたからだ。

 僕の上に乗っていた狼もその爆風に呑まれて姿が見えなくなる。

 何事だと、僕はすぐに周囲を見渡した。

 するとそこには…。


「おう、無事か坊主?」

「あ、あの…あなたは?」


 そこには身長は二メートルを超えているだろう大男が斧を担いで立っていた。


「お?俺か…俺の名前はギルだ。この近くにある村に住んでる。お前さんの名前は?」

「あ…僕は秋です。木下 秋」

「キノシタアキ?変な名前だなぁ~!!」

「は、はあ」


 ガッハッハッと大声で笑いながら僕の所に近づき手を差し伸べてくれるギルさん。

 僕は差し伸べられた手をとると物凄い勢いで引っ張られた。


「うわ!?」

「見たところ怪我は無いようだな。良かったぜ!」

「あ、ありがとうございます。助かりました」

「おう!良いって事よ…ところでお前さん、何でこんな山奥に居たんだ?」

「え、えーっと」

「ん?ありゃあ…」


 何かに気がついたギルさんは、歩き出す。

 そこには木に刺さっていた僕の刀があった。

 ギルさんはそれを抜いてこちらに戻ってくる。


「こりゃあ、お前さんのかい?」

「は、はい。そうです」

「ほらよ」


 そう言って僕に刀を渡す。

 僕はそれを受け取り、手に持っていた鞘に刀を納める。


「ありがとうございます。あの…狼は?」

「狼?…ああ、あいつらはもう逃げたぜ。安心しな」

「そうじゃなくて…あの、刀に刺さっていた狼…は何処に?」

「刺さっていた?おいおい、おかしなことを訊く坊主だな」

「え?」


 僕が知らない素振りを見せていると、ギルさんは本当に知らないのか?という顔をしていた。


「なんでえ…お前さん知らないのか?」

「は、はい」

「モンスターがくたばると消えて無くなるのはこの世界では常識だろう?」

「き、消える!?…モンスター??」


 新たな事実を知らされ、僕は驚く。

 モンスターは兎も角、消えるって…。


 ふと、僕は刀を鞘から抜き、目をやる。

 本来ならなければおかしいものが、刀には何も無かった。

 それは…。


「血が…ない?」

「本当におかしなやつだな。モンスターが消えればそれに関連するもの…例えば血液なんか一滴も残らずに消滅するぜ?」

「そ、そうなんですか?」

「おうよ、変わりにそいつ等はこんな物を落とす」


 ギルさんはある物を僕に手渡す。

 それを受け取り確認してみると…。


「これって…狼の牙?」

「ああ、そいつはお前さんが倒した分のやつだな」

「はあ?」


 これが所謂アイテムというやつなのかな?

 試しにコネクトと念じて、アイテム欄を開いてみる。


 アイテム欄

 

 疾風の小太刀:1

 群狼の牙:1


 このように表示されていた。

 やっぱりこれがアイテムになるらしい。

 僕は画面を閉じて、牙をギルさんに返す。


「ああ、いいって…それはお前さんが倒したんだからお前さんのだ」

「わ、分かりました」


 でも、これってどうやってしまうんだろ?

 今は分からないので、取りあえず怪我しないように注意しながらポケットにしまった。


「お前さん、一人か?」

「…そうです。ここがどこなのか、自分がどうやって来たのか分からないんです」

「ふむ…それは大変だな」


 これからどうしたらいいんだろうか。

 元の世界に帰る方法も分からないし…。

 さっきはギルさん助けてもらったけど、これからはそうはいかない。そのとき自分は、はたして生き残れるのか。

 考えているとギルさんが突然僕の肩に手を置いた。


「なんですか?ギルさん」

「ああ、お前さんがよければうちの村に来るかい?」

「ほ、本当ですか!?」


 僕は目を輝かせながらギルさんの手を握る。

 その時のギルさんの表情は若干引きつっていた。


「あ、ああ。ここからだと少し歩くが平気か?」

「も、もちろんです!」


 よかった。村にいれば今日のようにいきなり襲われることはない。

 ギルさんの厚意に感謝しよう。


「よし、ならいくぞ坊主」

「はい!」


 僕はギルさんについていきながら、この森を後にした。


 

 

 

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