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第53回戦 体育祭終了



わたし達のクラスは見事1位となり、優勝カップを手にいれることができた。




◆第53話 罪な女、罪な男




「えーと、なに。なんていうかまぁ、優勝おめでとうとか言ったら嬉しいのか?」


体育祭が終わり、教室に戻ったわたし達に向けて翔兄はそう言う。


教師として、その言葉はかなりの暴言じゃない?まぁそんなところも素敵だけど♪


『ねぇ翔兄ー。優勝したんだからさ、なんかご褒美ちょーだい』


「別に俺、優勝したいなんて言ってないし」


『えぇー!翔兄のためにがんばったのに!』


……10%ぐらいは。30%はクラスのためで、残りの60%は自分のため。


え?ヒロインがそれでいいのかって?


いやいや、むしろそこがあたしのチャームポイントでしょ。


「でも優勝かー。やっぱり嬉しいね」


幸希が頬杖をつきながら、微笑んでそうこぼした。


夕日に照らされた幸希は、とても絵になっていて。さすが『微笑みの貴公子』と呼ばれるだけはある。


『今回、幸希はいい所ばっかだったもんねー。いつものヘタレキャラはどうしたの?つまらないじゃん』


「勝手にそんな不名誉なキャラにしないでよ」


『まぁ結局最後はヘタレだったみたいだけど』


「あれ無視?」


サラリとシカトしたせいか、幸希がなんか文句言ってるけど、まぁ気にしない。世の中プラス思考だよね、やっぱり♪



「オーイ、鈴。まだ帰っていいなんて言ってねぇから」


翔兄の言葉に振り向けば、鈴がドアに手をかけていて、今まさに帰ろうとしていた。


っていうか今更だけど、鈴のジャージ姿貴重だな。写メ撮りたいし。


鈴は赤い髪をかきあげ、


「もう終わりだろ?だるいから帰る」


と、また自己中な発言をする。


「少し待て。……あー、でもどうせこれから帰るんだし、別にいいか。よし、帰れ」


「なんか帰れって言われると帰りたくなくなるんだけど」


「いや帰っていいって。どうせお前、残ったって邪魔なだけだし」


「……やっぱ帰るのやめた」


翔兄の言葉にカチンときたのか、鈴はドアから離れ自分の席に音をたてて座る。ドッカリと。


机の上に足のせてるあたり、ヤンキーだよね。行儀悪い。本当に金持ちの息子なのか?


席に着いた鈴を見て、翔兄はため息をつく。


「天邪鬼だな。まぁいいか。えーと、なんか片付けあるみたいだから、よろしく。先生たちは打ち上げだから」


『はぁ!?なんであたし達は片付けで翔兄達は打ち上げなのさ!』


「大人は疲れるんだよ。やってらんないことがあるの。酒でも飲んでストレス解消するの」


『ずるいー!ふんだ、翔兄なんか王様ゲームで女の子とエッチなことして、そこを偶然愛姉に見られてフラれちゃえ!』


「いや、お前の言ってるそれは合コン。俺たちは打ち上げ」


『同じだもん!』


「違ぇよ」


ああ、一刀両断された!ダメージでかいッス隊長!


──に、しても。

片付けかぁ。面倒くさいや。なんか白熱した後にそういうのって冷める。


「ねぇ、舞」


そんなことを思っていたら、後ろから流華が話しかけてきた。


首をまわして、『なに?』と尋ねる。


「どうでもいいんだけど、むしろ嬉しいんだけど、アイツ何処にいるの?」


『アイツって?』


「高梨青海」


そう言われれば、いない。閉会式のときはいたのに。


「青海ならたぶん屋上に行ったよ」


あたし達の話を聞いていたのか、幸希が口をはさむ。


屋上かぁ〜。あ、もしかしてアイツ片付けサボる気だな!?


『そんなの羨ま──じゃなくて、ずる──じゃなくて、許さない!』


ひとりだけサボりなんて。みんな嫌なのに、片付けちゃんとやるんだよ?今すぐに帰りたいのに、ちゃんと残るんだよ?


こんなのおかしい!!


『ってことで翔兄、D組の平和な未来のために、舞いきまーす』


「お前もサボりたいだけじゃ………って、もういねぇ」




――――――――――――――


『青海め。ひとりだけサボろうったって、そうはいかないぞ』


屋上へと続く階段を登りながら、文句をこぼす。


最後の一段を越え、扉の鍵を見るとやはりというべきか、はずされていた。


こじ開けた形跡がないあたり、ピッキングの仕方が上手い。泥棒なれるんじゃね?天職だよきっと。


あたしがやると、どうも強引な跡が否めない。まぁ実際、強引なんだけどね。


重い扉を押すと、勢いよく風が吹いてきた。一瞬、息がつまる。


反射的に閉じた目を開くと、フェンスに寄りかかる彼がいた。


『見つけたぞ魔王!今こそみんなの恨み晴らしてやる!』


叫んだわたしの声は、少しだけ響いて。そして風に連れてかれた。


あり?ノーリアクション?おかしいな。いつもなら容赦ないツッコミがくるのに。


ひとりで叫んじゃって、なんか恥ずかしいじゃん。わたしは不思議に思いながら、青海のもとへ駆け寄った。


『………青海?』


応答がない。


うつ向いた青海の表情は、前髪がかかっていてよく見えなくて。

のぞきこむと、冷たい色した瞳は伏せられていた。


『寝てる?』


めずらしい。絶対に人前じゃ、防御とらなそうなのに。それともひとりだから、安心して眠っているのかな。


『かなり貴重…。ケータイ持ってくれば良かったな。女子に高く売れそう』


そんなことを呟きながらも、わたしはジッと彼の寝顔を見つめる。


――うわ、肌透き通ってるなオイ。女子より綺麗なんじゃね?


ムカつくくらい美形だ。目の保養になる。顔は整ってるのに、腹のなかは真っ黒なんだから。卑怯だと思う。


いつもより長く見える睫毛。薄い口唇。触りたくなる。


『って、あたしキモォォォォ!』


伸ばしていた手に気付き、わたしはザカザカと後退った。


危ない危ない。もう少しでセクハラするところだった。


『大丈夫、あたしはまだ何もしてない。あたしの手はここにある!』


これは完璧に未遂だ。いや、むしろこんな所で寝てるコイツが悪い!


『あたしは無罪だァァァァ!』


そう叫びながら、あたしは屋上を疾風の如く走り去った。






「……惜しかったな」


舞がいなくなったのを確認して、顔をあげる。


狸寝入りしてればなんかしてくると思ったが、計算違いだったな。


まぁ変な悪戯してこようものなら、殴る蹴るしたけど。


「触れるくらいなら、別にいいのに」


後々、からかいのネタにもなるし。


空を仰ぐと、みとれるほどの青が広がっていた。俺はもう一度、瞼を伏せる。



――触れられると少しだけ期待してたのは、口がさけても教えてやらない。










『あたしは変態じゃないあたしは変態じゃないあたしは変態じゃない』


「意味分かんないこと言ってないで、片付け手伝えよ」


『痛ッ。なにするのさ光太!お前なんか使い捨てキャラだからな。どうせもう出番ないんだからな!』


「黙れ」


『イタタタタ!ごめんなさい光太様!』



体育祭編やっと終了です。またしばらくは日常に戻りますよー。

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