第47回戦 体育祭〜昼休み〜
◆第47話 晴天屋上昼寝日和
午前の競技を終え、一旦昼休みに入った。この間に、昼食を食べたりする。
「舞、どこ行くの?ご飯は?」
『ちょっと屋上〜』
わたしは母特製弁当を持って、流華に背を向けた。
行き先は流華に言った通り、屋上。うちの学校、私立のくせに警備甘いんだよね。鍵はかかってるけど、人によってはピッキングできる。
その人は誰かというと、腹黒魔王だったり、素敵やる気なし教師だったり、赤髪ヤンキーだったり……。
ついでに私もできるよ。最近コツを掴んだのさ♪
『ふんふんふ〜ん』
わたしは鼻唄を歌いながら、屋上へ続く階段をかけのぼる。
そして、扉の前まで到着。見るとすでに錠ははずされていた。
(……予想通り)
重いドアを押す。
目に入る眩しい青空。ギラギラな太陽とは裏腹に、吹き抜ける風が爽やかで心地好い。
───さて、このへんで屋上へ来た目的を話そう。
そう、この私が昼休みという貴重な時間をつぶしてまで来た理由。
それは………………
『こんの不良息子がぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「ゲッ、舞!」
私は寝そべっている鈴に、飛び蹴りを炸裂した。
見事、腹の上に乗ってやったぜ★ぐえっ、と可哀想な声をだす鈴。
はん、いい気味だね!
「な、なにするんだよ……!」
お腹を抱えて、上目にわたしを見上げてくる。微妙に涙目だ。……太ったかな、わたし。ショック。
『何するんだよ?むしろこっちが何するんだよだよ!』
「意味わかんねぇから!」
わたしの気持ちを理解してくれないのね!?ひどいっ、ひどすぎる!
『あー、そうですか。そうですか。もう分かりましたよ』
「何が分かっちゃったんだよ」
『ホント最悪!離婚よッ』
「結婚は16ならねえとできねぇ!」
『いやいや、ツッコミどころおかしいくない?いつ私が鈴と結婚したのよ』
なんで自分で自分のボケにツッコミ入れてるんだ私。一番悲しい行為だぞ。
「ったく、…で?何の用?」
鈴が大きなため息を吐いて尋ねてくる。
『な、何の用ですって!?それを私に言わせるの!?』
「他に誰がいんだよ」
あら、まともにツッコミ入れられちゃった。
何の用?何の用って決まってるじゃん。このあたしが翔兄にお弁当『あーん』や、花形先輩にラブエールを断念までしたのは、これを言うため!
『今まで何していたぁぁぁ!』
「………は?」
『競技サボって何してた?応援さえせずどこにいた!?』
「あー…」
なるほどね、と言った顔で鈴が呟いた。そしてもう一度ごろん、と地面に寝転び、昼寝体勢。
『って、寝るな!』
「いって!お前ばか力なんだから、少しは手加減しろよ」
鉄拳を浴びせば、叩かれた頭をさすって、ぶつぶつ文句をこぼす。
彼の赤い髪が日の光にあたって、キラキラと輝く。夏休みが終わったからメッシュは入っていない。
っていうか鈴、なんで制服なの?どんだけやる気ないんだ。
ボタンは開け放題で、胸もとだけでなく腹筋まで晒してるし。目のやり場に困るよ、そのエロイ格好。
「悪かったな」
不意に鈴が言う。今まで黙っていたから、ちょっと心臓がはねた。あたしのガラスハートは繊細なのよ。
何が?と聞こうとしたところで私は口をつぐむ。たぶん、さっきまでの私の怒りに対してだろう。
『…謝るなら、サボらなきゃいいのに』
「暑いし疲れるし苦手なんだよ」
ようは面倒くさいってことじゃねぇかオイ。
『……午後は出てよ?団体競技なんだから、協力しなきゃ』
そう言うと鈴は、協力ねぇ…と呟いて瞼をふせた。
まったく、協調性がないったらありゃしない。
「舞がそこまで言うなら出てやるか」
……マジ?
「自分で言うのもなんだけど、運動神経には自信あるからな」
『鈴……大好き!』
「うわ!いきなり抱きつくなッ!」
さすがあたしの相棒だわ!やるときはやる子だって、信じてた!
『あー良かった良かった』
「そりゃどうも。なぁ、なんか飲み物もってね?ずっとここで寝てたらのど渇いた」
…ここでずっと寝てた?何のために今日来たんだアンタ。
そう思いつつも、わたしは鈴にペットボトルを手渡した。なんて優しいのあたし♪
『はい、サイダー』
「お前、体育祭にサイダーってどうなんだ」
『いいじゃん。暑いと炭酸飲みたくなるの』
「しかも口つけ」
『文句言わない!』
「へーい」
余程のど渇いていたのか、ぐびぐびと喉を鳴らして飲む。
(よく炭酸をそんないっきに飲めるな)
鈴の首筋には、うっすら汗が滲んでいた。やっぱり動かなくても、暑いよね。
焼けたせいか、肌が赤い。そういえば鈴って、日焼けしても黒くならないんだよ。赤くなって、また白に戻る。うらやましい。
あたしすぐ真っ黒に焼けちゃうんだもん。
「ぷはっ!あー美味い」
そう気持ちよさそうに言って、わたしにサイダーを返す。だいぶ減ってるんだけど、鈴くん。
『鈴お弁当はー?』
「あー、教室」
忘れてきたのか。あ、違う。朝からここにいたんだっけ。
『仕方ない。少しわけてあげよう』
「マジで?」
『出てくれるんでしょ?』
そう聞くと鈴は、もちろん!と笑った。
これも青春だよね。確かに屋上は風と陽射しが爽やかから、眠くなる気持ちもわかる。
わたし達は、ふたりでお弁当をわけあった(途中でバトルしたけど。だって玉子焼きの数が3つだったんだもん)。
友達以上恋人未満?いいえ、大切な相棒です。
恋愛対象に入らない男友達との友情は、長続きすると思う。




