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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ジ・インビテイション・フロム・ルサルカ
33/213

華咲か髑髏

『そうそう、そんな感じ。少しずつだけど上手くなってきてるよ』

「そりゃ良かった。こんだけ練習して何も上達してなかったら、たまったもんじゃねえからな」

 御社の中で俺は八本のコードを自分の思い描いた通りに動かせるよう励む。これまではイアにコードの操作は任せっぱなしだったのだが、イチイチ指示する時間が勿体ないということでかなり前から練習していたのだ。

 単純に移動にしか使わないのであれば俺が使いこなす必要はないのかもしれないが、禍渦との戦いで咄嗟に必要となるときもある。そのとき、使えませんでしたでは済まされない、というか俺の身体がただでは済まない。

『それにしても遅いねえ、神様。ホログラムじゃなくて実際に会いたいっていうからわざわざ来たのに……。頼人、時間大丈夫?』

「ん、まだ大丈夫だ。こっから学校の運動場に繋がってるゲートもあるし、あと一時間ぐらいは余裕がある」

 そうは言っても待たされるのは好きではないが。

 俺たちがこうして特訓しながら御社の床に座りこんでいるのには訳がある。というのも先日、イアがカプセルから情報をダウンロードした際に一通のメッセージが送られていたことがそもそもの発端。

『九月十六日 午前七時に御社に集合!! 大事な用事だからすっぽかさないでね!! 絶対だよ!! 神様より』

「……何度思い出しても腹の立つ文面だ」

『それには私も全面的に同意するよ……っと』

 そう言ってイアは同調を解く。俺としてはもう少し練習したかったが、同調している状態だとどうしても独り言のようになってしまう。彼女が目の前に出て来てくれれば会話をしている実感も湧くし、その方が良いだろう。

 神様が指定した時間はとうに過ぎ去り、あと十分で一時間の遅刻である。

「頼人、神様があと十分で来ると思う?」

「来ない」

「即答!? 流石にそれは可哀相だよ!!」

「じゃあ、イアは来ると思うのかよ? 神様があと十分で来る方に今夜のおかず一品賭けられるか? 俺は賭けれるぜ」

「うう……、来ないとは思うけど可哀相だから来るって言っとく……」

「……それは逆に可哀相じゃねえか?」

「誰が可哀相なんですかねー? 是非聞いてみたいですねー」

「「……………………………………」」

 さらっと会話に入ってきやがって。いつものことながら神出鬼没なヤツだよ、まったく。

「あれ、ちょっと待て。アンタがここにいるってことはつまり――」

「そう、今晩の頼人のおかずは私のものー!! ちなみに頼人、今日のおかずは!?」

「…………肉のササキの大魔神コロッケ」

 ちなみに値段は一個三百円。今日日、コンビニで六十円、八十円程度で買えるコロッケだが、ササキの大魔神コロッケにはその法外な値段に見合う美味しさがあるッ……!!

「やった、やぁったああああ!! 今日は!! 大魔神コロッケが!! 二個も食べれるなんて!! 今日は記念日だよ、コロッケ記念日!!」

「やった、やぁったああああ!!」

「うおぉおおい!? 真似して喜んでもアンタにゃ一欠けらもやらねえからな!?」

「………………………………チッ!!」

 野郎……ッ!! 神様ともあろうものが悪ノリした挙句に、舌打ちかましやがった……ッ!!

「それじゃあ、ケチで短気で捻くれ者で脚フェチでゴミ屑同然の頼人くんは放っておいて本題に入りましょうか」

「おい、泣くぞ? 流石にゴミ屑は泣くぞ、俺?」

「脚フェチは良いんだ…………」

「いや、だってそれは事実だしなあ……って何でそそくさと逃げようとする?」

 立ちあがり俺の傍から離れようとするイアの腕を掴む。

「だって、大体私この服だからいっつも脚丸見えだし。頼人の内なる野性が目を覚ましたらどうしようかと思って……」

 黒いワンピースの裾を片手で下に引っ張りながらも俺の手から逃れようとする。

「はっはっは、イアは面白いこと言うなー、…………お子様は黙って座ってろ」

「ご、ごめんなさい」

「ったく、こましゃくれたこと言うようになりやがって……、ってコラァ、アンタはアンタで何帰ろうとしてんだ!!」

 いまにも門をくぐり何処かへと旅立とうとする神様の背に向けて叫ぶ。

人を呼びだしておいて、何も言わずに帰るとか!!

「……もう私いらないんじゃないかなぁ、と思いまして」

「いやいやいやいや!!」

「あ、すいません。直ぐに消えますねー、…………はぁ」

「イアぁ!! 家にあった玉露とお隣の榎本さんに貰った高級羊羹持って来てくれ!! 神様がお疲れだ!!」

 目が本気でヤバイ。光彩が消えてやがる。

「ら、らじゃー」

「と、まあ冗談はここまでにして――、今日ここに来てもらったのは仕事のお願いがあったからなんですよ」

「イアー、イア帰ってこーい!!」

 そんで同調してこのアホ蜂の巣にしてやろう。

「はぁ……はぁ……どうしたの?」

「どうやら神様は蜂の巣にされたいそうだ」

「違いますよ、仕事の話です。立ち話も何ですし、取り敢えず座りましょうか」

 そう神様が言うと絹のような糸で出来た椅子が姿を現す。そして彼はその椅子にゆっくりと腰を下ろした。

「どうぞ」

 促されるまま俺とイアも用意された椅子へと腰を落ち着ける。

「どっから出したんだよ……」

「残念ながら企業秘密です。それでは今回の依頼ですが――君たちにはこれから直ぐロシアに行ってもらいます」

「「――へ?」」

「君たちにはこれから直ぐロシアに行ってもらいます」

「いや、聞こえてるよ!!」

「つーか直ぐって……学校は?」

「それぐらい私がなんとでも誤魔化しますよ。先日のロッジのときもそうしたでしょう?そうですねぇ……頼人くんは急用で休んだとでも思い込んでもらいましょう」

「こんなときだけ万能ぶりを発揮しやがって……。」

「それだけ急を要するということです。あと、どうでも良いことですが私は『有能』ではありますが『万能』ではありませんよ。私にもどうにも出来ないことは幾らでもあるのです。お間違えなく」

 ああ、そっすか。

「私が出張れれば一番良いのですが、生憎ともう一つ火急の用件がありましてねー。手が離せないんですよ」

「はぁ……、ならしょうがねえか。つーかそもそも俺に断わる権利なんてねえんだろ?」

「ええ、その通りです」

 現状、俺は世界に散らばる色んな嘘や真実を見るという自分の目的のためにイアを『貸して』もらっている立場だ。ここでごねようものならあっという間に首を飛ばされる。

 まだそうなっては困る。

 俺はまだ嘘に対して、嫌悪感を拭い切れてないのだから。もっと多くの嘘を知り、世界を知る必要があるのだ。

「え~、でも今日の晩御飯までに帰って来れる? せっかくの大魔神コロッケが……」

「イア、ロシアにはビーフストロガノフという大層美味しい料理がありますよ」

「頼人、じゅるる、早く行こう、じゅるり」

「わかったから涎をしまえ。それに場所をまだ聞いてねえだろ。オマエ、ロシアの総面積舐めんなよ?」

「神様、門はどれ使ったら良いのッ!?」

「あちらの壁。面と向かい合って右から四つ目、上から七つ目の門を使ってください。ちなみに詳しい位置情報は先日送ったメールに添付してありますからねー」

 門の位置を聞くや否や、イアは俺をコードで縛り走り出す。

「ちょ、おま!! もう少し詳しく話を聞いて――」

「そんなことしてる間に『びーふすとろがのふ』が逃げたらどうするの!!」

 逃げねえよ。

 あー、ダメだ。この目のときのイアさんは止まらねえわ。

 初めて大魔神コロッケ食べたときもこんな感じだったもん。

「頼人くん!!」

 虚ろな眼をした俺に神様が珍しく声を張り上げて言う。

「今回はもう一人助っ人を呼んであります!! 現地で合流して上手く協力して下さいねー!!」

 その言葉を引き金に俺の目に生気が戻る。

「おい、それまさか深緋じゃねえだろうな!? あの暴力女と組むなんて――」

 まっぴらごめんだ。

 そう言い終わる前に俺はイアの手によって門の中へと引き摺りこまれていった。



――同時刻、ロシア某所。

「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……!!」

 何処までも広がる大地の上で一人の男が横たわっている。そしてその母なる大地に身を任せていたのは彼一人ではなかった。

 十人。

 二十人。

 老若男女を問わず、彼の周りでは無数の人間が重力に身を任せ、身動き一つせず佇んでいた。

 否。彼らは人間ではない。かつて人間だったモノ。その成れの果て。

 いまはもう頭と胴体を切り離された無残な死体でしかない。

 首から幾筋も吹き出る鮮血はまるで彼岸花の花弁のように放射線を描き、紅い雨を降らす。そしてその様を、身体の元持ち主たちが見上げていた。

 その中で一人息のある男、レヴォリ・ボトヴィニクはその異常な光景に目をくれることなく、地面の上でもがく。

 まるで何かから逃げようとするように。

 恐怖で動かない手と足を必死に動かしながらもがき続ける。

「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……、――――――あ」

 しかし、それももう終わりだ。

 何とも呆気ない断末魔とともに彼の命は消し去られる。他の者と同様に首を飛ばされた彼の眼に映っていたのは髑髏の仮面。

 それが一体何なのか。彼にはわからなかったに違いないが、本能的に恐怖を感じていたことは確かだ。

 彼は首を飛ばされたにも関わらず彼の身体は五分もの間、ソレから逃げようともがき続けていたのだから。


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