表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
善因善果フェイタリティ
85/213

潜入

 唸る暴風。

 割れる大地。

 破壊の限りを尽くすその怪物は辺り一帯を更地にしても飽き足らず、なおも破壊活動を続けている。

「イア、まだか!!」

『もう……、少しッ!!』

 既に刀身には亀裂が幾筋も走り、あと一撃、二撃受ければ粉々に弾け飛ぶことだろう。何とか柄頭等を使い、刀身へのダメージを極力減らしているもののこれも何時まで保つか。鞘を具現化していれば防御に使えたのだろうが生憎と普段抜き身の刀しか具現化していないのでいまはないし、改めて出現させるだけの精神の余裕もない。

「ふんッ!!」

 両脇から迫る触手の軌道をコードで僅かに逸らし、出来た隙間からすり抜ける。背後で轟く爆音になど目も、耳もくれずに同時に襲い来る触手を視認した。

 頭上より三本、右より二本、左より四本。計九本。

 こちらは背中、腕のコード全て合わせて八本。

 ……あれ、一本足りなくね?

「――とか言ってる場合じゃねえ!!」

 即断即決、躊躇などしていてはあっという間に肉塊だ。

 まずは頭上の三本のミートハンマーを両腕と背中のコードで受け止め、叩き潰される未来を消滅させる。残るは左右の挽肉製造機。あの力で左右から挟まれれば原型など残らない。

「今晩の夕食になって堪るかぁあああ!!」

 左の四本は全て同数のコードで相殺し、右の二本は一本のコードで纏めて括りその威力を軽減する。

 勿論その程度では触手は止まらない。元々パワー自体はあちらが上、それが二本ともなるとたかだか一本のコードでは受け止めきることなど出来はしない。

 だから――。

「うらぁぁあああ!!」

 唯一自由の効く右脚で、迫る触手を抑えつける。触手と接触した瞬間に尋常ではない圧力が軸足である左脚にかかるが、堪え切れない程ではない。周りの地面が少々陥没する程度だ、問題ない。

 そうして押さえつけられる力が弱まった隙にコードを伸ばして危険域から脱出、すぐさまコードを回収する。

『頼人、お待たせ!! 終わったよ!!』

 本日何度目か分からない危機を脱し、丁度一息入れたところでイアから朗報が届けられた。

『核の数は十五個!! 正確な位置はわからないけど触手じゃなくて触手を出してる本体に集まってるみたい!!』

「十五ォ!? 多いな、オイ!!」

 朗報じゃなかったよ。悲報だったよ、チクショウ。

 つーか、十五って。十五って、オマ、喰いすぎだろ。ウチのイアでも腹壊すわ。

「まあ、何にしても十五回壊せば良いってことがわかっただけ良しとするか……。じゃあ、イア、表のことは頼むぞ」

『…………うん』

 おお……、気ののらない感じを隠そうともしねえな。実にイアらしいが。

 若干不安は残るが、ここはイアを信じるしかない。そう腹を括った俺は禍渦からやや距離をとり、同位を実行する。

「同位、終了――うわっ」

 久々に表に出たイアは同位を終えるや否や、姿勢を低くし回避行動をとった。直後頭上を一本の触手が通過する。

「この状況で禍渦とのパスを繋げって……、頼人も無茶言うなあ……」

『いつものことだろ?』

「いや、そんな自慢げに言われても困るんだけど」

『……悪い』

「いや、謝られても……、困るんだけど」

『じゃあ、どうしろっちゅうんじゃい!! 俺のつまらん頭じゃこれ以上思いつかねえよ、ネタ切れだよ!!』

「んー、じゃあ信じてて」

『あん?』

 あまりに自然に言われてイアが何を言ったかわからなかった。いま何て言った?

「だから信じててよ」

 軽やかに触手の群れをかわし、徐々に禍渦本体との距離を詰めながら再度、俺に向けて言葉を紡ぐ。

「頼人は私を信じてて。ちゃんと繋いでみせるから」

『……んなこと言われるまでもねえ』

 イアに会って初めて禍渦を壊して。

 改めて約束を交わしたあの日から。

オマエを本気で疑ったことなんて一度もねえよ。

『よっしゃ、行けイア!! あの気持ち悪い禍渦に一発かましてやろうぜ!!』

「了――解ッ!!」

 その力強い返事とともにイアは駆ける。

 細い体躯を利用して、俺では通れないような隙間を通過し。

 しなやかな四肢を活かし慎重に、それでいて大胆に突破していく。

 イアの狙いはあたり一面に触手を伸ばしている本体の傍。根元であれば攻撃範囲は狭まり、結果的にこちらが回避行動をとることも少なくなる。読み取りに集中力を割かれる彼女にとってそこが最も都合の良い場所なのだろう。

 左右から襲いかかる触手を大きくジャンプして交わし、黒いコートを、白い髪を靡かせながら着地する。

 完全回避を成し遂げたネロとはまた違う回避法。ネロが単純な速さで回避していたのに対し、イアは触手全体の動きを把握しているかのように避ける。

 どの触手が何をしようとしているのかを読み、安全地帯を予測している。そんな印象。そこでふと、俺は八本のコードが忙しなく周囲を探るかのように動いているのに気がついた。

 そうか。

 イアの集中を途切れさせぬよう、口には出さずに納得する。恐らくはコード全てが目の働きをしているのだろう。死角なく周囲を見渡せるのであればイアのあの動きも説明がつく。

 そんなことができるのかと思うかもしれないが、あのコードは元々イアの身体の一部。とすれば俺に出来ない使い方が出来たとしても何も不思議なことではない。

「――よいしょっ……と」

 気がつくと既に目的地への移動を果たしていたイアは俺に声をかける。

「断っておくけどネロのときと違って今回はパスを繋ぐだけしかできないからね。私も触手避けなきゃならないから、そっちにばっかり集中できないし」

『おう、繋いでくれさえすりゃ後は何とかする』

「じゃあ、いくよ!!」

 イアは周囲の警戒に使っていたコードを全て呼び戻し、その先端から針を飛び出させる。そしてそれらを禍渦に向けると容赦なく突き立てた。

 瞬間、流れ込む莫大な情報。

 見たこともない景色。

 見たこともない人物。

 感じたことのない感情。

 感じたことのない鼓動。

 そして――。

 悲哀、嘆き、羨望、怒気、後悔、失望、不信、憎悪、恐怖、卑下、焦燥、羞恥、苦痛、不快、不満、困惑、孤独、絶望、落胆、憂鬱、空虚、妄執、蔑視、無念、殺意、懺悔、驚愕、諦念、退屈、欲望、苦悩、煩悶、虚飾、傲慢、煩悩。

 ありとあらゆる負の想いが幾重にも重なり合って傾れ込んでくる。

 これは禍渦の想いか。

 それとも禍渦の元になったモノの想いか。

 どちらにせよ重くて。

 悪募おもい。

 募り、そして積もった感情は留まるところを知らず、次々に俺を埋め尽くしていく。

『これは……、予想以上に……、キツいな……ッ!!』

 口の端をつり上げ、流れ込む感情のあまりの激しさに身震いする。

 これらはいわば負の濁流。ひとたび呑まれれば俺自身も取り込まれかねない魔の河。慎重に禍渦破壊のヒントを探さねばならないが、悠長にしている余裕もない。

 迅速に、かつ正確に。

 情報の取捨選択をしていかなければ……。

『つってもなあ……』

 禍渦の弱点を探すにしてもヒントが無さ過ぎる。この雑多な情報の海から何を指針にして伝承を探せば良いのか。どこかに標識の一つでも立てておいてほしいものだ。

 舌打ちをしながらも、その山のような情報の渦に身を投じる。このまま突っ立っているだけも相当精神に負担がかかっている。イアが折角危険を冒してまで禍渦とのパスを繋いでくれたのだ、手ぶらでなど帰れない。

 渦の中に入ると俺を中心にして周囲が数千、数万のウィンドウで埋め尽くされる。映像だけが宙に浮かび映し出される様は中々壮観だ。

『これは……、いや違うな……。なら、これ……は?』

 次から次へと情報を追うが目ぼしい情報は未だその姿を現さない。徐々に限界が近づいてくるのを肌で感じながらも、焦りを押し殺し更なる情報を覗き見る。

『…………ん?』

 五分が経過しただろうか。

 あとどれ程ここに留まっていられるだろうかと殺し損ねた焦燥が首をもたげ始めた頃、理由は分からないが何処か心惹かれるモノを見つけ、まだ展開してすらいないその情報に手を伸ばす。

 他のものと違い、真っ黒でどのような情報が封じられているのか判断しかねるが、これが俺にとって有益なものであることは間違いない。

 理由はないが、魂がそう言っている。

『――んなッ!?』

 ……あー。突然間抜けた声を出して申し訳ないとは思うが、どうか見逃してほしいものだ。

 いや、だって仕方なくねえ?

 いきなりウィンドウから生っ白い腕が伸びてきて俺の腕をガッチリ掴んでるんだから。

『おいおいおいおい!!』

 凄まじい力で俺を引っ張る腕。

 そして引っ張り込まれそうな俺。

『ちょ、何!? 最近の貞子はアレか!? ビデオを見たヤツをテレビの中に引き摺りこむのがトレンドなのか!?』

 このまま流れに身を委ねれば行きつく先は貞子の世界である。決死の覚悟で情報を探しに来た挙げ句がこれではイアに会わす顔がない。

 しかし、引き込まれまいという一心でウィンドウに手をつくと、その手が逆に吸い込まれていってしまうという醜態を晒す始末。完全に墓穴を掘った形である。

『待て待て待て待て!! マジで墓穴になりかねないから!! 貞子みたいなズルッズルな女と心中したくねえんだけど、俺!!』

 どうせ死ぬならもっと爽やかな女とが良い!!

 俺がそう騒ぐと眼前の真っ暗だったウィンドウに文字が表示される。

『R.I.P.』

『眠れるかぁああああ!! 何なの、コレ!? 観念しろってことなの!?』

 つーかこの貞子。貞子は貞子でも欧米版のヤツだ!! 小粋なブラックジョークをとばしてきやがる!!

 俺の抵抗も空しく、両腕は画面の中へ、続いて全身を取り込まれていく。そうして真っ暗な世界に落ちて行くなかで、俺は何処かで聞いた覚えのある声を聞いたような気がした。


 ポケモンさ、通信で進化とか止めにしない? オジサン世代は友達でポケモンやってる人いないんだよ。そこで詰むんだよ。あ、どうも久安です。


 ぶっちゃけよっくんよりイアの方が敏捷性においては高性能です。パワーはよっくん>イアですが。一長一短なのでよっくん弱いとか言わないであげて下さい。


 まだ連投は続きます。次回は1月22日 7時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ