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異世界ガイア  作者: まっちゃ
プロローグ
1/13

第一話 コネクト

 ある日の夜、僕は裏道で奇妙な人と出会った。

 そして、その人との出会いで僕……木下きのした あきの人生は変わった。

 もし、あの日あの時間帯に行かなければ、僕はその人と出会わず、一生をこの世界で終えていたのかもしれない。

 けれど、出会ってしまったんだ、まるでそれが運命だったかのように――。




(う~ん…このままだとバスの時間に間に合わないなー)


 僕は走りながら悩んでいた。

 普段はここまで急ぐ必要は無いんだけど、今日に限っては特別だった。

 携帯に着信が入る。僕は走りながら携帯をポケットから取り出す。

 着信は電話ではなく、メールだった。僕はメールフォルダを開き、受信されたメールを開く。


『秋、何時までほっつき歩いているの?早く帰ってきなさい』

「…やばい」


 内容は簡潔に書かれていた。ちなみに送信元は母親からだ。

 僕と母さんは二人暮らしで共に働いている。

 父親は二年前にこの世を去っていて、その日から母さんと僕は昼夜問わず働き始めた。

 そのせいもあってか、普段は碌に家に帰って来ない人なんだけども、それが今日に限って戻ってくるという…。

 あっ、ちなみに学校は公立の高校に通っていたけど、中退しました。

 少しでも母さんの負担を減らせたらいいと思って。

 それが正しい選択だったのか分からないけれど、母さんは無言で了承してくれたし、僕が望んだことでもあるから後悔はしていない。


(うぅ~連絡し忘れたからなぁ…この文から察するにきっと怒ってる……ん?)

 

 ふと、今いる大通りとは別の裏道に目がいく。


(…確かこの裏道からバス停までショートカットできた気が)


 時計を確認すると、もう正規ルートでは走っても間に合わない時間だった。

 裏道には街灯はなく闇が広がっていて、月明かりだけが頼り。

 少し怖かったが、僕は意を決してその道を選んだ。


(さっさと走って抜けよう!)


 駆け出し、闇の中に潜っていく。

 道は軽自動車一台がギリギリ通ることの出来るぐらいの大きさだ。

 しばらく走っていると目の前に一つだけ街灯を見つけ、その下に人?が立っていた。


「……」

「何であんな所に人が?」


 そこに居た人はなぜか茶色いローブを着ていた。

 素顔はローブのせいで見えない、だた立っているだけ。

 不審者かな?と内心ビクビクしながら僕はゆっくりと横を通り過ぎようとしたが…。


「…ちょっとそこの君」

「!!?…ぼ、僕です……か?」


 まさか声を掛けられるとは思いもしなかった。

 その場で立ち止まっていると、ローブの人はこちらに近づいてきた。

 ど、どうしよう!?……もし刃物とか持っていたら。


「そう、君。ちょっといいかい」

「…な、なんでしょうか?」


 するとローブの人は、懐からギラリと光る物をチラつかせた。

 や、やばいよ…まさか通り魔だったり……


「な、なにするんですか?」

「…ああ、すまない。そんなに怯えなくてもいい、君に危害は加えないよ」

「そ、そう…ですか?」

「ああ、ちょっと訊きたいことがあってね」


 良かった。格好はあれだけど、通り魔じゃないようだ。

 そういえば訊きたいことって言ってたけど…。


「どうしましたか?もしかして道に迷っていたり?」

「いやいや、そうではなくてね。…君はゲームはするかい?」

「はい?」


 突然、変な人が変なことを訊いてきた。

 ゲーム?ゲームってRPGとかそっち系のだよね。

 僕が、黙っているとローブの人が首を傾げるような仕草をした。


「はて、君はゲームはしないほうかね?」

「あっ…い、いいえ、あまり多くはしないですけど一応は」


 僕が慌てながら答えると、ローブの人はそうかそうかと頷いていた。

 い、一体この人は何者なんだ?


「なら良かった。君さえよければコレを受け取ってくれないかな?」

「は、はあ?」


 そう言ってローブの人は懐から何かの機械を取り出し、僕に手渡した。

 さっきの光ってたのってこれだったのか。


「こ、これは?」

「それは、わたしが作成した物でね。ちょうど使ってくれる人を探していたんだよ」

「えっと…これがゲームですか?」

「まあ少し意味は異なるのだが、君にも理解しやすいようにそう答えた」

「はあ?」


 すこし戸惑いながら僕は機械を眺める。

 それはボタンが一切無く、画面だけが備わっていた。

 変わったゲーム機だなと思いながら、全体を見ていると端末の横に電源らしきボタンが一つあった。

 それを押してみようと触れた瞬間、ガッと突然ローブの人に腕を掴まれる。


「待ちたまえ」

「え、えっと?ダメでしたか?」

「いや、ダメではないが、ここではやらない方がいいだろう」


 なぜここで電源を入れてはいけないのか、と疑問に思っていたが口には出さなかった。

 ローブの人は掴んでいた手を離し、再び話し始める。


「先ほどの様子だと、君は急いでいたのだろう?」

「あ!?そうだった…」


 今更急いでいたことに気が付き時計を確認するが、時既に遅し。バスの時間は当の昔に過ぎていた。

 ローブの人は一歩後ろに下がり、頭を下げた。


「えっ、ちょっと…」

「引き止めてすまなかった。用件は済んだのでいっていいぞ」

「あ、はい。じゃあ――コレ、頂きますね?」

「ああ、これだけは言っておく……自宅で電源を入れたほうがいい。一度電源を入れたらソレは止まらないから…な」

「わ、分かりました。家でやります」

「うむ、ではな」


 そこだけ念を押され、ローブの人は僕が来た道を歩いて行ってしまった。

 取りあえず、考えるのは後にして早く帰らないと…。

 僕は端末をポケットにしまって、ローブの人とは反対の道を走り抜けていった――。




自宅


「…ただいま」


 ガチャリと静かに鍵を開け、玄関の扉を開ける。

 家はアパートなのでそれほど広くは無い。

 中へ入ると、明かりはついてなく、真っ暗でとても静かだった。

 靴を脱いでから電気をつけて部屋の奥に歩いていく。


「…母さん?」

「秋…遅かったじゃない」

「す、すみません」


 部屋には母さんが座っていた。

 テーブルの上にはコンビニ弁当やら化粧品やらが散乱としていた。

 母さんは表情を一切変えずにお茶を飲みながら、淡々と述べていく。


「連絡もしないで、何処にいたの?」

「え、えっと…ちょっと寄り道してて」

「っ…だからあれ程言ったでしょっ!!」

「っ!?…ご、ごめんなさい」


 行き成り怒鳴り出す。

 ダンッ!と母さんはテーブルを力一杯叩き、衝撃で湯飲みが倒れる。

 化粧品なども散乱するが母さんは気にせずに立ち上がった。

 僕はその場で動かずに、謝っていると母さんはこちらに近づいてきて…。


 パン!


「うっ……」

「まったく…余計な面倒事を増やすんじゃないわよ!…分かった?」

「はい…」

「明日も早いから寝るわ。私が起きるまでに朝食を作っておきなさいよ」

「…わかりました」


 母さんはそのまま隣の部屋にいってしまった。

 僕は叩かれた頬を擦る。結構な威力だったようで口の中は血の味がした。

 無言で荷物を置いて、引っくり返った湯飲みを元に戻し、こぼれたお茶を拭き取る。

 それから立ち上がり、空の弁当や散らかった化粧品を整理する。

 すべて片付け終わると、ふと気になった僕は少しだけ隣の部屋を覗こうと襖を開けた。


(寝てる…)


 そこには布団の上で寝息を立てて寝ている母さんの姿があった。

 寝ている表情はとても穏やかで、父さんが亡くなる前の優しかったときを思い出す。

 今の母さんは昔と違い、ストレスのせいなのか、怒鳴り散らすことが多くなった。

 外にいるときはお酒や煙草で気を紛らわすことが出来てるみたいだけど、やっぱりそれでも我慢できない時があるようで…。

 その時の矛先は必ず僕へと向けられる。家に帰ってくるときが合図のようなものだ。


(今日は運が無かったよ…ごめん母さん)


 心の中で謝りながら起こさないように襖を閉めた。

 母さんの振るう暴力は慣れた、痛みも…。

 僕に暴力を振るうことによって少しでもストレスが和らぐのなら幾らでも受けてやる、と心の中で誓っていた。

 だから痛くないし、悲しくない。母さんの方がもっと苦しいのだろうから…。

 

「…取りあえず、洗い物が終わったらお風呂に入ろう。それから母さんの朝ご飯作り置きして――」


 あれやこれやと呟きながら、台所に向かった。



 それから二時間程、やるべき事をすべて終わらせから僕は部屋で例の端末を眺めていた。


「やっぱり見たこと無いゲーム機だ」


 改めて全体を見てみたが、電源のボタン以外は画面しかない。

 バッテリーの蓋も無いし…充電とかどうするんだろ?


「まあとにかく、電源を入れてみようかな」


 ローブの人も自宅なら電源入れても平気と言っていたし、問題ないよね。

 どんなゲームなんだろう?と少しだけワクワクしながら僕は横の電源ボタンを押した。

 電源が入り、画面が光りだす。


 ようこそ、コネクトへ。

 動作確認を行なっております。

 しばらくお待ちください……。


 …コネクト?これってこのゲーム機の名前かな?

 疑問に思いながら僕はしばらく画面を眺めながら待つ。


 動作確認が終わりました。

 起動します。

 尚、これ以降の操作はすべてタッチ

 操作で行なえます。


 どうやらボタンが無かったのは、タッチ操作のためにか。

 すると再び画面が切り替わる。


 初期設定を行ないます。

 画面に従い、入力してください。


 ずらっと、入力画面が現れた。

 画面をスライドさせて確認してみると名前、性別、年齢など…沢山打ち込むところがある。

 特にこだわりは無いので、そのまま自分の情報を打ち込んでいくことにした。


 …結構細かく設定されてるみたい。身長や体重も入力したし、こんなゲームは初めてだ。

 そんなことを思いながら情報入力を済ませると、次に初期ポイント振り分けと表示された。

 

(おっ?ゲームっぽくなってきた)


 今までがよく分からなかったので、こう分かりやすい単語が出てくると少しワクワクしてくる。

 そして画面が切り替わった。


 初期ポイント:50


 これが僕のポイントみたいだ。

 画面をスライドさせて下を見てみると、また先ほどのように種類がたくさんあった。

 取りあえず、上から順番に見ていこうかな。

 まず、最初に言語設定があった。タッチしてみると、日本語、英語、ドイツ語とたくさん表示された。

 僕は迷わず日本語に設定した。英語とか喋れないしね…。


 その下からは、いよいよ能力設定だった。続けて入力していく。

 まず得意武器選択……剣や槍、ハンマーなど、何にしようか迷う。


「んー…やっぱり剣かなぁ?」


 RPGの勇者とか基本は剣だしね。

 まあこれで決定って訳ではないし、剣で。


 剣のところをタッチすると、画面が切り替わった。

 大剣、小剣、大太刀、小太刀、細剣、双剣……また色々出てきた。


(すごい!ここまで選べるんだ。だったら…これがいいな)


 と、迷わずある武器種を選択する。それは、小太刀だ。


(勇者とかが使う大剣とかもいいけど、僕はこっちだね)


 理由としては、自分が実際に武器を持った時にどうなるか?かな。

 よくマンガとかの主人公は大剣や槍をブンブン振り回してるのをよく見かける。

 あれは実際だとかなりの筋力と技術が必要だよね。僕には無理な話だ。

 それをいったら小太刀もそうだけど、これなら他と比べると軽そうだし、小回りが利くかなって思う。

 けどあくまで僕が…の話で、実際のコレはゲームの中の話だし、自分が気に入ったのでいいよね。


 僕は小太刀を選択した。


 次は各パラメーター設定だ。

 それぞれ筋力、耐久力、 敏捷性、命中率、知能、運と基本的なものがあった。

 ここでポイントを消費するのかな?と思い、筋力のところをタッチしてみた。


 筋力:0


 やっぱりそうみたいだ。”0”の部分をタッチすると1~50まで選択できるようになっていた。

 筋力を50に設定すると、初期ポイントのところが0になった。

 やっぱり初期ポイント=パラメーターになるみたいだ。確認を終え、一度、筋力を0に戻す。


(そうなると、どうしようかな?)


 こうなると武器との組み合わせが大事になってくるよね。

 大剣やハンマーだと筋力を上げないと話にならないと思うし、かといって筋力に多く振ると、他が弱くなってしまう。

 そもそもどのくらいの数値が丁度いいんだろう?


(上限が50だから…1や2だときっと弱いのかな。最低でも20前後は必要?)


 うーんと唸りながら考える。さっき自分が選択したのは小太刀だから…単純に考えて筋力と敏捷性が欲しいかな。

 取りあえず筋力と敏捷性に20ずつ振り分ける。


 初期ポイント:10 筋力:20 敏捷性:20


(残り10…う~ん、なんかピンとこないな。)


 もう少し考えてみようかな。

 パワー型、ディフェンス型、スピード型…まず自分がどのタイプに当てはめるか決めよう。


「と、思ったけど…やっぱり速いほうがいい」


 ゲームによっては手数が多いほうが有利、ってのもあるはず。

 このゲームがそうであることに賭けてみよう。


 敏捷性をそのままで、筋力を10まで下げることにした。


 初期ポイント:20 筋力:10 敏捷性:20

 

 うん、これで後は他の所に振ればいい。

 一つ一つ見ていこう。まずは耐久力。

 スピード型にするのなら手数は多く、受けるダメージは少なくが理想になるかな。

 けど、まったくダメージを受けないというのは無理な気がする。

 そうするとある程度は欲しいところ。試しに5でいってみよう。

 次は、命中率か。これは…どうなんだろ?

 遠距離の武器…例えば弓だとここは欲しい所だ、あとは魔法もか…これらは当たらないと話にならない類だし…。

 でも自分の選んだ武器は近接…ここに数値を入れる必要はないかな。

 保留で。じゃあ次、残りは知能と運だ。


(知能は…魔法のことかな?)


 魔法…杖を選択したらこれが必須になる?

 でも魔法を強くしてもMPが切れたらそれまでだし…僕の中では序盤はあまり優遇されないイメージがある。

 けど、回復魔法は絶対に欲しいな。有るのと無いのとでは雲泥の差ができる…と思う。

 そこで僕は疑問を一つ抱くことになった。


(そういえば、ジョブだっけ?…選べないのかな?)


 一度入力をやめて画面に目を通してみたが、そういったものは見つけることができなかった。

 ジョブが無いとすると、剣士だろうが、何だろうが魔法は覚える仕様なのかな?

 もし、そうなら嬉しい。剣士で魔法が使えるならどんなに楽か…。


 じゃあと、知能に5を設定。残りは運…あれ?

 運の欄を見て、一つ考え付いた。


(…おかしな話だけど、命中率=運にならないのかな?)


 ”運よく攻撃が命中”、”運よく攻撃をかわした”、”運よく○○を手に入れる”。

 おぉ~…屁理屈かもしれないが、これがもし叶うのならかなり使いたいパラメーターだよ!

 そうなると少し多く振りたくなってきた。

 

(敏捷性を20から15に変更して、残り全部を運に!)


 これでパラメーターの設定が終わった。最後に確認してみる。


 初期ポイント:0 筋力:10 耐久力:5 敏捷性:15

 命中率:0 知能:5 運:15


(こうなったけど…やっぱり0はやばいかな?)


 多分レベルが上がれば多少は変化すると思うけど…命中0、か


(ん…よし!こうするか)


 初期ポイント:0 筋力:10 耐久力:3 敏捷性:15

 命中率:3 知能:4 運:15


 最終的にこうなった。僕の中ではこれ以上は考えられないのでこれで決定にしよう。

 パラメーター設定を終了させる。

 すると、画面が切り替わった。


 以上で振り分けを終了します。

 よろしいですか?


 はい いいえ


 終了を知らせる画面が現れた。

 僕は問題ないと、はいの部分をタッチした。

 画面が切り替わる。


 初期設定が完了しました。

 すべての入力が終わりました。

 ガイアに接続コネクトしています。

 しばらくお待ちください……。


(ガイア?)

 

 今から始まるゲームの世界の名前かな?

 そうなるといよいよゲームが始まるのかと思い、僕のテンションが上がっていく。

 そこでふと、時計を確認する。時間は深夜を既に過ぎていた。

 明日も早いので起きれるかな?と少し心配だったがそこでポーンという音が端末から鳴り出し、意識が時計から端末へを移される。

 視線を端末に戻すと…。


 ガイアへの接続コネクトに成功しました。

 最後に認証を行ないます。

 10秒後、画面が切り替わります。


 結構何回もロードするんだ。と思いつつ、カウントされていく数字を見つめる。


 10、9、8、…数字が減るごとになぜか緊張が高まる。どんなゲームなんだろう?

 4、3、2、1…そしてカウントは0になり、最後の画面へと切り替わる。


 木下 秋 をガイアへ接続コネクトします。


 はい いいえ


 よろしければ”はい”をタッチしてください。


 迷わず、はいを押す。

 直後、画面が直視できないぐらい輝き出し、僕の意識は何処かへ流されていった。

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