第37回戦 僕等の休日
青海視点
日曜日、舞と青海は学校に来ていた。そう、体育祭の練習のため。
◆第37話 所詮個人プレイ
舞・青海の場合
残暑の太陽が突き刺さる校庭に、おれ達は立っていた。わざわざ休日にこんな練習に来た俺は、かなりイイ奴ではないか?なにか賞をもらいたいくらいだ。
『ふふふふふ…、B組に誘われたアクロバティックな私についてこれるかしら?』
気持ち悪い口調で、トントンと靴のつま先を数回鳴らしながら言う舞。
……なんで俺来たんだろ。やっぱり後悔してきた。
「リレーは出るの4人だろ?俺等2人だけで練習してどうするんだよ」
太陽を浴びた自分の髪を、片手でかきあげながら聞いた。舞は『ああ!』と手を叩き
『もう2人も誘ったんだけど、用事があるんだって』
と言った。
……もう2人って誰だ?話し合いのとき、後半聞いてなかったからわかりゃしねぇ。
『さぁさぁさぁ!!早速走るわよッ!』
半袖の裾を肩までまくり、やる気たっぷりに舞は言う。俺は勝手に出てくるため息を隠そうともせず、盛大にこぼした。
『なんだよそのため息、シラケるなぁ』
「こんな暑い日に、なんでお前と走らなきゃいけないんだよ」
『いいじゃん青春っぽくて★』
そんな青春ごめんだ。
『早く早く』と言う舞を尻目に見て、俺は諦めて了解した。
広い校庭で、2人並ぶ。舞は伸脚したり屈伸したりしてる。そしてこう言った。
『先にゴールしたほうが勝ち!負けたほうは買った人にジュース奢りよ!いい!?』
「いい!?ってお前……リレーの練習でなんで味方の俺とお前が競走するんだ」
『都合のいいときだけ味方面しないでよ!結局貴方は1度も私のこと助けてくれなかったじゃない!!』
殴るぞテメェ。
『冗談だってば!なに殴るスタンバイしてるの!?』
焦りながら謝る舞を見て、俺は振り上げた拳を下ろした。
『…よし、ふぅ。えっと、とりあえずは走る練習!競いあったほうが速くなるし。まぁ、どうせ私が勝つけどね♪』
「……へぇー、言うじゃん」
ピリッとした空気がただよう。今誰か来たら、そいつ感電するな。
ゲームスタート!!
思いきり地面を蹴り、強くダッシュした。照りつける日射しはキツイけど、走ることによって感じる涼風が気持ちいい。
風で髪が後ろに流れる。舞は俺より2歩程先を走っていた。舞のやや茶色い髪は揺れてて、時々見えるうなじは汗で湿っていた。
――ヤベ、負けるかも
そんな考えが頭をよぎった瞬間、俺はあることに気付いた。
「……おい、舞」
『何!?話しかけないで!!』
「これどこがゴールなんだ?」
『夕日が見える地平線のかなたよッ!!』
「…………」
俺は急ブレーキをかけ、走る舞の足元を引っ掛けた。
『へぶし!!!』
奇声をあげ、顔面を地面にズザザーと擦る舞。笑えるくらい、派手に転ぶ。
舞はしばらく制止してたけど、バッと起き上がって、赤く擦れた頬を押さえながら叫んだ。
『な、殴ったね!?父さんにも殴られたことないのに!!』
いや、殴ってはねぇよ。
「ゴールがなくて、どうやって勝敗決めるんだよ」
『だから地平線───「死ぬか?」
『スイマセン』
頭を地面につけ、土下座する舞。お前にプライドというものは無いのかよ。
俺は太陽を背にしゃがみこんで、舞の頭に手をのせ何度か往復させる。その行為に驚いたのか、舞は目をまるくして顔をあげた。
『いたッ!』
俺はそれを狙って、舞の額に強くでこぴんを喰らわせる。案の定、赤くなる額。加減難しいんだよ、コレ。
『なにすんだテメェ!!撫でたと思ったらでこぴん?アレですか?これが噂のアメと鞭?私を手なずけようとしてるの!?』
額をさすりながら、ギャーギャー抗議する舞。それが滑稽で、また笑えた。やっぱり自分はサドらしい。
『まったく、なんなんだアンタは』
ため息とともに呟いて、服の汚れを払いながら舞は立ち上がった。よく見ると、体のあちこちを怪我してる。いい気味だ。
『ああ、せっかく新発売のジュース買って貰おうと思ってたのに……』
泣いてもないのに、涙を拭う仕草をする舞。いつまでもグスグス煩いから、俺はため息をついて舞の腕をぐいっ、と掴んだ。
『ふぇ?』
「そんなに欲しいなら、奢ってやるよ」
そう言うと、舞は大きな瞳を更に見開き、口を情けなくぽかん、と開ける。うわ、俺かなり親切だ。
『……それは負けを認めたってこと────嘘です、ゴメンナサイ』
舞の戯言を軽く睨みつけ、おれは舞を引っ張り学校を出た。
――――――――――――――
『おいしい〜♪』
近くのコンビニで、新発売とやらの【キャラメルチョコミルク】を買ってやった。舞は頬を押さえ、至福の笑みを浮かべる。
…そんなに旨いのか?
気になった俺は、舞からペットボトルを奪いとり、口内に流した。
『ああー!!ちょっと何勝手に飲んでんの!?』
「うわ、激甘……」
あまりの甘さに顔をしかめ、手に持った飲み物を落としそうになった。
『あげないわよ!!』
「いらねぇよこんな甘いの」
『その甘さがいいの★』
この甘党め、糖尿病で死ね。
俺は飲み物を舞に返し、未だに残る甘さに眉を寄せた。甘いのは苦手なんだよ。
舞は俺から受けとったキャラメルチョコミルクをジッと見つめ、さっきから百面相してる。
「飲まないのか?」
『えっ!?いや、……』
やけに歯切れの悪い。顔赤くして、なんなんだよ一体。
――あ、なるほど
ピンときた俺は、隣に座る舞を見てくく、と喉の奥で笑う。舞はそんな俺を見て、不愉快そうになに、と睨んできた。
「いや、お前も可愛いところあるんだなって」
『な、なにがさ!!』
顔を真っ赤に染めて、俺に拳を飛ばしてくる舞。俺はその腕をパシ、と掴み、舞を引き寄せて耳元で囁いた。
「間接キス?」
『────ッ!!』
腹に蹴りをいれられた。
ちょっと甘酸っぱいラブコメを………♪




