第48回戦 体育祭〜午後の部〜
後半、幸希視点です。
昼休みが終わって、午後の部が始まる。
戦場という名のグラウンドへ行く途中、目の前に青海がいたから、とりあえず飛び蹴りしてみた。
◇第48話 Do you hate me?
I hate you.(me tooしか期待してないわ)
『い、痛い……!』
「そりゃあれだけ派手に転べばな」
『白々しい!あんたが避けたからじゃん!』
おかげであたしは、傷だらけのシェリーさ。これから競技なのに、いきなり怪我ってどうよ。
痛いんだけど。血でてるんだけど。
『チクショー…【おうちゃん】のくせに』
そうわざと聞こえるように呟くと、アイツはぴくりと反応した。
『ずいぶん可愛いあだ名なことで。あの声、だれ?』
「……お前には関係ないだろ」
不機嫌な声で青海は答える。睨みすぎだってば。そんなに凄まなくても。
『いいじゃん!教えてよっ。なに、彼女とか?』
そう言って詰め寄ると、そいつはあからさまに嫌な顔をした。失礼だなオイ。
青海は近付くあたしを片手で制しながら、青海はため息をつく。
って、痛たたたたたた!!髪つかむなバカ!
「うざい」
『な、なんだよ。誰か教えてくれるくらいいいじゃん!じゃないとこれからお前のこと【おうちゃん】って呼ぶぞ!?』
「…………」
『思いきり嫌な表情してんじゃねぇぇぇ!!あたしだって嫌じゃボケ!』
叫んで青海の腕を振りはらった。パシッと乾いた音が小さく響く。するとそいつは舌うちして、あたしから離れた。
『ちょ、ちょっと』
「…お前さ、俺のこと嫌いならどうだっていいんじゃねえのか?俺が、誰を好きとか、大切だとか」
冷めきった瞳が、私を射抜く。あまりに冷たいから。
(少しビクっちゃったじゃないかコノヤロー。す、少しだけだけどな。いや、ホント。うん、little)
「そもそも、教える義理なんてないし?」
『ふっ、バカ言わないでちょうだい。あたしには、全てを知る権利があるのっ!』
「ねぇよ」
『あるの!』
「ねぇって」
『ある!』
「ねぇ」
『あ〜る〜!いい加減白状しろ。神妙にお縄につけいッ』
「あ、翔と花形くんだ」
『ぅえ!?』
わたしは勢いよく青海が指差した方向に振り返った。
しかし、そこには誰もいない。チクショー騙されたッ!
『青海テメェ!!』
って、あり?
い、いない………。
頭に浮かぶ、はめられたという文字。
『おうちゃんコノヤロォー!』
◇
今にも人に殴りかかりそうなほど機嫌の悪い舞ちゃんを見た後、今にも女の子が騒ぎそうな笑顔を浮かべている青海を見た。
絶対なにかあったな、と思いつつ、僕はその親友の肩を叩いた。
僕だと分かっているだろうに、振り返った表情は、いつもより毒の抜けたものである。
「幸希」
「やっほ。機嫌よさそうだね」
そんなことない、と言って、青海は普段のポーカーフェイス。
彼の機嫌が良い理由がなんとなく分かっていた僕は、その話題を出した。
「綺空ちゃん来てたね」
にこっと笑って言うと、青海は少し顔をしかめる。
なんか余計なこと言ったかな?
「ああ。…っていうか、その呼び方やめろ」
……なるほど。
僕は心のなかで笑った。実際に笑ったら殺されかねない。命は惜しいからね。
「おっとゴメン。綺空さんね。なんか女の子って、【ちゃん】つけたくなるんだよね、僕」
「病気だろ」
「それは酷くない?」
青海はあまり女の子にちゃん付けない。だいたい苗字で呼んでる。
舞ちゃんに対しては名前だけどね。
「そういえば、流華ちゃんは何故かフルネームだよね」
流華ちゃんも青海のこと、フルネームで呼ぶし。
「苗字や名前で呼ぶ仲じゃないからな」
だからフルネーム?どんな定義だよ。絶対変だと思うんだけど。
「そんなこと気にするなよ。小せぇ男だな」
「ひど!ってか心の中読むのやめてってば!」
怖いんだからまったく!付き合い長いけど、これには慣れない。ってか、いつ身につけたんだ、その読心術。
「あ」
「え?」
青海が声をこぼすから、僕は彼の視線の先をたどった。そこには、綺空さんの姿が。
「って、ちょっと青海…!」
走ってちゃったよあの人。僕の存在無視?
「本当、仲が良いことで」
お互い溺愛してるもんね。【おうちゃん】なんて呼び名、綺空さん以外に許さないだろうし。
「まぁ、綺空さん美人だし優しいし、気持ちは分からなくもないけど」
でも、あの声はヤバかったんじゃないかなぁ。女の子みんなビックリしてたし。
ただでさえ青海を呼び捨てする女の子は少ないのに(クラスメイトは別として)、【おうちゃん】って……。
「だけど、青海は綺空さんに対して怒らないんだよね」
まぁそれも愛故ということか。女の子からの好感度は大丈夫なのかな?
「……ま、いっか。僕には関係ないし」
競技開始のアナウンスが聞こえて、楽しそうに話す青海と綺空さんを尻目に僕は走った。
途中、舞ちゃんに八つ当たりされたことは、まぁ追記ということで。
綺空が青海のなにかは今後明かします。たぶん、想像してる通りかと(^_^;)




