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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ハートブレイク・ハートブレイク
103/213

再会

 サルハンの町はさほど大きいものではなく、町というよりは集落といった方が正確だ。大々的に市が立っている訳でもなく、当然のことながら日本のようにショッピングセンターのような大型の商業施設もない。

 言い方は悪いが詰まる所、寄せ集めの町なのだ。この過酷な環境で生き抜くことは単独では不可能。だから一つ所に集まる。それは都市にもいえることだが、あれらは生き抜くためというよりは効率的に利を得るために一つになっている面が強く、必要不可欠とは言い難い。そのため、このようなこじんまりとした集落とは発生する理由が根本的に異なる。

「――ふっ!!」

 石造りの民家の上を飛び移りながら町の様子を伺う。町の人間に気取られぬよう注意を払っていたので大雑把にしか観察出来なかったが、いまのところ然したる混乱は起きていないようだ。

「どう思う? メフィスト」

『どう思うも何も……、とんでもなく小物だね、今回の禍渦は』

 やはりか。禍渦の気配は感じるのだが、如何せん矮小すぎて位置が特定できない。町の住民へ汚染の影響が出ていないのもそのせいなのだろう。

 この程度の歪み程度では古代の怪物を呼び出すこともできないし、小難しい伝承をなぞることもできはしない。精々、人間が起こした事件を再現できるかどうかといったところだ。

『……油断してると足許掬われるよ。特にキミはその条件が揃っているんだから』

「元よりそんなつもりはない」

 そしてそんな余裕もない。

 こんな身体で何に油断するというのか。

 目が翳み、それこそ足元すら覚束ない私が禍渦に対して油断することなどありえない。いくら小さな禍渦であっても人間にとって脅威であることは変わりないし、それはいまの私にとっても同じこと。

『それなら良いさ。ああ、それと気が付いているかい?』

「? 何にだ?」

『禍渦とは別にもう一つ人間以外の何かがいるんだけど』

「そのことか……、気付いていない訳なかろう? 禍渦とは違ってこちらの気配は酷く大きい。滑稽なことにこれでも隠そうとしているようだがな」

 意識せずとも感じ取れる凶悪なまでの力の波。もしかしなくとも確実にこの気配の主の方が禍渦よりも厄介。ただそれもこちらに牙を剥けばの話だが。

『……魔物、だろうねえ。どうする? 徐々に近づいてきているんだけど』

「構うな。大方こちらの気配を感じとって近づいてきたのだろう。私たちが敵意さえ向けなければあちらとてこんな町中で事を構えようなどとは思わん筈だ」

『だといいけど』

 暴れる目的でこの辺りに来たのならそもそも私がここに到着するまでにこんな町など消し去っている。それをしていないということはその他の目的があったということ。

『接触まであと三十秒。一応逃げる準備はしておきなよ?』

「わかっている」

 鬼が出るか蛇が出るか。

 できれば可愛らしい兎か何かのような者であれば私としてもやりやすいのだが気配からしてそれはなかろう。

『十、九、八、七、六、五……』

 万一の場合の避難場所はこの町の中心に聳え立つ塔の上。そこならばまたこの死に体でも力を使わず一瞬で移動できる距離だ。

『……一、来たッ!!』

 メフィストの声が響くと同時に、私の目に映るのは金と紅の二重螺旋。その身を優雅に回転させながら私の立つ民家の上に着地した彼女は慣れなれしい口調で声をかける。

「あっれー? 誰かと思たらいつぞやの仮面のおっちゃんやん。おひさー、元気してるー?」

「『………………』」

 いやはや、何とも。

 狐につままれるとは正にこのこと。

 意外過ぎて声も出ない。

「うおーい、どないしたん? ハッ、まさかウチのこと忘れてしもたん!? あんなに熱い夜を一緒に過ごした仲やのに!!」

「残念だが私は妻以外を愛する気はないよ。玖尾」

「ハッハー、一途なことで。気が合うなあ、リーンハルト」

 にやりと白い歯を見せて愉快そうに笑う、かつてイェジバで出会った九尾の狐。その様を見て、メフィストはため息をこぼす。

『なんだ、コイツか……』

「何か不満があったのか?」

『いや、何て言うかね。この人生理的に受け付けないというかさ』

「ん? なになに、どないしたん?」

「どうやら私の中にいる悪魔は君のことがあまり好きではないらしい」

「私の中の……? ああ、そういや自分よっくんと同じや言うてたな。ちゅうことはなんや? 自分の中にもイアちゃんみたいな可愛い子がおるんかいな?」

「はは、残念だが私の悪魔は彼女のように愛らしい姿はしておらんよ。酷く性格の悪い男だといえば大体想像つくのではないかね?」

『おい』

「……ショタ?」

『おい!! というかリーンハルト、キミも笑ってないで否定しなよ!!』

「すまんすまん、久しぶりに愉快な気分になってしまったものでな」

『まったく周りを巻き込んで……、これだからこの人は嫌いなんだ』

 完全に臍を曲げたメフィストはそれきり黙りこむ。

 ううむ、どうやらからかい過ぎたか。だがいつも憎まれ口を叩いているのだ、これくらいは許せ。

「それにしてもこんなところで会うとは思わなかった。まだ人探しの最中かね?」

「悲しいことになあ。もしかしたらこういう地味ーに乱れてるとこにおるんかなと思たんやけど、どうやら今度もハズレっぽいわ。そういう自分も相変わらずよっくんと同じで禍渦ゆうんを壊しに来たんか?」

「ああ、お互い苦労するものだな」

「ホンマになあ。でも自分んとこはよっくんもおるし、それに自分のことを神とか言うてまう痛い総元締めもおるんやろ? 一人でフラフラ探しもんしてるウチよりマシちゃうのん?」

 その言葉に思わず苦笑してしまう。全くもってその通りだと言ってやりたいところだが、残念ながら完全には同意しかねる。

「確かに天原君のような者は私を含めて四人いるが、君の言う総元締めは大したことは何もせんよ」

 必要のある時以外滅多に姿を現さないし、現れたとしても私たちに何かする訳でもなく何事か怪しげな行為を繰り返すのみだ。それが助けになっているかといえば、少なくとも私にそんな実感はない。

「はっはーん。お飾りの上司ちゅうことかいな。さぞかしでっぷり肥えた豚さんなんやろうなあ」

「いや、引き締まってこそいないが意外にすらっとしているぞ? 眼鏡に白衣を着て、人の神経を逆撫でするようないけ好かん男だがな」

 ヤツをフォローするつもりは毛頭ない。だが、そんな見るも絶えない人間の下で働いていると思われるのも心外だ。

 だからこそ彼女の言葉を柔らかく否定したつもりだったのだが。

「――いま、何て言うた?」

 玖尾にはそれがお気に召さなかったらしい。

 美しい金の瞳に憤怒の色を浮かべながら、私を射抜く。

「……言葉通りだ。気分を害したのなら謝るが――」

「ちゃう、そんなんどうでも良い!! ウチはいま何て言うたんかを聞いてんねん!!」

「大したことなど何も言っていないだろう。単に私たちを使っている者は白衣を着て、眼鏡をかけた人を人とも思わん人非人だと、そう言っただけだ」

「…………」

 希望通りもう一度口にすると今度は黙り込む。しかしそれも数秒のこと。彼女は何かを決意したような表情を浮かべて再びこちらを見。

「リーンハルト、一つ頼みがある」

 有無を言わせない口調で言い放つ。

「そいつに――自分を神とかぬかすその男に会わせてくれへんか?」

「……何?」

 乾ききった一陣の風が吹く。

 強い、強いその風は塔を僅かながらも揺らし、私たちの視界を遮ったが。

 玖尾の決意と、その眼差しは少しも揺らぐことはなかった。


 昨日はやっぱり昼まで寝てましたヨ。どうも、久安です。


 玖尾さん、お久しぶりです。お元気そうでなによりです。だから燃やさないで。えーと、何章ぶり? 四章の『ルサルカ』から? あっはっは、いやほんとお久しぶり。

 ただ今回も最後までいませんけどね。どれだけ頑張っても彼女はサブなのさ!! ――――あ……。


「ついやってもうた……。

 あー、復活は2月26日 7時……らしいで。ほなまた今度」

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