暴虐の嵐
これは幻だろうか。
それと夢か?
俺のそんな淡い期待を目の前の光景は嘲笑う。これは現実だと頭の奥に叩きこんでくる。
『がっはっはっはぁ!!』
「ひぃい!!」
「に、逃げろぉお!!」
機械で変質させた笑い声を上げながら、逃げまどう生徒たちを男女問わず戦闘不能にしていくゴーストバスターの姿は、どちらが化物かと叫びたくなる程。一応女子生徒にはそれなりの手加減をしているようだが、男子生徒に対しては容赦がない。
既に参加資格を奪われた、というか気絶させられた生徒の数はのべ五十人。これでゴーストバスターが入っていた箱の近くにいた生徒の大半が即座に壊滅させられたことになる。これが開始十分の光景なのだから笑えない。……笑えない。
豊泉高校の在校生数は確か現在約六百人だった筈。おいおい、十パーセント近くやられちまってるじゃねえか……。
そうしてゴーストバスターの力の程を目の当たりにした俺たちは即座に一旦校内に退却することを決定。いま現在、グラウンドを見下ろせる三階廊下の窓から様子を窺っているという状況である。
「ったく、誰だあんなモンスター連れて来たのは……、って校長だろうけど」
眼下で惨状を拡大する男の姿を観察しながら、ついそうぼやいてしまう。
顔はアイスホッケー用の仮面で隠しており正体はわからないが、片手にマチェットのレプリカを携えたその姿は間違いなく。
「ジェイソンさんじゃねえか……」
肝心なのはその中身が誰なのかということだが、あの声は何処かで聞いたことがあるんだよなあ……。思い出せないけど。
出て来ないことは無理矢理考えても無駄。そこですっぱり考えるのをやめ、取り敢えず他の三人に話しかけることにした。
「どうする? ジェイソンさんに挑んでみるか?」
「冗談!! あんな化物相手にしてられるかよ」
「そうよね……。ご褒美は魅力的だけど別に倒さなきゃいけない訳じゃないし……」
うん、やはり不戦の方向で決まりそう――。
「ちょっと行ってくるね」
だったが、小さな魔女によって、それは邪魔された。
「おいおいおいおい!! 死にたいの、オマエ!? 相手はアレだぞ!?」
いまにも駆けだしそうだったイアの肩を思い切り掴む。
「大丈夫。禍渦の方がよっぽど怖いし」
「まが――、何て?」
「ちょっとこっちでお話ししようかイアさんや!!」
その場に龍平と美咲を残し、イアを空き教室へと引き摺り込む。
というか軽々しく一般人のいるところで禍渦とか言わないでくれる!? 聞かれても説明できないんだからさぁ!!
「むう……、どうしたのさ頼人?」
「オメーがどうしたぁ!? そんなにお菓子が欲しいのかよ!?」
「うん!!」
「なんて良い笑顔!!」
こっちは泣きてえよ。
「あのなあ、イアも見たろ? あれはもう人外だって。関わり合いにならない方が良い」
「ええー……」
笑顔から一転、悲しそうな顔をするイア。
「頼人ー」
「ダメ」
「頼人ー」
「ダメ」
「よーりーとー」
「だぁぁあ、もうしつけぇな!!」
というか名前を呼ぶ度に俺の身体を揺するんじゃねえ、鬱陶しい!!
「うう~、だって……」
ああ、もう泣きそうになるなよ、菓子くらいで……。なんか俺がすげえ悪者みたいじゃねえか。
「はぁ……、しょうがねえな……。じゃあ龍平と美咲を説得できたら協力してやるよ。その代わりどっちかが嫌だって言ったら諦めろ」
その悲しそうな顔を見るに耐えなくなった俺は渋々そう口にする。だが、これは別にイアに協力的な提案という訳ではなく、これは寧ろ非協力的な提案である。
「ホント!!」
しかし俺の思惑を知ってか知らずか、というか間違いなく知らないけど、イアはまたまた表情を一転させ、溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
「ああ。表にいる龍平と美咲を説得できたら、な」
もしかしたらイア大好き連合総長の美咲は説得できるかもしれないが、龍平が陥落することはまずない。普段の行動からは想像しがたいが意外とアイツはリアリストだ。大きな当たりではなく、小さな当たりを狙ってコツコツ溜めていくタイプ。そんな龍平がイアの無謀ともいえる行動に是と言う筈がない。
「よぉし、絶対、ぜえったい説得してみせるからね!! 頼人、約束忘れちゃヤだよ?」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる?」
嘘が大嫌い天原頼人さんですよ? 約束を違えるなんてこと死んでもしねえわ。
ウキウキと教室を出て行くイアの後ろ姿を見ながら、どうやってあの化物を掻い潜って教師どもから菓子をせしめてやるかと考える。どうせ、二人を説得などできないのだから。
――そう思っていた時期が俺にもありました。
「イアちゃんのためなら死ねる」
鼻息荒くそう言い切る美咲。うん、まあオマエはこうなるかもと考えていたからまあ、良いさ。
でもな。
「オマエまでこんな暴走特急みたいな計画に乗っかるなんてどうしたよ、龍平!?」
肩を揺すり正気がどうかを確認する俺。いや、確認するまでもなく正気ではない。
「ということは俺がイアを教室に籠っていた数分間のうちに美咲が龍平を洗脳した――あががががが!!」
「考えごとは頭の中だけでするべきだったわね、頼人?」
美咲は俺の頭を拳で挟み、力を込めて押しつぶそうと試みる。こう、拳を捻って痛みを与えるのではなく単純に押し潰そうとしているのが恐ろしい限りだが、そんな恐怖に屈している場合ではない。
「あばばば、どうし――て、おごごごご!! あんな怪物と正面切って戦おうと――、いぎゃぎゃぎゃぎゃ!! するんだよ!!」
「頼人、声おっきい……」
「苦情は美咲さんに言ってください!!」
命の灯火が完全に消え失せる前に美咲の人間万力から逃れた俺は、龍平にもう一度問う。
「はぁ……、はぁ……、俺が教室に入る前は嫌がってたじゃねえか」
「いや、その、なんつーか……」
言いにくそうに窓の外をチラリと見る。その視線の先には。
「…………うわぁ」
ゴーストバスターに打ち倒された一楽さんの姿があった。
そういやいないと思ったらやられてたのか、一楽さん……。
「スピニング・トーホールドで足をやられて動けなくなったところを最後はアイアン・クロ―で止めをさされたの」
「そうかそりゃあ頑張ったんだな、一楽さん」
息子に良いとこ見せようと必死過ぎなのはアレだが。そう俺はしみじみと思っていたのだが。
「え? いや、なんとも無様な試合だったわよ?」
「息子さんの前でひでえな、オイ!!」
容赦がないにも程がある。
そりゃあ、オマエからしたら無様だったかもしれないけれど、五十そこそこのオッサンが頑張ったんだよ? そこは評価してやれよ。
「というわけで、龍平は大好きなパパの仇をとりたくなったってこと」
「……ああ、そういうことか」
ならば仕方がない。この面倒事は『今後不用意に約束しない方が良い』という教訓を得た代償ということにしておこう。
「そういうことか、じゃねえ!! そもそも美咲!! 俺はそんなこと言ってねえだろうが!!」
「そりゃあ言ってねえだろうよ。言ってたらドン引きだ、コノヤロー。――でもな、一楽さんの仇をとりたいのは本当だろ?」
「う……」
「龍平」
名前を呼んで追い詰めると、龍平は観念したのか、深いため息をつくときまり悪そうに本心を吐露する。
「っはぁぁぁあああ…………。ああ、そうだよ。悪いか? あんなアホな糞親父でも俺の親なんだよ。目の前でボコボコにされて黙ってられねえ――って止めろお前ら!! そんな温かい目でこっちを見るな!! ああ!! イアちゃんまで!!」
「いやぁ~」
「だって」
「ねえ?」
自然とそうなってしまうのだから仕方がないじゃないか。恨むなら自分のナリに似合わない純粋さを恨むんだな。
「ったく、勘弁してくれ――」
「ああ、そうだよ。悪いか!?」←俺
「あんなアホな糞親父でも俺の親なんだよ!!」←美咲
「目の前でボコボコにされて黙ってられねえ!!」←イア
「ちょ、止めろっての!! そして何で戦隊ポーズをとりながら言う!?」
「俺が」←俺
「俺たちが」←美咲
「龍平だ!!」←イア
「いや、それはわかんねえ」
うん、俺達もついノリでやったところがあるからわからん。
「だぁああ!! もう良いだろ!? やるならさっさとやろうぜ!!」
「そうだな、龍平いじりも飽きてきたし」
「さらりと酷いこと言うなあ、頼人さんよ」
不機嫌そうな声を上げ、こちらをじろりと睨む龍平はさておき、本気でこれ以上ふざけている時間がなさそうなのだ。
「いやなに、お客さんが家にやってきたみたいなんでなあ」
「あ?」
グラウンドの掃除を終えたゴーストバスターが校舎に向かってゆっくりと、威圧的な速度で歩いてくる姿が見える。これは早々に作戦を立てなければなるまい。
イアとの約束のためにジェイソンを攻略してやりたいとも、その後ろで胡坐をかいてる教師連中にひと泡ふかせてやりたいということもあるが、実のところ、それよりも俺はアイツの仮面を剥ぎ取ってやりたいと思っている。
あそこまで。
顔や、声、素振りを完全に偽装してまで、中の人物を特定させないようにしているのが気に入らない。絶対に本物を、中身を引き摺りだしてやる。
そうして俺はそのための考えを巡らせながら、正体不明のモンスターに視線を向けた。
祝、風邪完治!! イヤッホウ、久安です。イヤッホウ!!
さてあっという間に『コンパトリオット』も半分が終了しました。もうそろそろポイポイばら撒いた伏線(笑)を回収していきたいと思います。
最近本気で寒くなってきました。皆様も体調を崩されませんよう、お気をつけくださいませ。
次回更新は11月18日 10時を予定しています。最近のペースより一日ズレますがご了承ください。




