第43回戦 体育祭〜障害物競走〜
◆第43話 必ず怪我する奴がいるんだよね
障害物競走に出るのは2人。先に走るのは僕だ。コースを見れば、いくつか障害物がある。ただ真っ直ぐ走るよりはおもしろみがあっていい。
チラリと走者を確認する。
やっぱりいちばんの敵はB組かな。運動能力でこの学園に入学したんだから。
A組は頭良いけど、それだけって子が多い。なにか作戦たててそうだから、油断できないけれど。
C組は、……令嬢とか子息だからなぁ。自力で走るとは思えないや。
「ま、とりあえず敵はB組ってことで」
足首をまわしたり、腕を伸ばしたりして、軽く準備運動する。
少し離れた所にいる流華ちゃんを見ると、目があった。流華ちゃんは声には出さず、口許を動かす。読み取ると
が、ん、ば、っ、て
「………もちろん」
返事代わりに、微笑んだ。
「よーい………」
季節の狭間の空に、響く銃声。
一斉にみんながダッシュした。
最初の障害物はハードル3つ。まぁ王道だよね。大して高くないから、誰もひっかからない。
でもやっぱり運動能力が必要。僕はB組と並んだ。後ろを振り返るほど余裕はないから、A・Cがどうなっているかは分からない。
次の障害物は────
「……なにアレ」
目の前には、脆そうな壁が。赤と青に別れていて、隣には実況の内山先輩がいる。
なんだろう、バラエティを思い出す。
「フフフ、第二の障害物はクイズです!当たりだと思ったら赤に、ハズレだと思ったら青に突っ込んで下さい」
意気揚々と説明する内山先輩。いやいや、なにそれ。テレビじゃないんだから。
「まさかハズレには粉があったり?」
「おぉ!ヘタレン冴えてる」
パンッ、と手を叩く実況。
ヘタレン!?なにそのあだ名!ヘタレか?ヘタレからきてるのか!?
っていうか、なんで初対面なのにヘタレって言うの!!
そうこう(どうこう?)してる間に、A・Cもきた。ヤバイ、クイズと言ったらA組が有利だ。
僕もそんなに頭悪くないほうだけど、A組に入れる程良くない。うわ、Aくんかなり笑ってるよ。なんかもう勝利確定みたいな顔してるよ。
「では問題です!」
どこから流れたのか、チャチャン♪と聞こえる。
「太郎くんはキャンディを5個持っていました。太郎くんは友達の慶太くんに3個あげました。だけど1個は返されました。その後妹の加奈に2個あげ、同じ個数ガムを貰いました」
(あ、これなら分かりそう)
その安心を、内山先輩は見事にぶち壊す。
「さて、太郎くんの好きな娘は聖子ちゃんである。○か×か」
前ふり関係なし!!?
「ついでに太郎くんとは僕の事です。内山太郎と申し上げます」
殴りたい!ものすごくこの人殴りたい!!
スナイパー並に人のムカつきポイントを的確についてくる!ゴル●13も真っ青だよ!
「ふっ、なるほど。これは○だな」
「えー!?何を根拠に!?」
「分からないか?内山先輩はこれを機会に聖子ちゃんに告白したいんだよ。つまり、答えは○だ!!」
そう叫びながら、名も無きB組少年は赤の壁に突っ込んだ。結果は────
バフッッッッ!!
「ブップー。答えは×です。だって、聖子というのは僕の母の名前ですもん」
ざーんねーん、と粉に埋もれたBくんを見て言う実況。ああ、なんて哀れだ。
「バカだろうアイツ」
隣にいたAくんが、メガネをくいっと持ち上げ呟く。そして青の壁を破壊し、走っていってしまった。
「ちょ、なんだよこれ。いちばん最初に突っ込んだ奴を犠牲にすれば、他のやつ失敗せずに行けるじゃん」
有り得ない、といった表情で文句をこぼすCくん。うん、激しく同感するよ。
「まぁ、そこに気付くかどうかが頭脳プレイですよ♪」
ニコッ、と笑う内山先輩を一瞥し、僕とCくんはA組を追う。
嗚呼、早速脱落者が。
やっぱりご子息様は普段走らないみたい。どんどん差をつけて、秀才君も追い越して、僕は1位に踊り出た。
このままいけば、確実にとれるかな?なんて期待して、またもやきたよ、障害物。
次は、跳び箱が置いてある。しかも、笑えないくらい高い。
「……いやいやいや」
いくらなんでも、これは無いでしょう。体育の授業で8段はわりと楽に跳べたけど、目の前のこれは15段。
いじめか?体育祭にかこつけていじめか?競技を上手く利用していじめか?
『幸希ファイトー。お前ならできる!』
応援席から舞ちゃんの声が聞こえる。いや、普通に無理。
僕が唖然としてると、秀才君と子息様が息を切らせながら、僕の隣へ。共に見上げる。
「なんだよこれ」
うん、ごもっともだね。
「……平野」
C組がパチン、と指を鳴らした。その瞬間黒の服纏った男がサッと現れる。
「奴を用意しろ」
「はっ!かしこまりました」
そう了承して、男が呼んだ男は
………巨神兵?
「お呼びですかぼっちゃま」
「ああ。僕を担いでこの跳び箱跳べるか?」
「お安いご用」
巨神兵は頷いて、命令の通りCくんを担いで跳び箱をとんだ。15段の跳び箱を。
「え、いや、ちょっと待って。どこからつっこめばいいのか凄い困るけど、とりあえずアレは有りなの?」
ズルじゃない?と、本部の人を見ると、目があったひとりがグッ、と親指をたてた。
えーーーーー(遠い目)
僕がぽかんとしてると、助けを出すように実況内山先輩がマイクにむかいこう言う。
「さすがに15段はきついですか?では、そんな貴方にビッグチャンス☆」
……ビッグチャンス?
「跳び箱の横に大きなハンマーあるでしょう?それでいくつか段を減らして下さい。だるま落としっぽく」
確かに、隣にはハンマーがある。だけどそんなルール──あり?
「……仕方ない」
最早常識は通じないらしい。ならばもう諦めて、無茶しよう。
それに、運動能力には自信あるしね。体育科のB組と同じくらいだと思う。一応青海よりいいんだよ?舞ちゃん程じゃないけど。
スコンッ
スコンッ
スコンッ
「なんか、あっさり抜けるな。拍子抜け」
スコンッ
スコンッ
只今10段。Aくんは後ろから僕の様子見をしてる。
「こんなもんかな」
僕は呟き、跳び箱に向かい走った。大丈夫。きっと跳べる。自分に言い聞かせた。
ダアン!!!
着地の音が響いた。一瞬深まる沈黙。だけど、すぐにそれは歓声によって壊される。
キャー、とか、おぉぉぉ!とか、いろいろ聞こえる。けっこう気持良い。
さて、もう障害物はないみたい。Aくんはきっと跳べないだろうし、Bくんは戦闘不能。
予想外の展開だけど、やっぱり最後は綺麗に終わらせなきゃね。
目の前を走るC組の背を追い掛ける。あと少し。ゴールは間近。君がゴールするのと、僕が追い越すの、どちらが早いかな。
なんでだろーね、スローモーションで見える。ああ、あと少し。あと少し。結果は
「ゴォォォォォル!!見事逆転し、1位D組です!先ほどの汚名返上なりました!」
「たまには僕にもかっこつけさせてよね♪」
女の子の黄色い声が響いた。
いつも幸希の扱いが酷いので今回は花を持たせてあげました!




