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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
夢現リプレイス
16/213

夢、現(ゆめ、うつつ)

 むかし、むかし、とっても不細工な、でも心は優しい装身具職人の青年がいました。村から村へと渡り歩くうちに、彼は一人の娘と出会います。その娘はとても美しく、青年が恋心を抱いたことは何も不思議なことではありませんでした。

 しばらくの間、その村に腰を落ち着けることにした青年は工房を借り、村人たちに耳飾りや指輪、髪飾りなどを作ってあげることにします。その行為に他意はありません。村人たちに対する親愛のしるしとしてプレゼントしたかった。ただそれだけでした。

 この村で過ごすうちにあの娘と結ばれたいという思いは強まります。しかし青年はそう思うも思いを伝えることはできませんでした。何故なら彼は自分に自信がなかったからです。

 顔は丸く、鼻は低い。胴は太いし、脚は短い。頭も良くなければ、面白いジョークの一つもとばせない。彼はそんな自分が大嫌いでした。

 しかし、苦悩の末、彼は旅の途中で耳にした腕輪の話を思い出します。

 自分の望んだ姿に変身できる腕輪。

 夢が現実になる腕輪。

 彼もその話を聞いたときは笑い飛ばしていましたが、いまは状況が違います。青年は笑い飛ばすどころか、藁にもすがる思いでその腕輪の作り方を必死に思い出そうとしていました。

 何度も何度も失敗し、しかし娘と結ばれることを夢見て、それだけを心の支えにして、青年はやっとこさ腕輪を完成させます。

 胸を踊らせながら、それを腕に嵌めてみると、あら不思議。青年はあっという間に理想の凛々しい姿へと変身していました。

 さあ、これで準備は万全です。この姿なら彼女も自分を受け入れてくれるに違いない。彼は喜び勇んで娘の元へと向かいました。

 しかし、現実は残酷なものです。そうして対面した彼女は彼を受け入れるどころか、そもそも彼が誰なのかすらわからなかったのですから。

 それでも諦め切れるものではありません。何度も説明する彼に対して娘はカンカンに怒ってこう答えます。

 ――私が好きなのはあの職人の青年です。あなたが彼だというのなら私の目の前で元の姿に戻って見せてください、と。

 驚きと喜びに震える青年でしたが、それも束の間。喜びは悲しみに変わりました。それもその筈、彼の姿を変えたその腕輪はどうやっても取ることが出来なかったのです。腕輪を取らなければ元に戻ることはできません。

 いろんな方法を試しました。

 金槌で叩いたり、酸で溶かそうとしたり、鋸で切ろうとしたり。

 そうして考え得る全ての方法を試しましたが腕輪は依然として彼の腕で輝くばかりです。男は大いに嘆き、そして願いました。

 ――元の姿に戻りたい、と。

 するとどうしたことでしょう。これまで傷一つくことのなかったその腕輪に亀裂が入っているではありませんか。それを見た青年はさらに強く願います。

 ――彼女が好いてくれたあの醜い自分に戻りたい、と。

 彼が大粒の涙を拭いながら、そう願うと腕輪の亀裂はますます大きくなり、遂には粉々に砕け、霧散しました。

 そして次の瞬間、娘の目の前にいたのは身なりの良い青年ではなく。

 顔は丸く、鼻は低い。胴は太いし、脚は短い。頭も良くなければ、面白いジョークの一つもとばせない。青年が嫌った、娘が愛した姿がそこにはありました。

 そうです、ようやく彼は元の姿に戻ることが出来たのです。


「へ? それで終わり?」

 ストラの腕の禍渦の基となった話を聞いていた俺は突然の終了宣言に思わず素っ頓狂な声を上げる。

「ええ、私が話を聞いた人もこれ以上先は何も記録が残ってないと言っていたから」

「……ちなみにそれ誰に聞いたんだ?」

「ニキーノさん」

「やっぱりか……」

 最初に会ったとき色々聞いときゃ良かったな。そうすればこんなややこしい事態にならずに済んだ筈なんだから。

「ま、いまさら言ってもしょうがねえか。それよりさっさと確認しちまうか」

『そうだね』

 そう言って俺は一足飛びに二人の側まで移動する。何故か一緒についてくる金髪少女は気にしないことにした。コイツと関わってると何か疲れる……。

「ヨ、ヨリト……」

 突然現れたからか、それとも何か暴力を振るわれると思ったのかラフィは涙を拭っているストラを自らの身体で隠す。

「あ~、心配すんな。もう乱暴しねえから」

「……ホントに?」

「本当だ。禍渦が完全に壊れたかどうか確認するだけだからそこをどいてくれ」

 まだ疑っているようだが、結局ラフィは俺の言葉を信じてくれたようだ。ストラの側に寄り添ったまま、俺に道を譲ってくれた。

「ありがとな。――っとちょっと失礼」

「っ……!!」

 ストラの右腕を出来るだけ優しく掴み、眼前に掲げる。ややストラが怯えているようだが、いまさら俺の評価を覆すことなど出来よう筈もない。甘んじてその反応を受け入れよう。

「イア」

『うん。大丈夫、ちゃんと核も破壊されてるし……、完全に消滅してるよ』

 なら、良し。あと聞いておかなければならないことは一つ。

 これは絶対に聞いておかなければ……、俺は今夜寝れそうにない。

「ストラ、ラフィ。二人に聞きたいことがある」

「え、なに?」

「な、何だ……?」

「オマエら、いまいくつ?」

 一瞬の静寂。そして、頭の中に響くイアの呆れた声。

『頼人…………』

 いや、だってさっき十年前とか言ってたじゃん? ストラはともかくとしてラフィは明らかに外見年齢が十歳未満にしか見えないのにおかしいと思わねえ?

「天原・D・頼人さん、いきなり女性に年齢を聞くのはどうかと思うわよ?」

「なにそのどっか海賊王みたいなミドルネーム? つーかオイ、Dって何の略だよ?」

「『デリカシーなし』に決まってるでしょう?」

『だよね』

「………………」

 イアにまで言われるとは……。何かショックだ……。

「んで、お嬢さん方、実際のところどうなんだよ?」

 その不名誉なミドルネームを受け入れることを決意し、俺は再度二人にそう問いかける。露骨に俺を責める金髪少女、イアとは違い、こちらの二人はただ呆気にとられているだけのようで、しばらくするとおかしそうに笑いながら俺の質問に答えてくれた。

「ふふ、やっぱり変な人だね、ヨリトは。いいよ、教えてあげる。私は――」

 緊張のあまり、喉が渇く。上手く唾を飲み込めない。あれ、さっき闘ってたときより緊張してない、俺?

「二十一歳だよ」

「……………お、ぉおう」

 年上だったけど微妙な差だった!!

 何というか微妙過ぎてリアクションが取りづらい!!

「じゃ、じゃあストラは……?」

「…………五十八だ」

「マジでか!?」

「……………………何か文句があるかね、黒衣の?」

 こっちは予想以上に年上だった!!

「ちなみにニキーノさんは百八十二歳だそうよ」

「いや、それはどうでも良い」

「あら、やっぱり?」

 さっきから余計な会話を挟んでくる金髪少女である。

 何なんだ? そんなに構ってほしいのか、オマエは?

 それにしても魔物という生き物は長寿なものだ。それに力も強いし。こちらの世界の人間はよくも淘汰されなかったものである。

 と、まあ俺の感想は置いておくとして。

 これからの事を考えるとしよう。

「ストラ、ラフィをどうにかするつもりはあるか?」

「え、私?」

 目をパチクリさせてラフィがこちらを見る。

 そうだよ、オマエだよ。

「何だ、藪から棒に?」

「いいから答えろ。ラフィを犯罪者として扱うつもりはあるのか?」

 理由はどうあれ、この都市の支配者であるストラを恐喝、誘拐、暴行等の行為を働いた俺と一緒にいた者である。何かしら処罰しようと考えていても不思議ではない。

「……ふん。期待に沿えなくて悪いが、私は今回の件で彼女を、ラフィルナをどうこうするつもりはない。私を取り戻させてくれたのだ。感謝こそすれ、誰が処罰など与えようか」

 彼女の赤い瞳はそれが紛れもない本心であることを語っている。これならば心配はいらないだろう。

『一安心、だね』

「ああ、まったくだ。ついでに俺のことも許してくれると嬉しいんだけどな」

「はっはっはっはっはっはっは!! ――死ねぇ!!」

朗らかに笑っていたストラが突如、渾身のグーパンを俺に叩きこもうとしてくる。

「うおっ!?」

「どの口がそんなことをぬかすか!! 貴様が私にしたことといえば腕を引き千切ろうとしたぐらいだろうが!!」

「いえいえ、領主様。恐喝と誘拐をお忘れですよ」

「ちょ、オマ――!!」

 本当余計なこと言うなあ、この金髪!!

「そうだったなぁああああ!!」

 ストラは赤い髪を揺らめかせながら、立ち上がり、その赤い眼でこちらを射るように見る。ラフィに助けを求めようとしたが、気まずそうな顔で目を逸らされた。

 ううむ、さてどうするかな? 正直に言えば、戦闘タイプの魔物であるストラがどれほど向かってこようが同調状態なら特に脅威ではないのだ。逃げることもできるし、返りうちにすることもでき――。

「――へ?」

 頬にうっすら残る赤い筋。それは紛れもなくこちらに飛来してきた一本の矢によるものであった。

「ストラ様ァー!! 御無事ですかー!!」

 こちらに近づいてくる一団が声を張り上げ、ストラの無事を確認する。まだ少し遠いがはっきりとその一団が何者なのか、判別することが出来た。

「あれは――」

「ヴィンシブルの兵士たちね。思ったより来るのが早かったじゃない」

 まるで、ここに来ることが初めからわかっていたように金髪の少女は何でもないことのようにそう呟く。

「ちょっと待て。何で連中はここがわかるんだ? 俺はアイツらが来る前に部屋から跳んだ。何処に逃げたかなんてわかる筈がないだろう?」

「わかるわよ。だってその後に私は貴方が着地した地点を確認して、同じ部屋から跳んだんだから。勿論、兵士の皆さんに大まかな場所をお伝えしてからね」

「……じゃあ何か? あのときの侵入者として追われてたのは俺じゃなくて……」

「私」

『「……………………」』

「えへ」

「ふっざけんなぁぁあああああ!!」

 可愛くはにかんでも無駄である。そしてこのままここで叫んでいても無意味である。

「私は無事だ!! 私のことよりこの黒い男を捕えろ!! 一、二、三番隊は盾を構えたままヤツを包囲!! 四、五番隊は一、二、三番隊が包囲を完了するまで間隔を空けずに遠距離射撃、ヤツをその場に釘づけにしろ!! 時間をかけるな、私の命令に従え!!」

「……ッ、了解しました!! ――お帰りなさいませ、ストラ様!!」

 いち早くストラの元へと駆け付けていた伝令役は自らの主の帰還に歓喜を隠すことなく、そして迅速に行動する。

 このままでは本当に捕まってしまいかねない。それぞれ固有のスキルを持つ魔物の、それもあれだけの数の戦闘タイプと闘って勝てると思う程、俺は自信家ではないのだ。

『頼人』

「おう」

 俺とイアのやり取りはそれだけ。あとはすぐさま踵を返し、門まで逃げる。

「ヨリト!!」

 ラフィが何事か言おうとしていたが、それを聞いている余裕はない。別れの挨拶として手を宙に高く上げることしか俺には出来なかった。



「ストラ様、何もここまでしなくても……」

 天原頼人と金髪少女がヴィンシブル軍から辛くも逃げ延び、やや静けさを取り戻した平原で、ラフィルナがストラにそう嗜める。

「……ふん。あの程度で捕らえることができないのはわかっていた。何せいまの指揮は『最善選掴』を使っていないからな」

「ストラ様?」

「散々酷い目に遭わされたとはいえ、黒衣のがいなければ私がラフィルナと対話することもなかった。それを考慮して追放程度で済ませてやったのだ。先に言っておくがそこに他意はないぞ。……何をニヤニヤしているのだ、ラフィルナ?」

「えへへ、元のストラ様に戻っても素直になれないんだなぁと思っただけだよ」

「邪推をするな、ラフィルナ。それより――」

「ラフィ!!」

 ストラの言葉を遮り、ラフィルナは言う。少し前、ある少年に対して言ったときのように元気な声で。

「これからはラフィって呼んで!!」

「しかし……」

「呼んで!!」

 頑なにそう要求するラフィルナに口元を緩めながら、ストラはゆっくりと頷く。

「よかろう。ではラフィ、早々に街へ帰るぞ。私たちの家族のいる街に」

「……うんッ!!」

 二人は手を繋ぎ、歩く。

 職人の青年が元の姿に戻った後、娘とどうなったのかはいまや誰もわからない。

 ハッピーエンドを迎えたのか、はたまたバッドエンドを迎えたのか。結末を知る者などいやしない。

 だが、それは知る必要のないことである。

 ストラとラフィルナ。二人がこれから家族と紡ぐ物語は既にその原典のレールから外れたのだから。

 彼女らが最善として選び掴み取る未来がどんなものなのか。それがわかるのはもう少し後の話である。



「んで?」

 門を通り御社まで辿り着いた俺が最初に発したのはそんな不機嫌な声だった。

「結局オマエは誰なんだよ? いや、まあ、ここに入れる時点で俺の推測は正しいんだろうけどさ」

 禍渦が壊れる少し前に抱いた予測。それが当たっているのであればコイツは――。

「御明察。私もあなたと一緒よ。人の気持ちを逆撫でするのが得意な神様から『瞬間再生能力』を持ったパートナーを与えられて禍渦退治をしているアルバイター」

 瞬間再生。成程、それで鉄の処女に入れられても、刀で切られてもピンピンしてたって訳か。バラバラにされて、あのスピードで動けるようになるのは些か能力の度が過ぎているように思うが、人のことをとやかく言える立場ではないので黙っておこう。

 というかあの野郎、俺だけじゃなく他にも協力者を見つけてやがったのか。

「――では私は誰でしょう?」

「は?」

「……もう、本当に覚えてないのね」

「いや、俺はオマエみたいな金髪露出狂美少女とは会ったことないんだが。つーか会ったら確実に覚えてる」

「…………ああ、そういうこと」

 俺の言葉を聞いた少女は突如、得心がいったとばかりに手を叩き、ある言葉を口にする。

「満月、同調解除」

 そう彼女が呟いた瞬間、白い空間に少女を中心として金の光が広がっていく。

「イア、こっちもだ」

『う、うん』

 あちらが「人間」としての姿を晒すのであれば、こちらもそれに応じるべきだ。故に俺もイアとの同調を解く。

 金の光に青い光が混じり合い、白の大部屋を染め上げる。しかし、それも束の間。光はあっという間に収まり、世界は再び白に戻る。

 そして世界が元に戻ったとき、俺の目の前にいたのは長身で金髪。そして赤い眼をその眼におさめた、例の露出服を着た大人の女性と。

 病衣を纏い明後日の方向を向いたまま床に座っている黒髪の少女がいた。

「さあ、これでどうかしら?」

「……………………、そっちには誰もいねえぞ?」

「あら、ごめんなさい。気配が希薄だったから間違えてしまったわ。まったく目が見えないとこういうときに困るわ。脚も駄目だから素早く動けないしね」

 そう言って緩慢な動きでこちらを向いた少女には見覚えがあった。

 長い黒髪で盲目。

 動かない脚。

 確か……、一カ月くらい前にどっかの病院で……。

「あ~、ちょっと待ってくれ。名前がここまで出かかってる……からイア、ヒントをくれ」

「え、私この子知らないんだけど」

「あれ、イアは会ってなかったっけ?」

「うん。見たことない」

 何てことだ。ここで答えられなかったら間違いなく再戦になるぞ……。そんな面倒なことは御免蒙りたいのだが……。

 しかし、ここで天啓が俺の頭に届けられる。このタイミング。明らかにあの神様が俺の頭に囁きかけてきたに違いない。アイツは気に食わないがいまはそのアシストに素直に感謝しよう。

 そう彼女の名は――。

「ドッペル!!」

「はじめまして四谷深緋よつや こきひです」

 うぉおおおおおおおおおおおおおおい!! 話が違うぜ、神様よおぉおおおおお!!

「満月。もう一度同調してくれるかしら。捻り潰さないといけない輩が私の目の前にいるの」

「すいませんでした、許してください」

 本気の土下座である。いや彼女には見えないだろうけれど。

「深緋、許してあげな。会ったっていっても確か数分話しただけだっただろ? そりゃ、アタシだって忘れてるよ。寧ろ会ったってことを覚えただけでも大殊勲だと思うけど?」

「……はあ、しょうがないわね。満月に免じて許してあげるわ」

 助かった……。

 安堵を噛みしめる前にあの金髪の女性に礼を言っておかなければならないだろう。彼女の口添えのおかげであることは明白なのだから。

「ありがとうございます。満月=コルンさん」

「それ、どこの芸人の名前!? ――ったく、アタシの名前は十六夜満月いざよい まんげつだ。ちゃんと覚えときな。あとさんづけとかするんじゃないよ。鳥肌が出ちまう」

 えらく中二臭い名前だな、と思ったが口にするのは流石に止めておいた。再び誰かの地雷を踏んでしまいそうな雰囲気を察したことが理由であることは言うまでもない。

「っていうか、俺のことよく覚えてたな。四谷さん。満月も言ってたけどそんなの覚えてないぜ普通」

「私は普通じゃないわ。耳に頼ることが多いから聴覚が鍛えられてるの。だから以前聞いた貴方の声を覚えていたって訳。納得できたかしら? あと四谷さんは止めて頂戴。前にも言ったけれど深緋で結構よ」

「っはは、そういやそんなこと言ってたような気がするな。今後は気をつけるとするさ、深緋」

「そうして頂けると嬉しいわ。頼人さん。イアちゃんもこれからよろしくお願いするわね」

 そういや、イアの紹介をすっかり忘れていたな。

 少し遅れたが、二人に紹介しようとするとイアは俺の服を掴んだまま、影に隠れてしまっていた。

「イア?」

「な、何?」

「何で隠れてんの?」

「べ、別に? 自分以外の神様が創った端末に会うのが初めてで恥ずかしいとか、怖いとかじゃないから! いるっていう情報自体は前から知ってたから!」

「……理由を簡潔に述べてくれてどうも。つーわけで二人とも悪い。コイツの紹介はまた今度で良いか?」

 正直、さっさと家に帰って、風呂入って、缶コーヒー飲んで、寝たい。残念ながら明日は学校があるんでな。

「ええ、構わないわ」

「あっはっは、一番さんは随分シャイだねえ。小動物みたいだよ」

「う、五月蠅いよう!!」

「ちょ、イア!! オマエ恥ずかしいからってコードでグルグル巻きにして連行しようとすんな!! 深緋、満月!! またなぁあああああああああ!?」

 そうしてイアが井戸に繋がる門を高速でくぐる前に、二人に何とかそれだけ伝え、俺は随所を打ちつけられながら、御社を後にした。

 ちなみにこれは蛇足になるが、俺が彼女らの連絡先を聞きそびれたことに気づくのは家に着く、少し前のことであった。

 また会う約束したのになあ……。どうやって連絡を取ろうか……。



 天原頼人とイアが去った後の御社で四谷深緋は十六夜満月の側で未だ座り込んでいた。

「ねえ、満月。あの人どう思う?」

「ん? あの人って天原頼人のことかい?」

「ええ」

「ま、おかしな人間ではあるけど、悪いヤツじゃあなさそうだね。……ちなみに深緋、これはアンタに春が来たことを示す質問と思って良いのかい?」

「? 何のことかしら?」

「……あ~、どうやら違うみたいだね。じゃあ、深緋アタシからも質問。アンタはアイツをどう思っているんだ? アタシに聞いたってことは何かしら思うところがあるんだろう?」

「そうね……。おかしな人、というところは貴女と同意見よ。あとは――」

「あとは?」

「よくあの人がイアちゃんの力、断定はできないけれど『モノを具現化する力』を使えるな、と思うわ」

「うん? それってどういうことだい?」

「そのまま意味よ。それでわからないならいまは諦めなさい。いずれ話してあげるから。さ、私たちも帰りましょう」

「釈然としないねえ。まあ、いつか話してくれるっていうならいいけど」

 言いつつも満月は眉に皺をよせながら四谷深緋を抱えあげる。

 そうして二人は門の中へと吸い込まれるようにして御社から去っていった。


  夢現リプレイス  幕

  フリェンチャル・ロッジへ続く


 はい、という訳で「夢現リプレイス」終了です。まずは最後までお付き合いいただいた方に感謝の言葉を。


「ありがとうございました」


 一つのお話は終わった訳ですが『鷽から出たマコトの世界』はまだまだ続きますのでこれからもお付き合い頂けると幸いです。

 最後になりましたが、深緋さんの活躍をご覧になりたい方は『金色猿』をお読みください。

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