月刺す土槍、偽りの墓標
「おい、コラちびっ子!!」
ひらりひらりと土槍と風の刃をかわし続ける禍渦を追撃するクダンにようやく追いついた俺は声を張り上げる。
「……ちびっ子、違う。私、クダ、ン」
「知ってんよ!!」
会話を行う間も攻撃の手は緩めない。クダンは変わらずワンパターンな攻撃を、一方俺はといえば銃のグリップ部分を使った殴打、蹴り等の接近戦でそれぞれ禍渦に詰め寄っていく。
禍渦からの反撃は未だなく、それはやはり詩が関係しているようだ。予想としては三節紡いだ詩の中身が現実のものになる……か? となればその暇さえ与えなければ当面は大丈夫な筈。
「……あな、た。ヨリト。アマハラ、ヨリト。よろし、く」
「え、ああ……。そりゃ御丁寧にどうも……って違ぇよ!!」
「? ……よろしく、しな、い?」
「悲しそうな顔すんじゃねえ!! よろしくするけど、いまはそんな場合じゃねえだろうが!!」
何だコイツ!? 何か俺が苛めてるみたいになってるじゃねえか!!
『アンナもそうだけどこういう子に弱いよね、頼人って。……私も苦手だけど』
「取説がねえんだもん!! どこをどういじったら良いのかわかんねえんだもん!! 仕方なくねえ!?」
『でも深緋もそうじゃない?』
「いや、アイツはわざとやってるフシがあるから何となく分かる」
俺も性格捻くれてるからな。同じ匂いがしやがるんだよ、アイツ。
「おしゃべりとは存外余裕だな、私としては心外だが」
「ああん? 目玉ちゃんとついてんのか、オマエ? いっぱいいっぱいだよ、コノヤロー」
頭痛と冷や汗はすげえし 息の乱れ方も半端ねえんだけど?
ただそれでも、詩を謳わないオマエ相手ならこんなポンコツな状態でもなんとかなる。
「つーか、クダン? もうちょっと落ちついて狙え、さっきから一発も当たってねえじゃねえか」
「……大丈、夫。これ、で、仕上げ、だか、ら」
そう言って禍渦の左前方に土槍を作り出す。それは相変わらず的外れな一撃で、だがそれは紛れもなく仕上げの一手だった。
「おお」
戦闘を開始してから初めて禍渦が感心したような声を上げる。禍渦の周囲にはこれまでクダンが生み出した土槍が並び、槍衾が作りあげられていた。その中心に禍渦、そして唯一空いた空間には俺とクダンが待ち構えており、逃げ道はない。
「……ん!!」
そして包囲後間髪入れずに彼女が開いた右手に力を込めると、槍衾を形作っていた土槍がその穂先を伸ばして禍渦を貫きにかかった。
速度は申し分なく、威力も十分。文句なく必殺の一撃。
だが、完全に包囲していたことが裏目に出た。
「野郎ッ!!」
包囲しているといっても上空までカバーすることはできない。槍がその身体を伸長させる前に、禍渦は刺殺を免れる唯一の逃げ道に向けて飛び上がっていた。
逃がすまいと宙に身を躍らせた禍渦に鉛玉をお見舞いするが、頭部を狙ったそれは禍渦の両腕に着弾する。
腕を犠牲にしてまでガードした、ということは核の位置はあそこか……ッ?
瞬間、そう判断した俺は更なる追撃をかけんと禍渦に向け跳躍しようとするが、実行に移す前にクダンによって静止される。
「……大丈夫、だか、ら」
そう呟くと先ほど握った拳を頭の上に持ち上げ、その手を開く。
同時に響く轟音。
耳障りな、何かが潰れる音。
クダンから目を外し、改めて禍渦がいる筈の場所を見ると、そこには。
ローブからのぞく力なく垂れた手。
そして朱に染まる槍。
包囲網の中心から伸びた一際大きな土の槍で頭部を貫かれた禍渦だったものの姿があった。
「……ね?」
そう言ってこちらを上目遣いで見るクダンは何処か誇らしげで何かをやり遂げたような表情を浮かべていた。
かくいう俺は禍渦をこの手で壊せなかったショックに呆然とする。
「………………はぁ」
「……どうした、の?」
口から魂が抜けているかのような顔をしていたのだろう。クダンの顔から喜色が消える。どちらにしてもハの字眉とやや垂れ目なのは変わらないのでわかりにくいが、自分が何かやらかしてしまったのではないかと勘ぐっているようだ。
「いやぁ、気にしないでくれ……。ちょっと心が折れそうなだけだから」
「……そ、う」
そして沈黙。
ああ、ただでさえ鬱なのにこれ以上、どんよりとした空気を撒き散らさないでくれ。
「……それにしてもオマエすげえなあ。俺らが苦戦したヤツ相手をあっさり壊しちまって」
部活などやったことがないからわからないが新入部員に追い抜かれた先輩というのはこんな気持ちなのだろうか? 何というか、こう虚しい。どうこうしたいとかじゃなくてただ何か虚しい。
「……そんな、こと、な、い」
長いマフラーで口元を覆い隠し、ボソボソと呟く。
あ、照れた。
「……私、は、『視た』通り、に、動いた、だ、け」
「『視た』? あー、なんだったっけか……。天秤……」
『造神?』
いや、イアそれ違う。リブ○・ゴレムさん違う。
「……『天秤幻視』」
「ああ、それそれ。未来が視えるとか何とか」
詳しくは知らないがいつでも自由に未来が視えるというのであれば人造端末の力がやや微妙な使い勝手だったとしても、あの結果は頷ける。
「……視える、未来、は、二種、類。一つ、は、私の、意思で、視る、未、来。もう、一つ、は、勝手に、視える、未、来」
「うん、わからん」
勝手に視えるって何だ?
「――ああ、そういうこと」
「「『ッ!?』」」
聞こえる筈のない声に俺もクダンも身構える。その声は俺たちの目の前、天を仰ぐ槍の穂先からねっとりと絡みつくように話しかける。
「お前、件の一族か。成程、成程、それで一目散に私に向かってきたのも頷ける」
未だ頭部には槍が刺さり、口を開ける状態ではないにも関わらず先ほどまで変わらないその口調は恐怖心を掻きたてる。
「三日ぶり、か? いや、それにしても生き残りがいるなんて思わなかった。私としたことが殺し損ねとは……。いやはや禍渦失格だな」
「……どういうことだ?」
「何、簡単なことだ。三日ほど前に俺が件の一族、この娘の住む魔物の集落を襲ったのさ。そして皆殺しにしたと思ったら一人取りこぼしがいた。ただ、それだけのこと」
クダンは身体を震わせてその言葉を受け止める。その震えは恐怖によるものだけではなく、怒りによるもの。
自分の一族を殺された怒り。
そして何より、自分の大切な仲間の命を路傍のゴミに集る蠅程度にしか認識していないことに対する怒り。
だが、クダンは動かない。
その怒りを遥かに凌駕する恐怖が彼女の心を支配しているから。
怒りの炎が、恐怖という闇に呑まれているから。
だから、動けない。
「俺が聞いてんのはそういうことじゃねえ。どうしてオマエが生きてんだって聞いてんだよ」
俺に死んだふりは通用しない。オポッサムといえど俺の目は誤魔化せないし、ましてや嘘の塊である禍渦など尚更だ。確かにあの土槍で頭を貫かれたとき、禍渦の嘘の気配は消え去った。だから本来こうして目の前にいること自体あり得ないことなのだ。
「不都合か? 俺がいま、ここにいることが」
「不愉快だ。オマエがいま、ここにいることが」
俺のその返答にローブの下で禍渦がにやりと歯を見せて笑ったような気がした。
まるで面白い、とでもいうように。
「なら、かかってこい」
揺れるだけだった両手を広げ、高らかに吠える。
「俺の嘘を壊せるものならな」
禍渦がそう告げた瞬間、ローブから白い霧が噴出する。
瞬く間に周囲を己で満たした白い霧。何処か見覚えのあるその霧を決して吸うまいとコートで口元を覆う。横を見るとクダンも同じように口元をマフラーで覆っており、俺の姿を見失わないようにするためかトコトコとこちらに近づき、そして辿り着く前にその足を止めた。
「……クダン?」
「……あ、あ……あ、あ……」
しかし、彼女は答えない。
よりか細く折れそうな声で俺の背後を見つめ、苦しそうに喘ぐだけ。
『頼人、後ろッ!!』
イアの声に導かれ、背後に目を向けた俺が見たのは影。
そう。
俺に守護の檻を与え、禍渦の癖に俺を友人だと言い放った彼女の一部だった。
左目にできものができたっぽい……。どうも、久安です。
クダンは魔物ですので見た目通りの年齢ではありません。よっくんはロリコンではありません、脚フェチです。念の為。
繋ぎの戦闘回なので他に特にいうことはナシ。何かあれば感想等でご質問ください。
次回は1月31日 7時更新予定です。ではっ!!




