第58回戦 赤点バッチコイ
テストが終わりました。いろんな意味で終わりました(By 舞)
◆第59話 僕は大器晩成型ですってどう考えても言い訳
―舞と鈴の場合―
時間がなかったんです。教えてくれる人を探してたら、あっと言う間にテスト直前で。
分かる問題からやろうとしたら分かる問題はないし。むしろ何が分からないのかさえ、分からないし。
「まーい!何うなだれてんだよ。カビ生えるぞ?」
机に伏してるわたしの背中を思いきり叩く。だけど怒る気力もない。
ゆっくり振り返ると、気持ちのせいか、うざったく見えてしまうキラキラの笑顔が。
彼はいつもしてるヘアバンドをはずしていて、赤い髪をおろしている。新鮮だ。
『…鈴……』
「あ、これ答案用紙?」
そう言って、机の上にある5枚のうちの1枚をつまむ鈴。
あ、それ数学の答案用紙だ。よりによって1番悪いのを見やがった。
「うわ、なんだこの点数!やべぇじゃん舞!」
心配する言葉とは裏腹に、鈴は爆笑する。殴っていいかな?
ついでに、わたしの数学の点数は18点。殴っていいかな?
「俺より悪ィじゃん!」
『……え』
「俺、30点以上だし」
その言葉に、わたしは自分の耳を疑った。だって、いや、嘘。
り、鈴に負けたァァァァ!!
『なんてこと!まさか鈴にまで負けるなんて』
「アッハッハッ」
『いやだァァァァ!!』
「これで補習確定☆ドンマーイ」
『うるせー!ってかお前もだろ!お前も絶対補習だろ!』
そうだ、鈴は数学はそこまでじゃなかったんだ。そして英語は何気できてたりするんだ。わたしと真逆だね。
いや、待て。わたしは確かに数学は20点もいかなかったけど。でも5教科の合計は200点いったもん!
『つまり補習は逃れたのさッ』
「あ、そうなんだ。舞、国語だけはいいもんなぁ」
だって翔兄が担当だもん♪もともと文系だしさ。
「じゃあやっと遊べるんだな」
『おうよ。ってことでゲーセンへGOー!』
「GOー♪」
―流華と幸希の場合―
休み時間、流華ちゃんの背中を軽く叩いた。舞ちゃんは側にいない。
「……藤森」
「風邪大丈夫?」
「まぁね。ちょっと熱が出ただけだし」
いつまでも振り返ってると体勢が辛そうだから、僕は流華ちゃんの前にまわりこむ。
確かに顔色もいい。大丈夫そうだ。
ジッと見てたせいか、流華ちゃんが首を傾げる。ああもう、あまり可愛い仕草しないでよ。
「そういえば、藤森テストどうだった?」
頬杖をつきながら、そう尋ねてくる。
「うーん、前より下がっちゃった。平均点も低いのが救いだね。流華ちゃんこそ、あまり勉強できなかったんじゃない?」
「そうでもないわよ。順位だって落ちてないし。ただ……」
「ただ?」
身体を小刻みに震えさせる流華ちゃん。え、なに?
「舞に教えてあげれなかったのォォォ!」
……なるほど。相変わらず舞ちゃん至上主義だ。
「私は別によかったのよ!?でも風邪が移っちゃ大変じゃない!私のせいで舞が病気になったら私、私……!」
(…風邪ぐらいで大袈裟な)
その溺愛ぶりには最早呆れを通りこして、感心してしまう。
「だいたい藤森も藤森よ!なんで代わりに教えてあげなかったの!?」
え、まさかの濡衣?仕方ないじゃんか。そんな余裕も時間もなかったし。
それに───
「流華ちゃんはいいの?僕が、舞ちゃんに勉強教えても」
そう言うと、流華ちゃんは意味が分からないとでも言いたげに、怪訝な顔をした。
僕は少しだけ顔を近付けて言う。
「ぼくらが二人きりになっても、流華ちゃんは気にしないの……?」
「───ッ!」
彼女が息を飲むのが分かった。普段クールな子ほど、こういう表情が新鮮。
「い、やよ」
「へぇ」
「そんなの嫌。い、いくら藤森でも舞は渡せない!」
「………え?」
「舞の隣は私なの。舞に勉強教えるのも私。舞を1番愛してるのも私。舞のためなら何でもできる!」
…ああ、そういうこと。僕に嫉妬したと。今の嫌はそっちの意味ね。
別に悲しくないから。ちょっと予想してたから。や、ホント悲しくないってば。
「……流華ちゃん鈍い」
「は?なんのことよ」
―青海と翔の場合―
昼休みの屋上。本来立ち入り禁止だが、何故か俺は青海と肩並べている。
「……俺、あいつに負けた」
あいつ。
たぶん舞のことだろう。確かに国語のテスト、舞のほうが高かったな。
「お前国語は苦手だもんな。でも満点いくつかあったろ?」
「……数学と理科はな」
「お前モロ理系だな〜」
そう言いながら、俺はポケットから煙草とライターを出す。
青海が嫌悪感たっぷりの顔してるけど、気にしない気にしない。
火をつけてくわえる。紫煙が吐きだされた。
「煙」
抑揚のない声。俺は隣に視線だけ移す。
「述語は?」
口許に淡い笑みを浮かべてそう尋ねれば、青海は小さく舌打ちした。
かと思うと踵を返して。遠ざかる背中に呼びかけると、彼は
「ストレス解消」
と、またもや単語だけで答える。標的は大方、舞か幸希だろうな。
「述語がないっつーの」
呟いた言葉は、扉の閉まる音にかき消された。
テスト終了です。鈴はコネで補習免れました(笑)




