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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
ハートブレイク・ハートブレイク
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交錯する思惑

 ふらつく身体を気力で支えつつ、私は御社へと足を踏み入れる。壁も、床も、天井も、そしてその全てに張り付けられた扉の白さは、いつも私の目を眩ませる――筈だったのだが、先日から事情が少し変わった。

「……クダン、君は何をしているのかね?」

「……あ、リーン、ハル、ト」

 私に気付いた彼女は壁の隅からこちらに近づいてくる。そしてその足元には一匹のトラネコの姿。

「おっちゃん、おっちゃん。ボク、ああいや、私には何にもないの? ねえねえ!!」

「パーントゥ、少し静かにしてくれないか。それとも君が答えてくれるというのかね?」

「おっほー、辛辣―ッ!! じゃあ、教えてあげなーい!!」

「……おう、ち」

「む?」

「……おうち、作っ、てる、の」

「ちょーッ!? 何で教えちゃうのさ、マスター!!」

 尻尾をアンテナのように立たせて、憤慨するけだもの。

 それはそれとして、…………「家」か。

『このオンボロがねえ……』

 申し訳ないが私もメフィストと同意見だ。乱雑に大きさを整えられた木の棒と、クダンが身に着けているような所々破れた布きれだけで作られたコレは良く言ってテントが精々だろう。

「……では、この臭いは?」

 鼻をつく腐臭。同調し、嗅覚もそれなりに強化されているので中々辛いものがある。

「……エディ、バ、ラ」

「何?」

「だーかーらー、エディバラだって言ってるじゃん。ぷぷ、そんなこともしらないのー?要するに腐った魚だよ。そして私、ああいやボクの毎日のご飯でもあるのです、ううっ!!」

 怒ったり、馬鹿にしたり、泣いたりと忙しいヤツだ。だが、クダンの無表情加減を考えるとそれで丁度良いようにも思える。

「……どこぞのコンビとは大違いだな」

『まったくだね』

「……?」

 私の呟きに首をかしげるクダンの頭を撫でる。

「気にするな。それより家を作っているところ悪いが十分ほどここから離れてくれないか? 人と会う約束をしているのだ」

「へっへーん、そんなこと知らないね!! おっちゃんがどっか行けば――うわっ!?」

「……行く、よ。パーン、トゥ。意地悪、言わ、ない、の」

「ちょ!! わかった、わかったよ!! だから尻尾鷲掴みにするのはやめてー!!」

 自身のパートナーを手荒く扱いながらその場を去ろうとするクダン。そのまま最も近い門に入りかけたところで、彼女は振り向きおもむろに口を開いた。

「……リーン、ハル、ト」

「何かね?」

「……また、ね」

 彼女は手を小さく振り、私はその邪気のない姿に僅かに頬を緩ませる。

「…………ああ」

 そうして私も手を振りかえしてまた嘘を吐いた。

「また、会おう」

 きっともう会うことはない小さな仲間にそう告げる。

 あと八度。

 あと八度だ。

 多いようで少ないその命の残量はきっと今回で使い果たされる。

 これからあの男に言い渡される仕事が何かはまだわからないが、恐らくはまた汚染者の処理だろう。どんなに小さな禍渦でもこれまで汚染者数が十を下回ったことはない。

 それに禍渦の撒き散らす不幸というものはそういった汚染者による人災に限らない。自然災害という形で多くの命が奪われる可能性もあるのだ。幸いにして私がメフィストと契約してからこれまで大規模の災害が起こった例はないが、次向かう先で発生しない保証などどこにもない。

「お待たせしましたねー。リーンハルト」

 背後から声をかけるこの男がその気になれば手を汚すことなく私を始末することができるのだ。

 花を手折るが如く。

 簡単に。

「おやおや、どうしました? 覇気がありませんねー。ああ、そうか元気なわけがないんでしたねー、キミは」

 私の前に現れた神を自称する男は白衣をはためかせて、からからと神経に障る笑い声を上げる。

「……下らない話をしに来たのではない。貴様は私に仕事をさせるつもりでここに呼んだのだろう? ならさっさと本題に入るが良い」

「はぁ……、最近言葉に棘が含まれてるような気がしますよ。実に悲しいことです。ですが、まあワタシとしてもそうやって勤労意欲を漲らせてくれるのはありがたいことですがねー。ほいっと」

 白衣の男が指を鳴らすと例によって宙に画像が映し出される。

「今回、キミに向かってもらうのは西アジア、ヨルダンの小さな町。そしてそこで何をしてもらうかといえば――禍渦退治です」

「……何だと? 当分通常の禍渦退治はしばらくしないと言っていたのではなかったか?」

「ええ、いまでもそのつもりですよ。でもねー、リーンハルト。流石に取り込まれるのをただ見ている訳にもいかないでしょう?」

 その言葉にもう一画面を注視する。

 展開された地図に示された黒い点は禍渦を示す印。そしてその遥か東の地点で僅かにではあるが移動を続けている黒い点は間違いなく――。

「異常禍渦……ッ!!」

「みたいですねー」

「みたいですね、ではない!! どういうことだ!? 私たちが戦ったときアレは裏に居ただろう? 御社を使わずにどうやって表と裏を行き来したというのだ!?」

「知りませんよ、そんなこと。もしかしたら御社ここを使わずに表と裏を行き来する方法があるのかもしれませんが――、こうは考えられませんか?

 アレはキミたちが戦ったのとは別個体である、とは」

「――――――な」

 あのような化物が複数体存在している可能性があるだと。

「まあ、勿論前者である可能性も捨てきれませんが、最悪の可能性は考慮しておくべきでしょう。いまはこれだけしかいえません」

「それで……、私にこの異常禍渦を壊せとでも言うつもりか? 貴様は」

 それで私を殺すつもりか? とそう問うと目の前の男は更に口を歪ませて笑う。

「まさか。前回三人がかりで手も足も出なかった相手にアナタ如きをぶつけてどうにかできるわけがないでしょうに。アナタが今回壊すべきは異常禍渦ではなく、その進路上にあるこちらの禍渦です。これが前回の異常禍渦にしろ、そうでないにしろ、これ以上強く鳴られるのは御免ですから、先にエサの方を潰すことにしましょう」

 何もしてないようでキチンと前回の戦闘データから異常禍渦の特性等は把握していたらしい。イア君に聞けばヤツは取り込んだ禍渦の力を使用していたとのこと。であれば、多少世界のバランスを犠牲にしても、この選択は正しい。

「ただ時間がなくてですねー、まだ不明瞭な部分が多いんです。ただ今回は前回に比べて異常禍渦が禍渦に接近するまで日がありますから、汚染者は無視して目標を壊したら直ぐに帰還なさい。それならば 『まだ』保つでしょう?」

「…………」

「あと八回……でしたか? 精々大事に使ってくださいねー。今度は深緋ちゃんを入れて四人でアレを壊しにかかってもらうんですから」

 男のその言葉と同時に床に設置された門の一つが開く。

 もう行け、ということなのだろうが、どういう風の吹き回しだ?

 あの男が私のことを気に掛けることなどありえない。それは間違いない。

 では、何故あのような言葉を吐く?

 ――嘘か?

「どうしました、リーンハルト?」

 訝しむ私をニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら眺める。

「……いや」

 良いだろう。

 貴様が何を企んでいるのかは知らんが、言われた以上仕事は完遂してやる。

 その決意のもと一度たりともあの男を振り返ることなく、門の中に渦巻く黒い靄に身を浸す。

「行くぞ、メフィスト」

『はいはい、どうぞ。ご勝手に』

 そう。それで良い。

 変に気負う必要はない。

 私はいつもどおり、殺人鬼としての信念を崩すことなく――。

 標的を殺すだけだ。



 そうして誰もいなくなった御社に嗤い声が一つ。

「そうそう、それで良い。お前はいつも通り道化者であれば良い。それが例えその首を絞めることになろうとも貫き通してさえくれれば良いんだ。

 さぁ、舞台は用意してやった。精々いい仕事を見せてくれよ? 哀れで愉快な道化者」

 その言葉を最後に今度こそ御社からは誰もいなくなった。


 カラオケに行きてぇ……。どうも久安です。


 今回の更新で百話目となります。『白鷽』から読んでくださってる方がもしいれば最大級の「ありがとう」を贈らせていただきます。勿論、見て頂いている方にはいつも感謝していますが、やっぱりこう、ほら、ねえ? ありますやん?


 果たしてまたリーンハルトは死亡フラグをへし折ってくれるのか? そして主人公は今後この章に出るのか?


 というところで次回予告です。

 次回は2月20日 7時を予定しています。では~。

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