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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ザ・デイ・オブ・マイ・コンパトリオット
51/213

現在の自白人

『鉄人』からの帰り道。

 俺は糞ジジイに興味を持ったイアに根掘り葉掘り、その関係について詰問されていた。 正直、無視しても良かったのだけれど、文字通り彼女を視界から無くしてしまっても良かったのだけれど。

「ちなみに車は何台壊したの? ねえ、ねえ?」

 その度に人の黒歴史を掘り返すこの魔女を無視することは極めて困難なのである。

 そういう訳で俺は観念して、家に着くまでという時間限定で色々と話してやることにした。

「というわけでヨーイ、DON!!」

「えっ? えっ!?」

 戸惑いの表情を浮かべるイアを置き去りにする形でその場から走り去る俺。

「う、嘘吐き!! 話してくれるって言ったのに!!」

 慌てて追いかけながら俺に罵声を浴びせるイア。それを確認した俺は大声で応える。

「ふははは!! 馬鹿め!! 家に着くまでと言っただろうが、その間歩こうが走ろうが俺の自由だ!!」

「ズ、ズルイ……!! 卑怯だよ!!」

「卑怯!? 悪魔!? 鬼畜生!? 人非人!?」

「そ、そこまで言ってないし!!」

「はッ、大いに結構!! 俺は嘘吐きにさえならなきゃ別に構いやしねえんだよ!!」

「男らしく、それでいて最低な台詞言ったね、いま!!」

「そんなことより良いのか!? 言い合いしてる間に家に着いちまうぞ!?」

「ああ、しまったッ!? まさか、これも計算のうち!?」

 今度は彼女の言葉には答えず、顔を後ろに向けニヤリと微笑む。

「悪魔!! 鬼畜生!! 人非人!!」

「あ・り・が・と・う、最高の褒め言葉だ!!」

「うわあーん!!」

「ふははははははは!!」

 何て心地良い。ここまで全力で走るのはいつ以来であろうか。確か高校に入ってすぐの――。

 リズムよく動かしていた手足はその軽快さを失い、徐々にスピードも失われていく。そして俺の最終形態は四つん這いと相成った。

 ここまで育った人間がアスファルトの上で四つん這いになっている光景は中々見物みものだったようで商店街を行き来する奥様方から嫌な注目を浴びてしまっていたが、ああ、そんな些細なことはどうでも良い。

 いまは自ら古傷を抉じ開けてしまった自分をひたすら罵りたいという想いしかない。

 最後に全力で走ったのは人の車ぶっ壊して警察から逃げたときだったよ、コンチクショー。

「頼人のバカァ……。ひっく……、脚フェチィ……ぐすっ……!!」

「……もっと罵ってくれ」

「うう……、アホォ……、頑固者ぉ……」

「もっと、もっとだ!!」

「ど、ド変態ィー!!」

 地面に四つん這いの状態で罵声を求める高校生と、泣きながらその要求に答える白髪美少女。

 俺たちが互いに冷静さを取り戻し、この光景の異常さに気づいたのは五分という、いつもなら短い、しかしいまの俺たちには途方もないくらい長い時間が過ぎてからのことだった。


「……俺、いまなら死ねると思うんだ」

「……流石パートナーだね。私もおんなじ気持ちだよ……」

 夕暮れが迫るなか、俺とイアが逃げ込んだのは人気のない公園。数ある遊具の中からベンチ役に選んだブランコに腰かけ、二人黄昏れていた次第だ。

 だが、まあずっとこうしていても仕方がない。萎びた心に何とか渇を入れ、立ち上がる。

「イア、帰ろう」

「……やだ」

 彼女は力なく首を横に振り、頑としてブランコから立ち上がろうとはしない。

「ここまで恥をかいたんなら頼人の話を聞かないと帰りたくないよ」

「ええー」

 そんなに俺とあのジジイの関係が聞きたいのかオマエは。面白くも、そして特にどんでん返しがある訳でもないぞ?

 しかし、頑なに俺を見上げるイアは本気で動きそうにない。彼女のその意思を読みとった俺はため息を吐きながらも、再びベンチに座りなおし、何処から話し始めるかを思案する。

「実はさ、俺がこっちに来て初めて喧嘩ふっかけたのがあのジジイなんだよ」

 俺自身、記憶を探りながらなので、取り敢えず事実を並べていく。

「……ちなみに喧嘩の理由は?」

「さっきと同じ嘘だ。そのときは五千万とか言われた」

「………………」

「黙んなよ!! 俺だって自分でちょっと引いてんだから!!」

「あはは……。それで? どうなったの?」

「俺がぶん殴る前に、店の外まで吹っ飛ばされた。あんときは腹パンだったからな……、二、三日飯がまともに喰えなかったぜ……」

 後で病院に行ったらアバラ数本に罅が入っていたらしいことは伏せておこう。新たな友人を増やしたイアがジジイに怯えては可哀相だ。

「へ、へえー……」

 そう言っても既にジジイの人外加減にうろたえているようだが。

「んで四日後にまた『鉄人』に行った」

「早っ!? え、やっとご飯食べれるようになったのに!?」

「ああ、そんなことより嘘を認めさせる方が大事だったからな。そこはいまの俺も変わらぬスタンスを貫いているぜ。とまあ、それは置いといて、だ。結局また惨敗だったんだわ」

「……今度は何処やられたの?」

「顔面。右頬が腫れまくって、同級生でも誰だかわからなかったことだろうさ。それでも俺は「鉄人」に行った。行きまくった。んで毎度ボコボコにされて帰ってきた」

 十回目ぐらいから店内に足を踏み入れるとき、脳内にボス戦のテーマが流れるようになったんだよなあ。やたら重低音の荘厳なテーマ曲。

 よくもまあ、あんな不吉な曲がかかっているにも関わらず、勇者一行は臆することなく戦えるものだと感心する。俺はまた相手が(かろうじて)人だから何とかなっているものの、アイツら第二形態、第三形態を残している化け物と戦っている訳だからな。勇気とかでどうにかなる次元を超えていると思うんだが……。

「ねえ、それから、それから?」

「ん、ああ……、確か二十回を超えたあたりで、人を紹介されたんだ」

「人?」

「龍平と美咲だよ」

 ゆったりと何でもないことのように俺はそう口にする。

「きっと何度もボコボコにされに来る俺が鬱陶しく思ったんだろうな。『俺んとこに来るくらいならコイツらと遊んでろ!!』って言われたよ」

 いま思えばその人選はこれ以上ないほど的確だったが。龍平も美咲も、鉄人の常連……という訳ではなく、店の前を歩いていたところをジジイに確保されたに過ぎない。しかし、実際に一緒に何かをしてみるとこれがジグソーパズルのように上手く嵌った。

 そしてそれから何度も行動を共にするうちに、いまのような関係に落ち着いたのである。

「言っちまえば、俺を龍平と美咲に引き合わせた張本人なんだよ、あのジジイはさ。だから俺にとっては、嘘を良く吐く怨敵でもあり、荒れてた当時の俺をいまの状態にまで引き上げてくれた恩人でもあるんだ」

 それを自覚したときから敬語を使うように、だが彼が嘘吐きであることは変わりなく、僅かばかりの抵抗としてジジイと汚い言葉で大鉄を呼ぶようになったのである。

「さ、ちゃんと話したろ? 日も暮れてきた、さっさと帰ろう」

「……ふふ」

「何だよ?」

 さっきまでとは打って変わってえらくご機嫌になったものだ。一緒に暮らしている身としてはそちらの方が勿論良いけれど。

「やっぱり大鉄のおじいちゃんは良い人だったんだなあと思って!! 頼人の友達だからきっとそうだと思ってたけど、やっぱりそうだった!!」

 そう言うとイアはブランコから飛びあがり、夕陽を背中にしてこちらを向く。靡く髪もそのままに満面の笑みを浮かべる彼女の姿は――。

 息をのむほどに、ともすれば畏怖を覚えるほどに美しく。

 しかし何処か儚げで、ともすれば霞のように消えてしまいそうで。

 俺は無意識にイアに手を伸ばしていた。

「――頼人?」

「ああ、いや……」

 手を伸ばした理由が上手く言葉にできないでいると、寒空の下に晒されていた俺の手が温かいモノに包まれる。

「――――」

「あれ? 違ったの?」

 俺の右手を両手でギュッと握ったイアが小首を傾げてそう問いかける。「違う」と否定しかけてその口を噤む。

 ああ、そういえば。

 いつも一緒にいるから忘れがちだけれどイアだって同じじゃないか。

 俺を泥沼から更に引き上げてくれた恩人。こうして手を掴んで、息が出来る場所まで連れてきてくれた。

「いいや」

 自分がいまどんな顔をしているのかはわからない。

 でも。

「帰ろう、イア」

「うん!!」

 もし幸せそうな、穏やかな笑顔を浮かべることで、この小さな恩人に少しでも報いることができるのなら。

 きっと自分はそんな表情をしているんだろうと思う。


 まだ風邪が治りません、久安です。

 元気なあの頃がなつかしい……。早く治したいものです。

 少しですが語られた三人の出会いの場面。ここまで波長が合う人とは中々出会いませんが、いつかそういう友人ができれば生活はより楽しくなることでしょうね。羨ましいものです。

 では、無駄口はここまでにして養生致します。

 

 次回は11月7日 10時更新予定です。いつもと更新ペースが異なりますのでご注意ください。

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