第56回戦 予想外の展開
昨日は散々だった。人をおちょくっといて、放置プレイだなんて。
まぁいい。勉強は流華に教えてもらうもん。そうすれば、とりあえず30点以上とれるし。
前に誰も頼らず実力でいったら、大変なことになった。数学に至っては、鈴より低かったね。
(あれ?)
そう言えば、まだ流華来てない。流華が遅刻なんてめずらしいな。
「ほらー、席着けー」
気だるそうに翔兄が入ってきた。ざわつきつつも、みんな着席する。
翔兄は教卓に手をつき、帳簿を開いて一言。
「葉月は欠席なー」
わたしは宇宙の終わりを見た気分になった。
◆第56話 人の優しさプライスレス
『うあー、ぬぃ〜』
休み時間、机に伏して頭を悩ませる。わたしは今、絶望の縁に立たせれていた。
「風邪らしいぜ、あの女。そんな状態じゃ、お前に教えるのは無理だな」
嫌味ったらしい声に顔をあげれば、目の前にはやけに愉快そうな青海が。
『アンタの席そこじゃないでしょうが。勝手に座るなよ』
「いいだろ、休み時間くらい」
フッと笑ったかと思うと、有ろうことかわたしの机に足をのせた。
あ、ヤバイ。こいつの言おうとしてることが分かった。
「ほら、舐めろ」
『公開プレイかコノヤロー!』
勢い余って机を蹴りとばしたら、中に入っていた教科書やらノートをぶちまけた。
青海はサラリとかわしているし。なんかもう、色々とムカつくよ。
「頼りの相手がいないんじゃ、もうこれを舐める他ないな」
『なんでだよ!!』
ずい、と靴の裏を顔面に寄せてくる。そこまでして舐めさせたいか!
でも、無理。テストも無理だけど、そんなことするのはもっと無理。
人に靴舐めさせるのは大歓迎だけど、逆はキツイって。
「じゃあどうするんだ?お前」
『あたしにはまだ頭の良い友がいる!』
――貴公子の場合――
『幸希〜』
「ダメ」
『まだなにも言ってないんだけど!?』
机に広げたテキストとにらめっこしてる幸希。休み時間にまで勉強ですか。
……いや、今気付いたけど、みんな目の色変えて勉強してる。いくらテスト前だからと言って、異常だ。A組じゃあるまいし。
「どうせ勉強教えてとかでしょ?悪いけど時間ないから」
ため息混じりに言われた。
ぐ、読まれてる。
っていうか、冷たくない?いつもだったら、もっと優しい言葉かけてくれるのに。
「今回のテストは難易度高いしね。留年はないけど、悪かったら補習だよ?」
『聞いてない!』
「聞いてねぇのが悪いんだろ」
青海が後ろから口をはさむ。なにさりげなくついて来てんだ。
「青海も余裕だね。舞ちゃんをいじってるなんて」
「まぁな」
『コノヤロー!』
「流華ちゃん大丈夫かな…」
『あたしの心配は!?』
「青海に教えてもらえばいいじゃない」
ケロリと言ってみせる幸希。それが出来たら苦労しないっつーの!
「とにかく、僕には無理だから。ごめんね」
謝ってるけど幸希、一度もわたしのこと見てないよね。
「ほら、チャイム鳴ったよ。席着いて」
わたしは冷酷貴公子を引っ叩いた。
――ヤンキーの場合――
「舞、舞」
クラスメイトに勉強を頼み中、名前を呼ばれた。振り返れば、鈴がケータイ片手に立っていて。
『なに、鈴。あたし今交渉中だから後にしてよ』
「いや、だからね舞。私も余裕ないって……」
ぶつぶつ呟く美紀の声は、まぁ聞こえないということで。
「放課後ゲーセン行こうぜ」
ニッ、と笑う鈴。この子の場合、余裕あるないじゃなくて単に勉強嫌いなんだよね。
テスト勉強なんてしてたら、それこそ大地震が起こる。
鈴はパチン、とケータイを閉じこう言った。
「前に俺らが残した記録、塗りかえられてたんだぜ?」
『なに!?それはまずい!行かなきゃ!』
「ちょっ、舞。あんた勉強するんじゃなかったの!?」
ぐい、とわたしの腕をひく美紀。
う、そうだった。いや、そうなんだけど。この甘い誘惑にわたしは……
「行くだろ?舞」
勝てないッ!!
『もちろん行き──グハァ!』
ます、と続くはずだった言葉は出てこなく、代わりにわたしを襲ったのは痛みだった。
「馬鹿かお前。そんなんじゃ、10点もとれないだろ」
青海。乙女相手に、シャイニングウィザードってどうなの……。
「邪魔するなよ青海ー」
鈴がムッと口を尖らせる。それに青海は無表情で返した。
「鈴はコネがあるだろうけど、このバカ女は何もない」
『何もなくないわよッ』
「精々、体力と運動神経ぐらいだろ?ほら、さっさと靴舐めろ。嫌なら素足でもいいぞ」
『もっと嫌じゃボケ!』
――隠れサドの場合――
『光太、アンタ確か頭は良かったわよね』
「……勉強なら教えないぞ」
『なんで!?』
「面倒くさいから」
ケロリと言い切る光太。彼も休み時間に関わらず、テキストを開いていた。
『ケチ!要点だけ説明してくれればいいんだってば!』
「そんなことしてる時間があったら単語のひとつでも覚える方が得」
くそ、優しくない人間だな。世の中を損得で考えるなんて。
思いきり睨んでも、彼はどこ吹く風。気にも止めず、淡々と手を動かす。
「みんなに見放されたな、お前」
くすっ、と笑う青海。チクショー、その涼しげな面殴りたい。
だいたいコイツ、なんでついてくるんだよ!お前も勉強しろよ!
「青海、教えてやればいいじゃん。どうせ学校じゃ勉強しないんだろ?」
手はとめずにそう言う光太。
「利益が無いことする趣味はないからな」
「ま、そこは同感だけど」
「ついでにこの単細胞の苦しみ姿をもっと見たいし」
「それも同意見」
このSコンビめ!!
「「なんか言った?アメーバ」」
『すみません多細胞様!』
タイムリミットはあと4日。わたしは靴を舐めずに済むだろうか……。




