第59回戦 頭髪検査
朝、登校するとめずらしいことに鈴が来ていた。あの遅刻魔が、どういう風の吹き回しだろう?
「おはよう鈴。なんでいるの?」
「お、舞。俺だってたまには早起きするっつーの」
ニッと口角をあげる鈴。金のピアスが髪の狭間で光る。
「めずらしいねー。…と、翔兄来たや」
◆第59話 シャルマンな君の姿に乾杯
「あー、なんか今日、頭髪検査するらしい」
他人事のように言いながら、翔兄は自分の髪をガシガシと掻く。教室はもちろんブーイングの嵐だ。
まぁ、この学校規則緩いから、みんな結構いじってるもんね。
「はいはい、文句言うなら教頭に言ってね。俺だって面倒くさいんだから」
どうやら、本当にやるらしい。翔兄がわたし達を一列に並ばせる。わたしはもちろん、すかさず1番前をとった。
「えっと、舞はちょっと茶色い気がしないでもないけど、セーフだろ」
対して見もせず、シッシッと手で追い払う翔兄。失礼だなコノ!
わたしは染めてないけど、もっとなんかコメントくれたっていいじゃん!
「流華」
「私は何もしてないわよ」
流華は腕を組み、翔兄を見据えた。流華はサラサラストレートだもんね。綺麗な黒髪で憧れる。
「お前、髪長すぎ。切れ」
「い、嫌よ。私はロング派なんだから。短くするくらいなら登校拒否するわ」
「なんでそんなに嫌なんだよ」
「だって……」
ほんのり流華の頬が桜色に色付く。うわ、可愛い。
「舞が似合うって言うから……」
「はい次〜」
シカトする翔兄。容赦ない。
「絵里菜、お前パーマかけてるだろ。中学生が色気づくな。はいアウト」
「ええっ、このくらい見逃してよ!」
「なんか面白い言い訳したらセーフにしてやる」
そんなんでいいんだ!?
絵里菜は頬をかきながら、考えてる様子だ。
「えっと、その、爆発テロに巻きこまれて」
「テロ舐めるな。はいアウト」
「うわーん!!」
絵里菜、撃沈。
よくやったよ君は……。っていうか、どんな言い訳なら翔兄は納得したんだ?
「青海、お前黒髪というより紺じゃね?っていうか、紺じゃね?」
「気のせいだ」
「そうかねー。ま、いいや。目立たないし」
「気のせいだっつてんだろ」
「はいはい」
青海は軽く舌打ちしたが、ポーカーフェースは崩さない。
青海って、翔兄には口調悪いよね。他の教師にはそんなことないけど。
「修也、茶色い」
「地毛」
「いや、まばらだし」
「地毛」
「いや、根本黒いし」
「地毛」
「認めろ。それはアウトだ」
「チッ」
「舌打ちした?いま舌打ちした?」
したよな?とつっかかる翔兄を、修也はうるさいとひと蹴りして振り払った。
「幸希、お前頭明るくね?」
「なんかバカみたいに聞こえるんですけど」
「明るいって。頭明るいって」
「いや、本当にやめて下さい。バカみたいに聞こえるんで」
「頭のなかまで明るいよ。むしろヘタレだよ」
「ヘタレ関係なくない!?」
幸希をからかっている翔兄。無表情だけど分かる。ものすごい楽しそうだ。
でも、何人かに慰められている様子がまた、幸希っていうか、ヘタレって感じ。
その後も何人かチェックされていた。言い分は全て一刀両断である。そして、最後の一人は彼。
(……1番ヤバイよね)
わたしは高みの見物──じゃなくて、見守ることにした。
最後の一人とは、そう。
「鈴、その髪はないだろ」
赤髪ヤンキー、北林鈴だ。
「地毛だ」
「赤い髪が地毛って何人だよ。火星人か?火星人なのか?」
「じゃあ突然変異」
「じゃあじゃねぇよ。もっとマシな言い訳しろ」
「いや、本当マジで。突然変異なんだよ。少年漫画的な」
「世の中そんなファンタジックにできてないんだよ」
面倒くさそうに頭を掻く鈴。でも鈴が黒髪になったら嫌だな。
……いや、それはそれで興味がある。見てみたいかも。
「っつーかさ、これチェックしてどうすんの? なに、アウトだった奴はみんなどうにかしろってか?」
眉をひそめながら、鈴はヤンキー口調で翔兄に尋ねる。
いや、普通に考えてそうでしょ。じゃなきゃ、こんな頭髪検査する意味ないって。
しかしわたしのそんな考えを翔兄は見事に崩した。
「いや、別に」
………は?
「別に、って何もしないのかよ!?」
「え、したほうがいいの?」
「そ、そういう意味じゃねぇけど……、じゃあなんのためにこれやってるんだ!?」
「やれって言われたから」
「「「ええぇぇぇぇ!?」」」
クラスの皆の声がひとつになった瞬間だった。
翔はこういう人です。こんな教師はきっといない。




