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はきだめSS  作者: 宮明
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ドア越しの君に

二股ダメ男がストーカーまがい。

「帰ってください」

 震える声、乱れた紙の彼女。目の前でドアが閉まる。夜の23時、俺は外に取り残された。


 出会いは3ヶ月前だった。


 サークルの新歓で正面に座った彼女。新入生、つまり、うぶで新しい出会いにわくわくしている、少しかわいい女の子。俺は一口二口話して、すぐにそのままねらいを定め、2週間かけて彼女を落とした。

 付き合いだしてから、メールは一日5回。たまに「声が聞きたい」と電話。ほだしてなだめて、1週間でベットイン。

 そう悪いことじゃない。何せ、「恋人同士」なんだから。俺が二股してなかったら、の話だが。


 他県の彼女は大学の奴らには隠していた。会話に出すときは「元カノ」か「幼なじみ」よばわり。ばれねーだろ。そう思った。けれど、ばれた。それが3日前の話。


「どうしろってーのよ」

 今は7月、寒くはないが、どうかと思うわけで。

 まぁ、うん。俺が悪いよ。

 アイツが泊まりにきた次の日、こいつが朝から押し掛けて。

 アイツは俺のことがわかっているから、怒らずあきれたが、こいつは違った。

 そりゃバージン捧げた相手が俺みたいなくずじゃあ怒るだろう。

 そうして俺とこいつの攻防線が始まったのである。


 今日もバイト帰りにご機嫌をとりにきたわけだ。つい一週間前には笑顔で部屋にあげてくれた彼女今や心にとげをはやして、ドアを閉めている。

 話もできない。させてもらえない。

 きっとあの茶髪女の入れ知恵だろう。話をしたらきっと丸めこまれちゃうから絶対話しちゃだめとか部屋に入れちゃだめとか、本当空気読めねえなあの茶髪。いや、読めているのかこれは。

 頭の中で茶髪を二、三発ぶん殴って、深呼吸する。そして、出来る限り誠実そうな声をで、

「好きだよ」

 きっとドアにくっついてはらはら泣いているだろうこいつに、俺は小さくつぶやく。

 うんそうだ。ああそうだ。

 俺はこいつが好きだ。

 出会ってすぐにただ押しが強くて口がうまい男に簡単に引っかかってしまう純粋なところも、恥ずかしがり悩みながらもお願いだからと泣き落しにかかる俺に足を開いた情の深さも、茶髪以外には話さず(どうせならそいつにも言わないで欲しかったが)周りの奴らに噂を広めないようにする優しさも。そんなこいつが、俺は好きだ。

 けれど、あいつも好きだ。冷えきらないバカな男と知っていて、つきあい続けてくれる幼なじみ。たまに優しい目でじっと俺を見るあいつ。


 なぁ、本当に選べないんだよ。両方いい女じゃねえか。

 それが悪いことかよ。

 ――悪いことだよ。


「なぁ」

 せめて話を聞いてくれないか。

 俺はお前が好きなんだよ。

 初めてあったときの笑顔に射抜かれた。メールの返信がやけに遅いときは、一生懸命言葉を考えていたんだろう?少し不器用で、けれどとっても優しい、そんなお前が好きなんだよ。

 選べない俺を、お前は責めるのか。

「好きだよ」

 だから、ただ話(言い訳)をさせてくれ。

 なぁ、好きなんだよ。


 ――俺はだめな男だけど、お前が好きだ。本当なんだ。


「ドアを開けてくれよ」

 今すぐ君を抱きしめたいのに。


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