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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ジ・インビテイション・フロム・ルサルカ
46/213

偽りの伝承

 玖尾の協力によってイェジバに到着すると同時にアヴェルチェフとはすぐに別行動をとることになった。彼の言葉を借りれば、「確かめなければならないことがある」ということだ。

『何を確かめるのかは大体わかるような気がするけどな』

「え、そうなの?」

 ちなみに俺とイアは同位したまま。これは、またいつ俺に禍渦が干渉してくるかわからないためだ。用心するにこしたことはない。

 アヴェルチェフに紹介してもらった人物に午前零時という非常識な時間ではあったが霊泉スコトゥーハに関係する伝承を教えてもらった俺、――身体はイアだが――はいま、アヴェルチェフの家の屋根の上で今回の禍渦の核を破壊する方法を思案していた。

 しかし――。

 禍渦の名前、形状、執着、力、そして伝承そのもの。

 これほどの情報が集められているというのに、その作業は難航していると言っていい。 というのも教えてもらった伝承では禍渦が消滅したという記述が一切ないのである。

 今回、禍渦の元になった伝承はざっくり説明すれば人魚姫のようなものだ。

 人間の男に恋をした泉に住む精霊が、魔法の力で人間に変身し一時の甘い時間を過ごす。だが、その男は別の女に心を奪われ、精霊のもとを去ってしまう。

 悲嘆にくれた精霊は変身を解き、再び泉で時を過ごしていたが、その身体は日に日に弱っていった。

 そしてある日、悪魔が取引を持ちかける。

『また、男と一緒に時を過ごしたくはないか』と。

 その代償は精霊の美しい眼。精霊ははじめその申し出を拒絶していたが、孤独に耐えられなくなったのかついにその取引を受け入れてしまう。

 悪魔の力で男を意のままに操り、再び幸せな日々を送っていた精霊であったが、男が自分に向けているのが真実の愛ではないことに気づいた彼女は何処か空虚な想いを徐々に抱き始める。

 そして最後には自分の行いの愚かさを認め、男を解放し自らの命を絶つことを決意した。

 彼女が泉で一人消えゆく様を見ていた神は彼女を哀れに思い、新たな役目を与え、精霊の命を救うことにする。

 そして生き永らえた精霊は同じような誘惑に負ける人間がでないよう泉の守護者としていまも一人、人々を守り続けているという。

 とまあ、こんな話。

 今回の禍渦とは恋に起因するという点では類似しているといえるが、その他は殆ど別物だ。だが、他に泉にまつわる伝説はないかと聞いたところ、そんなものはなくこの話一つだけだという。

 破壊方法が記されていないだけでなく、そもそも伝承といま起こっている事態とが違っている。初めはこの話を教えてくれた男が嘘を吐いているのかとも思ったが、そういう訳でもなかった。

 となると考えられるのは後世に伝えられる間に話そのものが徐々に捻じ曲げられてしまったということである。何ともやっかいな話だが、これならば現在の人間が信じ切っているため俺の力でも嘘であるということがわからない上に、いまの状況と食い違いが生じている理由にもなり得る。

『面倒くせえことしやがって……。原書みたいなもんもなかったし、完全に『話の原型』が揉み消されちまってる』

「うん……、折角あの人が私たちを逃がしてくれたのにね」

 そう。俺を苛立たせているのはあれから随分経ったいまでも玖尾がその姿を見せないことである。

 まさか、やられたんじゃないだろうな……。

 そんな嫌な考えを頭から追い出した直後、突如ポケットに振動が起こる。どうやら携帯に誰からか電話がかかってきているらしい。

「あ、電話だ。はい、もしもし」

『おい』

「え?」

 いや、「え?」じゃねえよ。オマエ前にも勝手に電話に出て問題起こしただろうが。電話に出るのは百歩譲って良いとして、せめて誰だか確認してからにしてくれよ。

『あれ? イアちゃん?』

 受話口から聞こえてくる聞き慣れた声。幸いなことに電話をかけてきた相手は俺のクラスメイトにして数少ない友人の一人である桐村龍平のようだ。

「あ、龍平だ」

 イアも相手が龍平だということがわかったようで、何処か嬉しそうな声を上げる。

 ああ、そういやイアが普通に話せる友人っていったらコイツと美咲くらいなもんだもんな。そりゃ嬉しくもなるか。

『お、おお……確かに俺だけど。いまイアちゃん一人? ていうか頼人はどうしたの?』

「頼人? 頼人ならいま、あ~……、中?」

 おい。

『中?』

「え、ええと……、あはは……」

 ちょ、笑って誤魔化そうとするな。余計に怪しく聞こえるじゃねえか。

「そ、それより!! この間は美味しいお肉ありがとうございました!!」

 よし、舵取りは強引だったが上手く話は逸らせた。というかイアったらちゃんとお礼が言えるようになって……。前はただ食べ尽くすだけの怪物モンスターだったのに。

『へ? ああ、喜んでくれたなら良かったよ。また何か持って行くけど、何かリクエストある?』

「お肉!!」

『はは!! わかった、わかった。また今度持ってくよ。ところでいま頼人に代われる? ちょっと話があるんだけど……』

「あ、ちょ、ちょっと待って!!」

 イアはそう言うと送話口に手をあて、俺に尋ねかける。

「どうする? 代わろうか? 私が警戒してれば禍渦も入ってこれないだろうし」

『んー。じゃあ頼む』

「はーい」

 そうして俺とイアは再びバトンタッチ。俺の意識が表層に出、身体もそれに応じて変化する。

「……よし、と」

 身体が完全に自分のものになったことを確認した後、送話口に口を近づける。

「悪い、龍平。待たせたな」

『いや、気にすんな。イアちゃんと楽しく話してたからさ』

「みたいだな。んで? 話ってなんだよ?」

 こんな夜中にかけてくるくらいだから急ぎの用事だろうとは思うが。

『お前今日学校に来れなかったろ? 来月やる予定のハロウィーン・イン・豊泉の配役が決まったから教えてやろうと思って』

「……………………」

 しまった。今日だったかそれ決めるの。

 ハロウィーン・イン・豊泉とは我が豊泉高校の学校行事の一つであり、その中身は十月三十一日、全校生徒が怪物に扮し、教師に対して菓子を要求するという馬鹿げたものである。

 元は生徒と教師の交流を図るためという目的があったようだが、教師は生徒に捕まってしまうと強制的に菓子を与えなければならないため、みな真剣に、それこそ必死の逃走を試みるのだ。その結果この行事は校内全体を使った鬼ごっこと化し、毎年ウチの学校の名物になっている。

 ちなみに生徒が扮する化物の仮装に関してはくじで決まる。その配役によっては鬼ごっこに向かない仮装をせねばならず、教師を追い詰めるのを断念する生徒もいるため、これはハロウィーン・イン・豊泉の分水嶺といえるだろう。

「……何になった?」

『狼男』

 ううむ、可もなく不可もなくといったところか。動きにくくはないが、去年やったヤツの話ではあっついらしいんだよ、アレ。

「オマエと美咲は?」

『俺は幽霊』

 うっわ、ハズレだな、そりゃ。シーツに穴空けただけのあの狭い視界じゃ全力疾走などできるはずもない。

『んで美咲は黒猫だ』

「……ほう」

 それは実に興味深い。いや、実に。

『つまり、俺が言いたいことは来月に期待しろってことだ。夜遅くに悪かったな、じゃ――』

「あ、ちょっと待て龍平!! 俺からも少し聞いて欲しいことがあるんだけど良いか?」

『あん?』

 伝承マニアのこの男ならばもしかして捻じ曲げられる前の、今回の禍渦のもとになった伝承のオリジナル、話の原型を推測することができるのではないだろうか?

 直感的にそう感じた俺は教えてもらった伝承を龍平に伝え、そこに違和感がないか、気になる点はないかを尋ねることにした。

 そうして龍平は静かに俺の話を聞き、しばらくの沈黙の後、こう口にする。

『おかしいとまでは言わねえけど、気になるところはあるな』

「本当か!?」

『頼人、神様ってのは無償じゃあ何も助けない。何かしら、助ける対象から代償を奪っていく。神は与え、そして奪うもの。どちらか一方なんてことはありえない。どんな話でもそれは同じなんだ』

 何やら力説する龍平。

 ヤバイ、何かマニアスイッチが入ったっぽい。

『だからその話に違和感を覚えたお前の勘は多分あってると思うぞ。それにとりあえず前半部分は問題ねえようにも思う。だから改変されてるとしたら後半部分、取引をした後からだろうな。どうしても推測してみたいってんならその精霊の、女の気持ちになって考えれば少しは何か分かるんじゃ、ふあ……ねえのか? 仮にもその話の中心人物なわけだし』

 禍渦アレの気持ちにねえ……、なれるか!!

 ただ、まあ伝承の後半部分が改変された可能性が高いということがわかっただけでも大助かりだが。

 言われてみればあの禍渦はボリスに触れるまで、それがユーリとやらかどうかわかっていなかった。それは目の取引をし、盲目となったというところからきているんだろう。

「サンキュー、助かった」

 これ以上熱が入らないうちに話を切りあげる。面倒というのもあるが、何より「なんで急にこんな話を?」と聞かれては困る。

 俺は数少ない友人をこんなことに巻き込みたくない。

『ああ……。眠いし、俺もう寝るわ。じゃあな』

 通話が終了したことを確認して、耳から携帯を放す。そして俺は手に持った携帯を眺めながら龍平の言葉を思い出していた。

「女の気持ち……か」

 自分で考えるのは不可能だな。そもそも人付き合いが悪い俺だ。他人の気持ちすらよくわからん。

 となると誰かに聞くのが一番なんだが。

『? どうしたの?』

「いや……」

 イアは聞いたところで碌な答えが返ってこないだろう。恋する乙女の気持ちなどこのお子様にはまだ早い。

 では美咲はどう――、いやないな。

 即座にその選択肢を切り捨てる。あの腐った女に普通の恋愛観を求めるのが間違っている。

 となると――。

「やだなあ……、電話すんの」

 しかし、そうも言っていられない。

 苦い顔をしながらも俺はある人物の携帯へとコールした。



『げっへっへ、こんな時間に俺様のところに電話するたぁ、いい度胸じゃ――』

 ブツン。

 相手の声が聞こえた瞬間に通話終了のボタンを押す。そして直後に俺の携帯にコールがかかる。

『つれないわね。悪ふざけに付き合ってくれてもいいじゃない』

「こんな時間に電話でふざける元気はねえよ」

『あら、電話をかけてきた側の言葉とは思えないわね』

 クスクスとからかうようにそう告げる人物の名は四谷深緋。俺と同じく人造端末とともに禍渦退治を行っている少女である。

『それで? 何の御用かしら?』

「ああ、それがな――」

 龍平のときと同じく、否、事情を知っているぶん、龍平にしたよりも多くの情報を交えて事態を説明していく。

『へえ……。良かったわ、そんな面倒なものに遭わなくて』

「俺も遭いたかなかったよ。で、オマエの見解は?」

『もし私が恋をして相手を自由にできるとしたら……、うん、取り敢えず足を舐めさせるかも』

「そういうこと聞いてんじゃねえんだよ!!」

 オマエの嗜好じゃなくて、同じ立場ならどうするって聞いてんの!!

『五月蠅いわね、冗談よ、冗談。とにかく私だったらその話の女みたいに男を離したりはしないでしょうね。それだけの代償を払って得たものだもの。捨てるなんて馬鹿なことはしないわ』

 そう深緋はきっぱりと言い切る。彼女が口にした答えはまあ、コイツらしいっちゃらしいか。

『それで最後の最後まで自分の傍において、最後は一緒に死ぬってとこね』

「………………」

 それはまた。

 一見ロマンチックっぽいけど結構危ない思考をお持ちで。

 だって、それ男に選択権はないからね? 心中じゃなくて他殺それから自殺だからね?

『あらあら、引かれちゃったみたいね。ま、そもそも私はこの話の前提条件を満たしてないから引かれても気にしないけれど』

「? どういうことだ?」

『いまのはあくまで仮の話ってことよ。私はそんな取引に応じないもの。欲しいものは自分の力でもぎ取ってみせるわ』

「………たくましいことで。そういや満月は? 一応アイツにも意見を聞いてみたいんだが」

 単純に外見のせいかもしれないがイアと違って、満月はそういった恋愛観をちゃんと持っているような気がする。

『残念だけど、いま席を外してるの。代理でよければ一人紹介できるけれど?』

「代理?」

『ええ、ちょっと待ってもらえるかしら? 脅は――説得してみるから』

 おい、ちょっと待て何かすげえ物騒な言葉が聞こえたんだけど。

 そして嫌な予感を振り払い、待つこと数分後、その代理とやらが電話に出た。

『「も、もしもし……」』

『「!! す、すいません!!」』

 定型句も謝罪もハモってしまう。

 やべえ、最初っからなんか気まずくなってしまった!!

『え、ええっと天原……頼人さんですよね? はじめまして。わ、私、お姉ちゃん、深緋の妹のひょうです。今日はたまたま病院に泊まりに来てて……』

「ああ、妹さん」

 俺が前に深緋の病院に行ったときは丁度いなかったんだよな。丁度、というかそれは狙って行ったんだけど。

「悪いね、つき合わせて。それでお姉さんから話は聞いたかな?」

『は、はい』

「そっか。じゃあ話は早い。この話の精霊が君だとして、最愛の男を自由にできるとして君ならどうする?」

 まさか妹が出てくるとは思わなかったけれど、一番まともな、普通の人間の意見が聞けるとはありがたい。

『そう……ですね……。……私なら苦しくなってその精霊さんみたいに男の人を解放すると思います。相手の女性にも悪いですし……。その後に都合よく神様が助けてくれるのかはわかりませんけど』

 そう苦笑しながら俺に自分なりの解答を示す縹。

『でも、やっぱりお姉ちゃんと一緒で、そもそも取引しないと思います。相手の人にもちゃんと自分を想ってほしいから――って何言ってるんでしょう、私。恥ずかしい……』

「いやいや、恥ずかしくなんてないさ。それが『普通の人間』の考え方だからね」

 そう。普通の、な。

 ニヤリと突破口が見つかったことに歓喜しながら、俺は縹ちゃんにそう答える。

「ありがとう、参考になった。お姉さんにも御礼を言っておいてくれる?」

『あ、はい。えーと……、おやすみなさい?』

「ああ、おやすみ。縹ちゃん」

 と、そう言って電話を切った瞬間に再び俺の携帯に着信が入る。

 おいおい、こんな時間に誰だよ――って俺が言えた台詞じゃないけど。そう心の中で自分にツッコミを入れながら通話ボタンを押す。

「もしも――」

『いやっほう、みんな!! 大好き!! 玖尾さんやでー!!』

 その声を聞いて安堵感が広がっていくのがわかる。そしてそれと同時に苛立ちも目を覚ましたらしい。

「残念。俺は嫌いだけどな」

『そんなっ!! 折角死地から逃げ果せて電話したっちゅーのに!!』

 う、うぜえ……。こんなことなら緊急連絡用に番号交換するんじゃなかったぜ。

「んで、生きてんだな?」

『当ったりまえやん、あの場におった死体の九割は消し飛ばしたったわ。まあ結局あの狂ったお嬢ちゃんは焼けへんかったわけやけど。ウチの「天狐燐火イグニス・ファトゥス」でも消えへんとかやっぱよっくんの言うた通りちゃんと手順を踏まなアカンみたいやな』

 大暴れじゃないっすか、玖尾さん。

 いや、でも実際助かった。もう一度あの亡者の群れに突っ込むのは中々勇気がいるからな。そのことに関して礼を言おうかとも思ったが、自慢げなその態度がイラッときたので敢えて悪態をつく。

「つーかウチの『天狐燐火』って言われてもどんなもんなんか知らねえから、俺」

『んあ? あれ、言うとらへんかったっけ?』

「一言も」

『あっはっは、そりゃ悪かったなあ。ほんならよう聞き!! ウチのスキルを!!』

 いや別にそこまで知りたくないんだけど。しかし玖尾はこちらの気持ちを知ってか知らずか、調子に乗って話を始める。

『ウチの「天狐燐火」は全てを焼き尽くす火焔!! その対象は幅広いで? 可燃物は勿論、不燃物までなんでもござれ。爆炎すらも対象や!!』

「ああ、それで……」

 パンツァーファウストの爆発も燃やした訳ね。

『ただ、狙いがつけにくいんと、一度火ィついたら絶対に消せへんのがタマにキズやけどな!!』

「あっぶねえな、オイ!!」

 じゃあ、なにか?

 運が悪かったら俺、あのとき焼かれてたのか?

『いや、あっはっは』

「笑い事じゃねえよ!!」

『まあまあ、その代わり一度ついた火が他のモンに燃え移ることはないんやから。その辺は安全やろ?』

「……………………はぁ。馬鹿言ってねえでさっさとこっちに戻ってこいよ。一応禍渦を壊す目処が立ちそうなんだ」

 酷く気の進まない方法だが。

 恐らくはこれが唯一の破壊方法だろう。

 と、これから自分がしなければならないことを想像し、眉に皺を寄せていると受話口の向こうから素っ頓狂な声が聞こえてきた。

『はぁ? いや、ウチはもうそっちには戻らへんで?』

「…………あ?」

『言うたやん、「さいなら」って。それに一回役に立ったらトンズラこくとも言うたやろ? ……残念ながらまだ完全には阿嘉に染まってへんかったみたいでな』

 赤に染まる? 何言ってんだ、コイツ?

 いや、問題はそこじゃなくて。

「……じゃあ、何でわざわざ電話してまでスキルのことベラベラ話したんだよ?」

『そりゃあ自慢したかっただけに決まっとるやん』

「…………」

 もう一度禍渦と戦うときのために教えてくれてんだな、とか思ってた数秒前の自分を張り倒したい。いや、違う。本当に張り倒したいのはコイツだ。

『あっはっはー、ほんなら気張りやー』

「あっ!! おい、ちょっと待――」

 そう口にしたが玖尾は当然待つ筈もなく――。

 通話が終了したことを知らせる電子音が虚しく俺の耳に届けられた。

「あ・の・お・ん・な~~~~~~~!!」

『よ、頼人!! 携帯!! 携帯壊れちゃう!!』

「――夜は静かにするものだ、天原頼人よ」

 そうして音もなく、怒れる俺の眼前に現れたのはアヴェルチェフ。別れたときとは違い、その手には槍のほかに、大きな、人一人が余裕で入りそうな袋をその背に担いでいた。

「……よう」

 準備はできたのか?

 そんなことは聞くまでもない。

 彼の目は暗く淀み、凡そ生気を感じさせないものではあったが、研ぎ澄まされた意思が確かにそこにはあった。

 じゃあ、未練たらたらな粘着質なあの女に、死を贈りに行きますか。



 通話を終了した後、ウチは空を見上げる。

 なんとも嫌な空だ。月は雲に覆われその姿を見せることはなく、雲越しに不気味な光を地上に降らせ続けていた。

 長年の感覚でわかる。

 こんな夜は。

「こういう不気味な夜は決まって誰かが死ぬ。なあ、アンタもそう思わへん?」

 視線の先に佇む髑髏の仮面を被った人間にウチはそう問いかけた。

「………………そうだな」

 意外にもその人間はウチの問いに答えを返す。

「そういえばあの日も、こんな空だった。……思い出したくもないが」

 仮面のせいで表情は見えないがきっとその顔は苦痛に歪んでいることだろう。それだけの悲痛さがその声にはあった。

「……私ももう行かねば。何処の誰かは知らないが貴重な情報、感謝する」

 そうして人間の気配が薄れ、この場から完全に消え去った。走るのではなく、移動するとはなんともせっかちさんである。

「…………うーん、どっかで会ったような気がすんねんけど。気のせいやろか?」

 天原頼人とイアに会ったときも同じような感覚に襲われたのだが、それが二回目となると何となく無視しづらい。

「ま、ええか。ウチもとっとと行かんとな」

 もう一度、空を見上げると。

 やはり依然としてその空は不吉な色を湛えたままだった。


 最近、鼻水が止まりません。久安です。

 玖尾さんがログアウトしました。次に登場するのはいつになることやら……。それまでに私の筆が折れないことを祈るばかりです。いや、最後まで頑張りますけれど!!

 『鷽から出たマコトの世界』。相当長くなるとは思いますが、書き終えるまでに少しでも多くの方に見てもらえるよう頑張ります。

 

 次回は10月20日10時更新予定です。

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