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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
善因善果フェイタリティ
82/213

暴禍の障り手

『何、ボーっとしてるの!! 頼人!!』

 イアの叱咤で我に返る。そうだ、俺は明らかな危険物を目の前にして何を呆けていたのだ。

 未だフィオレンザを喰い潰している最中なのか、影はこちらに襲い掛かる様子はなく、ゆらゆらと蠢くだけ。一方俺はといえば、イアが既に背中のコードを後方に伸ばし影と距離をとってくれていたようで、ネロやリーンハルト、アンナの傍に着地する。

「イア、あれが例の異常禍渦で間違いないんだな?」

『うん、反応は少し他の禍渦とは違うけど、あれが神様の言ってたヤツだよ』

 そうか、と。

 相槌を打つ間もなく、響く絶叫。

「おばあ様ッ!? おばあ様ぁああッ!!」

「バッカ、オマエッ!! ――ネロッ!!」

「――ッ、うん!!」

 再び禍渦に突っ込む学習しない馬鹿女を連れ戻しにネロが飛ぶ。その身体は膨れ上がり、人一人簡単に噛み殺せそうなその口でアンナの服をくわえ、後方へと大ジャンプ。彼女の家の屋根に着地した。

「ネロ、離してください!! おばあ様、おばあ様が!!」

「ダメだよ、危険すぎる。それにもう――手遅れだよ」

 ネロは地面に唯一残ったフィオレンザの手首を見つめて諦めたように呟く。手首は既に風化を始めており、原型など留めていない。

「嫌、嫌です!!」

「だぁああああ、うるせえ!! ネロ、ソイツ洞窟にまで連れてってブチ込んどけ!!」

「ええ!! 良いのかい!?」

「――構わん」

 驚愕で戸惑うネロの傍にリーンハルトがその身を現す。簡易門ではなく、地面を蹴って、屋根まで跳び上がったらしい。

「寧ろその方が良い。あのような得体の知れないモノ相手取るのだ、何が起こるかわからん。安全な場所に居てくれれば我々も動きやすい」

「なら、リーンハルトが行けば良いじゃないか。そっちの方が早いだろう?」

「……簡易門を無駄に使う余裕がない。ネロ君済まないが――!?」

 言葉が遮られる。

 世界が分断される。

 大人しくしていた影は何があったのかその身を四方八方に撒き散らす。その姿は最早影ではなく、アメーバ。誰が、何が、その先に在るかなどお構いなしに一本、また一本と触手のようなものを振り回していた。

「うぉぉぉおおおおおい!? いきなり元気良いな、コラァ!!」

 迫る触手を、具現化し背中で支える鋼板で防ぎながら叫ぶ。上へと視線を向けるとリーンハルトを背に、そしてアンナを銜えたままの状態でネロが全ての触手を避けるため縦横無尽に駆け回る。

 時に加速し。

 時に減速し。

 そして時には身体の大きさすら変化させその悉くをかわし切る。だが、影の触手の包囲網は並みではないようで未だに離脱することは叶わない。というよりも、どうやらネロはこの場を離れることに躊躇しているようだ。

 ネロらしいといえばネロらしいが……。

「ったく、仕方ねえな……。イア!!」

 俺の目論見を察したイアは信じられないとでも言うように言葉を返す。

『ええっ、でもフィオレンザみたいに取り込まれたらどうするの?』

「喰われるならとっくにこの鋼板ごと喰われてる!! 良いからやれ!!」

『うう、わかったよ……。そんなに怒らないでよう……』

「怒ってねえ!! 焦ってるだけだ!! さっきから触手が鋼板ぶち破る勢いで突撃かましてきやがるんだよ――うおッ!?」

 鋼板を貫いた触手の一本が右頬スレスレを通って行く。

 いや、ちょ、マジで早くお願いします、イアさん!!

『び、吃驚したー……。じゃ、じゃあやるよ!!』

「おお、やったれ!!」

 イアが操作しやすいように体勢を変え、背中で押さえていた鋼板を両手で支える。そしてその直後、背中の六本のコード全てが宙に向かって奔った。

 俺がイアに狙うよう指示したのはネロの周囲に伸ばされた触手。その動きを俺自身が封じれば、ネロも踏ん切りがつくだろうと見込んでの行動だ。

『捕った!! 捕ったよ頼人――わわっ!?』

「でかした――ッ!? おらぁ!!」

 イアが触手を捕えると同時に身体が凄まじい力で引っ張られる。

 予想外の力ではあったが、思い切り四股を踏み両足を地面に埋没させることで何とか後ろに引き倒されるのを阻止する。また片腕に巻きつくコードの一本を家屋に絡ませ、姿勢を安定させることにも成功。これでもう少しは保つ筈だ。

 後は……。

「ネロッ!!」

 あらん限りの声を上げ、俺は心優しき人狼を怒鳴りつける。

「とっととその馬鹿置いて戻って来い!! 俺を見殺しにしてまた一人に戻る気か!?」

「……ッ!!」

 何て最低最悪の脅し文句だろう。治りきっていない心の傷に塩を擦りつけるような行為に等しい。

 まるで自分があの数え唄の悪魔になったような胸糞悪い気分。これではネロに見限られても仕方がないだろうが、さっきの言葉は真実だ。

 このまま俺が巻き込みたくない非戦闘員をこの場に置いていては間違いなく小さくない被害が出る。そしてその被害が俺の命でない保証は何処にもない。そうなればネロはまた独りぼっちになってしまう。

 ダメだ。

 それは見過ごすことはできない。

 俺は正直者を見捨てない。

「……わかった、行くよ」

 ネロはリーンハルトが背から降りたのを確認し、洞窟目指して空気を踏みしめる。そして姿勢をやや低くしたと思うと、すぐさま戦場を後にする。余程のスピードで駆けていったのかその姿はもう視認できなかった。

『……本当に不器用さんだね、頼人は。あんなこと言ってネロがどっか行っちゃったらどうするの?』

「そんときゃそれまでの縁だったってことだけど……、なに、きっと戻って来てくれる。――さ、せっかくネロが仕事しに行ってくれたんだ。俺達も踏ん張らなきゃだな、イア。それに嘘吐き仮面」

「誰が嘘吐き仮面かね。いや嘘吐きなのは認めるがその呼称は何とかならないか、天原君?」

 不服そうな声を発し、屋根の上で抗議するリーンハルト。上半分は髑髏の仮面に隠れて見えないが、その顔にはうっすらと汗が見てとれる。

 どうやらあちらさんは結構限界が近いらしい。まあ、そういう俺も相当追い詰められている訳だけれど。

 ええと……、今日具現化したのはバレットが一丁、いや二丁か。それにグロックとブローニングが一丁ずつ。あとはこの鋼板……か。

 最近具現化できる総量が思いなしか増えてきているとはいえ、これまでの経験上具現化できるのは銃火器類が小型なら二丁、大型ならギリギリ一丁ってとこか。刀剣類ならもう少しいけるだろうが、直接触れても吸収されないとはいえあまり接近戦を挑みたい相手ではない。

「ははっ、こりゃキッツいな……」

 これでネロも戻ってこなかった日には本気で笑うしかないなと、自分がしでかしたことにも関わらず、苦笑がこぼれる。

 そんな思考を張り巡らせている間にも第二、第三の触手が鋼板を破壊し、俺を叩き殺そうと迫る。そう、だからこんなことを考えている場合ではないのだ。

来るかどうか分からない援軍に思いを馳せている暇があったら、目の前の敵から目を離すな。

 武器は乏しく、相方も消耗が激しい。更に敵の力は未知数でどのような攻撃を繰り出してくるかは一切不明。だが、発せられるプレッシャーはこの禍渦がこれまで会ったどの禍渦よりも禍々しく、歪であると告げている。

 だから、いまはこの圧倒的に不利な状況で、どうやったらこの狂った禍渦を壊せるかだけを思考しろ。

 罅割れ、変形しつつある鋼板を支えながら、大きく深呼吸する。

 この外に出れば俺を守る楯は何もない。具現化できるのは武器のみだ。

 感覚をこれまで以上に研ぎ澄ませろ。掠り傷すら負わないくらいの覚悟で挑め。

 その覚悟を途絶えさせることなく抱いてやっと――ヤツを壊すことに費やせる時間が数分伸びる程度なのだから。

 限界を迎えた鋼板が目の前で砕け散る。

 そしてそれと同時に俺はコードの拘束を解き、暴風吹き荒れる死地へとその身を投げ出した。


 皆様、インフルさんにお気をつけください。どうも久安です。


 連戦でよっくんもリーンさんもヘトヘトです。というかリーンさんに至っては死にそうだよ、ちょっと。……死ぬ死ぬ詐欺であることを祈ります。

 あ、そうだ。ご連絡、『善因善果』は全体的に短めにするつもりです。ふふ、何だかんだ言って長くなるんだろう? という視線が痛い。『コンパトリオット』と『悪因悪果』が七万字いくか、いかないかだったので今回は六万字くらいかな? 

 え? 十分長い? あっはっはっはっは……(逃亡)


 次回更新は1月19日 7時を予定しています。明日です。金、土、日と三連続で更新できそうな予感……。

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