大混線
静かなる牽制合戦の中、最初に口火を切ったのは深緋。
「イアちゃん、この……、ええと……、三人かしら? どういう方なのか教えてくれない?」
「あ、うん……」
上手くこの場の舵を取ることができないイアに代わり、出来るだけ穏便にこの場を切り抜けようという腹積もりらしい。
ただ、仮面と衣服、そして無愛想さという三点セットのおかげで、現在怪しさという点において表と裏ひっくるめて恐らく世界一であるリーンハルトを如何に説明したものか。
もしそれを考える猶予を得るためのこの問いだとすれば中々深緋も切れ者である。
「えっと、この三人は頼人の友達でね、それで――」
「ああ、そうなの。ごきげんよう、私も頼人さんのお友達で四谷深緋です。できればお一人ずつ自分でお名前を教えて頂けませんか?」
「え、いやまあ、そりゃ良いんだけど……何で? 別にあのままイアちゃんに紹介させてりゃ良かったんじゃねえ?」
「ごめんなさい、私足はともかく目も不自由なもので。声と雰囲気で覚えるしかないんです」
簡単にいえば「この人が~」、とか言われても分かんねえってこった。俺のときは同調状態だったからそんな気遣いは無用だったんだけどな。
「あー、そう……なんだ」
龍平が明らかに気まずそうな声を出す。別に大した落ち度ではないが、こういうことは意外と気にする男なのだ。
「ふふ、別に気にしないでください。前なら口汚く罵っていたかもしれませんけど、いまはそんなことありませんから」
「大人しそうな顔して意外と過激だね!! ――はぁ、まあいいや。俺は桐村龍平。頼人ととは高校からの友達だな。ほれ美咲、それに南も。お前らはいつまでわたわたしてんだよ?」
「え、ああそうね……。えっと、白波瀬美咲です…………」
「み、南燕……です」
「「……………………」」
「「それだけッ!?」」
名前だけという余りにも短すぎる自己紹介に龍平とイアから驚愕の声が上がる。
「なにネコ被ってんだもっと色々あるだろ!? あれとか、これとか、それとかよォ!!」
「何一つ分かんないわよ!! あれも、これも、それもね!!」
「し、白波瀬さん、落ち着いて……」
「はっはー、騙されちゃだめだぜ、深緋ちゃん!! この美咲は素手で人の頭蓋を砕き、南はその舌から毒を飛ばすという奇々怪々な生き物なんだ――あががががががががッ!!」
「よくわかってんじゃないの、あんたはァァ!!」
「ちょ、割れる、マジ頭割れる!!」
「……そのまま割れれば良いのに」
「南ぃぃぃぃぃぃぃい!? ――あ」
あ?
あって何だ!?
「……ふふ」
ふふ、じゃねえよ、深緋ちゃんよ。視覚的には俺と同じ状態のくせに何故笑えるのか、尋ねてみたいものだ。割とマジで。
「ちょ、深緋ちゃんいまのやりとりに笑える要素あった!? 結構アレなことになってたんだけど!?」
「あっはっは、そりゃ面白いし、嬉しいさ。顔は見えなくても素のアンタたちがどんななのか知れたんだから」
「…………な、なんだか恥ずかしいわね」
「そ、そうだね……」
ついいつもの調子が出てしまった二人は心底恥ずかしそうな声を出すが、俺としては好ましいことこの上ない。美咲はいつものこととして南も活き活きとしているように思えるほどだ。
「……満月、余計なことは言わなくて良いわよ」
「深緋は照れ屋なんだから――っと、ごめんごめん自己紹介がまだだったね。アタシは満月。十六夜満月、よろしくね、頼人のオトモダチ」
「満月も頼人の友達なんだよ」
「へー、そうなんだ」
「いやー、それにしても良い乳っすね、お姉さん」
「ちょ、桐村君!!」
通常の会話にナチュラルに割り込んできた龍平のセクハラ発言を咎める南であったが、当の本人は素知らぬ顔。さらに満月はというと慣れた様子で苦笑していた。
「あっはっは、慣れてるから構わないさ」
「病院の中で散々お爺さん連中に言われてるものね、あなた」
「病院?」
「はい。満月は私が入院している病院で看護師として(潜りこんで)、私の世話をしてくれているんです」
「ほう、ということはそのけしからん身体にナース服を着用している訳ですな?」
「龍平、いい加減にしないとお昼の中身を出してもらうことになるわよ?」
「うるせえ、金髪で巨乳で美人でナースだぞ!? 男がひとつなぎの大秘宝を目の前にしてひけるかってん――おごぁッ!!」
「あっはっは、本当面白いねアンタたち。ちなみに龍平、アンタ………………その写真要る?」
「げほっ、是非!! 満月さん、是非!!」
「十六夜さん……、コイツ本気にしますよ!?」
「別に本気にしてくれても良いさ。ただ……高いよ?」
「…………ちなみに如何ほど……?」
龍平がごくりと生唾を飲み込む音と、こそこそと囁くような満月の声。
……気になる。
購入を検討している訳ではないが、単純に気になる。
そしてまた、その売価を聞いた龍平の反応が俺の興味をそそる。
「リアルな値段っすね、また……」
「お安かないよ、残念ながらね」
「私からしたら残念なのはあなたと桐村さんだけれどね」
「…………ねえ、美咲は何で私の耳を塞いでるの? 燕は何で私の目を覆ってるの?」
「お願い、イアちゃん。あなただけは綺麗なままでいてちょうだい……」
「私からもお願い……」
「? 聞こえないよー?」
ちなみにイアと南は先日のハロウィーン・イン・豊泉終了後、仲良くなった。きっかけは祭りが終わって五日後くらいに南が俺の家を訪れたときだ。何故突然家に来たのかは俺の知るところではないが、イアと波長が合ったのだろう彼女は瞬く間にイアと仲良くなったのだ。また、俺とイアと新たに交流を持つことで既にそれなりの親交があった龍平と美咲とも今まで以上に親密になったというわけである。
変態めいた勢いでイアに絡んでいくことの多い龍平や美咲とは違い、大人しめの性格の南との交流がイアにとって良い刺激になると思ったのでこの結果は俺としても大歓迎だったわけだが……。
実のところ俺が倒れたことでこうして一同に会するのは、余計な人間がいるとはいえ初めてとなる。まあ余計といっても深緋と満月は意外にもまだ常識ある行動をとってくれているので問題はない。アイツらも楽しそうだしな。
だから結局、問題となるのはあの男。
「……………………」
未だだんまりを決め込んでいるあの男だ。
「それで……、天原君はまだ寝てるんだね……、流石にちょっと心配かも……」
「本当にね……」
「んー、でも頼人さんを診てくださった人はちゃんと起きるって仰っていたそうですよ?」
「なら、その言葉を信じるしかないか……。で、深緋ちゃん聞きたいんだけどさ……」
最初のときよりも少し互いを知ったことで踏み込みやすくなったからだろう。これ以上の先延ばしは無理そうだ。
「…………彼ですか?」
「いや、まあ……、うん」
さぁ、ここからは深緋の腕の見せ所である。彼女自身が作ったこの数分という僅かな時間にどのような説明、もとい言い訳を考え付いたのか、見せてもらうとしよう。
「ええと……」
あれ? 深緋さん?
「そうだねえ、何ていうか……」
あれ? 満月さん?
「美咲ー? 燕ー?」
イアはちょっと静かにしなさい。深緋と満月の二人はいま必死だから。
そして彼女らはしばらく黙考し、答えを出す。
何とも直球で。
何ともバカ正直な回答を。
「殺人鬼?」」
「「「…………え?」」」
はっはっはー、オマエら後で喧嘩な?
正直なのは結構だが、流石にこれはない。
「殺人鬼って、四谷さん……。どういう……?」
「ごめんなさい、ちょっとタイムを申請します」
「あ、はい……。どう……ぞ?」
「ありがとうございます。イアちゃん、こっちにいらっしゃい。さっきから冷や汗かいてるそこなオジサマも」
「……うむ」
「イアちゃん、四谷さんがおいでって」
「深緋が? わかった」
そうしてぞろぞろと集まったらしい、イア、深緋、満月、リーンハルト。どんな解決策を出すにしろ、お願いだからこの家を真ッ平らにしてなかったことにするのだけは勘弁してほしい。
動かせない筈の身体を震わせながら、静かにそう願った。
バレンタイン? なにそれ、美味しいの? どうも、久安です。
世間は甘いムードに覆われてますが、そんなの関係ないんだぜ!! というわけで第2話です。基本的には前回同様、のほほん回。ただ、そろそろよっくんの表と裏での人間関係を交流させる必要性が出てきたのでそれも考慮しての今回です。彼にとっては余計なお世話でしょうが。
というわけで次回予告。
次回更新は2月16日 7時を予定しています。ではではッ!!




