表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/64

第55回戦 ドS魔王降臨



わたしは耳を疑った。




◆第55話 ほっぺた以上くちびる未満






『………は?』


「だから、舐めろよ」


向けられた言葉と、目の前に差し出された靴。


停止しかけた思考を働かす。……ああ、そういうことね。舐めろか、うん。


『って、なんでだよ!』


「この単細胞に勉強を教えて下さい青海様、って言って俺の靴を舐めたら、この天才が全教科80点以上とれるよう教えてやるよ」


うぉぉぉぉぉ!!いつにも増してドSだ!


そうだ。コイツはこういう奴だった。わたしにタダで教えてくれるはずがない。


ギブアンドテイクどころか、更なる利益を求める。


「ほら、どうするんだよ。別に強制はしねぇぜ?お前が10点とろうが20点とろうが、俺には関係ねぇし」


つま先でわたしの顎を掬いあげる。ちょ、喉に刺さってるんだけど。痛いんだけど。


(なんて外道なんだ……!)


わたしがコイツの靴を舐める?いや、さすがにそれは人としてのプライドが許さない。


しかし少し舌を伸ばせば、万々歳の成績。みんなを見返すことができる。翔兄に褒めてもらえる。


尊厳か、成績か。



『───やっぱり無理ィ!悪いがわたしはS寄りの人間なんだ!』


そう叫び靴を振り払えば、青海は小さく舌打ちした。


「ふぅん?いいんだな、それで?」


『流華か幸希に頼むもん!』


「……あの女はともかく、幸希は自分の勉強で忙しいだろ。お前に教えれる余裕も頭脳もねぇよ」


『オイオイ。何気ひどいこと言ってるぞ』


「幸希がテストの点が良いのは、かなり勉強してるからだ。あれは秀才、俺は天才」


『言いきったな……』


その自信はどこから来るんだ。天才だから、努力する必要ないってか?ムカつく。


幸希も頭良いけど、さすがにA組の子たちには負けてるしな。まぁ、運動神経抜群だから。


「で、舞?」


『あんだよ』


「本当にいいのか?葉月流華で。理数系の奴が文系の奴に理解させるのは至難の技だぜ」


『お前だって理数系だろうが』


「俺はそんなの関係ないくらい天才だからな」


そう言って、またもや靴をわたしの頬に擦り付ける。


ぐっ、確かに前も流華に教えてもらったとき、流華はかなり困ってたな。


「ほら、どうするんだ」


『だ、だから。そんな真似はしたくないって!』


「……ふーん」


しゃがみこみ、わたしと同じ目線の高さに合わせる青海。


冷めた瞳は、相変わらず感情が表れていない。だから、こんな風にジッと見られても不快だ。


「舞」


『な、なに───んぁ!』


手を伸ばされたと思ったら、唐突に指を口内に突っ込まれた。


『はひふんほひゃ!』


「噛むなよ」


『ん、ひゃ…!』


人指し指が歯列を、親指が唇をなぞる。くちゅ、という水音が響いた。


青海の空いてる左手は、わたしの首筋にあてがい、軽く爪をたてている。


どこを見ればいいのか分からなくて、視線があちこちに泳いだ。目が合わないよう、前だけは向かない。


(なにがしたいんだ…!)


まったくもって理解不能。この行為になんの意味があるのだろう。


だって、青海の指は唾液で濡れるしわたしはただ苦しいだけだし。おかしいだろ、うん。


っていうか、コイツってもっと潔癖症じゃなかったっけ?雑菌が…とかなんたらかんたら言いそうなのに。


『ん…く……』


苦しさに、生理的な涙がにじんだ。


指は上顎を撫で、舌に触れる。指の腹で愛撫したと思ったら、ひっかかれて。


わたしは青海の胸を押し返してるけど、まるで無意味だ。だって、力が入らない。


生き物のようにうごめく指。苦しいけど、痛くない。くすぐったくて、もどかしい。気持ち悪いようで、気持ちいい。



(…………は?)


わたしは今、なんて思った?気持ちいい?誰が?何で?


(有り得ねェェェェェ!!)


「ッ!」


青海が小さくうめき、指を勢いよく引き抜いた。その指からは、赤い雫がぷっくりと浮き出ていて。


にじんだ血を舐め、彼はわたしを強く睨んだ。


「噛むなって言っただろ」


『う、うるさいやい!アンタが変なことするからじゃん!』


口からこぼれた唾液を拭い、そう叫ぶ。体がすごく熱くて、赤面してるのが自分でも分かった。

穴があったら入りたい気分だ。


青海はしばらくわたしを見ていたが、不意に立ちあがる。その際に腕を引かれ、わたしも無理矢理立たされた。


掴まれた腕が、痛みに悲鳴をあげている。


「つまらない」


そう青海は呟いて、


『な……』


わたしの頬を舐めた。


ボンッ、と頭が沸騰する。頬に触れた、一瞬の冷たさ。


固まって動けないわたしを置き去りに、彼はわたしの横をすり抜ける。


後ろで扉の閉まる音が、大きく重く響いて。



『…意味分かんない…』


わたしはコンクリートの上、大の字に寝転んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ