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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ハートブレイク・ハートブレイク
104/213

狐砲一掃

 結局、私はある条件と引き換えに神に会わせて欲しいという玖尾の頼みを聞くことにした。断る理由がない、ということもあったが何より彼女の目は狂気にも似た輝きを宿していたからだ。

 断れば力に訴えてでも望みを叶える。いまの彼女ならばそうするという確信が私にはあった。

 何が彼女をそこまで駆り立てるのか。

 まさかあの男が行方を捜しているという矢口阿嘉だとでもいうのだろうか。しかし、だとすれば風貌を語った際に彼女が身から迸らせた憤怒の説明がつかない。

 以前会った時にその矢口なる男について語る彼女はとても楽しそうで、嬉しそうで、何処か寂しげだったから。

「先に言っておくがすぐに連絡がつくとは限らんぞ? 連絡がついたとしてもホログラムを送らんかもしれん」

 最後にもう一度釘を刺す。

「構へん。いまできることをしてくれたらええ。それでも無理なら今度よっくんにでも頼んでみるさかいに」

「……よかろう。もう何も言わん」

 貸与された携帯を懐から取り出し、数少ない連絡先からあの男を選択する。他に登録してあるのは天原君、深緋君の二人。ちなみにクダンはまだ連絡手段を与えられていないので未登録。私が生きていればいずれ知らされるだろう。

『はいはい、どうしましたー? リーンハルト』

「……まさかこんなに早く出るとは思わなんだ」

 いつもなら何度かけても殆ど出ないくせに、どうしてこういうときだけ行動が迅速なのか。

『なんですか、いきなり。用がないなら切りますよ?』

「ああ、すまん。私もよくわからんのだが、何やら貴様に会いたいという娘? がおるのだ。それでホログラムで構わんから――」

『行きましょう。四十秒で、いえ、二十秒で支度します』

「…………そうか」

 最後の私の言葉など恐らく聞こえていない。それほどまでにあの男の決断は素早く、悲しいくらい速かった。

「……どないやった?」

「二十秒で来るそうだ」

「さ、さよか」

 苦笑いをする様子から察するにやや調子は戻ってきているようだが、未だその目は鋭い光を放っている。

 彼女の変貌の理由となるのは彼女が捜しているという彼。

 ――矢口阿嘉。

「あ、リーンハルト。スマンけどちょっと離れとってくれるか?」

「? 何故だ?」

「ええから、ええから。自分そもそも弱っとるみたいやけど、まだ死にとうないやろ? やったら四の五の言わんと離れとき」

「……まあ、構わんが」

 神との対談の後に私との約束を守ってくれさえすればあの男がどうなろうと知ったことではない。それに、玖尾が本気で何かしようとしたところでホログラムを殺すことなどできはしないしな。

『ひゅー!! お待たせしました、みんなの神様ですよー!!』

 そんな馬鹿な叫びとともに現れたのは彼女が待ち望んだ彼の者。世界を守るとのたまうご立派な男。

 彼は私や玖尾と同じように民家の上にその姿を投影し。

 そしてそれと時を同じくして背後から放たれた殺気に対して悪寒と戦慄が湧き上がる。

 気が付けば私は玖尾に急かされることなく、向かい合う二人から二十メートル以上の距離を取っていた。

「久しぶりやなァ、椎那しいな。やっぱり自分やったんか」

『んー? ああ、何だ。期待して損したなあ。リーンハルトが娘さんとか言うから楽しみにしてたというのに。年季の入ったお婆さんじゃないですか』

 わざとらしく、これでもかと言わんばかりにため息を吐く。

 やはり、というべきか。二人は旧知の間柄らしい。

「そら悪かったな。ただウチは椎那に会えて嬉しいで? 嬉しくて嬉しくて、そのひょろっちい首根っこへし折ってやりたァてしょうがない」

『あっはっはー、相変わらず物騒ですねー。サキさんらしいといえばサキさんらしいですが……。――それで? 偶然知ったとはいえ、わざわざワタシを呼び出したんですからそれなりの用があるんでしょう? 昔のよしみです。応えられる範囲でなら応えましょう』

「話が早くて助かるわ。ほんなら遠慮なく聞かしてもらうけど、――自分、阿嘉の居場所知っとるやろ? 教えろや」

『おや? まさかとは思いますがあのときからずっと彼を探しているんですか?』

「文句あるんか?」

『いえ別に。でも残念。最初から答えられませんねー。死人の居場所などワタシが知るものですか。あの子、ヘルにでもお聞きなさい』

「はッ、自分が生きてんねんで? 阿嘉が死んでるわけないやろ」

『あっはっはー、確かにねー。彼より身体能力が遥かに劣るワタシが生きているのだから、ワタシと一緒に海に落ちた彼が死んでいる筈がないと。なるほどなるほど、当然の推察です。ですが哀しい哉、彼が死んだというのは本当ですよ』

「嘘や」

『本当です。ワタシが彼と一緒に落ちたことを知っているのにどうして当事者の言葉を否定するのか、理解に苦しみますねー』

「自分は昔っから嘘吐きやからな。そうそう信じられるか」

『ならワタシが生きているといっても同じことでしょう? 彼は死んだし、ワタシはその行方など知らない。これが全てです。だからサキさんも無駄なことは止めたらどうです?』

「……ふん、まあええ。自分が生きとるっちゅうことがわかった以上、いつか追いつめてホンマのことを吐かせに出向いたるわ」

『あっはっはー、それは怖い。精々気を付けるとしましょう。それで聞きたいことはそれだけですか? まだ時間は少し余裕があるんですがねー。なければ帰りますよ?』

 会話の最中、あれだけの殺気を叩きつけられていたにも関わらず、普段となんら変わることなく飄々とした態度を崩さない。実際に相対していないということもあるのだろうが、私であればあのように振る舞うことなどできないだろう。

「さよか。……ほんならもう一個。駄目元で聞かせてもらうわ」

『はいはい、何でしょう?』

 ふざけた態度でそう尋ねるあの男に玖尾は冷ややかな視線を浴びせ。

「自分――、あの子ら使って何するつもりや」

 私を指さしそう問うた。

「聞くところによると世界を守るためとか言うてコキ使っとるみたいやけど、笑わせんなや。自分がそんな殊勝な男やったらウチはいま一人でこんなとこにおらへん」

『アナタの言う通り世界を守るため……と言ったところで信じないでしょうねー。ですがそれを承知で言いましょう。世界を滅ぼしかねない禍渦を破壊し尽くし、表と裏を繋ぐ縛鎖を引き千切り、そしてワタシの世界を守る。それがワタシの目的ですよ。ご理解いただけましたかねー?』

「……自分が相変わらず狂っとることは理解したわ」

『あっはっはー、お言葉ですがサキさん。ワタシのように弱い者は狂わなければ何も守れないのです。彼も――、阿嘉もそうだったでしょう?』

「ッ!! 黙れや!!」

『どうしました? ワタシは何も間違ったことは言っていませんよ。だってそうでしょう? あの「役立たずの大蜘蛛」がもっと強ければ、狂っていればアナタがこうして一人ぼっちになることもなかったんですから』

 話が成立したのはそこまで。

 玖尾から発せられたのは否定の言葉ではなく、極上の殺気。

 そして青き焔。

 魔物としての本来の姿に戻った彼女は天を衝く勢いでその九本の尾から焔を迸らせる。それは目の前の男を細胞の一片も残すことなく焼き尽くすと宣言しているというようなもの。

『『天狐燐火イグニス・ファトゥス』……。相変わらずアナタのその焔は美しい。本当にアナタはあの時から何も変わっていませんねー』

「天狐燐火――単一孤砲ダイレクトカノン

 未だ会話を続けようとする神に対して玖尾はもうその気はない。

 彼女にとっての禁句タブーを口にしたあの男を視界から消すことしか考えていない。

 迸る焔は混ざり合い、球体へと形を変えて玖尾の頭上に浮かぶ。その球体の大きさはバスケットボール程度の大きさだが焔が流れ込む度、青き輝きが増していく。

 まるで小さな太陽にすら思えるそれは真下にいる玖尾の姿を歪ませるほどの熱を発し、二十メートル離れた私でさえもその熱をはっきりと感じていた。

 そして――。

「――去ねや」

 魔弾は男に向けて放たれる。

 いまこの瞬間も放たれ続けている。

 宙に浮かんだ球体はそのままに、その数センチ先から球体と同じ直径の焔線を放射し続ける様はまるで砲台。熱風をあたりに撒き散らし、青い、幻想的な焔で目標を射抜く姿は美しくも恐ろしい。

 螺旋を描き、空間を抉るように突き進む焔は耳を劈く音を響かせる。まるで誰かの泣き声のように、何処か悲痛な想いを孕ませながら。

『ああ、もう五月蠅いな!! さっきから黙って見てたけど何なのさ!? 何でいきなりキレてるんだよ、あの女!!』

 既にあの男の姿は焔に呑まれ視認することはできない。あの強力な火砲によって投影環境が不安定になったためホログラムを維持できなくなったのだろう。

 そして十数秒続いた金切り音とともに次第に治まる玖尾の砲撃。頭上の球体が完全に消滅すると焔線も消え失せた。察するにあの球体は焔を撃ち出すための燃料であるらしい。ただ、いまはそんな考察など一旦置いて然るべきだ。

「玖尾……?」

 いまは彼女の精神が正常に戻っているかを確認するのが先。これまで剽軽ひょうきん者を通していた彼女がこのような町中で魔物の姿に戻り、あまつさえ派手にスキルを使用するなどという蛮行を犯したのだ。その怒りは相当なものだろう。

 しかしながら。

 彼女はそんな気遣いなど無用という風に、驚くほど普段通りに私の声に応える。

「ああ、スッキリしたー。驚かしてすまんなあ、リーンハルト。怪我は……しとらへんみたいやね」

「あ、ああ……。それにしても君はあの男と――」

「ちょい待ち。さっすがに人が集まってきよったわ。聞きたいことは山ほどあるやろうけど話の続きはウチのとっとる宿に戻ってからや。案内するし着いてきてんかー」

「……良かろう。では行こうか」

 そうして家屋の上を跳躍する彼女に追従しながら、私はサルハンの外、砂漠だけだった景色を一瞥する。

 私が歩いてきた黄金色の絨毯は最早見る影もなく。

あたかも虫食いができたかのように、数キロにわたって暗く深い大きな穴がそこに鎮座していた。

 そう、彼女の焔によってその存在を丸ごと燃やし尽くされたのだ。

「――――――――――ッ……」

 これを、この有り様を目の前のたった一匹の魔物が為したのだと思うと背筋が凍る。震えだしそうになる身体を何とか御し、私は彼女の後に続くのだった。


 復活!! どうも、久安です。

 

 いやぁ本当玖尾さんはスゴイなぁ!! 狐巫女で、綺麗で、強くてジャージだなんてもう本当頭おかしいよね(褒め言葉)!! え、イイエ、ベツニコウイエナンテイワレテマセンヨ?


 とまあ冗談はさておきなんだかんだで重要な回です。神様の本名解禁。胡散臭ささらに上昇。うう、もうカンストしてるのに……。

 今回で折り返し地点。一応いまのペースを守ったまま最後までいけるかと。


 それでは次回予告です。

 次回更新は2月28日 7時を予定しています。二月ももう終わりか……、チャオッ!!

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