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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
悪因悪果ミミクリー
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神獣齟齬

   ――毎夜、悪魔が顕れる。

   最初は一匹。

   明日は二匹。

   三匹、四匹、限りなく。

   夜毎に仲間を引き連れ顕れる。

   それも、これも形は無く。

   ただただ影のように揺れ動き。

   五鐘ごしょうの音が止む頃に。

   六魂ろっこん試しに顕れる。

   七罪塗れる魂は。

   八方塞がれ逃げ場なく。

   九の朝を数えることなく。

   十発十中、悪魔にこうべを奪われる。

   悪魔を恐れるならば、悪魔を認めよ。

   姿、形は見えずとも、彼らはいつでもそこにいるのだから――




 良いことをすれば、その行いはいずれ自らの得になる形で返ってくる。

 逆に悪いことをすれば、その行いはいずれ自らの損になる形で返ってくる。

 昔、親に口酸っぱく言われたことではあるが、いざ自分が成長し世の中を少しは広く見れるようになると、その言葉が果たして本当であるのか疑わしく思えてくるものだ。

 例えば、何か悪いこと――懲役刑レベルの悪いことをしたとして数年刑務所で過ごしたとしよう。この場合、損として返ってきたものは数年の懲役刑であるが、悪行との釣り合いが必ずしも取れているといえるだろうか?

 悪行で得た利益と、悪行で得た損失は最低でもイコール、もしくは損失が利益以上でなければならない。そうでなければ結局悪行を繰り返す輩を減らす抑止力にはなり得ないからだ。

 そして、実際釣り合いが取れているかと言われれば答えはノー。欲に目が眩んで何度も犯罪を繰り返す人間は数多い。過剰な罰則は不必要な恐怖を与え、社会そのものが崩壊する危険性を孕んでいることは承知しているが、罰則が抑止力にすらならないのであれば、そのルールに価値はないといえる。

 故に俺はいま心を鬼にして、コミュニティの秩序を乱した不埒者に罰を与えなければならない。

「そういう訳でオマエは晩飯抜きだ、イア」

 目の前で正座する白髪少女を見下ろし、そう宣告する。

「うう…………、酷い、酷いよ、こんなの……」

「酷い? 何を言っているんだい? イア、残念だけど僕も頼人に賛成だよ。君の犯した罪はそれだけ重い」

 ネロはイアの隣に座り、眉間に皺を寄せている。コイツも俺と同じく、イアの所業が許せないらしい。

「ネ、ネロまで……。頼人はともかくネロは適応できるでしょ!!」

「そうだね。でも適応できるってことはその環境に適しているというだけで完璧、万能ってことじゃない。海で生活する魚だって泳ぎやすいようにヒレがついてるけど、それがない人間だって泳ぐことはできるだろう? 「あったら有利」程度のものなのさ。だから――」

 目をカッと見開き、そして叫ぶ。

「僕は君が食べた大魔神コロッケを食べたくて仕方がない!!」

「ひいッ!!」

「落ち着けぇぇ!! 気持ちは分かるが家の中で身体をデカくすんのはやめろぉぉ!!」

 怒りか? 自身の怒りに適応したのかッ!?

「ハッ!? ご、ごめん頼人、つい……」

「謝るな、気持ちは分かると言ったろう?」

 宥めるように、元のサイズに戻ったネロの頭を撫でる。

 ことの発端は今日の夕方。俺が晩飯の用意をしようとしたときに事件は起こった。

 大魔神コロッケというのは肉のササキで三百円というトンデモナイ価格で販売されているコロッケのことであることは以前説明した通りである。今日は新たに我が家の一員として加わったネロに一度味わってもらおうと学校帰りに買ってきたのだが。

 この度そのコロッケは匂いを嗅ぎつけたイアの胃の中へと姿を消してしまった。回りくどい言い方になってしまったが端的に言えば所謂つまみぐいというヤツだ。

「良いだろう、イア。一度だけ弁解の機会をやろう。何か言いたいことはあるか?」

 俺にも、コロッケを隠すことなく分かりやすい所に置いていたという落ち度はある。言い訳ができようものなら聞いてやらんでもない。そう俺が少しばかりの慈悲を見せたときだった。

 ネロが歯を剥き出しにして唸りだしたのは。

「おおうッ!? どうしたネロ!? まさか一片の慈悲なくイアを噛もうというのか!?」

 さすがネロ!! 俺にできないことを平然とやってのけるッ!! そこにシビれる!! 憧れ――はしないか、うん。別にイアを噛みたいという変態的欲求は持ち合わせてない。

「ええっ!! ネ、ネロ、待って、待ってよ!! 私のお小遣いでいますぐ買ってくるから!!」

「違うよ、頼人、イア。――何か来る」

 居間のただ一点を睨みながらなおも獰猛に唸るネロ。そこには一欠けらの雑念もなく、込められているのは警戒心と少量の殺気。

 一週間くらい前までは野生の獣として生きてきたネロのこと。本能的に危険が差し迫っていることを察知したのかもしれない。

「イア、話は後だ。いまは取り敢えず同調を――」

『おやおや、なんだか殺気だってますねー。どうかしましたか?』

 そんな緊張感のない声をさせながら、いままさに同調をしようとした俺とイア、そしてネロの前に現れたのは誰あろう神様であった。

 ズルリと床を透過してくる様子から察するに、本体ではなくホログラムの方だろう。それは別に構わないのだが、何故わざわざ床下からの御登場なのだろうか? 一瞬我が家の床に埋められた人間の亡霊が現れたかと思ったぞ。

「ネロ、心配しなくても良い。前に話したろ? 一応これが俺の雇い主の神様だ」

 無用な警戒だと。

 不要な心配だと。

 そう告げたにも関わらず、ネロは未だその鋭利な牙を見せつける。

「心配しなくても良い? それは本気で言っているのかい、頼人?」

 全身の毛を逆立て、いつでも飛びかかれる体勢を取りつつ、ネロは言う。

「コイツはダメだ。僕はコイツのことは何一つ知らない。見たことも、会ったこともない。それでもこれだけは間違いなく言える。コイツに関わっちゃいけない」

「おいおい何言ってんだよ、ネロ」

「頼人」

 短く、そして鋭く俺の名を呼ぶ。

「僕の目の前にいるコイツは一体何なんだい? これでも少しは世界中を見てきたけれど、こんなにも不吉な生き物は見たことがないよ。いや、そもそも――」

 やや恐れを含んだ瞳で神様を見据え。

「お前は『生き物』なのかい?」

 ネロはそう言い放った。

 訪れる静寂。

 聞こえるのは時計の針が進む音と。

 互いの息遣いだけ。

 そして誰もが身動き一つできないその重苦しい空気の中、最初に口を開いたのは神様だった。

『……んー、何やら相当嫌われたものですねー。名乗る前から嫌われるというのは何と言いますか……、こう結構キますねー……』

「ああっ、神様が膝をついたよ!? いつもヘラヘラして私たちをイラつかせる神様が膝をついてるよ、頼人!!」

「確かにアイツが膝をつくのは初めて見るけど、そこに追い打ちかけるオマエがスゴくてそれどころじゃねえよ」

 わざとか? わざとなのか?

『うう……、イアにまで苛められるなんて思いませんでしたよ。ちなみに頼人くん、傷ついたワタシを慰めてくれたりします?』

「ヤだね、気持ち悪ィ」

『……ここが完全な敵地であることを理解しました』

 神様の精神、フルボッコである。

 しかし、まあそこは流石に神を自称する男。ズレた眼鏡を左手で直し、そして気をも取り直し、再び不遜な態度を取り戻す。

『まったく、ペットの躾はちゃんとして欲しいものですねー、頼人くん』

「僕は頼人のペットじゃない、僕は――」

「俺の友達だ」

「違うよー、頼人と私の友達だよ」

 ネロが飛びかかる直前、俺たちはその身体を掴んで引き戻す。神様といえど、いまのペット発言は看過できない。侮辱するにも程がある。

「今度ペットなんて言いやがったら、アンタでも眉間ぶち抜くぞ」

「神様、私も怒るよ?」

 俺とイア。双方から怒気を向けられ、さしもの神様もため息をつき渋々こちらの要求を受け入れた。

『……ふう、良いでしょう。わかりましたよ。そこのキミ、非礼をお詫びします』

「そんなことを言ったって――あ痛ッ!?」

「オマエもそうつッかかんな。何を怯えてるかは知らねえが、初対面の相手にあれはねえだろ?」

「頼人、でも……」

「ネロ」

「…………わかったよ。僕も悪かった」

 食い下がろうとするネロを嗜め、やっとこさ場を落ちつかせる。

 やれやれ……、ここまで神様とネロの相性が悪いとは思わなかったぜ。一対一で会わせてたら、殺し合いでも始めていたんじゃなかろうか。

『では、改めて。頼人くんから聞いていると思いますが、ワタシは神様です。よろしくお願いしますねー』

「……ネロ。僕はあんまりよろしくしたくない」

『あっはっはー、ワタシもです』

 再びバチバチと火花を散らす二人。敵意を剥き出しにしているネロも十分怖いが、微弱ながらも笑顔で殺気を放っている神様はより怖い。

「ああもう、オマエらいい加減にしろよ。つーか神様よ、何か用があって来たんじゃねえのか、アンタは?」

 このまま放っておけば俺の家を巻き込んだ戦争が勃発しそうな雰囲気なのでやりたくはないが二人の間に立ち、何とか会話を成り立たせる。

『ああ、ああ、そうでした。あっはっはー、ワタシとしたことが人狼如きにペースを乱されてしまいましたねー。危ない、危ない』

「ふん、それで神様だなんて笑わせるよ……」

 ネロの辛辣な言葉を無視し、さらに神様は続けた。

『頼人くん。確かにキミの言う通り、ワタシはキミに用があって来たんですよ』

「何だ、仕事か?」

『ま、それもありますが。その前に一つ、皆に集まってもらおうと思いまして。ちょ~っとマズい事態になりそうなんですよねー』

「マズい事態? どういうことだ?」

 俺のその質問に対し、うーんと顎に手をあててひとしきり唸ると、神様は。

『実はねー、禍渦が減ってきているんですよ』

 そう、意味のわからないことを口にした。


 ニコニコ動画の作業妨害用BGMさん、マジ妨害。どうも久安です。「スピッツまとめ1」にやられました。

 『悪因悪果ミミクリー』開始です。とはいえ開始したばかりでここに書くことがない……。なので見どころを一つ。本章で色々と話が動きます。よっくんたちが今後、何をしていくかもはっきりしますので最後まで拝読いただければと思います。


 次回は12月12日 10時更新予定です。


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