Bloody Entertainment
「あら、頼人さん」
「んあ? おお、一番」
「あん? ……げ、深緋」
「イアだってば!!」
「……誰?」
取り敢えず話し合いの場を持ちたいという神様に連れられ、御社にやってくるとそこには先客が二人。……親しい訳ではないが、全く親しくない訳でもない微妙な関係の知り合いとはどう接すればいいのだろうか?
気分的には同じ学年だが三年間同じクラスになったことがない割に、共通の友達を持っているのでたまに話したりはする友人、みたいな感じ。
『やー、やー。お待たせしましたねー。深緋ちゃんに満月。おや? リーンハルトとメフィストはまだですか? ここに来るよう「命令」しておいた筈なんですが』
「ええ、あなたが私たちをここに連れて来てから誰もここには来ていないわ。ねえ、満月?」
「ああ、おかげで暇で暇でしょうがないよ。これで下らない話だったらどうしてくれようかね?」
「本人に聞いてみたらどうかしら? 神様なんだから私たち凡俗な人間じゃあ思いつかないような素敵な処刑方法を教えてくれるに違いないわ」
相変わらず物騒なことこの上ない。自分が再生能力を持っているからといって他の人間にも同様の力があると思っているのではあるまいな? だとしたら心底遺憾である。
オマエみたいに身体をバラバラに分割されて生きていられる訳ねえだろ。三途の川をジェットで渡っちまうわ。
『……えーっと』
おー、おー。困ってる、困ってる。下手に答えるととんでもないものが自分に返って来るかもしれないからな。そりゃあ、さしもの神様といえど困るだろうさ。
「どうしたんだい? 神様ともあろうものがこの程度の問いに即答することもできないのかい? はっ、だとしたら何ともありがたみのない神様だね」
新たに現れた二人が何者かどうかより、神様を更に追い詰める方に重点を置いたらしいネロが侮蔑の言葉を口にする。
それがいけなかった。
「ん? 何だい、この獣っコは?」
獲物を追い詰めている最中の肉食獣の前に飛びこむなど、どうぞ自分をお食べくださいと言っているようなものだ。俺とイアはこれまでの経験から不吉な気配を感じ、黙っていたのだが初めて彼女らと顔を合わせるネロにそれを感じろというのは些か無茶というものだろう。
ああ、あの表情を見るに、ネロもその事実に気づいたようだがもう遅い。
「獣っコ? 何を言っているの、満月?」
案の定、深緋の食い付きはカジキマグロの引きよりも強かった。そりゃあもう松○弘樹でも手古摺るくらいに。
「いやね、頼人が見覚えのない小さな狼を連れてるもんだから……。あっはっは、可愛いじゃないか」
「や、やめておくれよ……」
満月はぐりぐりと力任せに撫でまわす。自慢の毛並みをグシャグシャにされたことが癇に障ったのか、ネロは顔を顰めた。
「ねえ、満月」
「あっはっは、毛がすべすべしてるなあ、コイツ。っと、どうした、深緋?」
「そのコ、反抗的な目つきをしているかしら?」
「うん?」
「だから、そのコの目つきはクソ生意気かしらと聞いているの」
「ああ、まあ。……生意気っちゃあ生意気そうな顔はしてるかね」
「そう」
満月のその答えを聞くと深緋は満足そうににやりと口元を歪ませる。
ヤダ、何あれ、怖い。
「満月」
再び一言。自身の相棒の名を呼ぶ。
そして。
「り、同調をお願いできるかしら?」
「……何で?」
「いいから」
「……どうして?」
「兎に角」
「……もしかして深緋――」
「は、早くなさい!! 間に合わなくなっても知らないわよ!!」
追求を遮り、大声で満月との同調をせがむ深緋。一体何があったのかわからないが、普段の深緋――よく知っていると言う訳ではないが――、とはまるで違うその様子に眉を顰めざるを得ない。
「やれやれ……、仕方ないね」
遂に頼みを断りきれなくなった満月は得心のいかないままではあったが彼女の要求通り、同調を行うことを決めたらしい。
満月は金の髪を靡かせる。その柔らかな髪の一本、一本を深緋に絡みつかせ、覆い、彼女を優しく包み込む。
そういえばこないだ聞いた話だと深緋は同調する際に痛みを感じないんだと。だが、それも納得。この光景を見れば痛みなど感じる筈がないことは一目瞭然だ。
……ズルくね? 我慢できるとはいえ俺は毎回コードブッ刺される痛みに耐えてるんだけど?
そんな不平不満を心の内で漏らしている間に、深緋と満月の同調は完了する。深緋の盲いた目は開かれ、赤く変色し、黒髪は金に染まる。そして彼女が身に纏う病衣はボディラインが浮かび上がる露出の多い戦闘衣に変わり、その顔には何処か悪だくみをしているような表情を浮かべていた。
「ふふ、貴方ね? 満月が言っていたのは? 確かにクソ生意気そうな顔をしているわ……」
その頬は紅潮し、その視線はネロを舐めるようなもので随分と艶かしい。さらに息も荒く、唇を指でなぞり恍惚としている彼女は何か堪え切れないものを無理矢理押さえつけているように見える。
「……頼人、どう思う?」
「果てしなくヤバいと思う」
「だよね。一悶着起こりそうだよ、これ」
「え?」
「え?」
エロさの方じゃなくてか?
「……そうか。君は頼人と同じモノか」
一緒にしないでほしいが、実際そうなのだから何も言えない。
ううむ、無念だ。
「ああ、イイわ……。本当にイイ」
「こ、こっちに来ないでくれるかい? き、君とは仲良くできそうにない……」
「あらあら、そんな口を利くなんて悪い子ね……。お仕置きだわ」
「何を……、――ッ!?」
深緋の真意を探ろうとするその問いに答えが与えられることはなく、瞬きをするよりも短い時間でネロはその背を深緋に押さえつけられていた。
……足で。
「このッ――!! 何するんだッ!?」
「ふふ、ごめんなさいね? 私、貴方みたいに生意気なコを苛めるのが大好きなのよ。いつもは我慢できるんだけど、こんな逸材を目の前にしたら、うふふ、無理に決まってるじゃない」
グリグリと。
擂り潰すようにネロを踏みつける深緋の目には狂気の色しかない。
あの野郎……、自分を見失ってやがる……。
「いい加減に――」
「あら?」
「してくれよッ!!」
余りの仕打ちにこちらも我慢の限界が訪れたのか、ネロは身体を肥大化させ、足を載せていた深緋を一先ず弾き飛ばす。
「頼人何なんだい、コイツらは!?」
「ん? 俺の同僚」
「君の知り合いは灰汁の強いのが多すぎる!!」
「いやあ、へへへ」
「褒めてない!!」
「ネロ、前!!」
「ッ!!」
イアの鋭い声に反応し、ネロは深緋の拳を完全にかわしきったようだ。既に深緋の強さには適応したようでその速度は俺の目で追える範疇を逸脱している。時折何かがぶつかり合う音が聞こえる以外で二人を認識する術はない。
「残念ね、こんなものなのかしら? 実力を伴わない生意気さは身を滅ぼすわよ?」
「それは主に君が滅ぼすんだろう!?」
何合ぶつかり合ったのかは与り知らぬところだが、ふむ、何も知らないヤツに自分の仲間を貶されるとなんというか腹が立つな。
「ネロ」
そういう訳で俺は枷をつけたままの仲間に声をかける。身体に巻き付けた鎖を外す、魔法の言葉を。
「別に相手が俺の同僚だからって気にすることはねえ。リーンハルトが来るまでの間なら、食い千切ろうが、引き裂こうが好きにやって構わねえぞ。なあ、神様?」
『まあ、構いませんけど。そんな短時間で深緋ちゃんが殺し切られることはないと思いますし。集会の余興には丁度良いでしょう』
「だってよ。やっちまえネロ」
「そうかい、それは朗報だ。いい加減堪忍袋の緒が切れそうだったんでね」
にやりと。
そう言って口元を歪めるネロ。
「イア、同調頼むわ。こんなところに人間の身体でいたら巻き添え食って死んじまう」
「もう……、ネロを止めるどころか焚きつけて……。一応深緋たちと私たちは仲間なんだよ?」
「仕方ねえじゃねえか。あのままやられっぱなしのネロなんて俺は見たくねえし。それに、ちょっとオマエもすっきりしたろ?」
「……ちょっとだけね」
深緋には秘密だよ、と。
薄く笑いながら同調を果たし、俺の中へと取り込まれるイア。
さて、これで準備は万端。思う存分一騎打ちを見せてもらうとしよう。
「『俺の本当の力を見せてやろう……』ってことでいいのかしら?」
「ああ、そうだね。その通りさ。思う存分やらせてもらう」
「ふふ、それは楽しみだ、わッ!!」
「ッ!!」
先手は深緋。
再生能力をフルに使い、肉体の限界を超えて疾走する。
白い天井を。
白い壁を。
白い床を。
金色の残像を残して高速で移動する。
一歩踏み出す度に力の放出に耐えられないのか、瑞々しい、ハリのある、美しい脚部から鮮血が吹き出す。恐らくは外傷だけでなく筋も骨もやられているのだろうが、その損傷は次の一歩を踏み出す前に完治していた。
同調した俺の目でもギリギリ追えるといったとんでもない速さだが、ネロは既にその速さに適応しているようだ。目を忙しなく動かし、深緋の姿を追っている。
「凄い、凄い。ちゃんと私を追えているのね」
「当たり前だろう? 言った筈だよ、思う存分やるってさ。だから君も精々出し惜しみなくやることだね。――死にたくないのなら」
そう言うとネロは地面を蹴った。既に同調状態の深緋に触れているため、その速度は彼女と比べても全く遜色ないものだ。
水中や空中といった環境に適応する際は特にトリガーとなるものはなく自動的に『適応促身』は展開されるが、敵に適応する場合は少しばかり趣が異なるそうで、ネロが教えてくれた条件は一つ。
それは『接触』すること。
いま深緋の速度に反応し、かつ自身の能力を底上げしているのは、さっき深緋に踏まれ接触した際に、相手の強さを測り適応した結果である。基本的な能力はこのときに補正を受け相対した敵とほぼ同等にまで引き上げ、または引き下げられる。
そして『適応促身』は敵の攻撃に対しても有効である。……何を言っているのかわからないというヤツは俺とネロが戦ったときのことを思い出してほしい。
あのとき、俺はネロの、その前脚に向けて銃弾を放った。
一発目。弾丸はアイツの前脚に僅かながら傷を負わせることに成功したが、続く二発目。同じ銃で放った一撃はネロの身体を何一つ傷つけることなく、悉く弾かれてしまった。
つまり。
同じ攻撃であれば――。
「シッ!!」
「――ッハ……」
追いかけるネロの腹部に重い一撃を見舞った深緋は更にもう一撃叩きこもうと左腕を振り抜く。
「……え?」
――ネロに二度目は通用しない。
ゴリン、と。
肉と骨が一緒くたになって砕ける音が響く。
白しかなかった空間に鮮やかな赤が舞う。
「…………ッ!! ッの!!」
喰い千切られた左腕から鮮血を噴きつつ、新たな左腕を生やしつつ、意地、とでも言わんばかりに血に濡れたネロの顔面を右脚で撃ち抜いた。そしてその反動を利用して一旦深緋は距離を置く。
全力の殴打。
全力の蹴撃。
武器を持たない深緋にとって残る攻撃方法は少ない。先の二つがもう通用しないことを踏まえれば、現状深緋がやや不利――に見えるだろうな。
『ねえ、どっちが勝つと思う?』
「うん? まあネロのスキルの穴に気がつけば深緋。そうじゃなければ良いトコ引き分けってとこか」
『え、ネロに勝ち目ないの?』
どちらも互いの力のことは教えていないし、最終的にはそれを読み、攻略した方が勝つのだろうが。
能力の単純な厄介さなら深緋の再生能力の方が上だ。あれを攻略するには再生を妨害するか、若しくは再生に使う精神力が尽きるまで殺し続けるかの二択しかないのだが、まず前者はそんな方法を思いつかないし、後者は殺すこと自体困難なのだからお奨めできない。
ネロが相手のスキルに適応でもすれば話は別なのだろうが、『適応即身』もさっきアイツ自身が言ったようにそこまで万能ではない。
『ん~、ワタシもそう思いますねー。ウェアウルフのスキルは一見使い勝手が良さそうに見えますけど、ネタが分かれば実際酷く脆いものですし』
「だな。だからこそ深緋みたいなタイプとは相性が悪い。ネタが割れる前に勝負を決められねえ」
『ちょ、ちょっと!! 二人で納得してないで私にもわかるように説明してよう!!』
「騒がなくても後で教えてやるさ。決着がつかなけりゃあな」
そう言って俺は再び二人に目を向ける。そこには金と黒が入り乱れて舞う、二人だけの戦場が在った。
衆議院選挙が近づいてきましたね。読者王よ、選挙に行く準備は十分か? どうも久安です。
久方ぶりの深緋ちゃん、満月コンビの登場、テンションの上がる私。テンションの下がるよっくん。仕方ないじゃない、どんな変な子でも自分で産んだ子は可愛いものなんです。
と和んでいたのも束の間でしたが、はい。いきなりネロと殴り合いに興じてますね、彼女。どうしてこうなった。
次回は12月14日10時更新予定です。いつもと更新間隔が異なりますのでご注意を。




