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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ザ・デイ・オブ・マイ・コンパトリオット
52/213

祭事の前の小事

 ハロウィーン・イン・豊泉の前日。放課後のホームルームにて俺の所属するクラスの担任である高崎が明日の注意事項を淡々と読み上げる。

「皆さん、私は去年と同じく、朝のホームルーム時にお菓子を配ります。ですから私は襲わないように。あと皆さんの友達にも正面から頼んでくれればちゃんとお菓子はあげます、と伝えておいてくださいね」

 我らが担任であり、真面目人間、高崎博ひろしは噂によるとこの企画自体を好ましく思っていないそうで、こうして毎年被害を最小限に留めているのだとか。

 汚いなさすが高崎きたない、と言いたいところではあるが、関わりたくないと本心で思っている以上、俺は口出しする気はない。

「先生、今年のお菓子は何ですか?」

 クラスで一番の大食漢――という訳でもない伊賀、だか伊藤だかが声を上げる。ふむ、確かに伊達の言うことも尤もだ。気になるところではあるが……。

「それは明日になるまで秘密です」

 高崎は表情を変えることなく、事務的にそう告げる。

「では、今日はこれで終わりです。明日に備えて寝るも良し、勉学に勤しむも良し。自分が正しいと思う行動を心掛けてください。――ああ、あと」

 日誌を持ち、教室から出てい行こうとした高崎が足を止め、連絡事項を告げる。

「既に知っているかと思いますが最近この付近で野犬が目撃されているそうです。昼間はともかく夜間の外出はいつも以上に控えるように。それでは」

 今度こそ姿を消したことを全員が確認すると、教室中がまるでゲームセンターになったかのような錯覚に陥る。

「ねえねえ、明日誰狙う?」

「そんなことより、みんなは服どうした? 作った? 買った?」

「買ったにきまってるじゃん。面倒くさくて作る気にならないってー」

「だよねー。通販さまさまだよねー」

「恭子、何に仮装するんだっけ? 人面魚?」

「ちょっとー、違うってばー。私はマミーよ」

「え、首ちょんぱの? じゃあ魔法少女?」

「違うって。包帯男よ、包帯男―。あれ、包帯女っていうの?」

「知らないわよー」

 というかうるせえ……。

 ワイワイガヤガヤしやがって。用事がねえならさっさと帰れよ、嘘吐きども。

 ま、俺はもう帰るんで別に良いんですけどね!!

「あの、天原くん!!」

 そう自分の中で決着をつけて帰宅しようとすると、後ろから誰かに呼び止められる。

 ちなみに、この『誰か』ってのは深い意味はなくて単純に誰だかわからないってだけのこと。嘘吐きの名前なんざ努力して覚える気にもならん。

「……何?」

 愛想など一欠片も添えることなく振り向くと、声をかけて来た……名前は忘れたが確か通算十三回嘘を吐いた女子生徒がこちらを見上げて立っていた。

「え、えっとあの……去年の、こと、なんだけど……」

 手をもじもじさせてポツポツと喋り出す十三回(仮)。

 ううむ、苛々するな。さっさと用件だけお願いしたいところである。

「天原くん、は……悪魔、だった、よね? 衣装が……、その凄くて、その私……、えっと……」

「ストップ」

「え……」

「簡潔に頼む。早く帰りたいんだ」

 明日の衣装の最終チェックがまだ終わってないのだ。たとえ面倒な行事であっても全力で取り組むのが俺のスタンスである。そうしておけば何かと都合が良い。

「あ……、ご、ごめん」

 俯く十三回。だからそういうのは後で良いじゃないか。本題を、はよ。

「だ、だか、ら……今年も、頑張って、ね?」

 何故最後が疑問形なのかとか、何故応援されているのかとかは気になるところではあるが、取り敢えず彼女の話は終わったようだ。

「……話はそれだけ、だよね?」

「え、あ、う……ん」

「そう」

 やれやれ、やっと帰れる。

「おい、天原ッ!!」

 そう思い、再び教室に背中を向けたのだが、今度は別の声が投げかけられた。

 今度は誰だ、そして何の用だ?

 一回目とは違い、僅かに苛立ちの表情を浮かべながら振り返る。

「アンタ、もうちょっと愛想良くできないの!? 香織かおりが可哀相じゃない!!」

 墳怒の表情で十三回を庇うように立つ人物は――誰だっけ? ああ、そうだ、五十四回(仮)だ。俺と同じか、それより少し高い身長を持つ彼女は威圧的に俺へと詰め寄る。

「可哀相? 何が?」

 それにしても皆目、見当がつかない。一体何が可哀相だというのか。

「わかんないの!? 友達いないアンタに折角話しかけてあげてんのよ!? ありがとうぐらい言うべきじゃない!?」

「…………ふうん」

 話しかけて『あげてる』ねえ……。

「ち、千佳ちかちゃん、わ、私そんなつもりじゃあ……」

「香織は黙ってな!! 良い機会よ、一回言ってやった方がコイツも――」

「あのさ、俺、話しかけてほしいって頼んだこと、ないよな? 頼んでもないこと勝手にされて嬉しいか?」

 それじゃあ、押し売りと同じじゃねえかと素朴に思うんだが。

「ッ!! アンタ――」

「「あー、はいはい、ストップストップ!!」」

 と、そこで。

 激昂し、手を振り上げた五十四回と俺の間に龍平と美咲が割り込む。

「どきなさいよ、桐村!! 美咲まで!!」

「俺がどいたら、上原さん頼人殴っちまうだろ? 暴力はいけねえって」

 そう言いながら龍平は五十四回の肩に手を置き。

「それに殴るなら千佳じゃなくて香織じゃない?」

 美咲は彼女の振り上げた腕を抑えていた。

「だって!!」

「明日は祭りだぜ? Partyだぜ? ギスギスすんのは勘弁してくれ――っておい、頼人!! お前も待てって!!」

 ちぃ……、注意が龍平と美咲に集中している間に下校してしまおうという目論見だったのだが、発見されてしまった。

「ア・ン・タは何帰ろうとしてんのよ!!」

「あだだだだ!!」

 コブラツイストで俺の動きを封じ、かつ背中やアバラを責める美咲の腕をタップし、ようやく自由を得る。

「ほら、千佳もこれで良いでしょ? 罰は受けたんだから。香織が気が済まないっていうなら香織も一発いっとく?」

「……わかったわよ」

 渋々といった様子で首肯する五十四回。そして十三回といえば。

「い、いや大丈夫!!」

 怒りが治まったというかそもそも彼女に攻撃の意思はなかったようで、ブンブンと猛烈な勢いで首を横に振っていた。

 ふう、今度こそ帰れそうだ……。美咲に絞められた箇所をゴキゴキと慣らし、教室の外へ。

「ちょ、頼人も謝――」

「じゃあな」

 龍平の言葉を遮って『二人に』そう言い残すと、俺は明日怪物の巣窟となる学び舎を後にした。



『アホか、お前は!!』

 衣装の最終チェックが終了した午後十時頃。電話に出た俺の鼓膜を強襲したのは龍平の怒声だった。

 まあ、それも致し方ないだろう。毎度のこととはいえ、尻拭いをさせてしまっているのだから。

「『オマエら』には悪かったとは思ってるさ」

「ったく、なら少しは自重してくれよ……。そりゃ昔に比べりゃ、手が出なくなった分、まだマシだけど。愛想を振りまけとは言わねえから、もう少し柔らかく対応してくれ。俺と美咲のためにも」

 心底疲れた声で龍平はそう訴える。

 むう……、二人のためと言われると断れないな……。

「わかった次からは努力する。……努力はする」

「ああ、頼むわ。つーか、この埋め合わせは明日絶対にしてもらうからな!!」

 最後にそう言い残し、龍平との通話が切れた。

「何かあったのー?」

 風呂上り、俺のベッドでごろごろしながら缶コーヒーを飲むイアが声をかけてくる。

 何だかんだでコイツも缶コーヒーの美味さにハマったらしい。実に美味しそうに飲んでいる姿を見ると俺ももう一本飲みたくなってくる。というかここ最近、正確にいうと九カ月くらい飲んでいない気がするのは何でだろう。

 っと、余計なことを考えてしまった。

「いや、別に大したことじゃない」

 そう、大したことではない。嘘吐き共とのいざこざなど話す価値もない。

「なら、良いけど……」

「……オマエが気にしなきゃならないのは明日のことじゃないのか?」

「え!?」

 ベッドから勢いよく飛びあがり、驚愕の表情でこちらを見るイア。思わずこちらも驚いて身体をビクッと震わせる。

「な、何で知ってるの?」

「いや、そりゃ知ってるだろ」

 イアがお菓子に興味を持っているのは、いまさら確認するまでもないことだし。それに作戦会議のときの喰いつきからも明らかだ。

 つまるところ明日俺が持ちかえるお菓子の量が気になって仕方がないのだろう。家でそわそわと待っている彼女を想像すると自然とにやけてしまう。

「そっかー、知ってたんだ。吃驚させようと思ってたのに」

「その程度のことで俺が吃驚すると思ってたことに俺は驚いてるよ……。ま、精々頑張るから期待しとけ」

 去年よりはマシな結果になる筈だからさ。

 そんな呆れた顔をした俺とは対照的にややはにかみながら、イアは笑う。

「へへ……、流石はパートナーだね。私のことよくわかってる」

「おう、任せとけ。ところで俺はもう明日に備えて寝るけど、イアはどうする?」

「ん。じゃあ、私も明日に備えて寝ちゃう」

 そう言うとご機嫌に俺の部屋を後にするイア。恐らくは歯を磨きに行ったのだろうが、ううむ何か引っかかる。

 明日に備えて?

 早めに寝て、朝から運動することで腹を減らしておくつもりだろうか? そんなことをしなくても常に空腹イアさんの癖に?

 疑問は絶えなかったが、こうしていても仕方がない。一分でも長く睡眠をとるためにもいまは早く寝ることだ。

 いつ、またあの夢に魘されるか、わかったものではないのだから。

 明かりを消し、ベッドに入る。

 かすかに聞こえる犬の遠吠えを聞きながら。

 そして入りたての布団特有の冷たさと、頭を優しく包む枕の感触を味わいながら。

 いつ目覚めるともしれない眠りへと誘われていった。


 よっくん、UZEEEEEッ!! どうも、久安です。

 いやあ、こんなヤツクラスにいたらハブられること間違いなしでしょうな!! 書いていて「うわぁ……」とか思ったのでこれでも少し対応をソフトにしたのです。でも、結局嫌なヤツですね。(遠い眼)

 ただ、今回は龍平や美咲といった関わりの深い相手ではなく、頼人くんが心底どうでもいいと思っている人間に対してどんな感じなのかを書く必要があるかなと思ったので避けては通れぬ道だったのです。できれば彼を嫌いにならないでやってください。


 言い訳めいた後書きで申し訳ありません。見苦しいのは承知していますが、これだけは言っておきたかったので。


 次回更新予定は11月9日 10時です。

 トばすぜ、兄弟ィ!!




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