第62回戦 休日デート《前編》
きりーつ、れ〜い…
気の抜けた号令。
ろくに礼もせず、クラスのみんなは鞄をひっ掴んでバタバタと教室から出ていく。
『あー、やっと今週終わった。帰ろ帰ろ』
わたしも同じように、帰ろうと鞄を手に持った。明日休みだと思うと、胸が踊る。
「舞」
腕を掴まれた。
振り向くと、青海の姿が。相変わらず何を考えてるか分からない表情。
ポーカーフェイスだか何だか知らないけど、その無表情はつくりものみたいで気持ち悪い。
『なにさ』
腕を払いながら聞く。あ、ちょっとだけ眉間にしわが寄った。
「明日、クイーン・リアの南入り口に1時集合」
『……は?』
「遅れるなよ」
わたしの返事を聞かずに、言いたいことだけ言って青海は教室から出ていく。
クイーン・リア――
最近できた、大型デパートのことだ。食品から家具、雑貨や服屋まで入っている。
(っていうか、は?)
え、ちょ、わたしの意見は聞かないの?
『い、行かないからな!あたしにだって予定あるし!第一なんで休日にまでアンタの顔を見なきゃいけないんだ!』
わたしは振り返らない背中に叫ぶ。
『絶対行かないからな!』
◆第60話 男なら5分前じゃなく2時間前行動を心掛けろ
『結局来てるし……』
盛大なため息をついた。
行かないとあんなにも叫んだのに、律儀に待ち合わせ場所に立っている自分が悲しい。
しかも呼んだ張本人がまだ来てないって、どういうことだ。病み上がりだぞわたし。
(も、もしかしてハメられたんじゃ……)
あの腹黒ドSのことだ、充分有り得る。むしろ、そっちの方がが真実な気がしてきた。
わたしはポケットから携帯電話を取り出し、メールが来てないか確認する。
残念ながら、着信もなければメールフォルダも変化なし。
『ったくアイツ男のくせにあたしを待たせるとは……。チクショー、30分遅刻してやる気でいたのに』
「オイ」
『いやちゃんと来たのはクイーン・リアが久しぶりだったからはしゃいでたとかじゃないから。楽しみにしてたからとかじゃないから』
「聞けよ」
『うるさいな! ちょっと黙ってて!』
「ふざけんな」
『えっ、って痛ァァァァ!!』
殴られた!頭思いきり殴られたよ!
涙が糸をひきつつも、後ろを振り返った。そこにはわたしを殴った張本人、ドS魔王の姿が。
『なにすんだ青海!ってか、呼び出したくせに遅れやがって。礼儀がなってない!』
「お前が無視するのが悪い。それと俺は遅刻してねぇ。ジャスト1時だろ」
そう言って青海は腕にはめた時計を見せてきた。長針は12を、短針は1を示している。
……マジでか。わたしなに先に来ちゃってんだ。ちょっと恥ずかしいじゃん。
いやいや、違うぞ。これはあの……そう、家の時計が狂ってたんだ。うん、たぶんきっと、いや絶対。
「おい、舞」
『だから狂ってたっつってんだろ!!』
「なにがだよ。ほら、行くぞ」
『わ、ちょっと待ってよ』
さっさとエレベーターに向かう青海を、追いかけた。
次回に続きます。ラブな展開の予感v




