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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ジ・インビテイション・フロム・ルサルカ
37/213

響く呼び声

「ゼムリャ」

 最初に動いたのはヴォルク・アレクサンドロヴィチ・アヴェルチェフ。槍を構えたまま何事かを呟くと、先ほど玖尾サキを護ったときと同様に彼女の周囲の地面が顫動せんどうを始める。

 だが、違うのは地面から飛び出したもの。

 平坦だった地面が今度は壁ではなく無数の槍となって玖尾を襲う。その数、優に五十本。玖尾を中心として円形に現れたソレは容赦なく彼女の身体を射ぬかんと迫る。

 当然、素直に貫かれる筈はないだろう。弾道を見抜き、無傷で回避した身体能力があればあれを避ける程度造作もない。

「ほいほいっ、と」

 案の定、玖尾はかすり傷一つ負うことなく切っ先から逃れるがその回避方法はやはり化物じみていると言って差し支えない。

 俺がそう思うのは、玖尾が地面に対して垂直にではなく、平行に動いて回避するといった離れ業をやってのけたからだ。

 迫る槍よりも速く動き。

 その槍と槍との間に生じる僅かな空間をすり抜け。

 一息に安全圏へと離脱する。

 一歩間違えれば確実に死、という状況で欠片ほども臆することなく瞬時に行動に移せるその精神力は身体能力以上に異常と言わざるを得ないだろう。自分に余程の自信がなければ成し遂げられることではない。

 だが、玖尾の回避方法は理に適っていた。事実、あの場で上空へと逃れていたならば、間違いなく俺かアヴェルチェフが追撃を行っていた。身動きの取れない空中で、どうすることもできず、早々にこの戦闘から退場させられていただろうことは想像に難くない。

「高みの見物を決め込む暇はないぞ、天原!!」

「ッ!?」

 その声に鮮やかな回避を行った玖尾から槍に視線を戻す。

 すると玖尾を刺し貫こうとした槍の一本が、今度は彼女の直線状にいた俺に牙を向いていた。正確に俺の額を狙う槍は既に眼前へと到達している。

「チッ!!」

 玖尾だけを狙ったものと頭から決め込んでいた自分の甘さ加減に苛立ちながら首を反らせてかわす。

 どうやら俺の中にはまだアヴェルチェフが部外者であるという考えがあったようだ。

アイツは嘘をついていない、俺の攻撃対象ではない、と何処かで思っていた。

「…………馬鹿だな、俺は」

 玖尾を殺す過程で邪魔になるなら排除しろ。

 嘘吐きを殺す邪魔になるならそれは敵だ。

 ――ウソヲサバクジャマヲスルヤツモドウザイダ。

 ああ、わかってる。

 だから頭の中で五月蠅く騒ぐのは止めてくれよ。

 弾の切れたグロックを右脇に挟むことでフリーになった左腕で土槍を掴む。そしてそのまま反動をつけ、身体を宙に浮かせ槍の上へと着地する。

「さて、と」

 やや頭が重いがまだ頭痛は感じないということは、これまでの経験から考慮するとグロックが一丁、手榴弾一個、それに刀を二振りが限界といったところ。といっても他のものを出せば勿論数はその都度変化するが。

 これだけの戦力で二人を仕留められるかは微妙なところだ。具現化に使う俺の精神力を節約しようと思うのなら、刀剣の類か……。

 眼下には近距離で攻防を繰り返す玖尾とアヴェルチェフの姿。玖尾は土を操るアヴェルチェフの妙な技を使わせないために敢えて飛び込んだとみえ、事実それは正解だったらしい。土槍を最後に地面は沈黙を保っている。

「降りてこない俺は一旦無視ってか」

 まあ、隙あらばこちらにも攻撃してくるだろうがいまのところその気配はない。

「じゃあ、こっちから行くとしますかね」

 そう言って俺は槍の上を疾走し、ある程度地面が近づいたところを見計らって槍を蹴って目標へと跳ぶ。

 狙うはアヴェルチェフの首。

「死角をついたつもりだろうが甘い、そしてその行動は余りにも愚かだぞ!!」

 槍の一振りで一旦玖尾を遠ざけたアヴェルチェフは飛来する俺の存在に気が付いたようだ。玖尾への警戒を解くことなくその身を翻し、槍の切っ先を俺へと向ける。

 このまま直進すれば、何を具現化しようとも俺はあの槍に身体を貫かれるだろう。だが、通常空中では方向転換も、その場で停止することもできない。それは先の玖尾の回避方法からもわかるとおりだ。だからこそアヴェルチェフも愚弄の言葉を口にした。

 しかし、そんなことには構わずに俺は彼に銃口を向ける。

「愚かだと言ったろう!! その銃が俺に貫通しないことは証明済みだ!! ――ゼムリャ!!」

 そう言い放ち、アヴェルチェフは地面を石突きで叩き自らの眼前に土の壁を形成する。形成されつつある壁の向こうで、彼が再び槍を構えたところをみると俺が壁にぶち当たったところを串刺しにする腹積もりのようだ。

 さて、愚かなのはどっちだろうな?

 ――答え合わせといこうか。



 自分の視界が完全に覆われたところで問題はない。空中に浮いた状態では天原頼人はあのままこの壁にぶつかるしかないのだから。

 しかし、だからといって彼がそのまま素直に一撃を受けるとは思えない。そんな下らない輩であるなら、こんな刺すような殺気を放てるわけがないのだ。

よって何かしらの手段を講じてくることだろう。

 回避か、反撃か。それに準じた何か。

 俺の放つ最高の一撃を見舞いしても必ず何かを仕掛けてくるに違いない。

(だが、どんな小細工をされようと負ける訳にはいかない)

 村の皆の顔を思い浮かべるだけで槍を握る両の腕に力が籠る。

(イェジバの皆を守るためにもここで俺が負ける訳にはいかないのだ。村を守ることが忌血種である俺を拾ってくれた皆へ俺が出来る唯一の恩返し)

 そう、そう信じてこれまで闘ってきた。

 人間とも。

 魔物とも。

 イェジバを侵す者は誰一人として例外なく、踏破してきたのだ。

 しかし、いまの俺は何一つ守れてはいない。もう何人もの人間が村から忽然と姿を消し続けている。

 子どものころから成長を見守ってきた司祭のアナトリー。

 俺が拾われたのと同じ頃に生まれ、一緒に育てられたレヴォリ。

 先日子どもが生まれたばかりのミロン。

 同じ防人として俺をサポートしてくれていたシルヴァーニ。

 大酒飲みだが気の良いツェーザリ。

 いつも笑顔で俺に挨拶をしてくれていた花屋のフェリックス。

 将来は俺のような防人になりたいと言ってくれたヨシフ少年。

 他にもたくさん。

 たくさんの仲間が、家族が、消えていった。

 当然、俺とて何もしなかった訳じゃあない。何日も一睡もすることなく村全体を監視し続けることで、彼らが誰かに連れ去られたのではないことがわかった。

 これまで姿を消した人間は深夜、誰もが寝静まった頃に行動を起こす。寝間着のまま、まるで夢遊病患者のようにふらふらと森の中へと入っていくのだ。

 そしてわかったことはもう一つ。俺が引き戻そうとすると誰もが抵抗し、自傷行為に走るということ。それも軽いものではない。確実に致命傷となる部位を傷つけようとするのだ。

 ああ、思い出したくもない。ツェーザリを無理矢理にでも拘束しようとしたときに彼の眼に宿った狂気を。彼が自分で首に押し当てていた刃物の怪しい煌めきを。

 彼らを助けるのに、死なれては本末転倒だ。故に仕方なく何処に行くつもりなのか幾度となく追跡したが、それもいつも失敗する。

 生い茂る草木に視界を遮られたその刹那に、彼らはまるで初めからそこに存在していなかったかのように消え失せてしまうのだ。

 だからいまも彼らが何処に消え、何をしているのかを突きとめられないでいる。いまの俺に出来ることといえば、彼らの無事を祈ることだけ。

 ああ、何て無力。これで村を守る防人だというのだから嗤わせる。

 森に消えていく男たちを止めることもできない。

 行方不明になった男たちの居場所を探し当てることもできない。

 村に残された女たちの不安を取り除くこともできない。

 時間だけが無為に流れていく。

 しかし、昨夜そうした状況が一変した。

 イェジバのやや西にある湖。俺たちが聖域と呼んでいるその場所に一人の侵入者が現れたのだ。

 俺はその侵入者を横目で窺う。

 玖尾サキなる、その女はやや離れた場所でこちらを見、不敵に笑みをこぼす。

 彼女が今回の騒動に関係しているという確証はない。はっきり言えば十数パーセントにも満たない確率だろう。そしていまこの壁の向こうにいる彼が関係している可能性もまた然りだ。

 だが、いまはその限りなく低い確率に縋りたい。

 そうしなければ今度はきっと俺が壊れてしまう。

 俺の都合に付き合わせてしまって心苦しいことこの上ないが、これは優先順位の問題だ。俺は他の見知らぬ誰かより村の皆の方が大事だというだけのこと。

 恐らく玖尾や天原だけではなく、世界の誰もが持ち得ているエゴイズム。

 それに聖域に無断で足を踏み入れたことを処断しなければならないのも本当だ。この二人が共犯ならば、話を聞き相応の罰を与える必要がある。

 ――ゴツリ、と。

 天原と俺を隔てる土の壁から鈍い、何かがぶつかった音が聞こえた。

 さあ、考えるのはここまでだ。

 まずは、一撃。

 目の前の壁を、我が槍の一撃を以て粉砕しよう。



 木端微塵に破壊される土の壁が見える。そしてその壁を突き破って飛び出すのはアヴェルチェフの持つ異形の槍。その五つの切っ先が主の敵を排除しようと猛る。

 宙に浮く黒い影へと真っ直ぐ伸びる鋭い切っ先。

 そして次の瞬間、森に響き渡ったのは金属と金属が激しく擦れる音だった。

「な、にィ……ッ!?」

 目を見開き、自分の刺し貫いたものが何であるかを理解するアヴェルチェフ。そして理解したと同時に僅かに強張る彼の身体が生じさせた隙を見逃すことは勿論なかった。

 彼の懐に飛び込み、手に持った日本刀にて脇腹を切りつける。

 そして攻勢に移ったのは俺だけではない。玖尾も抜け目なく動いていた。

 日本刀の切っ先がアヴェルチェフの身体に喰い込もうとしたのと同時に背後から飛びかかり、彼の左肩に痛烈な蹴りを放つ。

 恐らく彼女の全体重を乗せた一撃。ともするとそれは肩胛骨と鎖骨を同時に容赦なく蹴り砕くのではないかと思われる程の攻撃。威力としては申し分ない。

った!!)

 心の中でそう確信する。

 しかし、俺のその確信は脆くも即座に叩き壊されることになった。

「クッ……ぉ、ヴィエーティエル!!」

「「ッ!?」」

 先とは違う『何か』を叫ぶアヴェルチェフ。

 そしてそれと同時に彼を中心にして強風が吹き荒れる。いや、これは最早、風ではなく衝撃波といった方が正確だろう。

 兎にも角にも俺と玖尾は彼の巻き起こした烈風を正面から受け、勢いよく弾き飛ばされた。

「グッ、オオォォォォオオ!!」

 数本の大木を吹き飛ばされた自らの身体でへし折りながら叫ぶ。

 このままでは何処まで飛ばされるかわかったものではない。背中の六本のコードを伸ばし、周囲の木々に巻きつけることで何とかその場に留まろうとする。

「ッ…………!! 止まったァ!!」

 コードが背中から千切れるかと思ったが何とか持ちこたえてくれた。しかし刀は何処かへ飛んでいってしまったらしい。

精神力を節約する為にもまだあの刀で闘いたかったが生憎と探している時間はない。歯噛みしながらも俺は何処かへと消え去った日本刀を消失させた。

「痛ゥ……」

 いまの不意打ちで受けた傷は頭部の裂傷と……あとは肋骨が何本かイッてんな、こりゃ。だが、この程度ならまだ闘える。十分に死合える。

 それはあの男も同じだろう。

 身体の状態を確認し、烈風の傷跡残る広場に佇むアヴェルチェフを見据える。

 玖尾が蹴りを放った箇所は鎧が裂け、青紫に変色した肌が露出しており、そして俺が切りつけた脇腹は致命傷とまではいかないまでも多量の出血が見られていた。

 しかし、それでも。

 アヴェルチェフの目は一向に光を失わない。むしろ戦闘を続け、傷つくごとに力強くなっている印象すら見受けられる。

「見事な一撃だったぞ、天原。だが解せん。どうやって貴様は俺の正面から消えたのだ?」

「不思議なことはねえだろ。さっきだって、いまだってやって見せたじゃねえか」

 木々に絡めたコードを指差して言い、元の長さに戻す。

「……そうか。玖尾との戦いのときは考えをまとめていて見ていなかったが確かにそうだな。背中のソレを自由に操れるというのなら空中での移動も容易いだろう」

 そう。俺がしたのは玖尾との戦いのときと同様、コードで自分の位置を移動させただけだ。ただ、さっきは木々に伸ばしたのではなく地面にアンカーの如く突き立て、コードを縮めることで移動した訳だが。

 そこまでやってしまえばあとは簡単。土の壁にグロックを叩きつけ、俺が壁に激突したと思わせる。そして最終的にアヴェルチェフが槍を空振りしたところを狙い、消失させたグロックの代わりに日本刀を具現化して切りつけただけだ。

「まったく、それで人間や言うんやから笑わせるよなあ。ウチやアンタより人外らしいで、ホンマに」

 ゆっくりと森の中から姿を現しそう口にしたのは玖尾。俺と同じくかなり大きな力で吹き飛ばされたにも関わらず、憎たらしいことに傷一つない。

「黙ってろ。あんなもんを間近で喰らって無傷でいるやつに言われたくねえよ」

「はっはー、それはしゃあないで。経験の差っちゅうヤツや。ウチがいくつやと思うてんの?」

「へえ、いくつなんだ?」

「な・い・しょ」

 ……この女、どうやら本気で俺を怒らせたいらしい。

 いいだろう、皆で仲良くズタボロになろうじゃねえか。

 八本のコードが鎌首をもたげ、さながら蛇のように玖尾を狙う。

「おっ? 何、何? 今度は何するん?」

 まあ、見てろ。その余裕面、歪めてやるからよ。

 まずは腕の二本のコードを彼女に向けて飛ばす。かなりの速度で伸長させているが、この程度の速さでは捉えることができないのは承知している。

「ほっ」

 予想通り、玖尾は土の槍をかわしたときのようにコードの隙間を抜けてくる。そしてそのまま前進しようとする彼女に今度は土の壁が襲いかかった。

 だが攻撃したのはアヴェルチェフではなく、俺。拳で地面を砕き、巻きあげた砂と小石、岩を彼女に向けて弾き飛ばしたのだ。

 いうなれば砂岩の波。

 砂や小石では玖尾の身体にダメージなど与えられないだろうが、目をくらませることはできる。そしてこのような面の攻撃をされてはさっきのように左右前後によけることは不可能だ。

 案の定、玖尾はやや顔を顰めながら波の届かない上空へとエスケープする。何も足場になるものがない空中へ。

 なんとか上手く造り上げた隙を見逃す手はない。

 彼女が跳んだ瞬間、残る六本のコードを彼女に向け捕縛を試みる。

二本の腕も、二本の脚も、首も胴もその全てを拘束し、最後にはその脳天に銃弾をお見舞いしてやろう。

「これで詰みか? 玖尾さんよ?」

「あー、ヤバいかも……なんて言うと思ったん?」

 玖尾は表情を一変させ、そう呟くと迫るコードの一本を掴み、力任せに手繰り寄せた。

 基本的にコードは全て最初に俺がイメージした軌道を描く。したがって何らかの事情によって俺がイメージした軌道を通らなかったコードが一本あったとしても問題はない。残るコードは当初の軌道を描くのだから。

 だが、偶然にも軌道を狂わされたその一本のコードが他のコードの軌道を妨害していたとしたら?

 俺も初めて知ったが答えはこうなるらしい。

 緊急停止。

 俺の制御を離れた途端に暴走するかと思いきやそんなことはなく、いや、むしろその暴走を止めるために緊急停止したようにも思える。

 興味深い結果ではあったが、それにかまけている暇はない。迫る脅威を排除した玖尾はコードを足場にこちらへ向かって跳び込んできている。

「チィッ!!」

 それを前に跳んでかわすが、未だコードが伸びた状態の為バランスが崩れ、無様にも膝をついてしまう。

 そしてこの隙をこの二人が見逃す筈がなかった。

「これで――」

「終いとちゃうか、よっくん?」

 右手からは両手で槍を構え、突進するアヴェルチェフ。

 左手からは着地し、即座に拳を握って迫る玖尾。

「ヤッベェ…………なんて言うと思ったのか?」

 だとしたら甘い、甘すぎる。

 経験の差ってやつは何処に行ったんだかな。

 俺は両腕を左右に、迫る二人に向けて伸ばす。

「「!!」」

 俺が両手に具現化したものを見て二人がその動きを止める。アヴェルチェフの槍は俺の脇腹に触れるか触れないかで停止し、玖尾の拳は具現化したソレに阻まれ届くことはない。

 『パンツァーファウストⅢ』。戦車の装甲を真正面から突き破り破壊するほどの貫通力を持った対戦車擲弾発射器である。

 それを両手に具現化し、アヴェルチェフ、玖尾の鼻先へと突きつけたのだ。

「ッ……!! 終わりなのはそっちだったみたいだな」

 ズキリと頭が痛む。そろそろ物質具現の力を使うのも限界のようだ。これ以上無茶をすれば後でまたイアが五月蠅い。

 イア?

 そういえばイアは?

 戦闘中だから気を使ってくれているかとも思っていたが、別にこれまでそうだった訳ではない。何かあったのか……?

 いや、彼女のことは後で良い。いまはこの二人だ。

「ちょ、ちょお待ちい!! アンタこの距離でこんなもんぶっ放すつもりちゃうやろな!?」

「……この距離で撃てば貴様もただでは済まん。少なくとも確実にその腕は使い物にならなくなるぞ、天原?」

「…………ハハ」

「な、何がおかしいねん」

 ああ、おかしいさ。

 だってオマエらは根本的に勘違いをしてる。

「腕が使い物にならなくなる? なんだ、その程度で済むのか」

 実際のところどうなるかは俺にもわからないが、死ななければ良い。

 イアとの約束を守るため、引き続き禍渦を壊すことが出来る身体が残れば良い。

「そんな対価で嘘吐きとそれを殺す邪魔をするヤツを殺せるんだとしたら、――俺にとっちゃあ安い買い物だぜ」

 そう吐き捨て、迷うことなく俺は引き金を引いた。

「ま――」

 見開かれる二人の瞳。しかし、その眼もすぐに爆発に飲み込まれていった。

 そうして轟音と共に辺りが爆煙に包まれるなか、不意に頭の中で聞き覚えのない女の声が響いた。

 ――――ああ、やっと!! やっと見つけたわ、私のユーリ!!

 どうしてだろうか?

 初めて聞く声なのに、一番最初に思ったのは「誰」でも「何」でもなく「何故」であったのは。

 何故この声の主は嬉しそうに、悲しむのだろう、と。

 爆風に吹き飛ばされ、宙を舞いながら俺はそんなことを考えていた。


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