表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ザ・デイ・オブ・マイ・コンパトリオット
49/213

心中異悶

「はい、ということでね。我が豊泉高校のハロウィーンが近づいて来ている訳なんだな、これが。うん、で俺たちが頼人の家にこうして集まっているのは他でもない、どうやって大量の菓子を教師から奪い取るかの相談をしているんだが――」

 そこで龍平は一旦口を噤み、俺をキッと睨みつけ、怒鳴る。

「ちったあ、やる気を出そぉおぜぇえ、狼男さんよおぉぉおお!?」

「うるせえなあ……。ご近所さんに迷惑だからもうちょっとボリュームを落とせ」

 テレビの前でニュースを見ていた俺は眉に皺を寄せ、大音量の発信源に向かってそう呟いた。

「おっほ、チームの協調性をなんとかしようと頑張った幽霊さんに対して随分辛辣だなあ、オイ!!」

 ああ、もうだからうるせえって。

 これ以上怒鳴られても困るので渋々テレビの電源を消し、テーブルへと移動する。我が家のテーブルを囲うのは俺、イア、龍平、美咲の四人。何について話し合っていたかは先ほど龍平が言った通りだ。

「お!! いいねえ、その姿勢、その意気!! こりゃあこの龍へ――おぶッ!?」

「いつまで胡散臭い業界人みたいな話し方してんのよ、気持ち悪い。まだ続けるんなら今度は鳩尾いっとく?」

「すいません。調子に乗りました。二度と致しません」

「よろしい」

 おお……流石は美咲。一撃で龍平を黙らせるとは。と、漸く場が静かになったかと思ったら、今度は別の音源が発生することになった。

「美咲、すごーい!!」

「……そ、そう!? うぇへへ……。だ、だったらあたしもっと頑張っちゃおうかな!!」

「ごふッ!! カハッ!? ちょ、みさ――おうふッ!!」

 イアの歓声を受け、調子に乗った美咲は尚も龍平の急所という急所を打ち続ける。

 やめて!! 龍平のライフはとっくにゼロよ!!

「美咲、オマエの今回の衣装は!?」

「え、黒ね――はぁ……」

「ああっ!? 美咲が急におばあちゃんみたいになっちゃった!!」

 おっし、取り敢えず救助には成功したぜ。後は――本人の生命力次第ですな。

「よ、頼人……」

「おう、どうした?」

 今際の際の一言なら聞き届けてやるぞ?

「み、美咲の黒猫姿だけは……是非このカメラにっ――うがあッ!!」

「死ねえ!!」

 聞き届ける前に復活した美咲が龍平を後ろから羽交い絞めにした後、後方にブリッジの体勢のままフォールする。

 あ、あれは飛龍原爆固めッ……!! 美咲のヤツ、マジで龍平を殺す気じゃねえか……。だがイイモノを見させてもらったぜ、――二重の意味で。

「…………、美咲パンツ見えてんぞ?」

「ッ!? あんたも逝けえ!!」

「おっと!!」

「えッ!?」

 美咲の突撃を難なくかわす。

 こちとら何度も命のやりとりしてんだよ。女子高校生のスープレックス如き避けられねえ訳ねえだろうが。

「ほれほれ、バカやってねえで席につけよ。作戦たてるんだろ?」

「え、ああ、うん……」

 余程技を避けられたことが意外だったのか呆けた表情のまま、すとんと椅子に座りこむ。

 うむ、これで当面の危機は逃れられたな。

「ほら、龍平もさっさと起きろ。大体オマエが言いだしっぺだろうが」

「まさかの足蹴!? こちとら首やられてんすけど!?」

 そうブツブツと文句を言いながらも席に着く龍平。

「あだだ……、じゃあ取り敢えず去年のハロウィーン・イン・豊泉の結果から――」

「あのー」

 いよいよ作戦会議がちゃんと始まったにも関わらず、それを遮る輩が一人いた。まあ、それは当然イアな訳だが。

「私、そもそもその……、はろうぃーん? なんとかがイマイチよくわからないんだけど……」

 ですよねー。

 という訳でまずはイアにハロウィーン・イン・豊泉がどのようなものであるかを教えることになった。

「ま、そんな難しいもんでもねえけどな。簡単に言えば鬼ごっこだし」

「鬼ごっこ?」

「そ。三時間っていう制限時間内に、教師を生徒が追いかける学校の敷地内全部を使った鬼ごっこ。ハロウィーンってだけあってどっちも仮装しなきゃならねえのが面倒くさいんだが」

「そうそう。でも生徒が教師を捕まえられると、素敵なモノがもらえるのよ」

 美咲はテーブルの上に身を乗り出し、イアの目の前に一指し指を立てながら言う。

 ああもう、まったく余計なことを……。

「素敵なモノって?」

 ほうら食いついてきた。勘弁してくれよ、イアは自分の知らないことだったら何でも興味津々なんだから。

 しかも、今回は更に運の悪いことに。

「ほっぺたが蕩けそうな、お・か・し」

「!!」

 俺や龍平にとってはなんてことない賞品がイアにとっては眩い光を放つ宝石よりも価値のあるモノだったのだ。

「お、お菓子!? お菓子が貰えるのッ!?」

 目をそれこそキラッキラさせてイアは椅子から弾けるように立ちあがる。

「ええ、そう!! 私たち女の子にとって天使にも死神にもなり得る存在!! お菓子が貰えるのよ!! 上手くやれば両手いっぱいのね!!」

「両手……いっぱい…………」

「うおぉい、涎!! 取り敢えず涎をしまえ!!」

 イグアスの滝みてーになってるから!!

「あっはっは、イアちゃんは面白いなあ。でもあんまり期待し過ぎるのはやめといた方が良いと思うぞ? 教師によって当たり外れがあるからなあ」

「ああ、そうだったな……」

 去年、やっとの思いで捕まえた古文の山元は煎餅だった。しかも大袋ではなく、小袋タイプのヤツ。時間を返して欲しいと真剣に思ったのはあのときが初めてだ。

「龍平、それは間違ってるよ」

「? 何が?」

「お菓子に貴賎なし!! 私は煎餅だろうが、マシュマロ一個だろうが平等に愛せるよ!!」

「「「…………」」」

 流石にこれには美咲も笑顔が少々引き攣っている。パートナーとして俺が言えることは。彼女は真剣なので大目に見てやってほしいということだけだ。

「早く作戦考えよう!! もうこのときから戦いは始まってるんだよ!!」

 鼻息荒く、バンバンと机を叩くイアの姿は正直見てられなかったが、日頃俺を支えてくれてることを考えると無下にもしがたい。

「はいはい……、んで去年の結果はどうだったっけ?」

「三人合わせて十個だ。ああ、言っとくけどそのうちの三個は煎餅三枚だからな? んで我らが担任の高崎がクラスのやつら全員に配ったので更に三個」

「ああ、色んな味のう○い棒を配ってたわよね、高崎先生……」

「じゃああとの四個は?」

「んーと、確か生物の井内からガムを三個かっぱらって……、最後の一つは……、ああそうか……」

 俺は何てことを思い出してしまったのか。

「ど、どうした頼人? 何でそんな遠い眼をしてるんだ?」

「な、何を思い出したのよ?」

「…………拾った」

 最後の一つは教師を捕まえて勝ち取ったのではなく。

「廊下に落ちてた棒付きアメを拾った」

「……Oh……」

 嫌な沈黙がリビングに広がる。

 去年の俺らハズレと施しばっかじゃねえ? と口にしようとしたが流石に止めておいた。これ以上、ジメジメした空気を我が家に蔓延させたくない。

「ま、まあそれは去年の話でしょ? 今年はきっと大丈夫だよ!!」

「そ、そうだよな。イアちゃんの言う通りだぜ。何で始める前から負け戦みたいになってんだ? おらおら二人とも情報を整理すんぞ!!」

 元気だな、龍平は。俺はまだ去年の惨めさを思い出して打ちひしがれているというのに。ほら美咲をご覧? コイツも絶望にうち震えて――。

「そうよ、今年のあたしは一味違うわ!! イアちゃん見ててね、あなたのために頑張るから!!」

 美咲も元気一杯だった。どうやらさっきのは武者震いだったらしい。

「はぁ……、元気だねえ、お前らは」

「頼人、覚えておきなさい!! 人は誰かのためならいくらでも強くなれるのよ!!」

「………あ、そうっすか」

 出来ればもうちょっといい場面で聞きたかったな、その台詞。こんな学校イベントに使うのは勿体なさ過ぎやしないか?

「ええい、五月蠅いわね!! いいから今度はターゲットを絞る!!」

 パンパンと手を叩き、俺と龍平にそう促す。

「絞るも何も、去年残念菓子だった山元、高崎、井内の三人を除外する以外に何かあんのか? 他に誰がどんな菓子持ってたかなんて知らねえぞ?」

 だって俺お前らの他に友達いねえもん。

「ふっふっふ、任せろ頼人!! お前に友達がいねえことくらい知らねえ俺たちだと思ったのか? しっかり準備してあるっての!!」

「ちゃんとあたしたちの友達から情報は仕入れてあるわ!! 友達のいない頼人に代わってね!!」

「……そりゃ、どーも」

「頼人……」

 顔を上げるとイアが哀れみの視線をこちらに向けていた。

 オマエもコイツら以外に友達いねえじゃねえかと言おうとしたが、それは俺が一人で外に出るのを極力控えさせているからだしなあ……。イアの社交性なら確実に俺よりも充実した学校生活を送れることだろう。

 ま、別に羨ましくはないけれど。

 オマエらみたいに嘘を吐かない人間以外と普段から付き合ってるとこっちがストレスでおかしくなっちまう。いや、元々他人の嘘がわかるって時点でおかしいんだけどさ。

 そこでふっと俺の心が翳る。

「去年同じ生物担当でも小林の菓子は凄かったらしいぞ。樋口の情報によればロールケーキ一本丸々くれたらしい」

「あ、それあたしも聞いた。でもそれって丁度その時期に彼氏が出来て舞い上がってたかららしいわよ? 今年はその彼氏と別れて一人身みたいだし、あんまり期待しない方がいいかも」

「超個人的な理由だな、おい……」

「それより現国の日高先生はどう? 毎年それなりのお菓子をくれるみたいだけど」

「んー、でも競争率高そうじゃないか? そんなの、みんな知ってるぜ、きっと」

 二人の会話をBGMに俺は思考の海へと沈んでいく。

 まだ、あの嘘が理解できない。

 リーンハルト。リーンハルト・デーレンダール。

 俺と同じく神様と契約し、人造端末を与えられた人間。しかし、その仕事内容の殆どは俺のように禍渦を破壊することではなく、禍渦の影響を受けて精神に異常をきたした人間を殺すこと。

 血を血で洗う殺戮人形。神様の命を忠実に実行する遂行者エグゼキューター

 いや、そんな安い肩書などどうでも良い。

 俺を悩ませているのはアイツの吐いた嘘なのだから。

『――はは、嬉しいね。また皆殺しのオーダーだ』

 あのとき俺に言ったあの言葉。

 あれは間違いなく嘘だ。これまでの経験からわかる。

 しかし、あれから一カ月以上経ったいまでも、その嘘を吐いた理由が俺はわからないでいる。

 あの嘘は何のために吐いたんだ?

 自分の為?

 ――いいや、違う。殺人嗜好を持っているかのように振る舞って自分を騙しているのだとしたら、殺す相手に自分を恨むように仕向ける暇なく、躊躇いなく、草食動物を目の前にした肉食獣のように嬉々として殺さねばならない。ましてや死ぬ人間を最小限に留めようなど以ての外だ。

 ならば他人の為?

 ――いいや、それも違う。あの場には俺とアヴェルチェフしかいなかった。異常者を装う理由など皆無。まず、あり得ない。

 なら、どうして?

 そうして解答に行き詰ったときに響くのはいつもの声。ノイズ混じりに直接頭に聞こえる誰かの声。

 ――ドウデモイイダロウ、ソンナコトハ?

 いいや、よくない。

 ――ダッテ、ソンナコトカンケイナイジャナイカ。

 ……関係なく、ない。

 ――イイヤ、カンケイナイネ。ダッテ――。

 だって?

「ちょっと頼人!! ちゃんと聞いてる!?」

 美咲に頭を小突かれたことで、俺は現実に引き戻される。

「……あー、悪い。聞いてなか――ったって、オマエなんで俺の背後に!?」

 考えに没頭していたせいか全く気付かなかった……。

「お仕置きよ!! さっき避けられた分もひっくるめて――」

 そう言って美咲は俺の両手首を掴む。

 え、ちょ、オマエこれは――。

「逝けぇええええ!!」

「おぶあッ!!」

 ――リバース・ダブルリストアーム・サルト……。まさかそんな技まで身につけていたとは……。

 朦朧とした意識のなか、気絶するのを俺はなんとか堪える。まだだ。まだ彼女にこの言葉を伝えていない。

「……美咲」

「何よ!!」

「……ナイス。イイモン……見させてもらう……ぜ」

 親指を天に向け、そこで俺は瞼を閉じる。

「「よ、頼人ー!!」」

 イアと龍平。二人の叫びを聞きながら、俺は再び彼女に感謝の言葉を捧げる。

 ありがとう。

 ありがとう。これでやっと寝れそうだ。

 寝て、無意識にあの嘘の答えを考えて、声にうなされて、起きる。

 ここんとこずっとそうだったからな。流石にこれ以上は限界だ。これだけ衝撃を与えてやれば、『何に』魘されてもそう簡単には起きないだろう。

 それじゃ、悪いが。

 少し眠らせて貰うわ。

 願わくは良い夢が見れますように。

 後頭部に広がる心地良い温もりに包まれながら、そうして俺は眠りに落ちた。



「あ、あちゃー、少しやり過ぎた?」

 美咲はそう言いながら、私の膝の上で眠る頼人を心配そうにのぞき込む。

「ううん、大丈夫だよ」

 寧ろ、ありがとう美咲。方法は乱暴だったけど、何にしても頼人が休むことができたよ。

 深く眠りについた頼人の頭を撫でながら、口には出さないけれど彼女にそう礼を言う。

 先月のロシアでの一件から頼人が何やらおかしくなっているのは気づいていた。あれ以来、仕事中もたまに上の空になることがある。

しかし気づいてはいても私には何もできない。

 いや、何もさせてくれない。

 理由を聞いても彼は何も教えてくれないのだ。

 私に話さないのは何か理由があってのことなのか、それとも単に話したくないだけなのかはわからないけれど。

 ……あてにされてないみたいで何か腹立つ。

「イ、イアちゃん……?」

「え?」

 気が付くと私は苛々の原因となった人間の頬を両手でグニグニと押しつぶしていたようで龍平が戸惑った顔でこちらを見ていた。

 いけない、いけない。

 今度は自分の頬を押しつぶして自制する。

 頼人がグラついてるときに私までやけになったらお終いだ。

 いま私にできることは何もないかもしれないけど、頼人が話してくれたときに支えられるようにしておかないと。

 だから、いま私がすべきことは――。

「美咲!!」

「は、はいッ!!」

 急に名前を呼ばれたからか彼女は身体を飛びあがらせ、こちらに向き直った。……その後ろで龍平が「俺は? 俺は?」みたいなジェスチャーをしていたので、それに曖昧な笑みを返して再び美咲を見据える。

「この間の話、受けようと思うんだけど……」

 その言葉を聞いた二人の反応は互いにかけ離れたもので。

 一人は首を傾げ。

 もう一人は満面の笑みで飛びあがった。

 ……どっちがどっちかは言うまでもないだろう。

 私は苦笑しながらも、もう一度、膝の上で眠る彼の頭を撫でた。


 ハロウィン開催です。お祭り騒ぎです。

 前回がアレだった分、今回は出来得る限りの馬鹿騒ぎをしたいと思います。コンセプトは『こんな行事があったら楽しかっただろうなあ』。

 『ザ・デイ・オブ・マイ・コンパトリオット』、お楽しみ頂ければ幸いです。


 次回は11月1日 10時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ